130. 竹内夫妻宅
「明美さんのお陰で、【環】の和子ママから、詳しいお話が聞けました!いつも困った時に助けていただいてばかりで、感謝しかありません。私も明美さんのようになれるよう、精進したいと思います。本当です。」
明美はその言葉を聞くと、
「あなたはとっくに魅力的よ。あなたにしか無い魅力がある。自信持ってね。それから、いつでも来て。烏龍茶があなたを待ってるわよ。何ならキープしておく?」
明美の冗談にふたりではははと笑った。
明美といると笑ってばかりだ。
「それでは、今日はこれで一旦失礼します。また顔出しますね。いつもお昼ご飯までいただいて…本当にありがとうございました。」
「また来るってわかってるから、さよならは無しね。道中気をつけるのよ?」
「はい!明美さんも、体に気をつけて下さい!ありがとうございました。」
礼を言って、竹内夫妻が経営する【ハンバーグ専門店・太陽】へ向かった。先週末も竹内夫妻の言葉に甘えて宿泊をさせてもらったが、今回はわざわざこちらから打診した図々しさに自分でも呆れてしまう。お礼に、会社の近くで売っている地元名物(らしい)西脇饅頭を手土産に買ってきた。
【太陽】に入ると、涼香夫人が「あ、来た来た。」と笑顔で百合華を迎えてくれた。「らっしゃ〜い。」今日も文彦の元気な声が続く。
「百合華ちゃん、急で悪いんだけど手伝って!ホールとかしたことある?」
「あ、はい、バイトで何度か!」
「じゃあ、裏でこれに着替えてホール頼んでいい?注文聞いたら文彦に伝える、あとは片付けとかテーブル拭き、会計だけだから。」
「わかりました!」
百合華は急な話についていけなかったが、とりあえず裏で着替えて深呼吸をした。バイト時代の感覚を思い出し、ホールに出る。満員の席。待合スペースには5組位の客が並んでいる。確かにヘルプが必要そうだ。
百合華は言われた通りの仕事を何とかやり遂げた。デスクワークが長かったので、このような業務は久しぶり過ぎて、楽しくもあり、また非常に疲れた。
「百合華ちゃん、ホントごめんね〜、でもすっごい助かった。ありがとう。さすが経験者だけあって、動きがスムーズだったわ。」
「いえいえ、もう体が鈍ってしまって…。涼香さんの動き見てると凄いなって思いましたよ。」
「そんなことないよ、お腹すいたでしょ。まかないの残りでよかったら、皆で食べて帰りましょ。」
時計を見ると、23時近くなっていた。
「じゃあ、有り難くいただきます。」
「今日のまかないは、多分うまいよ〜。」文彦が言った。
すると、ちらし寿司と、天ぷらが出てきた。ハンバーグ屋のまかないとは思えない上に、手が込んでいる。とても綺麗なちらし寿司だ。
「お口に合うといいけど…。」
「美味しそう…!!涼香さんが作ったんですか?」
「ええ。あなたが来るからちょっと頑張っちゃった。」
2人とも昼食にありつけなかったらしく、空腹を通り越してしまったらしい。それでも3人で近況を語りながら、美味しく食事を楽しんだ。
「へえ〜、怜君にお弁当作って一緒に食べてるの。もう恋人同然ね。」
帰宅後、ビールを飲みながら3人で談笑をした。
「いえいえ、恋人とはまだ程遠いんですよ。」
「そういえば、彼の写真撮ってきてくれた?」
しまった。持ってくる約束をしていたのだった。
怜の写真すら撮っていない。
「すみません!今度、LINEで送ります!」
「しょうがないわねえ〜。じゃ、LINEの次は実物、ってことで。」
「でも、怜は五谷に戻ってくる気あるのかな。」
「そうなんですよね…」
「嫌な思い出だらけの町に、戻ってくる日が来るのかねえ。来たら俺も会いたいけど。」
「私は、いつか全ての謎が解けて、怜君と百合華ちゃんが正式に恋人同士になって、一緒に来るって信じてるよ。」
「そうだといいな…って正直思ってます。」
「…もう、完全に愛だね。」
「愛、だな。」
百合華は風呂を借り、客間で布団を用意してもらい、すぐにまどろんだ。
明日は勝負の夕涼み会だ。
よく休んでおこう…。