181. 21年前・9
———長い眠りから目が醒めた。目の前は真っ白……天井か。
どういう状況か怜はわからなかった。
眩しい……。目が眩んだ。しばらく目を閉じて、ゆっくり目を開けてみた。どうやら枕元の方に窓があるらしい、カーテンはしているようだが、光が頭の上から入り込んできている。
ここはどこだ。いつここへ来たんだっけ。思い出そうとすると頭痛がする。
右腕を見ると、針が刺さっている。その針の先についた管をたどって上方を見ると、点滴の袋がぶら下がっていた。
点滴の袋の周りには、色んなモニターやコンピューターのようなものが並んでいる。
口元が不快だと思ったら、変なマスクを付けられていた。怜はそのマスクを外した。この方がよほど楽に呼吸ができる。
病院だ。でも、何故?
怜はベッドから起き上がった。気分が悪い。病気で病院に来たのだろうか。
すると数秒で沢山の看護師と、医師がやってきた。
「穂積君、目を覚ましたんだね。横になっておこうか。」
医師が言った。
看護師2人が、怜をそっと横にする。すると急激に嘔気に襲われた。
「吐きそう…」
すると看護師が『ガーグルベース』と言い、
「穂積君、横向くよ。」
と、姿勢を横向きにされた瞬間、吐瀉物を受ける容器に嘔吐した。しばらく話すことができない位苦しかったが、看護師がずっと背中をさすってくれていた。
そういえば、見覚えのないパジャマを着ている。入院しているんだろうか。
嘔吐して早くなっていた呼吸が落ち着いてきた。「もう大丈夫かな?また気分悪くなったら言ってね」と看護師が言い、怜は天井に対して正面向きに寝かされた。
怜は周辺を見回した。珍しい生物を見るかのように、看護師達や医師が自分を上から覗いて。上を見ると、やはり白いカーテンを引かれた窓。
個室らしい、他の患者は見当たらない。消毒液のような病院独特の臭いがする。
怜は聞いた。
「ここ、どこですか。」
「病院だよ。」
すると医師が怜の横にあった椅子に座り、怜に語りかけた。
その間、看護師たちは怜の指に器具をつけて報告をし合ったり、何か確認をし合っている。『血圧120/72mmHg……サチュレーション……』
医師は言った。
「君の名前は?」
「名前…………え?穂積怜。」
「年齢はわかるかな?」
「17」
「通っている学校の名前は?」
「綾谷中学」
「ねえ、先生。おれ、何でここに居るの?」
「うん?わからないかな。ちょっと待ってね、質問を続けるよ。」
「今日は何月何日の何曜日かな?」
「………わかりません。」
「ここへ来る前はどこに居たか覚えてる?」
「にじのゆめ…?わからない。」
「君の兄弟の名前は?」
「蓮ともも。」
「5+3は?」
「8」
「12×3は?」
「36」
「手をグーパーって3回してくれる?」
「はい。」
「これは何?」
「指3本」
「ねえ先生、ここはどこ?何でここに居るの?」
「病院だよ。」
「わからない。今日何してたの?」
「無理に思い出さなくてもいいんだよ。」
「この感覚はある?」
「膝を叩かれてます。」
「そうだね。」
「ねえ、先生。ここはどこ?昨日は何してたっけ。」
「今はゆっくり休もうか。横になっててね。」
医師はにこりと笑って、部屋を出て行った。
その後を看護師たちが出て行く。部屋には2名の看護師が残った。
「穂積君、寒い?暑い?」
「普通だよ。」
「じゃあ毛布はかけなくていいかな?ここに置いておくね。」
「ねえ、ここはどこ?おれは何してたの?」




