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短編つめあわせ

異世界に彼女を盗られましたので、取り返しに戻ります

もしも本編を書くとしたら、幼なじみルートに頑張るお話になりそうです。

王子も婚約者と離れないために頑張りそうです。

「信じて、恭ちゃん。私こんなの望んでない……」


 帰りの転送陣の前で確かに紗奈はそう言った。

 俺も彼女を残して帰るなんてつもりは一切ないのに、物語は勝手に進んでいく。


「キョウ、サナは私が責任を持って幸せにする。一生、守り慈しむ。だから安心してくれ」


 一緒に戦ったクリフォード王子。幸せにすると言っているがクリフが本当に大切にしたい女は紗奈じゃない。それは婚約者だったアドリアナのことだ。魔王との最終決戦の前にようやくアディに会えると、はにかんだ笑顔を見せたクリフは、時たま俺とは恋愛話もしてたんだぞ。

 相手を間違えているわけじゃない。これは『イベント』なんだ。


 神殿の転送陣の前に集まる面子は一様に、青ざめている。それは皆、自分の意志ではないものに動かされているからだ。後半にいくに従い本人たちの意思と物語はすれ違いを大きくしていって、この最終場面では誰もが違いに気づいている。


 俺は今、にこやかに皆と別れの挨拶をしているけれど、できるならすぐにでも紗奈を取り戻し一緒に日本に帰りたい。


 無駄な努力と知りつつも、自由の聞かない体を動かそうと必死になっているうちにそれぞれの挨拶も終わってしまった。


「元気でね。恭ちゃん。あっちの皆にもよろしく。私、幸せになるから」


 紗奈が笑い泣きの表情で手を振る。


 嫌だ!


 心のなかで大きく拒絶したと同時に、俺の視界は白い光に飲み込まれていき。瞬きの後に見えてきたのは見馴れた俺の部屋だった。


 つけっぱなしのテレビにジュースやスナック菓子の並んだローテーブル。

 少し雑然としている、いつもの俺の部屋。


 なのに、彼女と彼女の荷物だけがない。

 いない。戻ってきてしまった。






 テレビ画面にはゲームのエンディングテーマと延々と続くスタッフロールが流れていた。


 俺はそれを呆然と眺めている。……動けなかった。

 置いてきてしまった。連れて帰れなかった。


 心臓はドクドクと激しく動いている。


 エンドクレジットが代わり、画面が切り替わった。


 一面に、True Endの文字と白い鈴蘭のイラスト。

 震える手でコントローラーの○ボタンを押す。

 すると、『タイトル画面に戻りますか』の文字。


 悩んで『はい』を選ぶ。

 『データを引き継ぎますか』これもイエス。


 するとタイトル画面に戻り、キラキラしい攻略対象たちの顔と、俺に似てなくもない茶髪の男がいる。さっきまでいた世界とこのゲームの中は一緒なんだろうけれど、二次元と三次元では印象が全然違う。似てねぇだろ、俺もこいつらも。


 ……いや、今はそれはどうでもいい。


 タイトル画面のスチルと回顧録の文字がグレーから白に変わっている。選択すると、案の定、クリフのところだけ閲覧出来るようになっている。


 この辺はギャルゲと似てるんだな。

 俺はさっきまでいたゲームに何か手がかりはないかと探していた。ゲームの電源を落とすと本当に紗奈が消えてしまう気がする。それが怖いんだ。


 乙女ゲームってやつの特徴なのか、ゲーム中やスチルの中ではヒロインである紗奈の顔ははっきりと描かれていない。キャストで俺には知らない声優が割り振られていたが、紗奈にはボイスもなかった。


「てか、攻略対象に俺と同名の奴がいるからって紗奈が持ってきたんだよな……」


 こんなもん遊ぶんじゃなかった。何となく口の中が苦い。思わず、テーブルの缶ジュースを一口飲む。炭酸は抜けていて温かった。甘ったるい後味に眉を潜める。

 俺は気合いを入れ直して、クリフのイベントの回顧録を見直し始めた。






「やっぱりな。ゲームの中で勝手に動いてたつーやつ、全部イベントだったんだな」


 俺と紗奈は生まれたときから家も隣同士、幼稚園から大学まで一緒の腐れ縁な幼なじみだった。正直、ずっと好きだったし、心の距離的には付き合ってるよーなもんだと俺は思ってた。

 いやいやいや、あれが勘違いだったら俺、女性不審になるレベルだから。本当だから。


 で、二人してそれなりのオタク嗜好はあってアニメやラノベ、動画とかゲームをお互いの部屋に乗り込んで遊ぶことがいつもの日常だった。貸し借りはしょっちゅう、コンシューマーゲームはソフトだけ買って俺の部屋でクリアしていくのもざら。


 土曜日の午後3時過ぎくらいだったか、紗奈が菓子を土産に満面の笑みでこの乙女ゲームを持ってきたのは。今の俺なら迷わずBookonに売ってこいと言う。


 と、ふと時計を見ると日曜日の深夜4時だった。

 そんなに日にちは経ってないのな。旅は3ヶ月くらいだと思っていたけど。


 あの時、乙女ゲー?と嫌な顔をする俺に紗奈は嬉しそうに言ったんだ。


「恭ちゃん見て見て!ここ、恭ちゃんと同じ名前」


 パッケージの裏を見ると確かに俺の名前があった。

 石黒恭二。そんな珍しい名前でもないとは思うんだが、乙女ゲームの攻略対象とやらに俺の名前が使われていると思うと奇妙な感じがした。


 紗奈は俺を落とすと言ってこのゲームを遊び始め、そうしてあの世界に二人して召喚された。


『エルカラシアの聖女と6人の勇者』ゲームのタイトルにはそう書いてある。


 白い光に包まれた俺たちは神殿の魔方陣の中に召喚され、クリフやエドガー、ショーンにナリス、フォーヴといった攻略対象者たちと一般兵士たちに囲まれていた。


 後は国王夫妻の前に連れて行かれてからの魔王の討伐依頼にお決まりの旅ってやつだ。



 俺はぶっちゃけ、異世界で妙な戦闘力に目覚めたりとかドン引きしてたけど、紗奈がいたから結構、見栄はってた。何かこう「俺にまかせとけ!」みたいな。

 命がかかってると言っても最初はピンと来ないし、大立ち回りって恥ずかしくね?本当に自然に戦闘できるようになったのも旅に出てから。街道沿いの枯れ枝の下で小さな塚を見てからだ。

 異世界の旅というのも物慣れない。あちこち大変なことが多くて紗奈の前で余裕を保つのに精一杯だった。


 だけども、異変を感じたのはすぐだった。何か一定の条件があるのか、ある時いきなり俺も紗奈も体が勝手に動いてしまう瞬間があるんだ。


 最初はそうでもなかった。

 魔物から人を守るって行為は俺や紗奈らしい行動もとってて、別に物語と齟齬がなかったと言うか……

 決定的に妙だと感じたのが、恋愛系のやつだ。


 これは俺よりも紗奈の方が早く気づいた。


 例えばクリフ。彼は本人から旅の仲間だから気安く呼んで欲しいと言われていたが、れっきとした王子だ。結婚の近い婚約者もいる。


 紗奈はそれをちゃんと分かっているから、一線を引いた行動を心がけていた。なのに、個人的に差し入れを渡したり、お姫さま抱っこをされて甘い言葉を囁かれたりみたいなイベントがおこる。

 別にそれは紗奈の意志じゃない。状況がそうするように持っていき、そのタイミングになると体の自由が効かなくなる。


 他の対象者や俺にもそんな感じの『イベント』がおこった。紗奈はとても気持ち悪がり、最後の辺りは不安がっていた。恋愛に発展どころじゃないよな。それどころかこれはホラーだ。


 俺を含めた攻略対象者たちも、本来の自分がとらない行動をする。クリフの場合は婚約者と相思相愛なのに紗奈と不自然ないちゃつき。あいつは思わせ振りなクズいことはしない男なのにな。


 俺は注意深く皆の行動を観察して気づいたが、どうも攻略対象者たちは前後で若干、記憶が飛んでいるようだった。だから旅の終盤になると段々と齟齬が多くなっていく。

 記憶が飛んでいたクリフも婚約者と婚約破棄をする報告を王にしてからは異常に気がついたらしい。もっとも婚約破棄の撤回をしようとすると自由がなくなっていたようだが。


 俺と紗奈は他の世界から来たからか、クリフたちよりは意志が強かった。イベントの前後の記憶もきちんとあったし、意識すればイベント中も自分の自我を保つことができた。


 だからお互いに顔を突き合わせてよく相談した。おそらく乙女ゲームだから、誰かのルートに決定してしまうと紗奈はそいつとくっついてしまう。何とか俺のルートに固定しようと二人で頑張った。


 けれど、結果はあれだ。


 ゲームと言うからには決められたシナリオに沿って物語は進行していくもので、メインヒーローだったクリフは聖女と恋愛しやすくなっていたのだろうか?


 でもな。


「紗奈、別にクリフ好きじゃねーしな」


 俺は乱暴に頭を掻きむしり、缶ジュースをイッキ飲みするとパソコンに向かった。


 絶対に紗奈を取り戻す!





 日曜日、午後8時。あれから俺は部屋にこもり、家族には食事とトイレの時に廊下ですれ違ったくらいか?あまり、会っていない。


 紗奈のことは、隣に紗奈という娘はいないことになっていた。


 自分の親に怪しまれないよう、飯はとったものの気が気ではなかった。


 いなくなったって何だ?紗奈は19年間ずっと俺の隣にいたじゃねーか。冗談でもやめろよ。


 そして、俺がこの時間まで何をしてたかというと、ゲームをパソコンに吸出してエミュレータでプレイする準備。セーブデータもばっちりだ。


 それからここ大事。プレイする前にテキストを書き替える。


 その作業だ。

 正直なところ、これでゲームの世界に再び入れるかはわからない。

 だけど、紗奈が存在そのものを消してしまった今はこれしかない。


 変更する箇所は、音声のない地のテキストのところだ。


 ラストの召喚陣が光った後、『そうして私の幼なじみは帰っていった……』この辺り。

 これを『帰っていったと思ったのに、帰ってなかったの!?』に替えた。ついでに『召喚は失敗した』と入れた。


 最初はゲームの始めの召喚を失敗にする気満々だったんだけど、よく考えたら、その後のイベント書き換えるとか素人には無理だ。俺、プログラムとかできないし。けれど、これくらいならできる。



 全ての準備を終えて俺はパソコンの前でパソコン用のゲームコントローラーを構えた。

 心臓は早鐘を打ち、冷たい汗が米神から流れ落ちる。


 頼む。今度は絶対に紗奈を取り戻したいんだ!



 祈るように『ニューゲーム』を選び、主人公の名前を紗奈と同じにした。


 そして、俺の目の前は再び白く光って…………

エミュレーターは合法ですがROMダウンロードは犯罪ですよ。

チート遊びとかやったことないですので画像差し替えは出来るらしいのですがコメント書き換えはどうかな?エミュ遊びを推奨しているわけではありません。

解決策としてこんなんはどうかなって感じで書きました。


ほんの少しだけ言い回しなどを修正しました。いきおいががががは危険ですね。

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