◇え?volutionその2◇
今回は、新展開の説明回になります。
少し長いです。分かりにくかったら、申し訳ありません。
ー ヴィージの森・北の湖畔 夜 ー
時刻は間もなく21時。
カトリーナとクラースは、
まだ、平静になる事が出来ずにいた。
こんな時に象太郎が居てくれたら、、。
二人は考えたが、言葉にしても虚しくなるだけなので、
口に出せずにいた。
それほどに、スクルドの話は衝撃的だった。
『ラグナレクとは、元々は単なるプロパガンダだ。
私利私欲を満たす事にしか興味のない上位神どもを、
曲がりなりにも国という器に閉じ込める為に、
主神がでっち上げた虚構に過ぎない。』
開口一番、スクルドはそう宣言した。
その言葉の意味する処は、アースガルド上層部に対する痛烈な批判と、
ラグナレクに備え、エインヘリャルを集める事が職務である
ヴァルキュリアという存在の完全否定だった。
これを、誰もが認めるヴァルキュリアのトップである
スクルドが口にする事の深刻さ。
ヴァルキュリアという仕事に誇りを持っていたカトリーナは、
前置きの段階で、相当な精神的ダメージを受けた。
『そんな根拠も何も無い子供騙しの絵空事が、
現実的な危機を生み出したのには、それなりの理由がある。
少し、昔話をしよう。』
そう言うと、スクルドはアースガルドの歴史を語り始めた。
今でこそ、北界を統べるアース神族であるが、
かつては存亡の危機に瀕していた。
生活圏が重なる巨人族との慢性的な小競り合い、
西のヴァン神族との戦争。
アース神族は一致団結し、戦うも戦況は悪化の一途を辿っていた。
そんな時、一人の天才が現れた事により、
アース神族の危機は、終焉を迎える。
火神ロキの台頭である。
主神が、左目と引き換えに魔術と知識を得たと聞いたロキは、
アース神族存続の為に、主神自らが犠牲を払ったと考え、
大きな感銘を受けた。
それまでの気ままな生活を捨て、軍に身を投じた彼は、
すぐさま、その才覚を発揮し、頭角を現すと、
類い稀なる知略を振るい、東奔西走した。
そして、財政、軍事の両面で多大な功績を上げ続けたのだった。
いたずら好きな性格で、時折、周囲に迷惑をかける事もあったが、
そんな事を差し引いても、ありあまる戦功を彼はアース神族にもたらした。
中でも、主神の武器として名高い槍グングニルや、
ヴィーザルと互角の力を持つとまで言われる雷神トールの槌ミョルニルを
調達したのは、有名な逸話である。
ロキの活躍により、戦況はみるみる好転していった。
やがて、ヴァン神族を帰属させたアース神族は、
北界の覇者となったのだ。
しかし、これが悲劇の始まりだった。
存亡の危機を乗り越えた途端、上位神達は、
自らの享楽にしか興味を示さなくなった。
スクルドは、静かに政治から離れ、
前線に身を置き、一軍人として、
民衆を護る事に徹する道を選んだ。
あまりの堕落ぶりに、飽きれたヴィーザルは、
中央の政治を嫌い、ヴィージの森に引き籠もり、
隠棲を決め込んだ。
そして、ロキは、、。
主神が左目を犠牲にしたのは、一族の為ではなく、
単に自身の知識欲を満たす目的であった事を知り、憤慨。
溜まりに溜まった上層部への不満が一気に爆発した。
彼は、堕落しきった上層部一人一人の秘密を公共の場で、暴露。
更には、激しく罵倒し、トコトン糾弾した。
上層部全員に軒並み大恥をかかせたロキは、
それを罪に問われ、幽閉されてしまう。
そして、この事件で、互いの素行の劣悪さ、
品性の下劣さを知った上層部の空気は非常に悪いものとなり、
その信頼関係はボロボロになった。
そこで、ラグナレクだ。
いずれ、また、大きな戦いが起き、
アース神族は滅びの危機を迎える。
その時に備え、団結せねばならない。
自己中私利私欲下劣集団である上位神達をまとめる為に、
アース神族には、仮想の敵が必要だったのだ。
現在の国力を考えれば、
北界に対抗しうる勢力は存在しない。
そんな事は誰もが知っていた。
しかし、団結を口実に自分達の所業をうやむやにして、
今後、追求されなくなるというのは、
彼らにとって非常に好都合だった。
かくして、この子供騙しのプロパガンダは、
アース神族上層部に於いて、熱烈に指示された。
そこで、困ったのは、敵をどうするかだ。
既に最大の敵であったヴァン神族は帰属していた。
となると、アース神族にかろうじて対抗しうる勢力は、
もはや巨人族のみであった。
こうして、アースガルド上層部の都合のみで、
戦争の意思もない巨人族は、
敵に仕立て上げられてしまったと言う訳だ。
そして、主神は、
今後、似た様な事態が起こった時に備え、
上層部を力で押さえ付けられるだけの戦力。
つまりは、私兵が欲しいと考えた。
そこで、ラグナレクを口実に国費を使って、
私兵を集め始めたのだ。
その私兵こそがエインヘリャルであり、
その魂を集めるヴァルキュリアである。
『これがラグナレクの真実だ。笑えるだろう?』
カトリーナは弱々しく笑った。
全く笑えない話だ。しかし、笑うしかなかった。
一般的に伝わっているラグナレクとは、
『いずれ訪れる神々滅亡の危機』という概念だけで、
その内容は機密扱い。つまり、具体的ではなかった。
まさか、こんなくだらない話だったとは。
一見すると、平和で、繁栄している北界。
その上層部は、既に崩壊状態にあるなど
想像した事も無かった。
『では、なぜ、そんな与太話が、
現実的な危機を生み出したか?だったな。
一つには、戦争相手に仕立て上げられてしまった巨人族だ。』
スクルドの話では、
元々、巨人族とは小競り合いはあったものの、
相手を滅ぼすとか言う次元ではなかったらしい。
なにせ、ヴィーザルの母、
つまり、主神の妻は巨人族だし、
かのロキの妻も巨人族だ。
ヴァルキュリア最大の実力者であるスクルドに至っては、
本人が巨人なのである。
他にも、有力な神々の中には、
血縁に巨人族がいるという者が沢山いる。
この事実を踏まえれば、
不倶戴天というほどの
危機感溢れる間柄ではなかったのは明らかだ。
しかし、アース神族が、
いずれくる巨人族との決戦に備え戦力を増強している。
この事実(と言っても建前なのだが)が、
巨人族の危機感を刺激した。
結果、巨人族の内部にも、座して死を待つよりは。
という戦いの機運があがってしまい、
両者の緊張は日増しに高まっているという。
噓から出た誠というヤツだ。
なんて馬鹿げた話なのだろう。
『二つ目は、国内の不満分子だな。
ラグナレクという政策に不満のある者。
それに、政治腐敗を知る者や、不当に搾取されたり、
虐げられている者たちの存在だ。』
この事実を知った今となっては、
そういう存在がいるのは当然だと思ってしまう。
多分、少なくはないハズだ。
『そして、最悪なのは、そこにテロリスト集団が絡んだ事だ。
ラグナレクは、一般的には神々存亡の危機としか伝わってない。
つまり、もはや、ラグナレクの形は一つではないんだよ。』
つまり、対巨人族という形が一つ。
そして、対テロリストという形が新たに加わった。
そういう話だ。
『テロリスト共は、巨人族と近しい神々に接触し、
ラグナレクを対巨人族とは別の形で起こし、
現政権および上層部を打倒。
しかる後、全世界を統一する為の新政権を打ち立てないかとアプローチした。
これに同調している連中も多いんだ。』
巨人族であるスクルドの元へも当然テロリストは接触してきた。
しかし、多くの非戦闘員を巻き添えにする大規模な革命よりも、
血を伴わない改革が望ましいと考えるスクルドは、
内部から計画を破綻させる事を選んだというのだ。
では、なぜ、スクルドは軍を動かしたのか?
それが分からなかったカトリーナは、率直に質問した。
『ロタを護る為だ。』
迷い無く即答したスクルド。
その言葉が意味する処を説明された時、
カトリーナは自分たちには選択権が無い事を悟った。
曰く、現政府に対する不満が大きい急進派は、
今の上層部を一刻も早く一掃したいと考えている。
その為には、どんな手段を用いても構わない。
それが、例え、世界崩壊レベルの災厄であったとしてもだ。
世界崩壊レベルの災厄。
即ち、火の種族ムスペルの巨人スルトの解放。
それすら厭わない。
そういう勢力もあるのだという。
しかし、スルトは厳重に封印されており、
そう簡単には解放など出来る訳がなかった。
つい、5日前の満月の晩までは。
スルトは、ヴィージの森にある山岳地帯に封印されていた。
その封印は、満月の日に周囲の魔粒子を吸収し、
維持、補強される永久機関だったらしい。
今月の満月の晩。
それは、光の柱が観測された日。
なぜか、この辺り一帯の魔粒子が、突然、跡形も無く消失した。
結果、スルトの結界が大きく緩んでしまったというのだ。
今朝の地震は、緩んだ結界の一部が崩壊した際に起こった
大規模な衝撃が原因だったという。
もはや、依り代さえあれば、
すぐにもスルトは受肉し、
その巨大な力で北界を火の海に変えれるスタンバイ状態。
一刻の猶予もないのだ。
そして、その依り代に成りうるのは、
火の種族ムスペルの血をその身に引く者。
それは、火属性の力を使え、
一定以上の魔術核を保有する存在。
つまり、ロタだと言うのだ。
本来のスクルドの構想は、
ラグナレクの引き金に成りうる二人。
カトリーナとロタを、まず北界から逃がす。
その上で、テロリストを討伐し、
ラグナレク終了宣言を北界全域に発する。
そして、その功績を盾に、主神に
現状の改革を迫るというモノだった。
しかし、二人が北界に帰還してしまった今、
もはや、なりふり構わず、自ら保護するしかない。
そう結論づけていた。
それは、場合によっては、
北界の様々な勢力を相手どる事になりうる危険な選択だ。
それでも、破滅的な事態になるよりは、
遥かにマシだというのだ。
そして、軍を動かした理由は、
スルトの封印を再び締め直す為。
現在、封印に必要なアーティファクトの到着待ちなのだが、
最悪、受肉しない状態で、スルトが活動を開始してしまう可能性もある。
受肉していなければ、各段に力が落ちるとは言え、
スルトの強大な力をすれば、
街の一つや二つは一瞬で焼失するレベルだという。
そういった突発的な事態に備え、
並行的に足止めの算段もしているのだそうだ。
『今は、少しでも戦力が欲しい。
どうだ?私に力を貸す気になったか?』
考える必要はなかった。
こうして、二人は、スクルドの指揮下に入った。
そして、現在。
スクルド直属の遊撃隊となったカトリーナは、
言い知れぬ不安と共に膝を抱えていた。
瞳に映るいつもより、やけに赤い月は、
この先の波乱を予兆しているかの様に見えた。
ー スクルド居城・謁見の間 ー
「良く来て下さいました。歓迎致します。」
丁寧な言葉とは裏腹に、
握手はおろか、距離すら詰め様としないグズ。
一切油断を感じない。
智将として名高いだけの事はある。
俺達は、謁見の間に隣接する会議室に案内された。
言い換えれば、密室に閉じ込められた訳だ。
武器の携行は当然許されず、丸腰でだ。
グズは、俗に言うお誕生日席に座った。
ロイはグズから見て右側に座ったので、
俺は親父を伴い、左側に座った。
ひとくくりにされたくなかったからだ。
その様子を見たグズが微かに嘲笑った様に見えた。
ロイは不満そうであったが、
ここは俺的に譲れないポイントだった。
つまらない意地かも知れない。
けど、俺達は、俺達の理由でここにいる。
それを示しておきたかったのだ。
席に着くと、すぐに、お茶が配られた。
実は、結構、喉は渇いていたのだが、
この状況で出されたものを口にするほど馬鹿でもない。
お茶を出したヴァルキュリアは、一礼すると、
堅く扉を閉ざした。
少し低めの音が、石の壁に反射して部屋に響く。
砦に相応しい、いかにも頑丈そうな扉の向こう側は、
さぞ、剣呑な雰囲気なのだろう。
会議室にあった長机は、
この質実剛健を絵に描いた様な砦には、
いささか不似合いな意匠をこらしたモノだった。
というのも、各椅子の前に、魔法陣が描かれ、
そのセンターに水晶が埋め込まれていたのだ。
お洒落という感じではなく、かなり奇抜なデザインだ。
しげしげ眺めている俺に気づいたグズは、説明してくれた。
このテーブルは、忌憚ない意見を交わす為のモノで、
嘘をつくと、魔法陣中央に埋め込まれた水晶が光るという
謂わば嘘発見機なのだそうだ。
「へぇ。便利だな。俺も欲しいわ。」
感心しているロイ。
いや、お前が使ったら、完全に照明器具だよな。
「さて、早速で申し訳ありませんが、
夜も更けてきましたし、ご用向きをお伺い致しましょう。」
「言わなくても分かるだろ?」
「いいえ。」
「ほう。アンタ面白いな。」
「お褒め頂き恐縮です。」
笑顔を交わし合う二人。
うわぁ。早くも火花散ってるよ。
希代の詐欺師と名高い智将の知恵比べが
これから始まるという訳だ。
ここは、見学に徹する事にしよう。
俺は、この手の戦いには向かない。
まぁ、剣で斬り合いになったとしても瞬殺されるんだろうけど。
「率直に言おう。今すぐロタの身柄を引き渡せ。」
「お断りします。」
「理由は?」
「我々スクルド遊撃隊は、独立部隊です。
ロタは我が軍の副官であり、
その指揮権はスクルド様のみがお持ちです。
例え、主神様の指示であっても、
正規の手続きなしでは引き渡す事はできません。」
柔らかく、しかし、毅然とした態度で、グズは言った。
やはり一筋縄ではいかない様だ。
「つまり、部外者の指示には従わないと?」
「有り体に言えば、そうです。独立部隊とはそういうモノですから。」
「確かに平時であればその通りだ。
しかし、今、俺とスクルド、そしてロタは同じ作戦に参加している。
つまり、俺にもロタの指揮権がある。」
同じ作戦に参加してるだと!
つまり、ラグナレクに関わっているという事か!?
「そんな話は聞いておりません。」
「部外者だからだろ?」
このロイの言葉は、相当、グズを刺激した様だ。
表情だけ見れば、平静を装っているが、
場の空気が明らかに緊張した。
「仮に、何らかの作戦が進行中として、
貴方がスクルド様と共に参加していると証明できますか?」
「証明か。俺には出来ねぇな。何せ、極秘の作戦だ。
メモは頭の中以外にゃ残せねぇ。」
「それでは、、、」
「だから、感謝してるぜ。」
「?」
「この机にさ。」
水晶を指差すロイ。
確かに水晶は、先ほどのロイの言葉には反応しなかった。
「分かったら、早くロタを連れて来な。部外者。」
「私は、仮にもスクルド軍の参謀にして、
全権代理で砦を預かる身です。
部外者呼ばわりは止めて頂きましょう。」
「俺は、仮にもこの作戦の参謀だ。
部外者を部外者と呼んで何が悪い?」
薄ら笑いを浮かべるロイ。
もはや、グズの表情は歪んでいる。
「そろそろ気づけよ。」
「何にでしょうか?」
「この作戦にロタは参加しているのに、
なんで、お前が部外者なのかをだ。
お前、理由が分かってるか?」
「いいえ。」
「この作戦には、俺がいるからさ。
お前は必要ないんだよ。分かったら、
何も知らないお留守番は、黙って指示に従え。」
グズは明らかに憤慨していたが、
返す言葉が見つからず、沈黙するしかない様子だ。
論戦は、どうやらロイに軍配があがったな。
だが、問題はこれからだ。
プライドさえ捨てれば、グズには選択肢がある。
つまり暗殺だ。
ここはグズのホーム。周りは皆、グズの身内だ。
事後処理などいくらでも出来るだろう。
グズはまだ、沈黙を続けている。
恐らく、葛藤しているのだろう。
緊張が徐々に高まって行く。
マズいな。
「おい。そっちの話は終わったのかぁ?」
いきなり親父が口を開いた。
「これは『対談』じゃないぞぉ。『会談』だぁ。
こっちの話も聞けよぉ。」
窮地を救われる形となったグズは唖然としていた。
反応したのは、チャンスを潰されたロイだった。
「オイ!話は後で俺が聞いてやる。
取り敢えず、ロタを連れ出そうぜ。」
「そっちの嬢ちゃんは、
そうはさせないって顔だぞぉ。」
話題をふられたグズは、どうやら腹をくくった。
「その通りです。どんな手段を用いてもロタを渡すつもりはありません。」
「ちょっと待てよ!
おい、おっさん。少し黙ってろ。
ここは俺に任せてくれよ。」
「お断りだぁ。象太郎。言ってやれぇ。」
ここで俺に振るのかよ!まぁいい。じゃあ言ってやろう。
「俺達は、ロタの仲間だ。
だからロタの仲間のグズさんとも仲良くしたい。
ロタには会いたいが、こんな威圧的なやり方は嫌だ。」
自分でも幼稚だと分かっていたが、
俺は本音を言い放った。なんかスッキリした。
しかし、俺の言葉は、効率お化けのロイには、
物凄いストレスを与えた様だ。
初めて、ロイが感情を露にした。
「目的の為に手段を選ぶとか何様だよ!
今はそんな時じゃないだろう!」
「何をそんなに焦ってるんだぁ?」
「焦ってねぇよ!!」
その時だ。ロイの前にある水晶が光った。
つまり、ロイは焦っている。それはなぜだ?
「おい。ロイ。焦ってるのはロタの為か?」
「・・・作戦の為だ。」
作戦。つまり、ラグナレクか。
なぜ、ラグナレクにロタが必要なのかは分からない。
しかし、目的の為に手段を選ばない、この効率お化けの事だ。
ロタがなんらかの危険にさらされる可能性が高い。
となると、単にロタをここから救出するだけではダメだ。
仮に、ここからロタを連れ出せたとして、
俺達の力では、ロタをコイツから護れないだろう。
つまり、俺達が、今やらなければならないのは、
グズと協調して、ロイを抑え、その上でロタを救出する事だ。
そうだよな。親父。
「出来れば、その作戦というのを、
差し支えない範囲で教えて頂きたいものね。」
今度はグズが切り込んだ。
「何一つ話せる事はないぜ。
国家機密級の極秘作戦だからな。」
ロイは冷静な口調で応じた。
さすがだな。もう精神を立て直しやがった。
こうなると、中々厄介だ。
「では、作戦とは関係のない事を聞きましょう。
貴方達は、どういった関係なのですか?」
「たまたま、行き先と目的が同じだったから一緒にきた。それだけだ。」
「目的が一緒ですか。では、そちらのお二人も作戦の参加者だと?」
「俺達は違います。」
「チッ!」
「では、お二人にお伺いします。ここに来た目的はなんですか?」
ロイの舌打ちは無視して、俺は正直に回答る事にした。
もっとも、ラグナレクに関しては、ここでは言わない方が良いだろう。
「俺達はロタをスクルドさんに会わす為に、一緒に旅をしていたんだ。
だけど、俺が意識を失ってる間にロタが捕まって連行されたと聞いた。
だから、心配で来た。それだけだ。」
グズは少し驚いた様子だったが、すぐに笑顔になった。
拍子抜けだったのだろう。
「そうですか。今、ロタに会わすのは難しいですが、
心配には及びません。スクルド様がお戻りになれば、
すぐにも会えるでしょう。」
優しい口調で応対された。どうやら無害認定された様子だ。
「おい。何、そっちで話まとめてんだよ。
ロタは連れてくぞ。今すぐにだ。」
「そうはいきません。」
「なに、さっきまでの話はなかったみてぇな顔してんだ。
そんなんで誤摩化されねぇぞ。」
「どんな手段を用いてもロタは渡さない。そう申し上げましたよ。」
「こっちはどんな手段を用いても連れ出すつもりだぜ。」
再び緊張が高まる。
室内の気圧が上がったみたいな息苦しさだ。
「あんま気張るなよぉ。けが、バレるぞぉ。」
親父が口を開いた。
怪我?ロイは怪我してるのか?
「あん?俺は、どこも怪我なんか、、」
そこまで言ったロイは、一瞬、ハッとした表情になり、
さらには、険しいモノに変わった。
「おい。てめぇ。」
「おっ。図星かぁ。やっぱりなぁ。」
どや顔で笑う親父。
ロイは静かに激怒した。
白い顔が見る間に紅潮し、
いくつもの青筋が立つ。
「いつ気がついた?」
「こっちも中々盛んみたいだけど、
その手の術式は東が本場だぁ。」
「なるほどな。
一番警戒しなきゃなんねぇのは、てめぇだったって訳かよ。
甘くみてたわ。すまなかった。だがなぁ。
・・それ以上口を開くんじゃねぇ。」
ロイの目つきが獰猛なモノに変わり、
同時に、金髪が逆立つ。
おいおい、まんま、スーパー◯イヤ人じゃん!
あれで戦闘力が劇的に上がる訳ではないだろうが、
ロイは完全に臨戦態勢である。
会話に取り残された形となった、
象太郎とグズは、
一瞬、呆気にとられたが、すぐに思考を始めた。
一体何の話をしている?
どうやら、ロイは怪我をしているらしい。
あれだけ反応するからには、それなりに大きな怪我なのだろう。
しかし、それならば、あの狡猾な男が、
臨戦態勢に入るのはなぜだ?
怪我をしているなら、あらゆる言葉を駆使して、
戦闘を避けようとするのが、この男だろう。
象太郎とグズは、全く、同じ思考を辿った。
ここまでは。
しかし、象太郎は、
グズの持ち得ない知識を一つ持っていた。
あのイラっとするドヤ顔。
アレは親父ギャグが決まった時の顔だ。
「そんなに、髪を逆立てるなよぉ。
毛が抜けてるぞぉ。」
「まだ言うか?皆殺しでいいんだな?」
ロイの怒気が殺気に変わった。
それを見たグズが、いつでも立ち上がれる様に、
椅子に浅く掛け直す。
そして、再び、ドヤ顔をする親父。
これも親父ギャグなのか?
考えられるのは、、ダジャレ。
『け』がバレる。『け』が抜けてる。
恐らく、コレだ。
『け』、、『け』かぁ、、ん?もしやKか!
ロイは、Kが抜けている。どういう、、
あっ!名前!ローマ字か!!
ロキ!!ロイの正体は、ロキって事か!!
ここ北界は、人間界でいう北欧神話に良く似た世界だ。
いわゆるパラレルワールドなのだろう。
そして、北欧神話に少しでも触れた事のある者なら、
誰でも知っている、
ロキとは、ラグナレクを引き起こした神の名だ。
コレッてもしかして、ラスボス!
俺は、思わず、ロイ。いやロキを凝視してしまった。
「貴様も気付きやがったか。」
ロキが俺を睨む。
迫力がヤバい。マジで怖い。少し、チビッたかも。
「一体、何の話をしているのです?
私にも分かる様に説明して下さい。」
一人完全に蚊帳の外になったグズは、
丁寧な言葉、そして、笑顔に青筋という微妙な表情と、
若干震えている声で、尋ねてきた。
「雑魚ブスは引っ込んでろ!!」
「なんですって!!」
今度はグズが臨戦態勢に入る。
マズい!ロイがロキだとしたら、間違いなく主神級。
俺達が束になっても勝てる相手じゃない。
ここは何とか、話し合いに持ち込まないと!
「二人とも落ち着いて!!
グズさん、申し訳ないが説明は出来ません。」
「なぜです!!」
「ここは、交渉の場です。
カードは切らない事に意味があります。違いますか?」
俺は、漫画かなんかで、見たと思われる
それっぽいセリフを口にした。
「・・確かに。」
「チッ。生意気な野郎だ。」
二人は矛を納めてくれた。
それっぽいセリフすげぇ!
そして、気づいた。
今、初めて、俺と親父のサイドが主導権を握っているという事に。
ロキは正体をバラされる事を極端に嫌っている。
なぜかは分からないが、こちらには強くは出れない気配だ。
もっとも、切り札を切らない限りはなのだが。
一方、グズさんは、取り乱した事を恥ている様子だ。
少し、頬が紅い。
俺からしたら、親父ギャグからのドヤ顔の方がよっぽど恥ずかしいのだが。
そして、親父は、、俺にすげぇ下手なウインクをしてきた。
なるほどね。こうなる事を狙った訳か。
つまり、主導権を握った今、ここで、話にケリをつけろ。
そういう事か。
いいだろう。やってやるよ。
俺は、決意を固め、一同を見渡した。
説明回は難しいですね、、。
もう少しテンポが出せる様に頑張ります。
次の更新は20日夜を予定してます。
よろしくお願いします。





