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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第9章 職場
119/232

119. 気分転換

 百合華はワクワクしていた。今週末の日曜日は、怜が過ごした施設の夕涼み会がある。それに参加するつもりだ。もしかしたら、またそこでハプニング的に情報を得られるかも知れない。

 それに子ども達の顔を見てみたい。子どもの目を見れば大体、どのような施設なのかの予想はつく。キラキラ輝く目でいて欲しかった。


 光明矢の如し。いつの間にか水曜日になっていた。日曜日までもうすぐだ、とカウントダウンしていた。

 土曜日はどんな調査をしてみよう。

 今不明なのは、年賀状の【世田山】の消印。

 そして怜の施設での暮らしと、その後の進学・就職状況。

 他にもあるかも知れないが、パッと思いつくのはそれ位だ。


 この間の石黒の告白をまとめていたら、ロルバーンの新しいメモ帳もだいぶ消費した。改めて、良く話をしてくれた、と感謝の気持ちでいっぱいだ。おばあちゃん、今どうしているかな。自分の祖母のように気にかかった。


 そんなことを考えながら編集業務をしていたら、桑山から声がかかった。


「おい、倉木、ちょっと来い。」


 桑山のデスクへ行くと、


「お前顔が怖いぞ」


 と言われた。


「え?」


「そんな顔で仕事をされると俺も気が滅入る。集中が足りないんじゃないのか?ちょっと外の空気でも吸ってこい。」


「そんな顔してましたか?すみません。」


「いいからちょっと休憩してこい。竹内〜、何か必要だったらフォロー頼む。」


 竹内とは夢子のことだ。そして竹内は、今、桑山にぞっこんである。

 突然声をかけられた夢子の心臓はきっと早くなっているのだろう、顔も赤くなっている。


「はいっ、任せてください。百合華、ちょっと気分転換しておいで。」


「うん…、ありがとう。ごめんね、じゃあちょっと行ってくる。」


「桑山さん、すみません。気合い入れ直してきます。」


「行ってこい。」


 仕事に週末の調査のことで影響を及ぼさない、というのは最初に決めていたことだ。ただ、ルーティーンワークなど、さほど集中力を発揮しなくても作業が進む仕事の場合は確かに調査のことを考えてしまうことがあった。


 だとしても、怖い顔なんかしていただろうか…?百合華が考えていたのは老婆石黒のことだった。そこまで思い詰めていたつもりはなかったのに…。


 百合華は不思議に思いながら、屋上庭園へ上がった。今日は爽やかな晴天だ。風も気持ちいい。確かに気分転換をすると仕事が(はかど)りそうだった。


 百合華はベンチに横になった。太陽が眩しい。石黒の家にもこの太陽が降り注いでいますように。


 するとおかしなことが起きた。

 怜が百合華の顔を不思議そうに見ている。


 百合華はびっくりして、急いで起き上がった。


「び、びっくりした………あれ?穂積さんも具合悪いんですか?」


「違うよ。桑山さんに、穂積の様子見てきてやれって言われたんだ。」


「えーー…。私本当に大丈夫なのに。そんなに怖い顔してたのかな…」


「違うよ、トラップだよ。」


「トラップ?」


「わかんないのかよ。」

 怜は笑った。


「桑山さんは、俺とお前をくっつけたいんだよ。何でかまでは想像つかないけど。」


「だからって仕事中に…」


「暇な仕事だったからこそだろ。」


「確かに、普通のありきたりな作業でしたよね…。くっつけたいって…本当なのかな…。」


 百合華は桑山の思惑がわからなかったが、感謝した。おそらく怜は感謝などしていないと思うが。


「なあ、今日、夕飯食いに行かないか?」


「えっ」


「嫌ならいいけど。」


「違います、嬉しいです。はい、行きましょう。どこ行きましょうか。」

 百合華は早口になっていた。


「イタリアン好き?」


「はい、大好きです。」


「パスタが旨い店、見つけたんだ。そこ、どう。」


「いいですね!」


「じゃあ、今予約取っておこうか。」


 怜はレストランに電話をして、本当に2名ですとか何とか言っている。夢幻(ゆめまぼろし)か。


「席は確保できた。終業後車で向かうか。ちょっと早いか。まあ、どうにかなるだろう。」


 どうにかって何だ、と思ったが、舞い上がっていたのでどうでも良かった。


「元気そうだし、そろそろ戻るか?」


「はい、戻りましょっか。」


 突然のレストランのお誘い後の仕事は、それまで以上に集中できなかったのは言うまでもない。

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