◇え?volutionその1◇
よろしくお願い致します。
それは、早朝に起こった。
異世界にマグニチュードとかあるのかは知らないが、
相当に大きな地震であった事は間違いない。
幸い、宿屋は倒壊しなかったが、
町にはそれなりの被害は出た様子だ。
二度寝をする気分では無かったので、
最終確認を済ませ、俺たちはそれぞれの目的地へと出発した。
クラースさんとカトリーナは南門へ。
俺と親父は、西門から町を出た。
「よぉ!」
門をでるなり、
見るからに軽薄そうな男に声を掛けられた。
胡散臭い事この上ない。
厄介ごとはごめんなので、俺たちは華麗にスルーした。
しかし、次の一言はスルー出来ない言葉だった。
「スクルドのトコに行くんだろ?」
思わず、立ち止まってしまった。
これでスルーはさすがに出来ない。
俺はポンチョの下で、剣の柄に指を掛け、
さりげなく、親父を庇う位置取りで振り返った。
相手の挙動を油断なく見つめる。
「どうしてそう思った?」
軽薄な男は、笑い出した。
「な、なにが可笑しいんだよ!」
「いや、だって、そのポンチョ、スクルド正規軍のだよな?
ここから西に町はないし、普通に考えたら、分かるんじゃね?」
「そ、そうか。そりゃ、分かるよな。」
なるほどね。この借りパクしたポンチョ。
実は軍の備品だった訳だ。
「その肩の階級章、アンタ隊長さんなのかい?」
「いや、実は借りもんなんだ。」
頭を掻きながら言う。なんか恥ずかしい。
「そうなのか。まぁ、どうでもいいや。
で、スクルドんトコには行くんだよな?」
「それを聞いてどうする?」
「いや、行くんなら、俺も連れて行って欲しいんだよ。
だって、一人じゃ物騒だろ?」
勿論、連れて行く気はない。
こちらの事情は少々複雑なのだ。
しかし、この男が何者なのか、
何の目的でスクルドに会いに行くのかは知っておきたかった。
「スクルドに何の用だ?」
「いや、用があるのはスクルドじゃなくて、
ロタって娘なんだけど、、」
「ロタだって!!」
「おっ!知ってるのか?なら話が早い!」
「アンタ、ロタとはどういう関係だ?」
「俺か?従兄弟だけど。」
何食わぬ顔でいう男。ロタとはかけ離れた性格だが、
絶妙に整った目鼻だちと、中々お目にかかる事の出来ないスタイルの良さ。
髪は金髪だが、外見上は、心なしか似ている様な気がする。
しかし、確証は何一つない。
「本当にロタの従兄弟だと言う証拠は?」
「そうだな、、両親の名前でも言ってみるか?」
「いや、、俺が知らない。」
「はぁ?そんなことも知らないのか?
そっちこそロタのなんなんだよ?」
「俺は、、、。」
俺は、ロタの何なんだろう?
考えてみたら、まだ知り合って2週間も経ってない。
しかも、そんなに話しとかした訳でもない。
友達?仲間?それとも、、、ただの知り合い?
俺は言葉に詰まってしまった。
「ロタは俺たちの大事な仲間だぞぉ。
一緒に旅をしてたんだぁ。
象太郎はパーティーのマスターだぞぉ。」
「へぇ。まっ。なんでもいいや。
取り敢えず、行き先は一緒なんだろ?」
コイツ、、なんでもいいだと?
やっぱ好きになれないな。
「そうだなぁ。」
「なら、別々に行くのはナンセンスだ。
この先の湿原には、割と強い魔獣の群れがでるぜ?
俺はこう見えて、そこそこ腕の立つ剣士だ。
ちっとは役に立つぞ。」
群れが出るのか、、厄介だな。
俺には、複数の敵から親父を護りつつ
戦えるだけの剣の技量はない。
かと言って、毎回ヴィッシーを出していたら、
さすがに魔粒子が持たないだろう。
その都度、親父に適当な術式を組んでもらえば、
なんとかなるだろうとは思う。
けど、可能なら、出来るだけ魔粒子は温存しときたい。
向こうに着いたら、何が起こるか分からないからな。
「分かった。一緒に行こう。」
「ヨッシャ!」
「ただし!目立つ行動は避けてほしい。
こちらにも少し事情があって、
出来るだけ静かに移動したいんだ。」
「オッケー!俺の名はロイ。
よろしくな!象太郎。」
馴れ馴れしく握手を求めてくるロイ。
俺は、仕方なく、その手を握った。
一方、森へと向かったカトリーナ達は、
順調に歩を進めていた。
森までの道は、多少の起伏はあるものの、
概ね見通しの良い平原で、
魔獣と不意に遭遇する危険は皆無であった。
反面、とにかく目立つので、
二人は不可視を使用していた。
不可視は、軍標準装備の簡易魔法で、
ちょっと強い衝撃を受けると簡単に解除されてしまう事から、
戦闘ではあまり意味がなかった。
しかし、見通しの良い平原を、
秘密裏に行軍するにはこれほど適した魔法もない。
二人は、然したるトラブルもなく、
昼前には森の入り口へと辿りついた。
「ここまでは順調ね。」
「はい。森に入ったら食事に致しますか?」
「湖のほとりまでは一気に行きましょう。
日が暮れる前に対岸に渡っておきたいですから。」
「かしこまりました。」
事前の打ち合わせで、二人は、ヴィージ北部の森ではなく、
湖を渡った向こう岸にキャンプを張る事にしていた。
というのも、もし、なんらかの攻撃を受けるとしたら、
それは、ヴィージの森側からではないだろうと言う
予測に基づいての事であった。
北の森に潜伏した場合、後ろは湖。
左右は竜種の山と毒の森。
言わば、袋のネズミなのだ。
逆に、湖を渡っておけば、接近ルートは渡湖オンリー。
視野的にも見通しが良いし、万が一霧が出てても、
カトリーナの風精霊で吹き飛ばせる。
渡湖にはそれなりに時間がかかるので、
遠距離魔法で迎え撃つも、森の奥に逃げ込むも自由。
戦略的に考えて迷う余地はなかった。
なので、その光景を見た二人は困惑した。
湖の対岸に、複数のテントが立ち並んでいる。
少なく見積もっても、一個小隊、50人は居ようかという
部隊が展開していたのだ。
「どういう事でしょうな。」
「分からない。
ただ、ここであの規模の軍事行動をとると言う事は、
ヴィーザル様公認って事よね?」
「そう考えるのが妥当ですな。」
「理由が気になるわね。」
「ですな。でも今は、、」
抜剣して振り返るカトリーナ。
クラースは構えこそ取らないが、
その眼光は鋭く、隙がない。
「私達に何か用ですか?」
森の闇に向かい、カトリーナが尋ねると、
一人の少女が無造作に近づいてきた。
「貴方たち、誰?ここで何をしているの?」
「人にモノを尋ねるのならば、まず名乗りなさい。」
「私はアリーサ。貴方は?」
その名前にクラースが反応し、思念リンクを開く。
『カトリーナ様。』
『どうかしましたか?』
『彼の方はロタ様を連れ去った部隊の長にございます。』
『えっ!どうしよう?』
『ここは私が。』
一歩前に出て対応を始めるクラース。
「アリーサ様。失礼致しました。
私はこのお嬢様の執事を務めますクラースと申します。
今日は、お忍びなので、
お嬢様のお名前を口に出来ぬ非礼をお許し下さい。」
片手を胸に当て、礼をするクラース。
板についたその所作は、気品すら漂う。
アリーサは、視線を一瞬カトリーナに向ける。
「民間人?」
「その通りでございます。」
「嘘。貴族のお嬢様はそんな剣扱えない。」
カトリーナの持つ幅広剣は、
扱いにそれ相応の腕力がいる両手剣である。
しかも、使い込んであるのが目に見えて分かる。
さすがに厳しいか?カトリーナの緊張が高まる。
しかし、クラースは動じなかった。
「我が家門は、武術に重きを置いておりますゆえ、
お嬢様も幼少の頃より、剣の修行は積み重ねております。
この程度は嗜みの内でございますな。」
「そう。」
平坦な口調で口数が少ないアリーサ。
表情も変わらない。
読みにくい相手ね。
カトリーナは思った。
「本日は、お嬢様が好奇心で、
ヴィージの森に行ってみたいと仰せになられて、
やむなくやって来たのですが、
何やら、軍事行動を展開中のご様子。
今日の所は出直すと致します。」
言うと、カトリーナを促し、森の外へ向かうクラース。
「待って。」
「まだ何か?」
「見られたからには、殺さないと。」
「物騒ですな。それほど重要な作戦なのですか?」
「知らない。」
「知らない?アレは貴方様の部隊では?」
「違う。アレはロタの小隊。」
ロタという言葉に、動揺が顔に出てしまうカトリーナ。
アリーサはそれを見逃さなかった。
「ロタの知り合いなの?」
「高名なスクルド様の腹心にあらせますお方です。
名を知らぬ方が不敬かと存じますが。」
クラースがすかさずフォローに入る。
「そうね。」
「しかし、ロタ様は小隊を率いて、
こんな所で何をしているのか気になりますな。」
「ロタじゃない。」
「?」
「率いてるのはスクルド様。」
この言葉にはさすがのクラースも驚いた。
ナゼ、ここにスクルドが?
一体、何が起こっているというのだ?
一刻も早く、この事実を象太郎様にお伝えしなければ。
そう考えるも、まずは、この場を脱しなければならない。
出来れば穏便に、かつ、可能な限りの情報収集をしつつ。
言葉を慎重に選びつつクラースは会話を再開した。
「ほう。スクルド様自らご出陣とは、、一体なにが?」
「知らない。私は別の任務。」
「別の任務とは?」
「ロタの仲間を捕える。」
言うと、二人の後方(森の出口側)に向かい、
複数の小さな宝珠を投げるアリーサ。
宝珠が落下した地面は、
みるみる盛り上がり、2mほどの背丈の泥人形となった。
「ぎゃぁぁぁ!!」
「ゴーレム!」
「そう。ゴーレム。」
『ゴーレムって何?』
『無機物に簡易な魔術核を与え、生成し、
術者の思惑通りに操る事の出来る傀儡にございます。』
『クラースさんは物知りだねぇ』
『西界の術式には少々造詣がありましてな。
それより、来ます!』
カトリーナに掴み掛かろうとするゴーレムの腕を、
回し受けで捌くクラース。
そのままカトリーナを抱え、跳躍する。
「囲んで。」
アリーサの言葉に反応し、8体のゴーレムが、
二人を包囲し、ジリジリと間合いを詰めてくる。
視覚的な圧迫感に負けて、
精霊魔法を発動しようとするカトリーナを
クラースは制止した。
『お控え下さい。』
『えっ?なんで?』
『ゴーレムに魔術の類いは効きません。』
『えぇ!!』
『物理的に核を破壊します。』
「捕まえて。」
一斉に飛びかかる8体のゴーレム。
しかし、その全てを一撃で粉砕するクラース。
流れる様な連撃は、まるで舞っているかの様で、
見る者の目を奪った。
着地すると、汚れの付いた白い手袋を外し、
新しいものと取り替えるクラース。
後には土の塊と化したゴーレムと、
ポカンと口を開けたアホ面のカトリーナだけが残った。
「すごい。」
この状況にも、全く動揺が見られないアリーサ。
感情がないのか?あるいは、、ホムンクルス?
「さて。戦力差はご理解頂けましたかな?」
「分かった。」
「では、我々は貴方を捕虜とさせて頂きます。」
「そう。」
「少し質問をしても?」
そう問いかけた瞬間、周囲に恐ろしい圧が発生した。
かつて、ヴィージの洞窟で体験した気当たりに比べれば大分マシだが、
それでも、その場で動けたのはクラースだけだった。
「参りましたな。」
振り返り、呟くクラース。
「ほう。動けるか。」
「貴方がスクルド様にございますね。」
巨人族と聞いていたが、今は普通のサイズだ。
身体のサイズを自由に操れるという事は、受肉した精神生命体。
つまり、その力は上位神の域に達している事を示していた。
「その通りだ。で、貴様は何者だ。」
「私はお嬢様の護衛を申しつかった一介の執事でございます。」
「戯れ言を。まぁ良い。カトリーナ。貴様、なぜ戻った?」
問われたものの、声を発する事が出来ないカトリーナ。
「答えろ。」
「恐れながら、少し、気を緩めて頂ければと。」
「あぁ。これはすまん。」
素直に圧を落とすスクルド。
『カトリーナ様。話し合いの余地はありそうです。
ここは、慎重に。』
『分かりました。』
「相談は済んだか?」
ギクリとするカトリーナ。またも顔に出る。
どうやら思念リンクはお見通しの様だ。
「なら、答えよ。」
「ラグナレクを起こす訳にはいきません。」
「その通りだ。」
「で、では!」
「だから、なぜ戻ったと聞いている。」
「そ、それは、、。」
「貴様、自覚はあるのか?」
「自覚、、ですか?」
「最も効率の良い方法はなんだ?」
スクルドの視線が鋭くなる。
ラグナレクを止めるのに、一番確実な方法は、
カトリーナを消し去る事であるのは、
当然自覚していた。
身構え、カトリーナの前に立つクラース。
「慌てるな。その気なら、疾うに殺っている。」
それが、いとも容易い事かの様に、言い放つスクルド。
ハッタリだ。実際には、それを実現するのは難しい。
目の前の老紳士は、それなりの実力者だ。
やり合えば、負ける事はないだろうが、
簡単な戦いにはならないだろう。
スピードだけは中々に高いカトリーナが、
逃亡する時間くらいは稼げるハズだ。
そうなれば、カトリーナには逃げられ、
自身は消耗してしまう。
そして、今、消耗する事は、
スクルドにとっては負けに等しい事情があった。
つまりは、駆け引きというヤツだ。
こういう類いの事もこなせるのが、
スクルドを単なる前線の猛将ではなく、
知勇兼備の将、足らしめていた。
無言の重苦しい時間が流れる。
それを打ち破ったのは、蚊帳の外のアリーサだった。
不意に歩き出したアリーサは、
スクルドとカトリーナの間に立つと
「ナニをしてるんですか?」
平然と言い放った。
剛胆を通り越して、無神経も甚だしい。
「アリーサか。」
「はい。」
「お前は、我が居城に戻り、グズと共に守りを固めよ。」
「はい。」
言うと、歩き出すアリーサ。
「待て。」
スクルドは言うと、アリーサの肩に手を置き、思念リンクを繋いだ。
『ここで見た事はグズには伝えるな。
偶然、私と遭って、指示を受けたとだけ言うんだ。良いな。』
「はい。」
『グズには厳戒態勢を取り、
外部からの侵入を決して許すなと伝えるのだぞ。』
「はい。」
「良し。では行け。」
何事もなかったかの様に歩き去るアリーサ。
一つため息をつくスクルド。
どうやら、スクルドを以てしても
アリーサは扱いずらい様だ。
「さて、カトリーナ。もう一度問おう。
自覚。それと、何より覚悟はあるのか?」
「あると思います。」
「曖昧だな。」
「あります!」
萎縮しながらも、精一杯の気勢で応えるカトリーナ。
しかし、スクルドは、更に問いつめて来た。
「何の覚悟だ?」
「命を懸ける覚悟です!」
「足らんな。」
「えっ?」
「死ぬなどと言う事は、誰にでも、すぐにでも出来る実に簡単な選択だ。
私が聞いているのは『何があろうと生き残る覚悟』
それが貴様にあるのかだ。」
「生き残る覚悟、、ですか?」
「そうだ。」
ラグナレクが起これば、沢山の命が消える。
それを止める為なら、最悪、命をも投げ出す。
その覚悟はとうに出来ていた。
生き残る覚悟。考えた事もなかった。
でも、出来ることなら、生きたい。
だって、私には共に時間を過ごしたい仲間がいる。
「どうだ?カトリーナ。覚悟はあるか?」
「はい!あります!」
「いいだろう。では、取引の時間だ。」
「取引?」
「貴様達は、今、この世界で『何が起こっているのか』まるで分かっていない。
だから、情報を提供してやろう。国家機密級のとびきりのヤツをな。」
「それで、私達はなにを、、」
「話を聞いて、納得したら、私に力を貸せ。」
「・・・聞かせて下さい。」
ー 北界南西部・スクルド居城付近 ー
現在時刻は22時。
俺たちは、既にスクルドの館(城と言っても過言じゃない)を
目視出来る丘にいた。
今日だけで走破した距離は、なんと100kmを越えた。
というのも、町を出て、ほどなく俺たちは湿地帯に入った。
この湿地帯、実は、つい先ほどまで延々と続いていたのだ。
どこもかしこも地面がヅブヅブで、
キャンプはおろか、ろくに腰を下ろす事も出来ない状況だった。
なので、俺たちはひたすら歩くしかなかったのである。
町を出たのが、朝の6時くらいだから、
実に16時間は歩きっぱなしという話だ。
親父の体力が心配だったのだが、
『眠いだけだぁ。疲れは大丈夫だぞぉ。』
との事。多分だけど、ちょっと見栄張ってないか?
というのもロイが一緒だからだ。
このロイと言う男、相当なもんだ。
速度はカトリーナくらい、力はロタくらい、
そして、戦闘慣れは恐らくクラースさん以上。
何と言うか、全く無駄のない戦い方をする。
一匹を切り終わった時の体勢が、
既に次の獲物を狩るのに絶好のポジションなのだ。
同士討ちを誘うのも上手い。
何より状況判断が適切だ。
と言っても、あくまで効率を優先したらという話だが。
この男は、効率さえ良ければ、
平気で俺たちを囮に使う。
自分で言うのも何だが、俺に大した技量がないのは、
すぐに分かったハズだ。
なのに、一切、手助けは無かった。
まぁ、たまたま行き先が同じというだけで、
仲間という訳ではないと言われたらそれまでの話なのだが、、。
そんな事もあって、剣士としては尊敬に値するこの男を、
どうも、俺は好きになれなかった。
断っておくが、ロイが八頭身のモデル体型で、
イケメンの上にお洒落さんだからでは決してない。
いや、ソコもすこぶる気に喰わないが、
それを置いておいても、やり方が好かない。
とはいえ、16時間も一緒に居れば、
全く会話しないという事も難しく、割と色々話した。
ロタの事を聞くのは、なんか嫌だったので、
俺はスクルド軍の話をちょいちょい聞いた。
こちらからは、ラグナレクの話を上手く伏せて、
旅の話をするハメになった。
まぁ、色々と気苦労はあったものの、
ロイと行動を共にしたのは、
こちらとしても相当メリットがあったのは確かだ。
親父と二人だったら、恐らく、ここに辿り着くまで、
不眠不休で丸2日くらいかかったのではないだろうか。
それに、スクルドの人となりを沢山聞けたのも僥倖だった。
後は一刻も早くロタと合流したいトコだが、
さすがに、この時間に訪問するのは不躾だろう。
「今夜はここで野営にしよう。」
「はぁ?何言ってんだよ。一休みしたなら行こうぜ。」
「この時間に突然押し掛けたら迷惑だろ?」
「おいおい。良く見て見ろよ。明かりを煌煌と焚いて、
周囲を照らしてる。ありゃ、どうみても厳戒態勢だぜ?
昼も夜もないだろう?」
確かに物々しい雰囲気だが、普段からああなのかと思っていた。
なにせ、前線基地と聞いていたから。
「まぁ、確かに寝てはいなそうだ。」
「あんだけ警戒してるって事は何かあったって事だ。
ロタが心配じゃないのか?」
「心配に決まってるだろ!」
「なら決まりだ。行くぞ。」
言うと歩き始めるロイ。
ここで別れると言う選択肢もあったのだが、
後を追ってしまったのは、
やはりロタの事が気がかりだったからだ。
俺は、ロタから借りたポンチョを一応脱いだ。
万が一、話し合いの余地なく戦闘になった場合、
ロタの立場が悪くなるのを恐れたからだ。
俺たちの事などお構いなしにスタスタ進んでいたロイが、
不意に足を止めたのは、スクルドの居城まで、後1キロの辺りだった。
「コイツは参ったな。」
「ん?どうした?」
「見りゃ分かんだろ。」
特に何かある様には見えない。
「罠線かぁ。スゴい数だなぁ。」
親父が呟く。罠線?
何ソレ?美味しいの?
「あぁ。これだけあからさまだと、囮と考えるのが普通だな。」
えっ?あからさまなの?全然分からないんだけど。
「そう考えさせて、ここに足止めするのが狙いかも知れないぞぉ。」
「なるほど、アンタ案外キレるなぁ。しかし、だとしたら、、。」
そこまで言ったロイは素早く振り返る。
「チッ!ビンゴか。」
周囲に変わった様子はない。
一体なにをしてるんだ?
そう思いながらも、取り敢えず抜刀してみる。
すると、先ほど俺たちが歩いて来た道に、複数の兵が現れた。
「前は罠だらけ、後ろは衛兵か。」
「貴様ら何者だ?ここがスクルド様の居城と知っての事か?」
「当然知ってるさ。わざわざ会いに来たんだからな。」
「会いに来た?何か身分を証明するものはあるか?」
「あるぜ。これだ。」
言うと自分の顔を指差すロイ。
全く動じない。
「名を聞かせてもらおう。」
「ロイだ。と言っても、アンタら下っ端じゃわからんだろ。
何せ、国家機密級の話をしに来たんだからな。」
「なんだと、、。」
「今、この城は厳戒態勢だ。で、なんで厳戒態勢かアンタは知ってるのか?」
「それは、、スクルド様の命令だからだ。」
「じゃあ、なぜスクルドはそう命じた?理由は?
下っ端にゃ分からんだろ?」
矢継ぎ早に捲し立てるロイ。
おいおいスクルドって!呼び捨てにしていいのかよ!
「そ、そんな事は!」
「いいや。分からんね。
何せ、俺の顔も知らんし、名を聞いても動揺しない。
あんたらが何も聞かされてない動かぬ証拠だ。」
えっ?コイツ、もしかして、スゴく偉いの?
って言うか、何者なんだ?
俺は状況について行けなかった。
そして、見る限り、衛兵は俺以上に動揺していた。
場の空気は完全にロイに支配されていた。
「おい。モタモタしてないで、早くスクルドに確認して来いよ。」
「い、今、スクルド様は不在で、、」
「何!スクルドの奴!まだ戻ってないのか!今、ここの指揮官は!」
「グッ、グズ様です!」
「グズだと!では、ロタもまだ戻ってないのか!」
「ロタ様は、、その、、」
「なんだ!ハッキリ言え!」
「スイマセン!ロタ様は、スクルド様が戻るまで
身柄を拘束しろとの指示が出ております!」
「そうか。それは機密保持上、賢明な処置だ。
しかし、これ以上は待てんな。」
衛兵を睨みつけるロイ。スゴい威圧感だ。
竦み上がる衛兵。冷や汗でさぞ背筋が寒いだろう。
「何をしている?」
「えっ?」
「何をしていると聞いているんだ!」
「ス、スイマセン!!」
「10分だけ待ってやる!さっさとグズに確認して来い!」
「ハイ!!」
脱兎の如く走り去る衛兵。
どうやら、迂回路がある様だ。
俺は、剣を鞘に納めながら、ロイを見つめた。
コイツは一体、、。
「聞いたかおい?」
「えっ?な、なにを?」
「何をじゃねぇよ!ロタ捕まってるみてぇじゃん!」
「あ、あぁ。」
実はその事は、俺たちは知っていた。
それよりロイだ。
「ロイ、お前、実はスゴく偉いのか?」
「いいや。」
「えっ!だって!」
「アレ?もしかして騙された?
ウケるわぁ。ハッタリに決まってんだろ?」
「ハッタリ!」
「バカ!声でけぇよ!」
手で俺の口を塞ぐロイ。
コイツがスゴい事は認める。
とんでもない詐術だ。
コチラが持っていた情報は、厳戒態勢である事のみ。
当然、理由など、知らない。
にも、関わらず、あたかも知っていると言う体で、
逆に相手に質問し、相手が知らないと踏んだら、
即座に畳み掛け、スクルド不在、指揮官の名前、
ロタの状況という貴重な情報を引き出しやがった。
その上、恐らく相当厳重に敷かれていたであろう、
侵入者に対する備えを全て無効化し、
ボスキャラとの対談に持ち込む流れだ。
この感じなら成功するだろう。
正直、スペックが段違いだと認めざるを得ない。
敵には絶対に回したくないヤツだ。
けど、、友達にはなれそうにもないな。
それから、キッチリ10分後。
汗だくの衛兵が駈け戻り、
俺たちは、それはそれは丁重に謁見の間に通された。
スクルドから留守を任されているグズは、
椅子に座らず、立って俺たちを出迎えた。
一見、こちらに敬意を払っているかの様に見えるが、
完全武装の上に物々しい衛兵の数。
そして、微笑みながらも、鋭く光る眼光。
それは、これから始まる交渉が、
簡単なモノではない事を物語っていた。
やっと、第一章の本筋に辿り着きました。
週末、少し予定が入っており、体力的に書ける余裕があるか分かりません。
申し訳ありません。
次の更新は、早ければ17日、遅くとも19日夜までにはアップします。
よろしくお願いします。





