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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第10章 職員
131/232

131. メモの整理

 涼香は翌朝、朝食を用意してくれていた。お皿に卵サンド、レタスにトマト、その上にウィンナーが2つ乗っていた。


「今日は怜君達が育った施設のお祭り、行くんだよね?」


 涼香が聞く。


「はい。突撃訪問なので、情報を得られるかはわからないけど、行ってきます。」


「情報、得られるといいな。俺たちは今日も太陽でガッツリ働くぞ!」


「百合華ちゃん、暇ができたらお店来て!……って、冗談よ。もし施設の人と話とかできたら、蓮の話も聞いて欲しいな。一応ちょっとの間だけだったけど同級生のクラスメイトだったし。会いたいしね。向こうは100%覚えて無いと思うけど…。」


 涼香はそう言って、蓮の顔を思い出しているようだった。


 赤毛のくるくるの髪。兄の怜とは似ても似つかぬ容貌だったけど、確かに兄弟だった2人。怜は、蓮とともに1番下の妹も必死に守り続けた。

 随分前から気づいていたが、百合華はちょうど1番下の妹と同じくらいの年齢だ。もし会って話すことができれば、タメである。色々話が合うといいな、なんて考える。


 怜が弟妹のことを話してくれたのは、滅多に無い。元々無口な怜だから、そんなものなのだろうか。それともこれから会話が増えていくうちに、昔の出来事ことと共に弟妹の話などもしてくれる機会が増えていくのだろうか。


「ごちそうさまでした、朝からありがとうございました。」


「もう出るの?」


「はい、お祭りはまだ始まりませんが、その前に今のところの情報をまとめておきたいので。」


「そっか、わかった。じゃあ、また来るときは遠慮せず泊まってね。それからLINE、待ってるから。忘れないでよ〜?」


「わかりました、そのこともメモに書いておきます!」


「じゃあ、頑張れよ。俺らも応援してるってこと、忘れんなよ。」


「ありがとうございました。お2人も今日も頑張ってくださいね!」


 百合華は竹内宅を出た。



 夕涼み会は17時から開催される。現在9時。時間はまだまだある。


 百合華は車を走らせて、ゆっくりできそうな喫茶店を探した。10分程走ると、通り沿いに一見中規模な喫茶店があった。駐車場もある。百合華はそのまま駐車場に停車した。


 中に入ると、20席程あったが、モーニングの時間帯で思っていたより混んでいた。テーブル席に空きがあるとウェイトレスが言うので、案内された席に腰を下ろした。


 百合華はアイスコーヒーを注文し、ロルバーンの手帳を2冊、鞄から出した。

 1冊目は2週間前の取材でほとんど使った手帳、2冊目は先週の記録が載っている。

 昨日行ったスナック【(たまき)】の、貫禄のあるママ、和子ママから聞いた話を(まと)めることにした。


 その前に、今まで書いてきたメモの内容をサッと見直してみることにした。最初の方は聞き取るのに必死で、字が歪んでミミズのようになっている。話をメモするのが精一杯で、スマホのボイスレコーダーを併用したこともあった。どれも良い思い出だが、今は話を聞く時にメモも取らず、こうして次の日に纏めたりすることも出来るようになっていた。


 記入漏れなどもあるかも知れないが、起こったこと、聞いたこと、知ったことを記憶しておく力も日を追うごとに上達してきているようで、なんだったっけ、と思ってもすぐに思い出せるようになっている。

 慣れというのは素晴らしい武器だと百合華は思った。


 パラパラとページを(めく)っていくとやはり手が止まってしまうのは、穂積兄妹が3人だけで生きてきた時の記録だった。

 今でいうネグレクト、いわゆる育児放棄を受けていた怜と、弟の蓮、妹で乳児のももは3人きりでゴミだらけの廃屋同然なコーポ室井というアパートに住んでいた。


 金は母親である弥生が気まぐれでくれた分だけ。それも数ヶ月に1回も貰えるか、貰えないか。兄弟は学校の給食を、半分はその場で犬食いし、半分はタッパーに入れて持ち帰り、夕ご飯にしていた。


生きることで精一杯で、一般的な少年のように友達が居たり、ゲームをしたり、スポーツを楽しんだ経験は1度も無い。

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