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後日談


 後日談──。



「お~い、真庭。お客さんだぞ~?」


 ミステリー研究部の部室に響く声。部長の城島が呼び掛けてもシジマの反応は無い。


「おい、真庭」

「………。え?あ、あれ?何ですか部長?」

「ったく、お前は……客だ、客」

「お客さんですか?一体誰が……」


 部室の入り口に視線を向ければそこにはシノブとカレンが待っていた。


「ヤッホー!シジマ君、おひさ~!」

「日比野先輩、高槻先輩……どうしたんですか?」

「いやぁ……実は家の鍵無くしちゃって……探すの手伝ってくれない?」

「……僕は警察犬じゃないですよ?」

「助けてくれよぉ~、シジマール~!」

「わ、分かりました。部長、ちょっと出てきます」

「おう、行ってこい。見付けるまで戻って来んなよ~?」

「酷い……」


 シジマはやれやれといった様子で部室を後にした。


「それで……いつ無くしたと気付いたんですか?」

「いやぁ……今さっき」

「じ、じゃあ、高槻先輩の今までの行動を逆に辿りましょう」


 カレンの記憶に従い行動した場所へと足を運んで鍵を探す。やがて女子更衣室前に辿り着きシジマは硬直した。


「こ、ここには無いんじゃないですか?」

「何で?」

「そもそも普段、鍵は何処にあるんですか?」

「バッグの中の小物入れに」

「小物入れを使ったのって何処ですか?」

「ここの洗面所?」

「うっ……結局、中ですか……」

「大丈夫、大丈夫。誰も居ないから」


 諦めて中に入ったシジマは洗面所を徹底して調べた。結果、鍵は洗面所脇の隙間に挟まっていた。


「そっか~。ここでリップクリーム出した時にキーケースごと落ちたんだね。ありがとう、シジマ君」

「どういたしまして。それじゃ僕はこれで……」


 そそくさと立ち去ろうとしたシジマの肩をガシッと掴む手が……。


「真庭君。少し話があるんだけど……」

「な、ななな、何ですか、日比野先輩?」

「何でそんなに怯えているの?」

「お、怯えてなんかいないですよ?」

「……まぁ良いわ。とにかく話をしましょうか」


 シノブとカレンに屋上へと連れて行かれたシジマ。何事かとまだ警戒している。


「ところで真庭君。あれから何かあった?」

「あれからって『写真紛失』の件からですか?特に何も……」



 『写真紛失事件』から既に一週間……しかしシジマの生活は以前と変わらない。

 放課後にはミステリー小説を読み耽る日々。違いがあるのは、そろそろ近いテストの勉強をしなければと考える程度だ。


「そう……。ところで、事件のその後は聞いたの?」

「いいえ。僕の役目は写真を見付けることで終わりですから。でも赤坂君が登校しているから問題は無いんですよね?」

「ええ。これ以上無い程に問題は無いわ」


 そう……シノブの言葉通り何一つ穏便に日々が過ぎているのだ。そのことに気付かないシジマはある意味大物とも言える。


 いや……他に興味を向けないのは、他者の悪意を嫌うシジマの自己防衛なのかもしれないとシノブは改めて思った。



 『写真紛失事件』の顛末は表沙汰にならなかった。


 それが赤坂の処分を避ける為の城島の提案だったことを竹脇から聞いたシノブ。何より驚いたのは教師陣が反対しなかったことだった。


 しかし、全員が無罪放免だった訳ではない。緒方教諭は学園を辞職。竹脇の話では、他県の学校へ転任ということになったそうだ。


 赤坂はどちらかと言えば被害者だが、それでも率先して奉仕作業を行っているという。それはきっと赤坂自身の贖罪なのだろうとシノブは思った。


 そして一番不可解な小河原ナオヤの処分。お咎め無しで大学に通っていると市村教諭は不満げな顔をしていた。



 だが、シノブは解せなかった。もし小河原ナオヤが無罪放免なら必ず何かしらで嫌がらせをしてくる筈なのだ。

 しかし小河原ナオヤからは一切の反応無し。そこに違和感が拭えなかったシノブはシジマが何かを知っているのではと疑った。


 そして話を聞いた結果、シジマが何も知らないことを確信しただけである。


「それで用って何ですか?」

「……今度写真展に出品しようかと考えているの。何処か景色が良い場所を知らないかと思って」

「そういうことですか……どんな場所が良いんですか?」

「自然と人工物がバランスを取っている場所ってあるかしら?」

「明日までに良さそうな場所を探しておきます」


 人の悪意が絡まないならシジマは喜んで協力する……そのこともまた改めて理解させられたシノブは、思わず笑みが溢れる。


 シジマはそんなシノブの笑顔に一瞬見蕩れた……。


「あ~?シノブちゃん、珍しい~」

「な、何よ、カレン」

「何でもな~い。あ!じゃあさ?今度皆でシジマ君が調べた場所にお出掛けしよっか?」

「ちょっと、カレン!」

「良いから良いから。お弁当用意するね?だからシジマ君も」

「わ、分かりました」

「よぉし!フッフッフ……このカレン、腕に縒りを掛けますぞ?」



 平和ならばそれで良い……シノブは改めてそう思った……。 




 遡ること『写真紛失事件』解決の当日──写真部の部室で生徒達が解散した後……。


「これは校長に報告をしなくてはならないか……」


 そう告げた市村教諭。だが、それを止めたのは城島だった。


「市村先生。それは待って貰えません?」

「……君は城島と言ったか?これ程の事態だ……放置は出来ない」

「でもそれじゃ、赤坂後輩が責任を負わされますよ?」

「何……?」

「大体、こんなアホが今まで逮捕されなかったのは先生でも何でか判るでしょ?」

「それは……」


 県会議員の父による揉み消し……そんなことが現実に行われていた。

 そして都合の良いように事実を捩じ曲げる際、一番被害者になるのは赤坂で間違いはない。


「一番良いのは『何も無かった』ことにするんですよ。そうすれば赤坂後輩は普段通りに学園にも来れます」

「君は何を言って……!」

「赤坂後輩の苦悩を見抜けなかった先生は、彼の為にどんな責任が取れるんです?」

「そ、それは……」

「ね?無かったことにすれば赤坂後輩は少しづつでも生活に戻れる。被害者である彼の為にはそれが最善と思いますよ」

「だがそれでは、赤坂を苦しめた元凶を放置することになる!それは許されない筈だ!」


 憤る市村に対し城島は苦笑いで宥めた。


「先生、落ち着いて。飽くまで建前としての話ですよ。罪には罰……これは社会規範の中で当然のルール。当然罪を犯した全員に罰を受けて貰いましょう」


 そう述べた城島は開いたままのノートパソコンのデータを確認した。


「盗撮の枚数は六百枚以上か……これは全部消去。後は音声データをメモリーに移して……これで良し」

「おい、何を勝手に……」

「まぁまぁ。最後まで聞いて下さいよ、市村先生」


 城島はメモリーカードをヒラつかせながら処分について提案を始めた。


「先ず、赤坂後輩はこれで自由だ。盗撮した証拠は全て消えた訳だから……でも盗撮した罪への罰は必要。だから盗撮した日数分、奉仕作業をすること。OK?」

「分かりました」

「次に緒方先生。何時から小河原先輩に加担してたかは知らないけど、アンタはこうして聖職者にあるまじき証拠もある。でも俺は思うんですよ……どんな人間にも罪を償う機会が必要だと。だから……」


 学園を辞職し新たに教員試験を受けること。加えて、素行の悪い生徒を更正させること約束させた。

 そうしないと情報を動画サイトに載せると城島は断言した。


 家族持ちの緒方は逆らうことは出来ない。実質選択権はなく承諾する。


 そして小河原ナオヤはというと……。


「小河原先輩には今から大学卒業後五年までに写真一枚に付き一万円の金額を慈善団体に払って貰いましょうか?」

「あ?知るかよ、そんなモン」

「勘違いしないで欲しいなぁ、先輩。アンタの罪が明らかになれば、アンタの親父さんも今後政治家としてやっていけなくなるだろ?」

「そんなモン幾らでも揉み消しを……」

「これが出来ないんだなぁ……内緒にして貰えると有り難いが、俺は国会議員の浅田コウゾウの息子なんだ。所謂隠し子ってヤツ?」


 この言葉で竹脇と鹿島教諭を除き全員が絶句。浅田コウゾウは最大政党の重鎮……揉み消しどころの騒ぎではない。


「ま、そんな訳で今回に至っては揉み消しは出来ないと諦めな。でないと音声データをネットに流す。生活も一変するよ?セ・ン・パ・イ?」


 小河原は真っ青な顔をしている。真偽は未だ知らずとも、本当だった場合は確実に小河原家は没落するだろう。


「とまぁ、これで納得しませんか?」

「……鹿島先生は御存知だったんですか?」

「城島が一年の時、少しありましてね……。ですが、私はその件で城島を信用しました。どうせウチの学園長はお飾りですから当てにもなりません。案外私は悪くない提案と思いますよ?」

「………わかりました。でも、私は城島君を見張ります。音声データを使って悪事を働けないように」

「それで良いでしょう。城島もこんな騒ぎはもう関わるなよ?」

「へいへ~い」

「ハイは一回だ」


 その後教員達は自らの役目に戻る。解放された小河原ナオヤは翔び去るように逃げて行った。



 部室に残されたのは城島と竹脇、そして赤坂。赤坂は小さく震えて涙を流した。


「ありがとう……ございます。先輩方……」

「気にするな。それより今日から自由だ……また部活出て来いよ?」

「はい……城島先輩も本当に……ありがとうございました!」

「奉仕作業の罰、忘れんなよ?」

「はい!」


 赤坂は涙を拭い明るい顔で下校した。


「良かったのか、城島?お前、親父さんの権力嫌って隠してたのに……」

「なぁに。互いの『カワイイ後輩達』の為だ。気にすんな」

「でも助かった……この礼は必ず返す」

「知ってたか、竹脇?親友には貸し借り無いんだぜ?」

「そうか……」

「そうだよ」


 こうして、全て世は事も無し。




 放課後ミステリー少年、シジマの事件はこれにて終幕。


 彼の次の事件も学園の中にあるのだが、それはまた別のお話……。





 MBSラジオ短編賞申込み用に執筆。


 ミステリーを書くのは初めてなので演出が下手なのは理解してます。というか、ちゃんとミステリーになっているんだろうか……?我が身の凡才が憎い……。


 広義の意味で推理物ということで許して貰えると有り難いです。


 それにしても文字数限定って難しいですね……。

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