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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第8章 再調査
111/232

111. 竹内夫妻宅

 百合華は、竹内夫妻が閉店後の業務をしているのを店の隅で見ていた。お手伝いしましょうか、と言うと、いいから座ってな。と言われたのだ。

 座るのも何なので、立ったまま見ていたという訳だ。


 机と椅子を良く拭いて、机の上に椅子をひっくり返して並べて、箒で埃やゴミを取り、床をモップで丁寧にふく涼香。文彦は鉄板の手入れと、周辺に飛び散った油を落としているようだ。

 夫婦で店を切り盛りする…いいなあ。百合華は思った。



 竹内夫妻は私服に着替えて帰宅の用意ができていたらしい。


「百合華ちゃん、じゃあ、帰ろうか。」


 涼香に声をかけられた。


 3人は店を出た。


 文彦はシャッターを閉め、鍵をかけた。


「お2人は夕食、いいんですか?」


「ああ、大丈夫だ。忙しくても、暇を見つけては口になんか突っ込んでんだよ。」


 文彦は豪快に言った。


「一応、まかないというか、夕飯用にパンとシチューとかを裏に置いてるのよ。それを交代で食べてるから、大丈夫。」


 まかないも美味しいに違いない。


 3人は家へ向かって歩いた。文彦と涼香は今日の業務の話をしている。面白い客がいてこんな話を聞かせてくれただの、ハンバーグを3皿平らげた人が居たけど、普通体型だっただの。それに聞き耳を立てているだけで面白かった。


 竹内夫妻はマンションに住んでいた。賃貸ではなく購入しているらしい。暗くて良くは見えないが、灰色と茶色が混じったようなタイル張りの、比較的新しいマンションだった。

 エントランスもホテルのように綺麗で百合華はびっくりした。

「新築2年目。奮発して買っちゃったのよ。ローン返済の為に働かなくちゃ。」涼香がエントランスのオートロックを解除している。

 自動ドアが開き、管理人に軽く会釈をする。

 そしてエレベーターで3階にある、2人の部屋に着いた。


 3人で順番にシャワーを浴び、ビールで乾杯した。

「百合華ちゃん、今日は何か成果あった?」

 涼香が聞いた。


「それが、色々あったんです!ありがたいことに。五谷の方は良い方ばかりですね。」


「それは人によるなあ〜」

 文彦がビールをグイグイ飲みながら言った。


「どこでもそうだろうけど、嫌味なやつも多いぜ。特に新参者には厳しいやつが多い。地元の繋がりが結構強いんだよ、こういう小さい町は。百合華ちゃんが情報聞き出せてるのは、その美貌の好印象もあると思うぜ。いや、セクハラじゃなくて。だって、あからさまに怪しい風貌のヤツだったら簡単に心開かねえだろ。いやいや、涼香は涼香でかわいいって。」


 文彦が1人で焦る。


「実は、スナック弥生の跡地のあるすぐ近くに人がまだ住んでいて、その方に今日、取材を完全拒否されてしまいまして…。明日もう一度、行ってみようと思っているんですけどね。」


「ええ!あそこまだ人住んでるの??」


「本当だよ、それに驚きだ。地元の俺らでも知らないのに、良く気づいたね。」


「花を育てているのが、ベランダを見てわかったんです。それで…」


「観察眼、育ってきてるんじゃない?百合華ちゃん。」

 涼香が嬉しそうに言った。


「明日、話聞けるといいね。」


「はい。あ、そうそう!お2人に会って時間があったら、是非教えてあげたいことがあったんですよ。前は言いそびれて…」


「何々!気になる。」


「お2人は、幼い頃の穂積怜しか印象にないかも知れない。薄汚くて、臭くて、異様な、目の色の怖いヤツ。」


「うんうん」

 2人は体を乗り出して聞いている。


「それが!彼、今、超ど級のイケメンなんですよ!」


「………え?」


「だから、すっごい格好いいんです。最初は私、目の保養で彼のこと追いかけてたくらいですから。」


「えーーーー、あの穂積怜が?」


「私、この間、彼の髪の毛を彼の自宅でカットしたんですよ。美容室は嫌だというから。そしたら、もう、格好よくて格好よくて。」


「えーーーーー、想像付かない。写真無いの?」


「あ、無いんです。次回来たら撮って来ますね。ほんと、男前なんですよ。清潔感あって、歩くだけでオーラがあるというか。顔が彫刻のように繊細で綺麗で、手足が長くて、身長は185もあるんです!」


「へえええーーーーー」


「鼻筋がスーッと通っていて、眉毛の形も綺麗で。何より瞳ですよね。凄く不思議な色で、一番に目がいく。あの瞳で見られたら動けなくなりますよ。もう、ドキドキしちゃって。」


「髪の毛も、さっき言った通り私が切ったらスッキリイケメンになっちゃって、ウェーブのかかった黒髪が爽やかで、風に吹かれた日にはもう目がハートになっちゃうっていうか…。」


「指も細くて綺麗なんですよ、今の出版社…私と同じ会社ですけど、そこに来る前はバーテンダーやっていて、それがサマになると言ったら。彼の作るカクテル本当に美味しいんです。文彦さんも涼香さんも、今度作ってもらうといいですよ。」


「それに彼…………あれ?どうしました?」





「百合華ちゃん。」



「はい?」





「それ、恋だね。」

 文彦が頷きながら言った。


「だね。」

 涼香もそれに倣った。


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