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瞳洸(どうこう)  作者: 内山潤
第8章 再調査
103/232

103. 五谷探索

 暫くの運転を経て、五谷(ごたに)に着いた。

 3度目の運転なので、前回より早く着いた気がする。


 先週末は、聞き込み調査でいっぱいいっぱいだったが、今回は五谷の町を知りたいという気持ちと共に来た。

 怜が生まれ育った町。ここへ来ると小さな怜が「おれを見つけて」と言っているような気がしてくる。まるで怜の母親、弥生の卒業アルバムの写真がそう言っているかのように見えたように。


 百合華はまず、五谷駅に向かうことにした。

 怜は経済的に困窮していたから、電車を使ってあちこちへ移動することは無かっただろう。ただ、来たこと、見たことはあるかも知れない。


 以前三両編成の電車が走っているのを見たので、大きな駅ではないと思っていたが、そうでも無かった。無論、大きな駅では無いが。

 駅入り口の壁面にJR五谷駅と大きく書いてある。小さめの切符売り場があり、自動改札もある。ICカードも対応しているらしい。利用客もそこそこ居るようだ。ICカードの利用音、「ピッ」という音が定期的に聞こえてくる。


 百合華は駅前の小さな西側のロータリーに車を止めて改札口を観察していたが、一旦ドアを開けて外を見回して見ることにした。


 さすがは駅前とあって、割と店舗が並んでいる印象だ。

 見当たるのは…コンビニ、銀行、今時は珍しいと言えるような、野菜屋さんと、不動産、小さなたこやき屋、パン屋、その向こうには耳鼻科のクリニックと、駅前マンションが見える。

 車を動かして、線路を渡り、東側のロータリーに移動する。

 そこには比較的新しいスーパーと大きなマンションがあった。


 五谷の現在の人口は、昔に比べ増加していることが容易に推測できる。これだけ駅周辺に揃っていれば、住環境としてはなかなかだ。


 五谷町自体は小さな町だったはずだが、車を動かすとまたスーパーが見つかった。全国チェーンの有名スーパーだ。規模は小さいが、入店している人は少なく無い。怜の幼少期には絶対に無かった店だ。


 明美ママのところへ行くには、まだ少しだけ早い。

 スナックのぶ絵へ向かう途中にある(さび)れた商店街…怜の母弥生が16かそこらで継いだスナックがあった場所へ1週間ぶりに向かった。


 前回も、この薄暗いスナック通りに来た。

 天気は快晴だ。ただ、この通りの雰囲気がどんよりと重い。

 弥生がいたスナック弥生はあいかわらず更地だ。1週間で変わる訳は無いので当然である。百合華は、スナック通りの入り口に車を停めて、一度歩いてみることにした。

 ぱっと見ただけで、シャッターが上がっている店は見当たらない。夜の営業へ向けて準備している店も無い。そもそも人が1人も見当たらない。

 昔はネオンサインで煌めいていたのかも知れないが…今となっては幽霊の酒場となっていそうだ。

 その時、轟音が頭上で鳴った。横井米軍基地の戦闘機だ。

 弥生が外国人を贔屓にしていた話を思い出した。確か、百合華が働く織田(おりた)出版の社長織田の妻、優子が話してくれた。


「弥生の店は、愛想でも酒の味でもない、『あそこのママは無料(ただ)でやらせてくれる』という噂から外国人客が増えた」


 そんな営業をしていた中、できたのが怜だと。

 しかし、弥生が店の奥で客の相手をしていた時は、怜は順番待ちの米兵や外国人客におもちゃにされていた…と。


 やがて潰れる弥生の店で、自己認識が始まる前の怜はすでに大人から虐められていた。もちろん怜はそのことを覚えていないだろうが、知っているのかどうかは分からない。


 閉塞感を感じて、百合華は空を見上げた。


 すると、シャッターがしまった店の1つの2階の、窓辺の柵にいくつかのプランターを引っ掛けて植物を育てている【家】があった。


 —————人が、住んでいる。


 百合華はその店のシャッターを拳で叩いた。

「すみません、すみません!」

 しかし反応が無い。


 そのシャッターの右端に暗くて狭い隙間があるのを見つけた。そこには鉄の階段があり、登ると古いドアと古いドアベルがあった。

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