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8話 竜都へ

 倒せると粋がっていた冒険者もそれを見れば怖気付き逃げ出す。あるいは無謀にも戦いを挑む。挑むということは実力差を理解した上で戦う理由があるか実力差がつかめない弱者ということだ。

 勝てないなら策を練る。その中で囮というのは実に良いものだ。シンプルであり、思いつきやすい。その上、実行難易度も高くない。


囮を見捨てるという前提があればの話だが。





 化け物の手が少しずつジリジリと距離を詰める。


「ジニダグない! だずげでぐだざぁっ!」


 人型の化け物と対峙しているのは一人の女性。武器らしきものは部屋に落ちていた少し大きなレンガのみ。その後ろからそれぞれの防具に身を包んだもの達が攻撃の隙を伺っている。あるものは弓を引き、あるものは槍を構える。

 丸腰のものが前に出て装備があるものが後ろにいる。おかしな光景だ。


「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ」


 部屋に響くひよこの鳴き声のような音。化け物の身体にある無数のくちばしのようなものが鳴き声をあげているのだ。

 化け物はいとも簡単に女性の頭を鷲掴みにすると粘土でも潰すかのように握って破裂させてみせた。まるで後ろの冒険者たちに見せつけるかのように。

 血が溢れ出しむせかえるような匂いが部屋に充満する。


「囮が死んだ! これ以上は無理だ。逃げるぞ!」


 奴隷大国であった聖都の冒険者にとって奴隷を囮に使うことはあまり不思議なことではなかった。


「全く酷いものですね。なぜ味方を見捨てるほど自分勝手になれるのでしょうか」


 冒険者たちが逃げ出したあと暗闇から一人の女性が姿をあらわす。

 和服に身を包み、からんころんと下駄を鳴らす女性。酒呑。


「すいません。あなたが若の邪魔となる可能性が出てきたので処理に来ました」


 酒呑は再びニコリと微笑むと化け物相手に怯むどころか向かっていく。

 当然化け物は近づけさせまいと攻撃するが全て白く細い腕であしらわれる。それほどまでに実力差があるのだ。


「ピヨッピヨッピヨッ!」


 酒呑との実力差を読み取ったのか化け物はあとずさりしながら助けを求め鳴き声を発する。


「五月蝿い」


 掌底。酒呑の手のひらが化け物の腹を撃ち抜く。

 化け物は数メートル吹っ飛び壁に激突。自慢のくちばしは砕かれ土手っ腹に風穴を開けていた。


「さて帰りますか」


 踵を返し服についた埃でも取るかのように服をはたく。

 そして酒呑は再び闇に溶け消えていった。






 白く塗られた壁伝いに浩二と雪は歩いていた。

 『聖都』 サブカルチャー大国の日本から来た浩二にはその名前に神聖なものを連想させただろう。

 だがこの街はそんな立派なものではない。無論、浩二から見たらの場合だが。

 以前この街は奴隷商売で繁栄していた。それを浩二が気に入らないの一言で街中の奴隷商団を潰したのだ。


(酒呑、顔青かったけど。大丈夫かな?)


 今、現在雪と一緒にいるのは体調の悪い酒呑の代わりに護衛としてついているからだ。


「だいぶ歩いたな」


 額の汗を腕で拭い、空を見上げる。空には複数の雲が段を重ね一つの大きな入道雲を作っていた。


「若様、まだ回りますか?」


 少し心配そうにこちら覗きこむ雪。長い髪が揺れ方から落ちる。


「そのつもりだけど、どうかした?」


「でしたら一回ご休憩なされては? だいぶ汗もかいておられますし」


 そう言って雪は袖から手ぬぐいと竹でできた水筒を取り出す。

 

「ああ、ありがとう」


 改めて出された手ぬぐいで汗を拭き水筒の水を一気に飲み干す。


「ところで何をお探しに?」


「日記にあった北都と竜都について調べているんだけど……なかなかどんなとこなのかわからなくってね」


 頭を抱えしゃがみ込みわざとらしく落ち込む。

 演技とわからない雪が慰めようとしたその時だった。


「ねぇ竜都に行きたいの?」


 小学三年生くらいの女の子が浩二の袖を掴んでいた。


「竜都がどんなとこなのか知りたいんだ。まぁ行くことにはかわりないけど」


 行くという言葉を聞きつけ赤いおさげの髪が揺れる。


「ねぇあたしも連れてってよ! みたところあんたら冒険者なんだろ? 竜都の事はいっぱい知ってるし金はねぇけどお礼は出来るからさ!」


 子供が親におねだりするように袖を掴まれ揺らされる。みかねた雪が女の子をなだめようとしてくれる。


「お嬢さん? 若様はとっても忙しいの。それにお礼って……あなた何も持ってなさそうだし」


「身体で払うよ!」


「ブッファ」


「雪がむせた!」


「ダメです! そんなこと! あなたも女の子なら自分の体を大事なさい! というか若様に身体を捧げるのは雪だけです!」


 顔を真っ赤にして怒る雪。雪女の雪は外側の熱には少し強いが内側の熱にはめっぽう弱いため興奮するとすぐに感情が高ぶる。そのためすぐ泣いたり襲われたのだが今回はまた暴走する前にクールダウンさせよう。


「荷物運びくらい出来る!」


「ゆ、雪だって! 若様にあんなことやそんなこと──」


 女の子に要らぬ知識を与える前に妖術で氷を作り出し雪の額にあてる。


「は、はれ? 雪は何を……?」


「まぁまぁそれよりお嬢ちゃんなんで竜都に行きたいの?」


「おとんに会いたいんだ」


 なんといい話だろう。父に会いたい子が国を渡って会いに行く。日本だったら知らない人に頼む事すらできないな。

 ここは女の子の親を想う気持ちに免じてやるとするか。


「よし、いいだろう」


「若様!?」


「ほんとか!?」


「そのかわりに知り合いとかお母さんにはちゃんと伝えておくんだぞ。報告、連絡、相談はしっかりしないとな?」


 集合は明日の朝と決め時間までに来なかった場合は置いていく。その他諸々の約束をし、女の子と別れる。もちろん帰り際に竜都の情報は貰った。


「ほんとによかったのですか?」


「うん。こうゆうのも日本ではあり得ないし異世界っぽくていいんじゃない?」


「まぁ若様がいいのなら雪はいいのですけど……」


 何か不安そうにする雪を気にかけながらも城へ戻る準備をし、馬車を借りに行く。








「ご夕食まで時間がかかるので少しお待ち下さい」そう雪に告げられ暇を潰すため部屋で女の子から仕入れた情報を整理する。


1、軍事国家である


2、法に厳しい


3、あちこちに兵が闊歩している


4、そこに存在する一人一人、身分を点数化。小数点以下まで割り出し同じ点数をなくすことで竜都では対等という言葉は存在しえないものとなっている


5、身分点数は国に奉仕することで加点される


6、身分が高いものからの命令から逃れるには力づくで抵抗するしかない


 みたところかなりアグレッシブなとこである。特に4番以降。

 あのおさげの子のお父さんそんなとこに住んでんのか。


「この感じだと新参者は点数0から始めなきゃいけなさそうだしそうなると力が無いと命令され放題だな」


 重要点を紙に書き出すため筆をとる。この時少しばかり眠くなっていたので周囲に漂う甘ったるい匂いに気づかなかった。


『何しているの?』


「うおっ! なんだショコラたちか」


 城で甘ったるい匂いがしたらまずこいつら。浩二の中でそんな位置付けされている6人姉妹たちは何か不服そうに中に浮いている。


「なんだとはなんだ」

「せっかく遊びに来たのに」

「今日も特別あま〜いケーキを持ってきた」

「さぁ食すがいい」

「強制だけど」

「味は保証しよう?」


 赤、黒、青、黄、白、緑。左からストロベリー、ショコラ、ブルーベリー、ハニー、ホワイト、ティーという名前だ。正直全員ほぼ顔と声が同じなので色で覚えるしか無い。


「それで何しに来たの?」


 浩二が紙に竜都の情報を書きながら聞くと待ってましたとストロベリーが一枚の封筒を取り出す。白いシンプルな封筒に固まった蜂蜜のようなもので封をしてある。


「なにこれ?」


「招待状」

「前に出来る範囲でなんでもしてくれるって言ってたでしょ?」

「だから出来る範囲でお願いするの」

「さぁ、私たちと遊びましょ?」

「楽しみ」

「ちなみにあと5回分残ってるから」


「あと5回!?」


 ティーがさりげなく言い残した言葉。確かに浩二は前に城についての書類を探して貰っている。


「6人が手伝ったから6回ってことか……」


「そうゆうこと」


 6人を代表しストロベリーが招待状を差し出す。少し頬が赤いが相変わらずの無表情である。

 招待状を受け取るとストロベリーはフリルのついたスカートを揺らし背中を向け帰っていく。


『またね』


 数はわからないが何人かの声がそう重なり、同時に姉妹たちは空気に溶けるように消えていく。

 姉妹が消えたあと、そこには入れ替わるように白い皿に乗ったショートケーキが置いてあった。


「本当にケーキ持ってきてくれたんだ」


 皿を手に取り付属の銀色のフォークでケーキを一口大に分けると口に運ぶ。


「ふつうに美味いな」


 






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