◇Two nights carnival その7◇
月末で打ち合わせが続き、バタバタでした。
ちょっと短めです。すいません。
よろしくお願いします。
『ヴィージの森6日目(昼)』
ヴィーザルの来訪から3日が経った。
相変わらず遭遇戦はあったが、
強敵と呼べるほどの相手はいなかった。
単なる幸運ではない。
クラースさんの眷属による策敵は非常に優秀なのだ。
現在、俺たちは、後2日ほどで
ヴィージの森を抜けられるという場所まで駒を進めている。
森を抜けるのに10日間を想定していた事から考えると、
かなり順調な旅と言えた。
しかし、俺には一つの不安があった。
それは、ヴィーザルの去り際。
俺たちが北の森を抜けると知った時、
口にした言葉だった。
『道中気をつけて行くが良い。』
単なる社交辞令の定型句として扱うには、
前後の素振りに含みがあったと思う。
そして、目の前にある湖を渡った辺りからが、
件の北の森なのである。
そこで、まだ昼なのだが、
今日はここで野営をする事にした。
早いに越した事の無い旅であるのは百も承知だが、
何かあるかも知れない場所に、
何の準備もしないで飛び込むのは、
俺的に躊躇われた。
今夜は皆で意見を交わし、
緊急時の対策を立てておきたかった。
「みんな!少し早いんだけど、
今日はここで野営しようと思う。どうかな?」
「水場の近くは、便利でいいけど、
夜行性の魔獣とかが寄って来たら面倒ね。」
「そうか。そういう危険もあるのか。」
「野営の基本としては、
カトリーナ様のおっしゃる通りなのですが、
眷属からの報告によると、
幸いこの辺りに大型の魔獣はいない様子。
その心配はご無用かと存じます。」
「それなら安心ね♪」
「よし!じゃあ、ここで!」
「かしこまりました。」
「クラースさん。野営の準備は任せちゃってもいいかな?
俺、ちょっとやりたい事があるんだ。」
「はっお任せください。」
「よろしくお願いします!
親父!ちょっと来てくれ!」
クラースさんに丸投げすると、
俺は親父を捕まえて、森に入った。
「どうしたぁ?」
「大至急、異世界転移門を開いてくれ!
ちょっと部屋から取ってきたい物があるんだ!」
異世界転移門を開いてまで、
俺が取って来たいもの。
それは釣り竿である。
釣りは小学校の頃、一度ハマった時期があった。
その後、頻度はめっきり落ちたものの、
未だに、たまに気が向くと出掛けている。
飽きっぽい俺にしては、
長く続いている趣味の一つだ。
その長年の勘が言っている。
あの湖には大物がいる!
まぁ、言っても所詮はガチ勢ではないので、
実は、ぼうずなんて事も多いにあり得るのだが、
そこはそれ。
この一週間弱の異世界生活で、
人生初のアクティブ状態にある俺は、
チャレンジ精神に溢れていた。
「たまには魚もいいなぁ。」
言いながら親父は異世界転移門を開いてくれた。
俺達はダッシュで飛び込み、
そそくさと釣り道具一式を持ち、
再び、北界に戻ってきた。
準備にかかったのは3分足らずだったが、
北界は既に4時前くらいだった。
「親父!急ぐぞ。」
言うと、俺は釣り場を探し始めた。
割とすぐに、いい感じに張り出した地形を見つけた俺達は、
早速、糸を垂らす。
餌は何が良いか分からないので、
俺は取りあえずルアーから始めた。
親父はよっちゃんイカをつけていた。
ザリガニ釣りかよ。
「象太郎ぉ。北界はどうだぁ?」
5分もすると、早くも飽きたのか、
親父が話しかけてきた。
「あぁ。楽しいよ。」
「そうかぁ。俺も楽しいぞぉ。」
「親父は何度か来た事あんのか?」
「あぁ。世界中回ったからなぁ。母さんと二人で。」
「へぇ。」
生返事を返しながら再びルアーを投げる。
「いつかお前とも世界を回ってみたかったから、
父さん夢が叶って嬉しいぞぉ。」
おい。変なフラグ立てるなよ。
それ、どっちか死んじゃうヤツじゃねえのか?
「しかし、おかしいなぁ。」
「何がだよ。」
「象太郎は、
この辺り変だとは思わないかぁ?」
「そうか?今日の相手は、
知性のほとんどない魔獣ばっかりだったし、
結構順調だったと思うけど。」
気になるのは、むしろ、この先の北の森なんだが。
「それだよぉ。途中、果物や木の実が沢山生ってた。
なのになんで、多少知恵のまわる連中がいないんだ?」
「確かに。」
ここまで来る間に思ったのだが、
魔獣は、単なる動物に比べると知能が高い。
特に群れてる連中は、集団戦術を使ってきたりしていた。
時には武器を扱うヤツすら存在していて、驚いたものだ。
あれくらいの知性があるなら、いい餌場は、
むしろ、奪い合いになるハズだ。
なのに、強力なモンスターがいない。
それが意味する処は、、
「もしかして、既になんかの縄張りに入ってるのか?」
「多分なぁ。」
「多分って!何か気づいた事があるんなら教えてくれ!」
「人間の身体は策敵には向かないからなぁ。」
「そうだよなぁ。
じゃ、カトリーナやクラースさんの眷属に、
周囲の策敵を徹底してもらうしかないかぁ。」
「それもそうだけど、、来てるぞぉ。」
「えっ!」
慌てて立ち上がり、周囲を警戒する俺。
この辺りには何もいない。
カトリーナ達は大丈夫か!
視線をベースに向けると、
ロタと一緒にヤドカリ的な生き物と戯れている。
むしろ和やかな風景だ。
「親父!どこだ!どこにいる?」
そう問いかけた瞬間だった。
一気に竿が持って行かれそうになる。
臨戦態勢だった俺はかろうじて反応し、
なんとか掴む事が出来た。
加速状態を使ってだけど。
「だから来てるって言っただろぉ。」
紛らわしいんだよ!
だが、今はそんな事を咎めてる場合ではない。
異世界初釣果なのだ。
バラす訳にはいかない。
しかも、この手応えは、、
「デケェぞ!」
スゴい手応えだ!
こんなのは今まで経験した事がない!
俺が釣り上げた過去最大サイズは78cmの鯉だった。
当時、小6の俺としては、
自身の身長の半分を少し越えるサイズであり、
釣り上げられた時の感動は、
筆舌に尽くし難いものだった。
未だに釣りを続けていたのは、
多分あの出来事があったからだ。
現在、俺の身長は174cm。
思い出補正の入ってるあの鯉の時よりも、
今の手応えは強い。
つまり、、1mは余裕で越えてるんじゃねぇのか!?
「クッ!竿がモタねぇ!!」
そう思った瞬間、親父が、俺の魔粒子を使って、
竿の材質強化をしてくれた。
後で聞いたのだが、付与系魔法と言い、
本来武具に対して使うモノらしい。
ついでに、俺のグリップを竿にロックしてくれた。
これで握力切れの心配もない!
親父でかした!
ホント、大事な時だけは頼りになる!
術式を使った事で、こちらの騒ぎに気づいた
カトリーナ達が寄ってきた。
小6時と一緒だ。
普段はあまり注目されるのを好まない俺だが、
釣りの時は別だ。
ギャラリーは燃える。
タイミング良く、獲物が湖面を跳ねた!
デカい!2m近くある!
あのサイズの魚が跳ねるのは初めてみた!!
盛り上げてくれる!
なんとしても釣り上げてやる!
俺は、無理をせず、定石通り、
持久戦に持ち込む事にした。
「おぉ!デカいですなぁ!」
気づけば、クラースさんまで観戦している。
いい笑顔をしていた。
彼も元々人間界の人だから、
釣りとか懐かしいのかも知れない。
再び獲物が跳ねた!
『おぉ!!』
歓声が上がった。
しかし、その歓声はすぐに別のモノへと変わった。
「あっ。」(←親父)
「いっ!」(←ロタ)
「うっ。」(←クラース)
「えっ?」(←俺)
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」(←カトリーナ)
あろうことか、飛び跳ねた2m級の魚を、
遥かに巨大な蛇的なモノが一口でパクリと食べたのだ!
そのまま湖中に消える大蛇。
そして、俺は、、
当然引きずりこまれた。
何せグリップがロックされてたからね。
親父め。ほんとロクな事しやがらねぇ。
「ハックション!!」
現在、俺たちは、湖から50Mほど森に入った場所で、
キャンプを張っていた。
湖のほとりは、クラースさんの眷属が厳重に監視してくれている。
そんな中、俺は、ガクブルに震えながら、
焚き火に当たっていた。
死ぬかと思ったわ。いや、マジで。
クラースさんが咄嗟の判断で、飛び込み、
術式を解除してくれなかったら、
俺は、今頃、あの蛇もどきの胃袋の中だっただろう。
長年愛用したつり竿は湖底に消えたが、
それほど感傷は無かった。
何せ、ちょっとしたトラウマになったからな。
もはや、釣りをする事はないだろう。
時刻はただいま19時。
俺は、2時間ほど気を失っていたらしい。
意識を失っている間の警護はロタが申し出てくれたそうだ。
普段、俺には素っ気ないのだが、存外優しい。
クラースさんは自ら湖の西側を、
カトリーナは東側を偵察に行ってくれたらしい。
そして、親父が寝てたのはお約束だ。
それにしても困った。
というのも、俺たちがこの森を抜けるには、
どうやら、湖を越えるルートしかないのだ。
『西側はダメですな。
少々難儀な虫が群生しておりまして、
致死性の強い毒がガス状に蔓延しております。
耐性の強い者でなければ、1分と持たないでしょう。』
『東の山越えも無理よ。
竜種がウジャウジャいる!
あそこに少人数で踏み込むとか自殺よ!自殺!
小型から中型まで、そりゃもう、
よりどりみどりだったんだから!』
との事だった。
ヴィーザルの懸念はどうやらこの事だったのだろう。
しかし、彼は同時に老婆心とも言った。
つまり、このくらいの事は、
俺たちなら越えて行けると考えたのだろう。
その評価にこたえないとな。
俺は思った。
なぜなら、俺たちのやろうとしている事は、
きっと、目の前の壁より遥かに難易度が高いことだから。
さて、どうしたものか。
「みんなの意見を聞きたい。」
「森の虫は駆除できないの?」
「樹木の幹内部に寄生するタイプの虫ですので、
森ごと焼き払うしかないですな。
ただ、毒ガスは可燃性なので、
大爆発を伴う可能性が高いです。
少なからず、生態系に影響は出ると思われます。」
「そ、それはやめとこう。」
ヴィーザルの縄張りで、
放火&爆破はちょっと気がひける。
「竜種を刺激しない様に気をつけながら
山の麓を密かに抜けるのは難しいのか?」
「竜種は策敵能力がかなり高いから、
見つからないというのは無理ね。
それに、ヤツら縄張り意識が滅茶苦茶高いのよ。
自分たちのエリアに少しでも足を踏み入れたら、
即、喧嘩売られると思った方がいいわ。」
何ソレ。漫画に出てくるパワフルヤンキー?
やっぱ湖越えが一番無難か。
とは言え、あの蛇もどき(仮にヴィッシーと名付けた)に
渡湖中に襲われたらひとたまりもないだろう。
悩みどころだ。
「なんとか湖を渡る方法を考えるのが一番建設的だと思う。」
「でも、渡ってる途中で襲われたらひとたまりもないわ。」
「飛んで渡るのはどうでしょうか?」
「ダメね。翼竜もウジャウジャだったわ。
空は彼らの領域よ。それこそ格好の餌ね。」
「八方塞がりか。」
皆、押し黙る。
「象太郎ぉ。風邪ひかなかったかぁ。」
親父が起きてきたが、相変わらず場にそぐわない。
「風邪は平気だけど、それより今後どうするかだ。」
「湖渡るんじゃないのか?」
「渡りてぇけど方法がないんだよ。」
「筏でも作ればいいじゃないかぁ。」
「だから、そんなもんの上で襲われたらひとたまりもないだろう!」
「えっ?先に退治しないのかぁ?」
「あっ!」
そうだ。
水場であるにも関わらず、この辺りには魔獣が少ない。
それは、水辺に近寄れば、襲われるという事を意味していた。
つまり、ヴィッシーは湖から出てくる事もあるという事だ!
地上戦ならば、こちらにはクラースさんもいる。
なんとかなる可能性が高い!
「先に退治したら、なんか不味いのかぁ?」
「べっ別に!不味くねぇよ!
ただ、どうやっておびき出すのかをだなぁ、、」
「ちょっと待って頂けますか!」
「どうかしましたか?」
「眷属の反応が一斉に消えました。」
「どうやら、向こうから来てくれたみたいだなぉ。」
「だな。みんな!!」
一同を見渡す。
皆、既に臨戦態勢の顔つきだ。
本当にいい面子である。
「行こう。ヴィッシー退治だ!」
次の少し長くなるかもなので、
更新は2月3日くらいになってしまうかもです。
よろしくお願い致します。





