136. 植杉・3
「おっと、もうこんな時間だ。今日はこれ位にしておこうか。明日は、入所してからのきょうだいの話をするよ。」
22時過ぎであった。
「明日は何時くらいから…どれ位お話を聞けますか?」
「明日は僕、休み取るから。1日中お話はできますよ。施設のご案内もしようと思ってる。それでいいかな?」
「ご迷惑じゃありませんか?」
「怜のためでもあるんだ。喜んで協力するよ。」
「すみません…。いや、ありがとうございます。感謝します。」
「謝られるより喜ばれる方がそりゃ嬉しいな。」
ははははっと植杉は笑い、2人で事務所を出た。
「明日は8時くらいに来てくれるかい?ここのドタバタがある程度去った後で、ここの朝食を食べてもらいたいんだ。美味しいよ。」
「私、食に目がないんです。楽しみにしておきます!では8時くらいに。失礼いたします。」
百合華は礼を言い、車に乗ってスマホでインターネットカフェを検索した。怜たちが生まれ育った五谷市より若干都会の綾谷市では、結構近くにネットカフェがあることがわかった。
植杉が施設に戻ったのを確認して、百合華はネットカフェへと移動した。
基本、スマホがあるので、インターネットで検索が必要な時はいつでもできるが、パソコンの方が扱いやすい。百合華は、にじのゆめを再度検索してみた。
ホームページはかわいいイラストが沢山で、施設紹介や行事の案内などが載っている。
【1日のじかんわり】という項目をクリックしてみた。
6時半起床、学校へ行く子は学校へ、幼稚園の子は幼稚園へ。
年齢によって就寝時間は違うが、一般的な家庭と同じような生活リズムが整っているのがわかる。
日々の疲れが蓄積していたのだろう、百合華は段々眠くなってきた。夕飯を食べ損じたが、お祭りでいくつか食べ物をつまんで来たので空腹感は無かった。
明日に備えて早く寝よう。
リクライニングチェアをなるべくフラットにして、百合華は目を閉じた。
翌日。
百合華は7時半頃目が覚めた。そして焦った。約束は8時だ。アラームをかけていたのに、気づかなかった…。
急いで会計を済ませ、にじのゆめへ移動した。
なんとか8時前に到着することができた。入り口にあるインターフォンを押す。
「理事長さんとお約束している倉木と言います。」
「どうぞお入りください。入ったらまっすぐ進んで右手。食堂があるから、来てくださいね。」
おばさんの声で応対があった。
朝の施設の様子は夜とは全然違った。ちょうど、園児たちが登園する準備をしているらしい。小さくてかわいい子ども達がワイワイはしゃいでいる。職員さんは忙しそうだ。
年齢や性別ごとに生活スペースは違う、と昨日植杉が言っていた。パッと見る限り、それぞれのスペースは大きく余裕がありそうだ。インターフォンで言われた食堂へ着くのに、思った以上に歩かなければならなかった。
食堂に入るとその広さに驚いた。昨日見た事務室と同様、木の温かみに溢れた丸い空間だ。天井も高い。まるでレストランのようだ。
その広い空間の中に、植杉は座っていた。
「おーい。こっちこっち。ちゃんと眠れたかい?」
「ギリギリになってしまいすみません。はい、眠れました。」
「いやいや、ギリギリじゃないよ。さ、さ、座って座って。」
「おしゃれで美味しくて好評のレストラン、って感じですね。」
「美味しいかどうかはまだわからないじゃないの。これからこれから。」
「そうですね、あ。何か来たようです。」
厨房のスタッフが
「はい、どうぞ。スープは熱いから気をつけてくださいね。」
と言って、プレートに乗った朝食を運んでくれた。
パンにスープにポテトサラダ、それにたこさんウィンナーが3つとバナナと牛乳。シンプルなメニューだが、聞くとパンもスープなどの具材も施設で作っているらしい。
「うちの園では食育も大事にしててね。添加物や農薬とかにも気をつけて食材を選んだりしているんだ。結局自分たちで作った具材が1番安心なんだよね。」
ひっひっひ、と植杉は笑い、
「それじゃ、いただきましょうか。」
「はい、いただきます。」
2人で朝食を食べた。
愛情がこもっている。シンプルだけど、1つ1つの具材の味が際立っている。ここの子ども達は、沢山の愛情がこもった食事を食べて成長しているんだ。
百合華はあっという間に完食した。
「美味しかったです。ごちそうさまでした。」
「うん、いい味が出ていたね。それじゃあ、昨日の面談室に移動しようか。」
2人は歩いて面談室へ向かった。