情報収集
写真部部長の竹脇が、ミステリー研究部に紛失した写真捜索を依頼した翌々日──登校中の日比野シノブは朝の昇降口で真庭シジマを見掛けた。
見掛けたと言ってもシジマが登校した姿を見た訳ではなく校内を移動する様子をチラリと確認した程度のこと。
シジマがどれ程早く登校したのか気になったシノブだったが、敢えて見なかったことにした。
(……一昨日からかったから朝早くにしたのね)
女の子に見える少年は狙われる……冗談を真に受けたシジマ。シノブは一昨日、警戒しつつ下校するシジマの姿を目撃している。その姿を思い出すとつい笑ってしまった。
そんなシノブを偶然見掛けた友人の高槻カレンは、思わずシノブに抱き付いた。カレンはやや茶色掛かったミディアムの髪、前髪をヘアピンで整えた少女。
「オッハヨ~!ノブちゃんが朝からそんな顔で笑うなんて珍しいね。どったの?」
「おはよう、カレン。……何でもないわ」
「ホントかなぁ?ホレホレ!正直に話してみ?」
「本当よ。ホラ、早く行くわよ」
逃げるように移動するシノブ。普段クールな印象があるだけに珍しいと感じたカレンは、実はシノブが見ていた人物を目撃していた。
(随分可愛い子だったわね……一年生かしら?まさかシノブがそういう趣味だったとは)
大きな勘違いをしたカレンはこの後写真捜索に関わることになる。
その日の昼──。
二年B組の教室で昼食を摂ろうとしていたシノブとカレン。
「シノブちゃん。写真の方どう?順調?」
「実は一昨日ちょっと部活で面倒ごとを押し付けられて……」
「面倒ごと?」
「あまり詳しくは話せないんだけどね……」
「ふぅん……」
手製のサンドイッチを口に運びパクリと食べたカレン。料理部のカレンは家庭的な少女。時折シノブにも試食を頼んでいる仲である。
ただ、少々お節介癖があった……。
「ところでシノブちゃん。今朝、男の子を見て笑ってたわよね?」
「………。何のこと?」
「ホラ。下駄箱の辺りで……あ!ホラホラ!あんな感じ……の……?」
教室の入り口に偶然視線を向けたカレン。そこには女の子の様な少年がチラチラと顔を出していた。
顔を赤らめ照れる様はまるで……。
「恋する乙女かよっ!?」
「カ、カレン?どうしたの?」
シジマの動きに思わず叫ぶカレン。友人の視線に気付いたシノブは、教室の入り口でクラスの女子に囲まれるシジマに気付き盛大な溜め息を吐いた。
「キャ~ッ!カワイイ~!君、一年生?」
「どうしたの?迷子かな?」
「ぼ、僕、高校生ですよ?」
「お姉さん達とご飯食べる?」
思い切り取り囲まれアワアワと動揺するシジマ……。昨日発言した『狙われる』はあながち間違いではないかもしれない……シノブはそう思った……。
「真庭君……どうしたの?」
「せ、先輩~!」
仕方無く助けに向かったシノブに気付き背後に隠れるシジマ。本当に高校生か?という疑問がカレンに過ったのは言うまでもない。
「その子、シノブの弟さん?」
「違うわよ。この子は一年の真庭君」
「ねぇねぇ!シノブとどんな関係?」
「ちょっと部活でね。それで真庭君……何か用?」
背後で警戒しているシジマに冷たい目線を向けるシノブ。シジマはビクリとしつつ用件を伝えた。
「時間があったら話を聞いて欲しかったんですが……」
「お昼食べ始めちゃったんだけど……」
「そ、そうですか……なら後で良いです」
肩を落として帰ろうとするシジマ。それを引き止めたのはカレンだった。
「ちょっと待って。真庭君……だったかな?折角だから一緒にご飯食べよっか?」
「ちょっと、カレン……」
「良いから良いから。あ?お弁当持ってる?サンドイッチ作り過ぎちゃったから良かったら食べてね?」
勢いに押されカレンからサンドイッチを手渡されたシジマ。素早く席に戻りシノブの弁当を包むと当人に手渡す。更にカレンは二人を伴い屋上へと移動した。
カレンの行動力を知っていたシノブでさえ困惑状態。しっかり紅茶入りの水筒まで持参していることに最早言葉も無い様だ……。
そんなカレン。呆ける二人を前に自己紹介を始める。
「改めまして、こんにちは。真庭君、私はシノブちゃんの友達で高槻カレンよ」
「は、初めまして、高槻先輩……僕は真庭シジマ、一年です」
「『しじま』って静寂の意味よね?真庭君、真逆な気がするけど……」
「うっ!ぼ、僕は普段静かなんですよ、日比野先輩……」
「ンフフ。仲良いわね、二人とも」
「誤解ですよ」
「そうよ。昨日知り合ったばかりよ」
「そうなの?アタシゃてっきり……」
要らぬ誤解を解く為にシジマは昨日の経緯をカレンに説明した。勿論、写真部の事情を他言をしない約束をさせた上で。
「成る程……つまり探偵と助手ね?」
パクリとサンドイッチを食べたシジマに向かい確認するカレン。だがシノブはそれを否定した。
「私、何もしてないから助手じゃないわね」
「そうなの?」
そこでシジマは今回の用向きを伝えることにした。
「実は、今日は日比野先輩に協力して貰おうと……」
「そう……でも放課後じゃダメだったの?」
「早い方が良いと思ったんです。折角だから高槻先輩も一緒に考えて下さい」
「私も良いの?」
「はい。日比野先輩の友達なら信用出来そうですから意見を聞かせて下さい」
「そういうことならお姉さんに任せなさ~い!」
サムズアップするカレンに若干気圧されながら、シジマは本筋の話を切り出した。
「先ず今回の話を纏めるとですね?」
・写真部から写真とメモリーカードが紛失
・写真紛失は五月二十五日午後六時頃から二十六日の午後三時半の間
・紛失した写真及びデータは休んでいる写真部員、赤坂の撮影したもの
・写真部は貴重品が多いので鍵は厳重
・鍵を使用出来るのは写真部員か教師、事務員
「と言った感じです。それで色々聞いて回った結果、新たに分かったことが幾つかあります」
「もしかしてシジマ君は昨日も朝早くから聞いて回ってたの?」
「はい。早く終わらせたいんで……」
「ミス研部なのに謎が好きじゃないの?」
「ミステリーは物語ですから好きですよ?でも、実際の事件は必ずと言って良い程人間の醜い部分が見えるから嫌いです」
「そっか~……シジマ君は純粋なんだねぇ」
「あ、頭を撫でないで下さい、高槻先輩……」
先程からカレンはシジマの人物像を窺っていて話が進まない。見兼ねたシノブは路線を戻す。
「それで真庭君……新しく分かったことって何かしら?」
「はい。実は写真部の赤坂君のことを少し調べてみました」
写真部唯一の一年、赤坂ヒロキ。病欠扱いになっている彼は写真紛失の数日前から休んでいた。
「先ず、赤坂君は体調不良ではなく精神的な理由で休んでいるそうです」
「精神的な理由……それって……」
「わかりません」
ガクッと崩れたカレンは直ぐ様体勢を建て直した。
「シジマく~ん……肝心な部分は?」
「肝心なのは彼の写真だけが紛失したことですよ、高槻先輩。取り敢えずそれは置いておきましょう。他に分かった事実を幾つか……」
写真紛失が発覚する日の前後、外部業者が学校で作業を行っていないこと。そして、写真部の棚の鍵は特殊な物に付け替えられていてピッキングなどでは開かないこと。
写真部は校舎二階。三階や一階、両隣の部屋という校舎外側からの侵入するがほぼ不可能であること。
「因みに竹脇先輩の話では、部室の窓は鍵が掛かっていたと断言していました」
「………。つまり入り口は一つで鍵がなくちゃ入れない訳ね?」
「はい。竹脇先輩の話が本当ならですが……」
「そう。それで……私達に聞かせたかった話はそれなの?只の報告に聞こえるんだけど……」
「違います。僕は探偵や警察じゃないので効率が悪いんですよ。推理でいきなり絞り込む様な自信もありませんから、先ずは片っ端から可能性を上げるんです。それがある程度揃ったら削り始めるんですよ」
シジマが取り出した手帳には写真が紛失した可能性がビッシリと書かれていた……。
「うわぁ……細かいねぇ。まさかこれ、一つづつ検証するの?」
「いえ……最終的には一つづつになりますけど、既にかなり絞り込みは済んでいます。お二人には僕の意見に矛盾が無いか聞いて欲しいんです」
「そういうことなら任せて。ね?シノブちゃん?」
「ええ。つまり一人の視点で思い込みが起こらなくしたい訳ね?」
「はい。お願いします」
しかし、そこで昼休み終了の鈴が校内に響く。カレンは再びガクッと体勢を崩した。
「……結構時間経ってたんだね」
「仕方無いわ。続きは放課後ね。でもカレンは部活が……」
「ん?今日は大丈夫よ?何と!家庭科室の換気扇が壊れたので今日交換ということになってます!」
「それはまた随分とタイミング良いわね」
「という訳でまた放課後ね、シジマ君?あ、ご飯ちゃんと食べないとムッキムキになれないわよ?」
説明で殆ど食べていないシジマにサンドイッチと水筒を渡し、カレンとシノブは去っていった……。
「ムッキムキ……高槻先輩は凄いなぁ。何て言うか……オカン?」
溢れ出す行動力。見た目は女子高生、中身はオカン。名調理人、高槻カレン──実はちょっとモテるらしい。
と、授業開始の予鈴が聴こえシジマは慌てて教室に向かう。カレンから貰ったサンドイッチは次の授業後の休み時間にゆっくりと堪能した。
そして放課後──再び屋上に集まったのは三人……ではなく四人。
「……。何で城島先輩が居るんですか?」
「頼んだ手前投げっぱなしってのは悪いからな。あ、それとも両手に花のが良かったか?」
「いえ……そういう訳では……」
「ども~?俺、城島で~す!ヨロピコ~?」
シノブとカレンに挨拶している城島は明らかに悪ふざけに見える。しかし、本人は気さくな先輩のつもりらしい。
「で、真庭?お前のことだからそろそろ絞り込んだだろ?だから来たんだよ」
「そうなんですか?まぁ、漠然とですけど何とか……」
城島の言い回しではシジマはこの手のことに慣れている印象を受ける。カレンはそれを確認した……。
「城島先輩。シジマ君は事件嫌いみたいなこと言ってましたけど、この手のこと慣れてるんですか?」
「ん?ああ……高槻ちゃんだっけ?コイツは人の思惑が絡まなければちゃんと動くんだよ。つまり物探しだな」
「写真は物探しでは?」
「真庭が嫌がってる時点で紛失じゃなく窃盗、若しくは意図して行われた隠蔽……違うか、真庭?」
「………いつも嫌だって言ってますよ、僕。というか僕は順を追って話したいんですけど……」
「悪い悪い。じゃ、説明頼むわ」
その説明の為に呼んだのに先走りされやや不機嫌なシジマ。溜め息を吐きながら手帳を取り出し絞り込みを始める。
「今、城島先輩が言った様にこれは紛失ではありません。少なくとも偶然のものではない。人の意図が介在しています」
「それは……何故?」
「そう思ったか、ですか?日比野先輩……その前に重要なことが二つあります。一つは発言の信頼性。もう一つは情報の裏付け。僕は推理が得意な訳じゃないのでその二つがかなり重要なんです。それを踏まえて聞いて下さい」
シジマは今回、シノブ以外の写真部の発言は信用しなかった。更に顧問の市村も同様に信用していない。
「何故私だけは信用をしてくれたの?」
「写真部で聞きましたよね?プロを目指しているかって……学生の身で即答した意志の強さは自信の表れです。そんな人が他者の写真を蔑ろにはしないですよね?」
「それだけ?」
「そうですよ?でも、それが重要なんです。色々言い淀む竹脇先輩が何かを隠しているのは直ぐに分かりました。悪い人じゃないみたいですけど情報の信用は出来ない」
先ず以て言うならば、最初にミステリー研究部なる怪しげな部活に『紛失しても困らない筈の物』を探して欲しいと依頼する時点で不可解なのだ。
最低限として写真部は何の為に写真を探したかったのかを説明すべきだった。シジマはこの時点で信用出来る人物を探す必要があった。
「日比野先輩の成績が良いのは実は知ってました。だから記憶力の良い人を指名したんです」
「じゃあ始めから……」
「はい。こうして聞いて貰うのも信用出来る相手と判断したからです。情報の裏付けに必要ですし」
「………」
逆に他の写真部員の話は信用出来ないので、多角的に情報を集める手間が増えた。
写真部の物品管理はシノブの発言から虚偽無しと判断。つまり写真紛失は五月二十五日から二十六日の間で確実となったのだ。
「その時点で写真が紛失する可能性を幾つか考えました。先生でも生徒でも、誰かが持ち出さなければ棚からは消えません」
そこで今度は写真を持ち出す理由へと移る。
赤坂の写真は運動部の活動を撮ったもの……これはシノブ自身が何度か赤坂に見せて貰っていたらしいので確かだろう。
それを持ち出す可能性としては何かに掲示を予定していると考えるのが妥当だ。
だがそうなると写真ではなくデータで事足りるのである。
それでも憶測でしかないので情報の確定を求めたシジマは朝早くから公報担当の教諭に確認した。
「公報担当の先生が言うには、学校内でスポーツの写真を載せる予定はまだ無いそうです」
「つまり、学校の公式行事で持ち出されることはない訳だな?」
「そうです。一応当日に外部の人が校舎に入ったかも確認してきましたが、誰も来ていませんでした」
写真部の卒業生、各点検業者、教科書納入業者、食堂の仕入れ業者等、あらゆる外部からの来訪を調べたが入校した記録も目撃証言も無し。
加えて内部である事務方。蛍光灯交換や掃除などでも写真部には近付いていないそうだ。
紛失が人の手に因るものなら、写真部、生徒、若しくは教師の犯行は確定する。
「とまぁ、これで可能性の半分は削りました。次に絞り込んだのは校内関係者……写真部に繋がりがある人物かです」
これも片っ端から調べた結果、人数は十人以下に絞られたとシジマは疲れた顔で語る。
「今朝、事務方に頼み込んで屋外にある防犯カメラを調べました。校舎周りに五ヶ所……校内に防犯カメラは無いんですけど、校舎に入るにはカメラに映ります。これで確認して夜間の侵入者も無し」
これにより写真が紛失した時間は二十五日夕刻六時頃から八時半……教師全員が帰宅した二時間程と、翌日事務方が通勤した二十六日朝六時から夕刻三時半の間の二つの時間帯に分けられる。
「ちょっと待って?夜間警備の人なら自由に出入り出来るでしょ?」
「警備会社の人って夜だけの委託なんですよ。だからそもそも写真部に関わる場がないんです。データと写真を狙うと言うのはちょっと可能性は低いですよ、高槻先輩」
「成る程ねぇ~」
「ここまでの話で他に疑問はありますか?」
全員首を振ったことでシジマは話を続ける。今度は校内の絞り込みに関しての話。
「次は鍵に関する話です」
「鍵?部室の鍵か?」
「はい。城島先輩は部長だからどう管理されてるか知ってますよね?」
「ああ。職員室の奥の壁に鍵棚があってズラリと並んでるよな?」
「そうです。で、実はこの学園は以前、屋上に忍び込む為に鍵を盗んだ人が居たらしいんです。それ以来、鍵棚には防犯カメラが設置されていると聞きました」
「うはぁ……面倒臭ぇな」
「でも残念ながら怪しい動きは無かった。そこが逆に怪しい」
「ん?どゆこと、シジマ君?」
カメラには二十五日、二十六日共に部活の開始・終了時に鍵を扱う写真部員の姿が映っていた。つまり部室に出入り出来るのは写真部員だけだった。
「でも……写真部員は一人で部室に居たことは無いんですよね、日比野先輩?」
「ええ。それは間違いないわ」
「でも、それで写真部員は除外はされません。部員に二人以上の共犯者が居るかもしれませんから。その可能性は取り敢えず一旦保留です」
だから写真部はシノブを除き疑いから外れない。休んでいる赤坂も共犯者である可能性があるのだ。
「それで写真部員の友人、知人を調べてみました。でも皆、各部活の仲間からアリバイを聞けました。紛失の時間帯には写真部には近付いていない」
「アリバイは偽物で証言者が共犯の可能性は?」
「その時は正直お手上げです。それは他の部も巻き込んだ完全な隠蔽ですから。でも、挙動不審な人は居なかったので可能性は低いかと……出来れば城島先輩にも確認して貰いたいんです」
メモを一枚千切ったシジマ。それを城島に手渡すと申し訳無さそうに頭を下げた。
「元々俺が押し付けたんだ、気にすんな。ここに書いてある部活を確認すれば良いんだな?」
「お願いします」
「分かった。が、これは話が終わってからだな……」
メモを畳んで懐に仕舞った城島は話の続きを促した。
「現時点で日比野先輩を除いた写真部の五人……それと顧問の市村先生も共犯の可能性が消えません」
「先生まで疑っちゃうの?大胆だねぇ、シジマ君は」
カレンは少しからかったつもりだが、シジマからすれば困っている部分を突かれたことになる。
「僕個人の意見では先生こそが怪しいんですよ。鍵を自由に使える立場なんですから……もし本当に先生が関与している場合、追及が難しい」
「確かにそうだね」
「特定前ですからあまり考えてませんけど、それを含めて話を続けます。次は……」
赤坂という人物は普通の高校生。スポーツ写真家を目指していたというのが竹脇から得た情報。
だがシジマは、赤坂こそがこの騒動の中心と考えている。
何せ写真を盗まれた当人なのだ。紛失する前から休んでいることにも意味があり、何かしらで関わりがあるのは間違いないと考えるべきであろう。
だが、部室に入り込むには鍵が必要……しかし紛失が疑われる二日間、鍵は赤坂を除く写真部員しか使用していない。
「それじゃ赤坂君は無関係?」
「いえ、高槻先輩。鍵は他にもあるかもしれないでしょ?」
「………。あ!合鍵?」
「はい。でも確認したら合鍵は校長が管理してました。だから、合鍵そのものは使えません」
「じゃあ、ハズレ?」
「いいえ。無ければ作れば良いんですよ」
合鍵を作るには元の鍵が必要……そこでシジマは鍵棚の防犯カメラを紛失した日から更に過去に向けて確認していた。
そして写真紛失の一週間前……そこには午前の休み時間に鍵を取りに来た赤坂の姿が映っていたのだ。
「部室に忘れ物したから鍵を取りに来た、と市村先生に言ったそうですよ。そしてその日は赤坂君が部室を開けた」
「だげど、学校に居たんじゃ合鍵を作れないだろ?特殊なヤツなんだよな?」
城島が言う通り特注の鍵は業者しか作れないもの。そこにシジマが教諭達を疑う理由がある。
「その間に合鍵を作るのは先生方しか無理ですよね?特に、鍵の業者を調べられる先生なら……」
「だから先生達を疑ってたのね、真庭君は……」
赤坂から鍵を預かった教諭……つまり共犯者が居るならば合鍵の作製は可能……そこまでは調べが付いていない。
そんな鍵を確認したいが、市村からは写真部の評判を落とすなと釘を刺されている。下手には動けない。
「だから現時点での写真部員五人と顧問の市村先生、それと今年の校内管理担当の緒方先生の七名が『容疑者』になりますね」
遂に『容疑者』という言葉を使ったシジマ。言葉を発した本人は実に嫌そうだった……。
「原因が何かは分かりませんが、こうなると学園側も対応で騒ぎになるかも……城島先輩、どうします?」
「どうしますって何をだ?」
「竹脇先輩は見付からなくても報酬を出すって言ってたでしょ?」
「本当にそれで良いのか?真庭?」
試すような視線を向ける城島に困った表情を浮かべるシジマ。実際、どうするのが最良かなど判る訳も無い。
「……続けても?」
「それが写真部の望みなんだろうからな」
「わかりました。日も傾いたから今日はここまでに……後は証拠を揃えて、全員を集めて確認すれば多分終わりになりますよ」
「う~ん……アタシ、役に立てたの?」
「はい。高槻先輩、ありがとうございました。あ、サンドイッチ、美味しかったです。ご馳走様でした」
シノブやカレンはただ話を聞いていただけだったが、シジマからすれば救われた気分だろう。
一人で調べると人の嫌な部分ばかりが目に付いてしまうのだ。嫌な顔をせず付き合って貰えただけでシジマには充分だった。
その日はお開きとなり、シジマは再び証拠集めに奔走を始める。
しかし、その二日後──事態は大きく動くことになる……。




