プロローグ
今日は何曜日だったろうか……。
度重なる連続出勤でそんなことは忘れてしまった。
電車の中で彼は揺られながら何も考えず家に帰る。
そんな生活も今日で終わると思えば少しは気が晴れるだろう。
「久しぶりに19時の電車に乗れた」
佐々木浩二 独身 年齢は……30超えてないといいな。多分超えてるけど。
現在、大嫌いな上司にヘッドバッドをきめ無職に。幸い警察沙汰にはならなかった。多分後輩が諌めてくれたおかげだろう。
なんであんなことしてしまったんだ。今では後悔しかない。
それがいつもと同じ帰り道のはずなのに違った景色が見える理由なのだろうか?
19時の街にはまだまだ光や活気があり、いつも深夜帰りの彼には少し眩しかった。
「今日はいろいろあったな」
路地に入り、歩いていると少し古めのアパートに着く。ところどころにヒビが入っておりここに住んだ当初は不気味だったが今ではもうなれたものだ。
「1、2、3、ここか」
一つずつ部屋を数え確認する。階段から3番目の部屋。そこが自分の部屋だ。
鍵を開け薄いドアを開けると大きなビニール袋が俺を出迎えてくれる。
(またゴミ出し忘れた……)
道を塞ぐゴミ袋を大股で乗り越え部屋に入る。
誰もいない部屋にただいまを言う気力が出ない。言う相手ができる見込みもない。
カバンを放り捨てベッドに倒れ込む。
「お、アップデート来てる」
精神没入型VRゲーム アンノウン 精神没入とかよくわからないがこれを使うと本当にゲームの中に入ったような感覚を味わえる。
これを海外から送りつけてきた友人はフルダイブが何とか言っていたが俺にはもう無縁の世界だ。
使用方法は簡単。これに付属のサングラスみたいなものを装着し電源を入れる。ちなみに本体は枕の中だ。
「スイッチオンと……」
(スーツ脱ぎ忘れたな。……もうめんどくせぇからいいや)
耳元からアンノウンの起動音がする。
これで俺は一時的にこの現実から逃げることができるのだ。
向こうでは痛みはないが何故か味覚や嗅覚が効く。だからこそのめり込んでしまう。
いくつもあるアンノウンコンテンツ。その中でも building という街作りコンテンツが味覚と嗅覚を一番楽しむ事ができる。俺のお気に入りだ。
まぶたを閉じると全身の力が少しずつ抜けていく。
(あれ?こんな感覚今までアンノウンにあったっけ……)
佐々木浩二の意識は光に塗りつぶされ消えていった。