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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第10章 職員
137/232

137. 植杉・4

「それじゃあ、昨日の話の続きをしようか。」


 植杉がそう言ったタイミングで、またスタッフがお茶を持ってきてくれた。

 百合華は頭を下げた。


 ———色んな年齢の、色んな事情がある、色んな子が共同生活をしているとね、どうしても、トラブルが生じる。1日何度もある日もある。喧嘩もあるし、チクりもある。まあ、そんなトラブルに毎日対処してくれている職員さんたちには頭が上がらないんだけどねえ…。


 そういうトラブルが発展して、いじめになることもしょっちゅうある。

 昨日も言ったように、色んな事情でここに来ている子がいる以上、粗暴な子…粗暴にならざるを得なかった子…暴力で解決することしか学んでこなかった子…など。色んな子たちが居るのが現状なんだ。


 年上の子が年下の子をいじめることもざらにある。目に見えるいじめの場合は職員が仲介したり、対処をカンファレンスで話し合ったりするんだけど、問題は見えないいじめだ。



 昨日話したように、新参者は新参者っていう理由だけでいじめの対象になる。色んな子から酷い扱いを受ける。勿論、優しく迎え入れてくれたり、守ってくれようとする年長の子どもも居る。

 でも、どうしても新参者は、どういうやつかわからないっていう不安もあるのかなあ、それとも日常のストレスが新参者に向かってしまうのか、ターゲットになりやすいんだ。


 穂積きょうだいは昨日言ったように、異質だったからやられ具合が酷いったらありゃしなかった。ああ、1番下のももちゃんは乳幼児組の方に居たし被害は無かったんだけど、怜と蓮は完全なる(まと)となった。


 見えるいじめとしては、暴言が多かった。見た目から、これは差別用語になるかも知れないからあまり言いたくないんだが、彼らは「ガイジン!」と何度も呼ばれていた。人間は自分と違う異質のものが怖いのかな、見た目をよくからかわれていたよ。複数人に囲まれて、怜は目の色が薄かったから(めくら)と呼ばれていた。これも差別的な用語だね。蓮は髪の毛が赤くてね、くるくるしていたから、くるくるパーが来たー!ばい菌がうつる逃げろー!なんて言われていたよ。


 施設に来た頃の穂積きょうだいは、まだまだ細かった。食事は凄い勢いで食べていたけど、ヒョロヒョロだったんだ。色も真っ白だから、モヤシオバケ兄弟なんて(はや)し立てるやつもいた。


 こうしてよく覚えてるのは、怜も蓮も、無反応だったからなんだ。何と言われても感情が出ない。大体の場合、泣いたり、1人で泣いてたり、職員に相談したりするんだけどな。穂積きょうだいは無反応。


 困ったのは、見えないいじめだ。見えるいじめの場合はさっき言ったように対処しやすい。もちろん100%じゃないけどね。


 でも職員に気づかれないように意図的にするいじめは、対処が取れず、いじめられる子どもが極限まで追い詰められることがあるんだよ。


 穂積きょうだいも例外じゃなかった。というより、彼らが無反応なのが(しゃく)に触ったのか、流れは見えないいじめに流れていったように思う。


 この辺りでいじめのボスがいるグループも出てくる。ありとあらゆる嫌がらせや暴力が、職員達の背後で行われた。


 怜と蓮は服を脱がされるのが嫌だったから、汚いままだった。それを無理やり脱がせて、縄で手足を縛り、全裸のまま暴行を加える。決して顔を始めとして、目に見える場所には暴力を振るわないんだ。隠すためにね。暴行を加えたあとは、縄を(ほど)いてきちんと服を着せるんだ。


 2人を全裸にして、パンツを顔に被せて暴行をして、その姿を写真に撮って内緒でいじめに加担しているグループ内で回していたりしていた。僕はその写真を、ことが発覚してから見たけど、責任者として自分に腹が立って何度も壁を叩いた覚えがある。


 そういういじめがあったという事実が、彼らを無口にさせた要因の1つかも知れない。怜と蓮は結局、食べるだけで、喋らなかった。僕が見た時は、いつも2人で部屋の隅で体育座りをしていたよ。

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