175. 26年前・3
ある日のこと。
下校をしてらいおんユニットに戻った怜と蓮は宿題をしていた。
やつらが部屋に背後から入ってくる気配を感じる。そしてドアがそっと閉められた。(ついに来た)怜は心づもりをした。
どれほどエスカレートした暴力を受けるかはわからない。でも乗り切ってみせる。頼む、蓮も乗り切ってくれ。
背後からクスクスと笑い声が聞こえる。小さな声で「せーの」と言ったと同時に、怜と蓮のシャツを脱がされた。
意表を突かれたので、怜は少し動揺してしまった。
「せーの」また聞こえた。
すると、宿題をしていて座っていた椅子から無理矢理押されて床に落とされた。フローリングだったのでドスンという音がなった。しかし職員は来ない。
次の「せーの」で、一気にズボンとパンツを脱がされた。そして物凄いスピードで、手首と足首を縄で縛られた。
「おいガイジン、お前ら調子のってるからこんなことになるんだぞ」
「先輩にもっと敬意を払え、ガイジンどもめ」
いじめのボスらしき人物もそこに居た。そのボスが「よし、ラストだ。」と言った途端、自分たちのパンツを頭から被せられた。
そして両脇を抱えられ、無理矢理立ち上がらされた。
蓮も同じ目に遭っているんだろう。助けてやれないのが心苦しい。
しかし怜は何も言わなかった。やられるがままにしておけば、こいつらはもう諦める。そう信じていた。
「おい、写真、写真!」
ボス格の男が笑いながら言う。誰かがカシャカシャと写真を撮っていた。
そして誰かが言った。
「もういい。着させろ。」
と言い、急いで縄をほどき、服を怜と蓮に放り投げ「自分で着ろ。」と言って部屋を出て行った。
怜と蓮は急いで服を着た。まさかここまで狡猾で、恥辱を味合わされるとは思っていなかった。今までは無視できたことでも、今回は怒りを感じた。
蓮は泣きながら服を着ていた。泣かないという約束をしていたからだろうか、声を殺して静かに泣いていた。
「蓮、泣いてもいいぞ。」
服を着た蓮は、同じく服を着た怜に抱きついてきて、声を殺したまま号泣した。
怜も少し、泣きたい気分だった。
写真は悪さをするグループ内で回され、会う度にからかわれた。女子にも見せるんだろうか…。思春期に入っていた怜は、それも心配した。
数日後、理事長と呼ばれていた男が、怜と蓮に声をかけてきた。
「どうだい。生活には少し慣れたかい?」
怜と蓮は、誰とも喋らないと決めている。男の声も無視した。
男は笑顔を讃えていた。笑ってるんじゃねえよ。怜は思った。
「少しでもきになることがあれば、職員に遠慮なく言えばいい。」
男はゆっくりと丁寧に話をした。怜と蓮の顔を見ながら。
怜と蓮は目を合わさないように下を向いていた。
「もちろん、僕も話を聞くよ。そのためにいると思ってほしい。」
わかった口を聞くな……裏で起こっていることを、何も理解していないくせに。これだから嫌なんだ。口ばっかりの偽善者は。絶対に喋るもんか。頼るもんか。憎い。ここの人間が全員、憎い。
「それじゃあ、またね。」
男は笑顔のまま去って行った。
2度と声をかけてくるな。怜は後ろ姿を睨みつけた。
それから数週間。
怜と蓮は、ご飯の時以外は部屋に篭って必要最低限のこと……宿題など……以外は、部屋の隅で座っていた。
怜の予測通り、写真を撮られてから暴力はピタリと無くなった。その代わり、写真は沢山の人が目にしているのだろう。好奇の目で見られることが増えている。
ある日、の日曜日、食堂で皆で昼食を食べていた時。
怜と蓮は相変わらず物凄い早さでご飯を平らげた。お茶を飲んでいた時、突然大人の男の怒声が食堂に響き渡った。
「何だっ!!これは!!!」
どうやら、おふざけで回していた写真が遂に職員にバレたらしい。見ると、先日声をかけてきた理事長という人であった。植杉という名前らしい。
「この現場に関係した者、正直に全員来いっ」
男は憤怒していた。
「僕は悲しい!この、にじのゆめで、こんなことをするやつが実際にいるということが。知らぬふりをしてもいい。そういうやつの将来は見えきっている。嘘に嘘を重ねることしかできないろくでなしになるんだ。
自分の過ちを認めて名乗り出る者は、反省のできる勇気ある者だ。僕はここの家族のは、勇気のあるやつらの集まりだと信じている。
心当たりのある者は、昼食後、事務室に集まれ。以上。」
男は写真を持って出て行った。怜には、男の無表情の裏に凄まじい怒りが隠されているようにみえた。
結局、ボス格を含め、関係者全員が事務室に集まったらしい。理事長の植杉は今までに見せたことがない程、怒り、叫び、泣いたらしい。
現場に関わった者も、その姿を見て反省し、泣いた者もいたと怜は職員から聞いた。
その後、関係者全員から謝罪をされた。
それから、ルームメイトとしての関係を少しずつ築けるようになっていった。