102. 再出発
———変な夢をみた。
そう思って百合華は目を覚ました。時計を見ると7時前。しまった。6時には出て、少し五谷の町をドライブすることから調査を始めようと思っていたのに…。
何故寝坊したのか一瞬だけ考えて頬が熱くなった。昨晩、怜と夜食を…エビチリを一緒に食べたのだった…。
そして帰ろうとする怜を引き止め…DVDを…
ソファの前のローテーブルを見てみると、2人で観ていた【休暇】が置いてあった。
———————寝落ちしたのか。
怜が渋々DVDを観ることを承諾してくれたというのに、私は…そう、途中でうとうとしてしまったのは覚えている。でも本当に寝てしまったとは。
ちょっとまてよ?百合華は少し戸惑った。
怜とDVDを観ていたのは、確かソファだ。なのに、何故私はベッドで、布団をかけた状態で目を覚ましたのだろう……
百合華は軽いパニックに陥った。
しかし相手は怜だ。いかがわしいことを考える輩だとは思えない。きっと眠ってしまった私を移動させてくれたのだろう…
———————しかし、どうやって?
まさか片手を引っ張ってひきずりながら移動させた訳ではないだろう。それならさすがの百合華も目を覚ますだろう。まさか……抱っこして?
どうしよう、とても間抜けな顔して寝ている姿を見られていたら…
どうしよう、変なこと言ってたら…
夢子に電話してこの動揺を安心に変えて欲しかったが…残念ながら今日は時間がない。
自分の寝顔を見られたと思うと、つい赤面してしまった。しかし事実はわからない。かと言って本人に聞くのも恥ずかしすぎる。そういえば百合華は、いまだに怜の連絡先は仕事用のLINEしか知らない。昨日聞けば良かった…でも教えてくれるだろうか。
映画は、最後まで観れたのだろうか。
昨日一緒に食べた食卓は、何もなかったかのように綺麗になっている。冷蔵庫を見るときちんとラップして閉まってある。
気が利くというか、怜らしいと思った。
ゴミ溜めで過ごした幼少期は、きっと彼が片付ける余裕が無かったからだ。でも今は衣食住に困ること無く社会人生活を送っている。
怜はもしかすると、一般の人よりずっと、生活を大事にしているのかも知れない。
百合華は簡単な朝食を摂り、出発の準備をした。新しく買ったロルバーンのメモ帳も鞄に忍ばせた。
そして、愛車ラパンに乗り、五谷市へと車を進めた。今出ても、少しはドライブして街並みを見ることができるかも知れない。
その後は、挨拶がてらスナックのぶ絵のママ、明美のところに顔をだそうと思った。以前、年賀状を見せてくれた人だ。彼女の連絡先を聞きそびれたのでアポイントメントは取っていないが、おそらく午前中は開業準備をしているだろう。
彼女の優しい笑顔に、1週間ぶりに会うのが楽しみだった。