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6話  殲滅

 馬車に乗りガタガタと揺らされながら俺と酒呑は聖都を目指す。


「いやぁくたばる前にこんな幸せそうなご夫婦様を乗せることが出来て光栄ですなぁ」


 おじいちゃんが手綱を握りながら嬉しそうに呟く。別に夫婦ではないのだが。おじいちゃん、ご機嫌すぎて言い出しにくい。


「い、いや私と若がそんな……」


 そうだ。おじいちゃんに誤解無きよう言ってやってくれ酒呑。


「なんだ、違ったのかい?」


「いえ、全くもってその通りです」


 あっれー? 誤解を解くどころか肯定しちゃってるぞー?

 酒呑が言い切ってしまったことによりもはや誤解を解くことが不可能となってしまった。


「それにしても悪いね。馬車に乗せて貰って」


「いえいえ、命を救って頂いておいて何も返さないというのは家の名に傷をつけますし、それに」


「それに?」


「幸せそうなご夫婦を馬車に乗せるというのはこの老いぼれの小さな楽しみですからな」


 俺の倍は生きているであろうおじいちゃん。この人はさっきゴブリンに馬車を襲われており通りすがった俺と酒呑が助けたのだ。そのお礼として荷馬車に乗せてもらっている。

 世界がこんな気の良いおじいちゃんみたいな人ばっかりだったら戦争なんてないんだろうな。


「では、せめて危険が無いよう護符見繕っておきましょう。簡単なものですけど」


 酒呑の取り出した一枚の紙切れ。それを馬車の荷台に貼り付ける。護符は溶けるように荷台に吸い込まれていき跡形もなく消滅していった。


「それにしても聖都に行きたいとはまた珍しいもんですなぁ」


「聖都に何かあるんですか?」


「ああね、あそこは酷いところだ。そこに住んどるワシもワシだが。まぁ行ってみればわかるよ」


「はぁ……」


 どうも嫌な予感がするな。


「ほれ、見えてきましたよ」


 おじいちゃんが指差す先に見えたのは白色の大きな壁。とにかく高い壁だ。

 なんだアレ。軽くうちの会社のビルを上回ってんぞ。

 






「ありがとうございました。おじいちゃん」


「いやいや、そちらこそお元気で」


 おじいちゃんと別れると関所へ向かう。関所は扉の前に机を並べ二人の兵が荷物の検査をするという簡単な仕組みとなっていた。

 

「入るには通行料、又は証明書の提示を」


「ほい」


 別段隠す理由もなし。言われた通り組合でもらったプレートを見せる。


「冒険者か。通ってよし」


 正面の大門が開くかと思いきやその横にちょこんと設置してある小さな扉が開く。

 まぁ大きな門はそう簡単に開け閉めするわけないよな。

 小さな扉をくぐり街へ出る。


「なんだ。案外いいところじゃないか」


 上質な家が並び、魔物の恐怖を感じずいろんな人たちが街を歩いている。一言で言い表すと『平和』といったところか。

 おじいちゃんが何か意味ありげに言うもんだから少し身構えてしまったではないか。


「若、とりあえず仕事を済ませましょう」


「ああ、そうだね」


 酒呑の言う通りまずは依頼の完了だ。観光はその後でいい。


「組合はそこの十字路を左に曲がってすぐにあるそうです」


「へぇ……っていつのまに地図なんて手にいれたの?」


 酒呑の白い手に握られていたのは正方形の街の見取り図。しかしどこで手に入れたのか。俺も酒呑もここに来るのは初めてだった筈だ。


「いえ、通りすがった男性からすこーし記憶をこの紙にコピーさせてもらっただけですが……」


 そんなことも出来るのか。相変わらず酒呑の凄さには感心させられる。


「あの……」


「ん?」


「何かご迷惑だったでしょうか?」


「え? いや全然! むしろ感謝してる!」


「良かった……。若、ジッと地図を見つめて動かないので何かやってしまったのかと」



 ホッと胸を下ろす酒呑。もしかして俺が何かに怒ってるとでも思ってしまったのだろうか。おじさん、そんな無愛想な顔をしてた? これからは表情にも気をつけなければ。


「じゃあ依頼の報告に行こうか」


「はい!」


 




「銀貨3枚ですか」


「まぁ荷物運びならそれくらいじゃない?」


 それくらいと適当に言っているが自分には高いのか安いのかわからない。何故なら城には一枚も貨幣が無いのだ。

 ちなみに銀貨20枚で金貨1枚らしい。

 依頼も終わったし調査は明日にして城に帰ろう、そう言いかけたその時。


「ハイハイ! 皆さんごちゅうもーく!」


 大路地のど真ん中に大きな商団が人を集めているのが見えた。一つでは無い。5つくらいの商団がそれぞれの旗を持ってそれぞれの商品を並べている。

 だがその商品というのは──


「若……」


「ああうん、人って本当にこうゆう事するんだね。おじさんビックリ」


 ──人だ。人が人を売っている。


「ほら! これ見てこの耳! これわかるでしょ?」

「まさかエルフというやつか!?」

「俺は金貨50枚出すぞ!」

「俺だって──」


 耳の長い女の子に皆が注目する。確かに耳が尖って日本でも有名な特徴を持っていた。しかし耳の長さや形が微妙に違う。


「酒呑……あの子」


「はい若。どうやら耳を魔法なるもので無理矢理変形させられたようですね」


 つまりエルフと見せかけるために耳の形を変えられた。おじいちゃんが意味ありげに言っていたのはこうゆうことか。

 エルフの存在は書斎で読んだがどうやらおとぎ話上の存在。フィクションの存在らしい。


「若。命じてくれても良いのですよ」


「何を?」


「気に要らない。そう一言告げて貰えれば私は全てを終わらしてきます」


「──いやいや、ちょっとあれだけど。その、地域の風習に口を出しちゃいけないでしょ。手を出しちゃいけないよ」


「はい。わかりました」


 了解したという旨を伝えると酒呑はまた俺の斜め後ろに戻る。

 ……危なかった。酒呑の申し出に心が揺らぐのをすごい感じたのだ。酒呑に嫌な役目を押し付けてはいけない。深呼吸して気持ちを切り替える。







「お帰りなさいませ! 雪はずっと若様を待っておりました!」


 雪が長い髪を揺らしながらトテトテと小走りで駆け寄ってくる。


「ご夕食の支度は出来ております。それとも先にお風呂にしますか?」


「いや、雪の料理が冷めるといけないから先に夕食にするよ」


 飯を食べ、皆と会話をし、床に着く前に風呂に入る。風呂はやはり魔改造されておりヒノキ風呂となっている。

 

「やっぱシャワー無しだと体洗うのが億劫になってくるな」


「シャワーですか。今度大工の鉄さんに頼んでみます。今は若様のお背中、雪が流させて頂きますね」


「ああ、頼んだ……うん?」


 気づいたら雪が背後に立っていた。


「うおおおお!? いつのまに!?」


「へ? さっきですが……」


「ああそう。いやそうじゃない。ダメだよ雪。女の子がこんなおじさんと一緒にお風呂一緒にしちゃ」


「大丈夫です。雪は若様のことが大好きですから」


「いやいやでも……」


「若様」


「何?」


「私達は頼って欲しいのです。私達は力になりたいのです。誰でも無い若様に。それが私達の喜びなのです」


 声が出なかった。


「それをお預けにするなどなさらないでください。胸が苦しいくてたまらなくなるのです。いつ若様が私達を不要とするか不安で仕方ないのです」


「……じゃあ背中頼んでいい?」


「はい!」






 いらないと言われる恐怖。俺も会社に「不要」の烙印を押された者だ。その気持ちはわかる。しかしそれが信頼、崇拝、尊敬しているものから送られるとしたら一体どれだけ膨れ上がるのだろう。つまり雪や酒呑に遠慮するということはその恐怖を彼らに与えるということだ。

 俺はなんて大馬鹿野郎だったのだろう。






 俺と酒呑は再び聖都に降り立った。俺たちの城と聖都。そのつながりを調べるために。


「さて、どこから調べようか」


「やはりあの城からでは?」


 酒呑が言ったのは聖都の中心部にある宮殿のようなもののことだろう。確かにあそこならあの城みたいに昔起こった事を日記みたいに残しているはずだ。


「酒呑、頼っていいか?」


「──! はい!」


 酒呑の姿が一瞬で消える。一人で宮殿に侵入しに行ったのだろう。


「俺をあそこに連れてってと言おうとしたんだけど……まぁいいか」


 ふと路地から腐臭を感じ取る。

 なんだ?

 近づくにつれ腐臭を放つものの正体が見えてくる。

 ……昨日の売られていた女性だ。変形した耳や体には沢山の切り傷ができておりその裸体を隠す気も無くただ生気なく転がっている。

 しかし聖都の現状に戦慄させられるものはさらにその後ろにあった。


「嘘だ。同じ人間だろ」


 丸太のように積まれた奴隷だった人達。そしてそれに火をつけ暖をとる人達。

 強烈な吐き気に襲われる。


「若!」


 背後から酒呑抱きつかれなにかを嗅がされる。城に充満しているお香と同じ香りだ。


「……ありがとう酒呑」


「申し訳ありません。私がちゃんとついていれば。すぐに城に戻りましょう」






「若様、大丈夫ですか?」


 気づいたら布団に寝かしつけられていた。


「ああだいぶ落ち着いた。ありがとう雪。あと酒呑も」


「いえ、若。私がちゃんと護衛が出来ていればこんな事にはならなかったのです」


 自分を責めるな酒呑よ。俺がフラフラと動いたのが悪いのだ。


「それより酒呑」


「もちろんです。若。ここに」


 酒呑が取り出したのは一冊の本。白い表紙でかなり分厚い。というか本当に白好きだな、あの国。

 パラパラとめくり、中の文章を確認。何故かこの日記もだいたい一行だ。もしかしてこの世界では一行日記が流行っているのだろうか。紙をめくる手がふと止まる。


──日目

 あの国からは摂取するものは全て摂取した。用済みだ。あいつもまさか魔物が集まってくるとは思わないだろう。


 いきなりビンゴか。まぁそれならそれでいい。仕事は早く終わるほどいいのだ。

 俺は本を置き一息つく。何か簡単に進みすぎな気がする。元の生活で会社の仕事がこんなにも順調にいったことがないからだろうか。


「そういえば酒呑。あの匂い大丈夫だったの?」


 俺が吐き気を催すほどの悪臭。人より嗅覚が良い酒呑が無事であるはずがない。しかし俺の焦りとは裏腹に酒呑は案外ケロっとしていた。








・聖都 奴隷商団本部前・


「お願いします! これで! これで娘を!」


 扉の前で響く懇願の声。扉を叩く老人の手には何枚もの金貨が入った袋が握られていた。


「うるさいですねぇ。あんなものもう売りさばいてしまいましたよ」


 うんざりとした様子で眼帯をつけた男が扉を開ける。男が着ている白っぽい服はこの国では「清楚」の象徴であり、今この場では彼が善なのだ。


「だいたい年頃の女の子を一人にするのが悪いんです。諦めなさい」


「そこをなんとか! お願いします! お願いします!」


「お黙りなさい。これ以上居座ると衛兵を呼びますよ」


 ここでは商団が善。お爺さんが悪。男は老人が帰ったのを確認すると部屋に戻る。エルフ製作室と書かれたプレートが貼ってある部屋に。


「どうです? 元竜都拷問官による完璧なる仕上げは?」


 台の上に飾られた商品(どれい)。この人もまた「手術」を受け身体の形を変えられたものだ。

 この身体を無理やり変化させるのがこの商団の売りであり他の商団との差。オーダーメイドにも対応しており今回のは大きなお客様のために商団全員が全力を尽くした最高傑作であった。


「どうです? このエルフのような耳。艶々とした肌。完璧でしょう。大臣?」


「うむ、まさに完璧。これで北都の王も満足されるだろう」


「では! 頂けるのですね!」


「ああいいだろう。商品が宮殿に届いたのを確認したらこちらもアレを届けさせよう」


「ありがとうございます!」








 これで聖都も三回目か。

 あの日記も結局名前が書いていなかったせいで誰のものかわからなかった。

 俺は軽い足取りで街を歩きまわる。無論、酒呑も同伴だ。

 今回、聖都に来たのは調査ではなくただの観光。そのため雪もついて来ている。行きたがってたけど流石に馬骨は連れて行けなかった。体格が違いすぎたんだ。ごめんよ。


「若様、どこに行きましょう? 雪はどこでもついて行きますよ! たとえ火の中水の中地獄までも!」


 観光と聞いて若干テンションの高い雪といつも通りな酒呑を連れ街を歩きまわる。

 今日はもうめんどくさいことに関わらない。そう決めたはずだった。ボロボロになったおじいちゃんを目撃するまでは。






「大丈夫か? おじいちゃん。一体何があった?」


 急遽近くの宿屋に運び込まれたおじいちゃんは雪の介抱によりだいぶ元気を取り戻し、落ち着いている。


「実はですね。4、5ヶ月前くらいでしょうか。私には一人娘がおりまして。そりゃあとても可愛い可愛い娘でした」


 おじいちゃんは唇を震わせながら語り始める。


「そんでいつも通り人運びの仕事から帰ると家が荒らされており娘の姿は……」


 無かったのか。

 どんどん黒いところが露わになっていくな。これじゃ聖都ではなく肉欲溢れる性都だ。いや、笑いごとではない。路地に捨てられた奴隷のほとんどが女性だったってことは本当にそうなんだろう。

 ふと、視線を感じ振り返る。酒呑と目が合う。薄暗い影からこちらを爛々とした目で見つめる酒呑と。まるで「ほらね」とでもいいたそうな、いつもの笑顔。


 ああ、認めよう。今、俺はこの街に対し「殺意」を感じている。


「若、ここは前の若の世界ではなくあなたが我慢する必要はないのです。ただ子供のように我らに甘えてくれればいい。我らは全力で甘やかします。そのためならば我らは命を燃やす事も厭わない」


 強く、決意の言葉だった。


「酒呑は……俺のことよく知っているね」


「まだ数日ですが若の横を歩いて来ましたもの」


「君たちに甘えてもいいか?」


「なんなりと」




「この街の奴隷商団のその全てが気に入らない」




「──はい」


 酒呑はそれだけ答えると影に身体を溶かす。








 地獄だ。そうとしか言いようがない。

 仲間を見捨て一人隠し通路に逃げ込んだ男は振り返る暇もなく無我夢中で走っていた。

 突如棚や天井裏から現れた大量のゴブリンのような生き物。額に二本の小さなツノがありゴブリンを小鬼みたいなものと例えるなら廊下を闊歩するコイツらは本物の小鬼だ。ゴブリン=小鬼ではなくただの小鬼。ゴブリンのオリジナルみたいなものだろうか。先人がゴブリンとこれを同じものとして扱っていたのならそいつらはなんて大馬鹿ものだったのだろう。

 格が違いすぎる。

 聖都最大の奴隷商と謳われたここが、地下や2階を合わせ全25部屋以上あるこの館が10分もかからずほぼ制圧された。


「なんなんだよ……俺が何したってんだよ」


「若様を不快にさせた。それだけで死ぬ理由は十分です」


 どこからか女の子の声が聞こえた、かと思うと身体が地面に叩きつけられていた。

 何もないところで転んだ? じゃあ早く立ち上がって走らなければ。そう思っているのに上手く立ち上がれない。


「な、何これ?」


 膝から先が消えている。

 振り返ると凍った棒状のものが地面に突き刺さっていた。

 あれは何だろう?


 足だ。


 凍り、霜が降りて、冷気を放ち、完全に地面とくっついている。

 今からこの男はその棒状のものが自分の足とも知らずに死ぬ。

 なんて綺麗な氷像なのだろう。そう思った時には視界が宙を舞っていた。


「ああ……若様の役に立てました! それが雪の一番の幸福で御座います……!」









 妖艶な香の匂いが充満する部屋の中、人と鬼は対峙していた。無論これは奴隷商たちが勝手に思っているだけであって実際にはチェスでいうチェックの状態。

 これだから力の差を理解出来ない者は嫌いなのだ。


「ゴルゴ、油断するなよ。相手は魔法詠唱者らしい」


「ふん、この俺を誰だと思っている。実力主義国家竜都の元拷問官だぞ。あんな者、詠唱などする暇もなく息の目を止めてやろう」


 酒呑の1.5倍以上ありそうな大男。慣れた手つきで酒呑の身長ほどのナタを振り上げる。それでも天井にぶつからないのはこのゴルゴに合わせて作ったからだろう。


「それで命乞いは終わりましたか?」


「それは……こっちのセリフだ! 『絶対切断』!」


 金色の光を帯びてナタが振り下ろされる。酒呑は避けることもせずただただ傍観したままそれを受けた。

 ……だって避けるのに使う労力がもったいないんですもの。


「入ったぁ! あとで立派な商品にしてやるぜ!」


 軌道は完璧。右肩から心臓まで一直線。骨を斬り肉も斬り絶命までの片道切符。盾で防ごうがそれごと斬り伏せる。相手が人間であったらの話だが。

 酒呑の身体と衝突したナタは高い音を立てて宙へ飛ぶ。

 やがて回転したまま折れた刃はゴルゴの絶対の自信とともに地面に落ちた。


「あらまぁ、武器失くしてしまいましたけど大丈夫ですか?」


「こんの……バケモノが!」


「あなたには言われたくありません」


 獲物が折られてもまだ向かってくる姿は実に滑稽だった。

 まだ勝てると信じ男は拳を振るう。


「ピヨピヨ」


 緊迫した空間に間抜けな鳴き声が一つ。しかしゴルゴに起こっていることは人の理解を超えたものだった。


「な、なんだよ。コレなんだ……?」


 ゴルゴの首元にひよこのくちばしのようなものが生えてきている。それがパクパクとまるで口のような動きをし、鳴き声を発している。


「あなたと同じことをしてみました。まぁあなたのやり方は生ぬるいので自分で工夫を加えていますが」


 気がつくと一つ、二つとくちばしは数を増やしていく。理解のできない人知を越えたことをする。それが妖怪だ。増え続けるくちばしにゴルゴの身体は侵食されていく。


「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ」


 くちばしたちの鳴き声によりゴルゴの断末魔さえ掻き消される。


「さてと……お待たせしました。あなたの番です」


 揺れる眼差しがもう一人の男を捉えた。


「ヒイッ! こっちにくるなぁ!」


 それが男の最後の言葉となった。最もゴルゴと同じようにくちばしにかき消され、聞いたものは誰一人としていないが。


「どうだ。酒呑よ、そちらは終わったか?」


「馬骨ですか。ええ、若がやっと頼ってくれたんですもの。いつもより念入りに潰しました。それよりアレ、あなたはどうしました?」


 酒呑が指差したのは檻の中の人間達。奴隷だったもの達だ。ここはよほど資金があったのだろう。全員が上質な枷をされており一人一人違う檻だ。


「うーむ、我のとこにはおらんかったからなぁ」


「奴隷商団に属していないものを殺して若をガッカリさせるのは嫌ですし、しかし商団の持ち物と考えたらもしかしたら処分対象かもしれません」


「雪はどうしたか聞いてみたらどうだ?」


「雪さんは多分何も考えず皆殺しにしてると思います」


「確かになぁ、雪だからなぁ」


「ふふっ」


 ふと酒呑の口から微笑が漏れる。


「急にどうした? 何か面白いことでもあったか?」


「いえ、こうやって若のために頭を悩ますのは実に楽しいと感じまして。つい」


「お前もか。我もそうだ。初めて鍛錬や戦以外で楽しいと感じた」


「とりあえず戻りましょう。ひとまずコレらは私がいつでも処分できるよう術をかけて解放しておきます」


「うむ、頼んだ」


 




 翌る日の朝。皮肉なほど眩しい太陽と青空。あの夫婦が帰ってしまってから数日が経った。それでいいのだ。こんな街なんかにいない方がいい。

 今日も私は金を稼ぐ。死ぬ前に娘を自由にするために。


「おじいちゃん!」


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