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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第9章 職場
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118. 平常運転

 流石に、平日も休日もフルタイム活動となると体にくる。

 指圧マッサージに通いたい…そんなことを思いながら月曜日の朝を迎えた。

 今週は仕事はありがたいことに平常業務。これが新しいプロジェクトスタートとなったりすると、週末の調査は体力的にも時間的にも厳しかっただろう。


 百合華は簡単な朝ごはんを食べながら昨日のことを思い出していた。石黒の泣きながらの告白…。きっと、ずっと泣いてなかったのにダムが崩壊するように涙が止まらなくなてしまったのだろうな…。

 まるで、保護された時の怜のようだ。「ごめんな、ごめんな」と泣きながら赤ちゃんに語りかけていたという。それまでは怜は、弟や妹の前で涙を見せることは無かったのではないか……。石黒の姿と怜の姿が妙に重なる。


 いつも通り夢子と出勤し、いつも通り午前の業務が始まった。

 隣にはいつも通り、怜がいる。


 残酷非道なことを石黒にしていた弥生の息子が。そんなことを考えてしまったことを反省した。穂積怜は穂積怜だ。


 人間というのは同じDNAを持つ一卵性双生児でも、個性が違うという。

 弥生がスナックでは石黒に対し冷酷で、外では優子に対し奇異な行動をしていたからといって……親子だからといって、似ているとか同じだとか決めつけるのは尚早だ。


 それに、百合華はどうしても怜が弥生の影響をそこまで受けているとは思えないのだ。と、言い切れるほど怜のことを知っている訳では無いが。

 彼は確かに冷たいし無礼だ。愛想が無いし、時々傷つくことを平気で言う。


でも、前に部長の本山にセクハラを受けた時や、夜道危険な目に遭いそうになった時、守ってくれたのは怜だ。怜には優しさがある。百合華はそれを確信していた。


 百合華の気持ちは、もはや「わからない」ではなくなっていた。恋愛感情に発展していることに自分でも気づいていた。

 しかし感情にほだされて、仕事でも調査でも誤った判断をしてはならない。今はまだ、感情は別の部屋に隔離しておくことにしている。


 午前の仕事を終え、昼休みに入った。

 桑山に呼ばれた。

「お前、この週末も探偵業務に出かけてたのか?」


「はい。色々情報が集まってきています。」


「そりゃなによりだが、疲れがでてるぞ。無理しすぎじゃないのか。」


「覚悟の上ですから。そうそう、獲物に食らいつく件、今回も実行してみました。大福を使うというズルもしましたが。引いていては何も得られない。実践してみて、本当にそうだなと感じています。」


「そりゃ何よりだよ。まあ、なんだ。無理すんな。たまには穂積君とデートにでも行けばいい。」


「桑山さんっ!!声が大きい!それにまだ、付き合ってませんから。」


「なんだ、そっちはまだ食らいついてないのか?ええ?しっかりしろよ。うまくいったら、報告しろよ、祝賀会開いてやる。」


「桑山さんこそ、誰かに想われてるの気づいてるんじゃないんですか?」


「俺の話はいいんだよ。庭園行くんだろ、今日は曇りだが雨は降らないだろう。行ってこい。」


「はぐらかされましたね。今度聞き出しますからね、桑山さんの気持ち。」


「はいはい。じゃ、とにかく無理すんなよ。」


「ありがとうございます。」


 階段で屋上庭園へ上がると確かに曇天模様だった。

 屋上は晴れが似合う。少し風がふくと、社長夫人の優子さんが丹精込めて作り上げた庭園の草花が、サーっと音を立てて揺らめくのが百合華は大好きだった。

 怜は喫煙所に居るのだろう、姿が見えない。


「百合華ー!こっちこっち!」

 夢子だ。


「あ!!」


「どうした〜?」


「ユーカリ!これ、私が優子さん…社長夫人にお礼としてこの間あげたの。もう植えてくれたんだ…嬉しいな。」


「そのユーカリ、なんか可愛いね。庭園のテイストに合ってるよ。」

 美由紀が言う。


「本当だね。良かった。さ、ご飯食べよ。」


 曲げわっぱの弁当は今日も美味しかった。

 最近は、また怜に弁当を作っても良いかな…なんて思うようになった。もっとも本人は拒むだろうが。


「百合華、私、五谷らへんって行ったこと無いんだけど、どんな感じ?」


「いい人が多いってイメージかな。基地が近くにあるから、飛行機の音にはびっくりするけどね。あ、そうそう!物凄く美味しいハンバーグ屋があるの。今度案内するから、落ち着いたら一緒に行こうよ!」


「是非是非、ねー、まー君」


「みんなで旅行みたいで楽しそうすね。行ってみたいな。ね、まりりん。」


 2人は相変わらずのごちそうさまなようで。

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