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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第10章 職員
135/232

135. 植杉・2

「じゃあ、怜が虐待を受けてここへ来るまでも把握しておられる。」


「はい。生きていくのに精一杯で、死の淵を彷徨(さまよ)っていた頃、児童相談所に保護され、こちらへ来た、と。」


「そう。弟の蓮、妹のももと3人が保護され、うちへ来た。」


「そこから先が、まだ分からないんです。理事長、ご協力お願いできますか。」


「理事長?ああ、植杉でいいよ。時々自分の役職忘れるんだ。よく言われるんだよ、子ども達と遊んでると、植杉さんが1番子どもっぽいって。ははは!」


「そうなんですか。」


 百合華もその姿を想像して笑ってしまった。


「協力するつもりであなたをここへ招いたんだ。うん。出来る限りのことはするよ。」


「ありがとうございます。助かります。」


 百合華は最近、調査中にメモを取ることをしなくなっていたが、今回は例外だ。重要な話が数多(あまた)出てくるに違いない。


「植杉さん、お話をメモに取らせていただいても大丈夫でしょうか?」


「ああ、いいよ。好きなようにしてね。リラックスしましょう、お互いにね。」


「はい。」


「とはいえこの時間だ。今日は出会ったところだけ話すからね。明日続きを話すとしよう。」


 時計の針は、9時を指そうとしていた。



「そうそう。本当はね、本当にね、個人情報の保護は重大な問題でね。()()のことは、外部に漏洩(ろうえい)することは絶対に無いんだ。今回のことを例外として、ね。」


「何故、今回は例外に……?」


「怜が許可したから、だよ。」


「えっ、怜さんが?」


「そう。あなたがここに来るのを予測して、前もって許可していたんだ。でもここで聞いたことは、倉木さんは内密にして欲しい。言わなくてもわかるよね?あなたは個人情報を言いふらすような人には見えない。」


「もちろん、他言はしません。約束します。」


「ありがとう。では早速話を始めようか。怜と弟、妹が児童相談所に保護された時、母親の弥生は行方不明だった。後でわかったのは梅下田で豪遊していた時期だ。」


 植杉は話し始めた。


 ———児童相談所、以下、児相と呼ぶけどね。僕の友人の児相職員が怜たちの担当だったんだ。


 その友人……女性なんだけど、彼女の話によると、保護されたあとも怜たち3人は完全に口を閉ざしたままだったらしい。口だけじゃ無い、心も閉ざしていたようだったと彼女は言っていたよ。


 服があまりにも汚いから、別の物を用意したけど…怜も蓮も何の反応も示さなかった。

 職員が着替えさせようとすると、蓮は怯え、怜は怒って職員を跳ね除けたそうだ。結局着替えすらできなかった、と。結局3人は、着替えず、何も話さず、ただ、ご飯だけは必死に食べていたと聞いた。確か1ヶ月ほど、児相で保護されていたっけな。


 児相から児童養護施設へ委託(いたく)するには、色んなステップがあるんだけど、怜たちの場合、保護者が居ないのと緊急性があったこと等から、施設入所措置という方法が選ばれた。

 まあ簡単に言えば、児童福祉法に(のっと)って、彼らを児童養護施設に入所させたって訳だな。


 にじのゆめに来た3兄弟、ああ、年齢や性別ごとに居住するスペースは変わってくるんだけどね、この3人は同じ施設に入れたんだ。それは救いだったと思うよ。怜にとってもね。


 僕もね、彼らの状況は児相や警察から聞いていたし、それなりの覚悟を持って3人を迎えた。もちろん他の子達もそれぞれ複雑な事情があって入所しているから、毎回覚悟を持って受け入れているんだけどね。

 穂積のきょうだいの様子を児相から聞いていると、どうしても心を開かないと聞いていたから、正直言うと僕も不安と心配があったんだ。


 虐待で入所してくる子は、残念ながら沢山いるんだけど、最初のうちは怯えたり、逆に興奮して攻撃的だったりする子でも、時とともに環境に慣れていく子が多かった。


 穂積きょうだいは違った。なんせ、服を着替えさせるのに3ヶ月かかったんだ。いや、もっとだったかな?風呂にも入らない、服も着替えない…だからどんなだったか、想像できるよね?


 新しく入所した子、新参者は、古株グループにターゲットにされやすい。粗暴な子も多いからね。穂積きょうだいは、服装や臭い、そして見た目が原因で、最初から激しい暴力のターゲットになってしまったんだ。


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