◇Two nights carnival その12◇
よろしくお願いします。
北界西部。
ここは、かつて、アース神族とヴァン神族が
幾度も衝突した地である。
ヴァン神族の国ヴァナヘイムは、
激しい戦いの末、破れ、アースガルドに降伏した。
その名残とも言えるかつての最前線の砦。
それが、スクルドの居城であった。
王族を人質に出す事で、滅亡を免れたヴァナヘイムには、
今、尚、アースガルドを敵視している勢力があり、
アース神族としては、睨みを効かせておく必要があったのだ。
神格を持つ巨人にして、最強のヴァルキュリア。
『常勝のスクルド』という看板は、
この役目にうってつけの存在だった。
もっとも、スクルドの部隊は、神族同士の戦いに於いては、
いわゆる、搦め手であったのだが。
主神級同士の戦いは、ハッキリ言って災害レベルであり、
部隊で行動する事など到底不可能なのだ。
とはいえ、スクルドの功績は小さいモノではなく、
ネームバリューは相当である事に間違いはなかった。
そのスクルドには2人の腹心が居た。
即ち、剛腕のロタと、知略のグズである。
ロタは、混戦を得意とし、
瞬発的な突破力に優れ、勝機を逃さなかった。
グズは、防衛戦と兵站を得意とし、
長期的な戦略で、前線維持の要足り得た。
二人は得意分野も性格も真逆だったので、
良く意見が衝突する事はあったが、
戦友として、互いに信頼しあっていた。
その証拠に戦場での連携は完璧だったのだ。
スクルド軍の戦術は極めてシンプルなモノであった。
まず、スクルドが戦闘力にモノを云わせ、単騎で突入。
敵軍の指揮官を狙って、次々にねじ伏せる。
次に、指揮官を失って混乱している敵を、
ロタの部隊が蹂躙する。
そして、グズの部隊は、
ロタが包囲され無い様に、退路を保ちつつ、
速やかに残敵を掃討する。
これで、大概の戦闘はなんとかなった。
力業で、シンプル。故に対応策がない。
スクルドを止められなければ、それで負け。
そういう原始的な戦法がまかり通ったのは、
誰もスクルドを止める事が出来なかったからだ。
しかし、実はそれだけではないとロタは思う。
スクルドに指揮官を叩かれ、自分の部隊に蹂躙され、
戦意を失いパニックに陥っている敵兵。
その敵兵を、正常に機能している部隊の居る方向に限定して、
敢えて逃がす誰かさんのおかげで、
戦線が尋常じゃない速度で崩壊する事をロタは知っていた。
結局、一番厄介なのはコイツなんだよなぁ。
目の前のグズを見てロタは思った。
ここは、スクルドの居城。
ロタは、久しぶりに戦友と対面していたのだった。
「久しぶりね。ロタ。元気にしていたかしら?」
「おかげさまで健康そのものだよ。
もっとも、両腕は不細工な重しをつけられて少し痛いがな。」
魔粒子の使用を制限する効果を持つ、
拘束具を見せながら言う。
「あらあら、それは大変ねぇ。
でも、仕方ない事よ。分かるでしょう?」
「分からねぇよ。
お前と違っておりこうさんじゃねぇからな。」
「まぁ。ロタったら。相変わらず聞き分けがないのね。」
「お前も相変わらず、面倒なヤツだ。」
それぞれに笑う二人。
「で?スクルド様には会わせてくれないのか?」
「スクルド様は不在よ。しばらく帰らないみたいね。」
「大きな戦でも起こったのか?」
「そんな話は聞いてないわね。」
「じゃ、なんで!」
「知らないわ。私はただ留守を任されただけ。」
これは想定外だ。戦時中ならいざ知らず、
大きな戦いのない近年は、副官を派遣するばかりで、
スクルド本人が出撃する事など稀であった。
「すまんが、拘束具を外してくれ。」
「外してどうする気?」
「スクルド様を探す。」
「出来ない相談ね。」
「ナゼだ?」
「スクルド様の命令よ。」
「スクルド様の!」
「そうよ。ロタが戻らない様なら探す必要はない。
ただし、戻ったならば即時拘束し、誰とも会わすな。
そう言いつかっているの。」
「なんだと、、。」
どういう事だ。
戻らない様なら探す必要はない。これは分かる。
やはり、スクルド様は馬鹿げた計画から、
自分を逃がしてくれたのだろう。
しかし、戻ったら誰とも会わすなというのはナゼだ?
私の知っている情報の拡散を恐れている?
いや、さすがに私も所構わずこんな話をするほど愚かではない。
それくらいはスクルド様も分かってくれているハズだ。ではナゼ?
「至急スクルド様に報告しなければならない話があるんだ。」
「だから?」
「私を即座に解放しろ。」
「無理な話ね。」
「どうしてもか?」
「どうしてもよ。」
「そうか。では仕方ないな。」
「何をする気?」
「自力で外す。悪いが、お前と話している時間はないんでな。」
言うと、身体に力を込めるロタ。
魔粒子を制限されているとは言え、
簡易の拘束具など、その気になればどうとでもなる。
ハズだった。
「なんだと?」
「無駄よ。それはアリーサ特性なの。
知っているでしょ?彼女は錬金術師の称号を持つヴァルキュリアよ。
いくらロタでも、それを外す事は出来ないわ。」
「チッ!」
「スクルド様は『誰とも会わすな』とおっしゃられたわ。
そして、貴方は『話している時間はない』と言った。
ならば、もう地下隔絶結界牢に入ってもらった方がいいわね。」
言うと、部下に連行を指示するグズ。
ロタの両脇に大柄な二人が駆け寄り、腕をとる。
「グズ!てめぇ!」
「怖い顔。私を恨むのはスジ違いというものよ。
連れていきなさい!」
マズい事になった。
象太郎。来るなよ。
そう考えたロタは、自分の浅はかさに軽く失笑した。
あの馬鹿が来ない訳ないだろう。
となると困った。
コイツは今までの敵とは厄介さの質が違う。
仮に正面から小細工なしでぶつかったとしたら、
クラースがいる以上、数などモノともしないだろう。
しかし、グズ相手に正面から戦える状況を作り出すのは、
そう簡単に出来る事じゃない。
地の利のある居城に攻め込んだ時点で、
全滅は確定だな。ならば、、。
機を見て、自力で脱出するしかない。
今はダメだ。グズの性格上、
ここで私が暴れたとしても、幾重にも手は打ってあるだろう。
ならば、抵抗は無意味。力は温存すべきだ。
大人しく連行されていくロタの後ろ姿を
眺めていたグズは違和感を覚えた。
ナゼ暴れない?
以前のロタならば、力及ばずと分かっていても、
動けなくなるまで抵抗したハズだ。
「皆、任務に戻りなさい。アリーサは残って。」
「はい。」
人払いをしたグズはアリーサに尋ねる。
「ここに来るまでロタの様子はどうでしたか?」
「大人しかった。」
「一切抵抗はなかったという事?」
「なかった。」
「そう。」
やはりおかしい。
この短期間でこうまで性格が変わるものだろうか?
一体、ロタに何が、、。
考えられる事は二つ。
一つ目は、スクルドから受けた密命が想像を絶する内容である事。
二つ目は、コチラが把握していない何者かに多大な影響を受けた事。
あるいは、、その両方か。
一つ目の可能性に関しては、今、考えても意味がない。
スクルド様が不在である以上、ロタが何か話すとは到底思えない。
となると、問題になるのは二つ目の可能性だ。
今までも大きな作戦は沢山あったが、ロタがああまで自制した事はない。
何者かに強い影響を受けたと考えるのが妥当だろう。
もし、何者かが居ると仮定した場合、把握しておく必要がある。
敵にせよ、味方にせよだ。
なぜなら、スクルド様は、他者が存在する可能性に配慮していないからだ。
ロタに反逆の意思はない。拘束を命じたのは、
機密漏洩を防ぐ為とみて間違いないだろう。
その場合、もし、こちらの知り得ぬ第三者が存在していたとしたら、、。
その者、もしくはその者達を即時拘束しなければ、
スクルド様の戦略にとって不安要素になり得る。
「見過ごす訳にはいかないわね。」
「なにを?」
とにかく、今回の件はおかしい。
スクルド様にしても、ロタにしても、らしくない。
自分の知らない所で、なんらか大きな動きがあるのは確実だ。
であるならば、いざという時の為に、
不確定要素は出来うる限り排除しておかなければならない。
「アリーサ。一つお願いをしてもいいかしら?」
ー 人族の町<アッシュガリア> ー
俺たちは、市場を歩いていた。
ロタからの連絡を待つ間に、装備や食料、
そして、何より、現地の通貨を手に入れる為である。
魔獣の毛皮や、牙、爪をメインに、
クラースさんがコツコツ採取していた
薬効のあるキノコなんかも中々の高値で売れた。
中でも群を抜いて高値で売れたのは、
指揮官機の角で、
何でもカトリーナの月収5ヶ月分だとか。
『軍人辞めてハンターになろうかな。』
などと、ボヤいていたが、カトリーナ。
お前、これだけ無断欠勤してんだから、
既に軍人クビになってるんじゃね?実は無職じゃね?
と思いはしたが、ツッコミは入れなかった。
こんな町中でギャアギャア騒がれたら、
悪目立ちしちまうからな。
そもそもカトリーナが、ついて来たこと自体、俺は懸念していた。
なにせ、命を狙われてるのだ。神経を疑う。
『大丈夫ですよ!神族は、人族の町とか一切興味ないんです。』
と言う事らしい。
この世界では、神族が縄張り争いする相手は、
他の神族か巨人族という事になるのだそうだ。
てっきり神族が人族を支配しているのだとばかり思っていたのだが、
ライオンの縄張りに蟻が巣を作ったところで、
気にも留めないと言った話の様だ。
とはいえ、それは神族視点の話で、
人族はそうとばかりも言ってられないのが現実らしい。
というのも、神族や巨人族は、人族の町があるとか関係なしに、
ところかまわずドンパチを始める。
そこに巻き込まれたら、命はないのだ。
そんな訳で、人族は、求められてもいないのに、
神族に貢ぎ物をせっせと運び、
私達ここに住んでますアピールをかかさないそうだ。
そうして、運良く神族に覚えてもらえると、
何となく戦場にするのを避けてもらえたり、もらえなかったり。
まぁ、聞けば聞くほど、酷い扱いだ。
『巨人、神、人は、基本同種族ですよ。交配も普通にできます。
身体のサイズが大きければ巨人族、
魔術核が大きければ神族と呼ばれるだけですね。』
驚愕の事実。
『ダーウィンが来た!』を欠かさず観ていた俺にはピンときた。
『クジラ、イルカ、シャチ』の呼び名と同じ原理である。
体長3m以上に成長するイルカの事をクジラと呼び、
イルカの中で、特に肉食化が進んだモノをシャチと呼ぶ。
つまり、人も巨人も神も、
曖昧な理由で棲み分けられてる同種の生き物という話だ。
ヒゲじぃもビックリである。
にも関わらず、人に対する扱いはあんまりじゃないのか?
『まぁ、私たちヴァルキュリアは、ほとんどの者が半神半人なので、
人族に対する仕打ちには思う所があります。
神族にも博愛主義者はいない事もないのですが、
極めて少数派ですね。』
どの世界にも問題があるんだなぁ。
この時には、その程度にしか思わなかった。
所詮は、俺はよそ者であり、
顔を突っ込むにはいささかデリケートな話だと感じたからだ。
雑談してる間に必要な買い物は概ね終わった。
俺たちは宿屋に戻り、部屋で夕食を摂りがてら、
打ち合わせをする事になった。
夕食は、アッシュガリア名物、根野菜のホッジポッジ。
この辺りは、火山灰の地質で、栽培可能な野菜が限られている。
ゴボウ、ナガイモ、ダイコン、ニンジン等の根野菜。
後は、ニンニクやネギなどだ。
それらの特産物を魚でダシをとったスープに全てぶち込んで
煮ただけのシンプルな料理なのだが、これが絶妙に美味かった。
久々の室内での食事を俺は満喫していた。
そんな中、親父が切り出してきた。
「象太郎。ちょっといいかぁ?」
「ん?どうした?」
「お前が寝てる間に、3人で話してたんだが、
そろそろ方針を固めた方がいいぞぉ。」
「方針?」
「カトリーナぁ。」
ピンと来ない俺の様子をみて、親父がカトリーナに説明を促す。
「仕方ないですねぇ。では、私から。」
言葉とは裏腹にまんざらでもなさそうだ。
「まず、当初の目的であるスクルド様との接触は、
既に果たされた可能性が高いです。
そこで、考えられるのは3つです。」
指を立てながら得意そうに話すカトリーナ。
どうせ、お前の考えでないのは俺にはお見通しだぞ。
「一つ目。
スクルド様と合流し、行動する場合。
これは、何の問題もありません。
次に二つ目。
同盟は結べても別行動の場合。
この場合は、行動の指針が必要になります。
最後に、スクルド様と意見が分かれた場合。
これは一番厄介です。
なぜならロタの身柄があちらにあるからです。」
なるほど。最後のは確かに困るな。
「ロタからの通信を待つにしても、
方針を固めておかないと、緊急時に行動が遅れます。
象太郎さんの考えを聞かせて下さい。」
言うと、親父の方を見るカトリーナ。
オッケーサインを出しているのを見てガッツポーズをとる。
ホント子供だ。
それはさておき、確かに考えておかねばならない問題だ。
「ちょい待ち。」
さて、恒例のシンキングタイムだ。
同盟は結べても別行動の場合。
この際に優先されるのはカトリーナの身の安全だろう。
何せ、こんなちんちくりんでも神眼持ち。
計画の要らしい。
こちらは少数なので、大規模な戦闘には向かないが小回りは効く。
この際、ヴィージの森に潜伏するのが得策かも知れない。
何せ、人目はないし、食料も水も確保しやすい。
若干だが土地勘もある。これがベストだろう。
問題は、三番目。決裂した場合だ。
まず尊重したいのはロタの意思だ。
先日話した時には流れ次第という事だった。
スクルドの元に残るというのなら、それは仕方ない。
一番難しいのは、ロタがこちらに戻ることを希望し、
スクルドがそれを赦さないというケースだ。
この場合、カトリーナを護りながら、ロタを奪還。
更にはスクルドの領地からの脱出という話になる。
これは至難の業だな。
それに、連絡が全くないのは、やはり気になる。
難しい話になっているとしても、
ロタの生真面目な性格なら、途中経過の報告くらいは
ありそうなものだ。となると、、
「みんな。聞いてくれ。
明後日一杯までは連絡を待とうと言ったけど、
そんなに悠長にしてもいられないみたいだ。
なので、明日の朝から行動しようと思う。」
皆、普通に聞いてくれている。問題はなさそうだ。
「俺たちの最優先事項は、
いかなる場合に於いてもカトリーナを護る事だ。
これを今後の行動の指針としたい。」
再びみんなの顔を見る。異存はない様だが、
カトリーナが『いやぁん』みたいな顔をしてるのには
ちょっとイラっとした。
「全員一緒ならば、皆でスクルドの屋敷に向かうのが一番いいと思う。
けど、現状は、ロタが単身乗り込んでいる状況だ。
分断されている上に、ロタがこちらに戻る確証もない。
この状態で、カトリーナを連れて行くのは危険が大き過ぎる。」
何せ、ロタはここまでの戦闘で連携の軸に入っていた。
ロタ抜きでは、ロクな連携は取れないだろう。
「では、どういたしますか?」
「明日の朝、クラースさんと親父は、カトリーナを連れて、
ヴィージの森に向かい、そのまま潜伏して欲しい。」
「かしこまりました。して、象太郎様は?」
「俺は、スクルドの屋敷に向かう。」
「ちょっと待って!!」
カトリーナが物凄い剣幕で喰いついて来た。
「なんだよ。」
「いくらなんでも無謀です!」
「しかし、他に方法が、、。」
「魔法の一つも使えない象太郎さんが、
スクルド軍相手に何が出来るんです!
戦闘になったら確実に死にますよ!」
「にっ逃げるから大丈夫だよ。」
「そんな簡単に逃げれる訳ないでしょ!バカなんですか!」
敬語でバカ呼ばわりは止めて。
やられて初めて知ったけど、結構刺さるわソレ。
「じゃあ、俺が象太郎といくぞぉ」
「シヴァ様!」
「俺が一緒なら、異世界転移門でトンズラ出来るぞぉ。」
トンズラ。そんな死語リアルに言う人はじめて見たわ。
しかし、それは名案だ。
「なるほど!その手があったか!」
「まぁ、イケルだろう。」
「シヴァ様がそういうなら、、でも!気をつけて下さいよ!」
「わ、わかったよ。」
話は何とかまとまった。
俺は、さっき町で買った地図を広げ、
カトリーナに道順を詳しく教わった。
親父にも一緒に聞いておいて欲しかったのだが、
例によってさっさと寝てしまった。
クラースさんは、有効距離の許す限り、
眷属を俺の周辺に配置し、何かあったら、
思念リンクで教えてくれると言ってくれた。
取り敢えず、現状での最善はこんなものだろう。
俺は自室に帰り、就寝準備を始めた。
北界に来て、最初の目標であったヴィージの森を越えた。
森を抜ける瞬間は、気絶してたんだけどね。
結構大変だったなぁ。でも、、
今までの人生とは、まるで違う体験を沢山した。
その道のりを振り返ると、割と失敗ばかりで苦笑するしかない。
けど、それでも『生きている』という実感がすごい。
何と言うか、時間が濃密だ。
人間界に帰ったら、この日々が、
実はたった2日間の出来事なんだと考えると、驚きである。
まるで、人生のお祭り騒ぎだな。
祭りの後は寂しいとか良く聞くけど、
出来れば、振り返った時に、自分を支える力になる様な、
そんな時間にしたい。この限られた時を。
だから、何としても、ロタは救い出す!絶対にだ!
全力を尽くそう。改めて決意を固めた。
そして、その為に、今、俺が一番しなきゃならない事は、
睡眠をとることだろう。何せ、病み上がりだからな。
カーテンを閉めようと、窓に近づく。
目の前の枝に見慣れない鳥が止まり、こちらを見ていた。
カラス?かな?
うわぁ。なんか縁起悪い。
俺はさっさとカーテンを締め、布団にもぐった。
明日からまた野営になる。今日くらいはゆっくり休もう。
俺は、静かに眼を閉じた。
次話の更新は15日夜を予定してます。
その前に、キャラクター紹介入れます。
よろしくお願いします。





