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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第10章 職員
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129. 普通の味

 たこ焼きを食べ終わって、明美に協力の感謝を言い、のぶ絵を後にした。


 ところが1軒目【オパール】では、「店が離れてたから良く知らないし、良い噂聞かなかったから距離をおいていた」とのことで、それ以上の情報は得られなかった。


 2軒目の【沙羅】では、「あなた何者なのよ」から始まり、その尋問が長かった挙句、弥生関連の情報は「知らない。」で終わってしまった。


 3軒目の【えんじゅ】は人の良いママだったが、「名前は知っているけど他は知らない。」とのことであった。


 スナック通りと言っても、案外疎遠なんだな…と思い、最後の賭けであるスナック【(たまき)】に入った。

「知ってるよ。」ウィスキーを飲みながらママは言った。確か和子ママ、と明美に教えてもらった。


「弥生の店とは離れてたけどね、弥生のことも直接知ってるよ。その両親もね。」


 やっと情報源に出会えた。


「でもあんた、なんでそんなこと調べてんの。」


 「弥生さんの息子さんが私の同僚で、彼の了承を得て、彼の過去を調査しています。」


「何よ。情報が欲しけりゃ報酬がなきゃ。ねええ。」


 和子はペルシャ猫に毛並みまでそっくりの人形に声をかける。剥製…だろうか?


「あんたかわいいから、ここでチーママやってくんなあい?そしたら全部教えたげる。」


 まるで特殊撮影に出てきそうなでっぷりとした体型の和子は、身体を動かすのも面倒臭いらしい。カウンターの内側の椅子から微動だにしない。


「すみません。出版社の仕事についているので、仕事はできません。」


「あっ、じゃあ、うちの店紹介してよ〜、本でも雑誌でも〜あるじゃないそういう特集とかー。」


 百合華の属する織田(おりた)出版ではスナック特集を組んだことは無いが……まあある意味面白いのかもしれない。社長からは却下されそうだが。


「社長に打診してみます。それでいかがですか?」


「足りないよそれじゃあ〜。何も無い時は、何出すの?」


 石黒恵子が頭の中を駆け巡る。石黒はドアを開けるまで終始「金」「金」と言っていた。やはり金を用意するのが、調査や取材の常套手段なのだろうか。


「すみません、持ち合わせが無いんです。どうかお話だけ聞かせていただけませんか?」


「面白く無い娘だねえ。じゃあさ、美味しいお酒作ってみなよ。それが旨かったら、教えてやるよ。」


「ゴッドファーザーって知ってます?」


「知ってるよ。アル・パチーノだろ。チャラララララララララララ〜」


「そっちじゃなくて、お酒の方です。」


「ああ。知ってるよ。」


「それくらいしか作れませんが、良いですか。」


「作ってみな。」


 百合華は記憶を辿った。

 覚えているのは、【アマレット】…ブランデーだ。あった。あとは何だっけ。ウィスキー?あ、ラベルにウィスキーって書いてある。メーカーズマーク、これだ、これも同じだ。あとは氷……あった。氷をグラスに入れてかき混ぜるだけ…な筈。


「できました。」


「うん。普通ね。でもいいわ、教えてあげる。」

 普通でも教えてくれるなら、中々良い人ではないか…と百合華は思った。しかし、普通…とは一体…。


 ———弥生には3人の子がいたけど、保護されちゃったでしょ?でも、そんな気にしてなかったのよ、弥生は。

 もう、梅下田でホストに夢中になって借金抱えてたって聞いたわ。本人からよ。あの子たまーに電話くれたの。

 さっきのあんたのスマホの写真、年賀状でしょ。うちも毎年来たわ。

「幸せで元気にやってます」っていうカモフラージュよ。


 とにかく子どもらがいなくなって、執行猶予ついたんだっけ?

 それからホストに風俗行くように言われて風俗始めたのがきっかけね。あの子の風俗人生は。


 キャバより風俗の方が稼ぐの手っ取り早いからね。


 そのうち金はホストの彼氏?外人さんだったらしいけどさ、に持っていかれちゃって、逃げられちゃって。金はないわ、執行猶予付きだわ、大変よね。


 で、世田山南部に大きな風俗街があるって仲間に聞いたらしくて、厳しい仕事内容だけど、給料はバカ高いとこ見つけたって。これも本人から聞いた。


 ほら、世田山って北部は富裕層が住んでるけど南部ってごちゃごちゃしてて、歓楽街が凄いじゃない?あ、行ったことない?そう。


 世田山の消印?ああ、だからその頃に郵便に出したんでしょ。

 自分が遊び惚けて、闇金で借金作ってて、執行猶予ついてまーす、なんて冗談でも年賀状に書けないでしょ。見栄っ張りだったから、あの子。今でいうリア充?それ気取ってたのよ。金も無いのに借金して整形なんかしちゃうしね。


 でも理由は知らないけど体調崩したらしくて、闇金の取り立ても凄かったらしくて、色々重なってもう風俗では働けなくなったみたい。人生八方塞がりよ。この話?本人談だから間違いないわ。

 それで、急に言い出したの。「子どもたちと暮らしたい」って。

 今更何言ってんのってあたしも言ったけど、「絶対取り戻す」って、もう決まっちゃってるかのように言ってたわ。それで世田山から夜逃げ同然で姿を消したって話よ。


 それから連絡なくなっちゃって、その後は知らないわ。———



 世田山の消印の謎は解けた。

 続きは施設での話になりそうだ。

 もう一度優子さんにお礼を言って、ハンバーグ・太陽に顔を出そう。

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