僕のありふれた?日常〜雨・踏切の女の子〜
僕に霊感があるかは定かではないが…。
あの女の子は何だったのか……。
今でもはっきりと覚えている。
雨の中傘をさし、じっと僕を見つめるあの瞳を。
あの日僕は久しぶりに降った雨に悩まされていた。
「あ〜あ…最悪」
僕は傘を持っていなかったのだ。
「マジ…最悪…」
だから、ちょっとその辺の店で雨宿りをしているところです。
「あれ?何してんのお前?」
「ん…?」
僕はそんな声に、横を見た。
「……吉川?」
僕がボソッと名前を呟くと、そいつは懐かしそうに僕を見た。
「久しぶりだな。覚えててくれて嬉しいぜ」
そいつは…吉川浩平はそう言うと、嬉しそうに笑った。
吉川浩平。
僕の中学時代の友達。
高校が別々だったから、高校に入ってからはちっとも会っていなかった。
「元気にしてたか?」
「あぁ。僕は至って元気だよ。吉川は?」
「俺はこの通り。…でもなぁ…最近彼女に振られてさぁ………。誰かいい子紹介してくんね?」
久しぶりに会った友達に言うセリフかそれ……?
「…いいよ。うちのクラスには可愛い子が多いからね。そのうち紹介してあげるよ」
「マッジで!?流石俺の親友!」
あれ?友達じゃなくて、親友だったのか?
僕は友達のままで良かったんだけど…。
なんてこと、言わない方がいいな。
「つか、お前…傘持ってないんだろ?入れてやろうか?」
「うん?男と相合い傘か…。ちょっと抵抗感があるけど。せっかくだし吉川の好意に甘えるよ」
「…お前は素直に入れて下さいって言えないのかよ……。お前はいつも一々一言多いんだから…」
吉川が呆れたようにそう言って、黒い傘をバンッと開く。
「俺だって、男と相合い傘なんて……けどよ、親友が困って…………」
吉川が何かブツブツ言っているけど無視した。
しばらく歩くと、踏切にさしかかった。
ここの踏切は開くまで、結構時間がかかる。
「ん……?」
僕がたまたま横を見ると、小さな幼稚園服姿の女の子が、黄色い傘をさして立っていた。
「君…1人?」
吉川はなんか1人で勝手にベラベラしゃべってるし……。
僕は女の子に話しかけてみた。
「………………」
女の子は無言のまま、コクリと頷いた。
「お母さんは?」
「………………」
僕のその問いかけに、女の子は一瞬顔を曇らせ、すぐに無表情に戻り、フルフルと首を横に振った。
悪いことを聞いてしまっただろうか…?
「そっ…そっか。…………!踏切…開いた。ねぇ、お兄ちゃんと一緒にあっちまで行こうか?」
踏切が開き、僕がその女の子に問いかけると、女の子はまた首を横に振った。
「そう?」
僕は不思議に思いながらも、ひとりでに勝手に先に行ってしまった吉川を追いかけた。
その所為で結局雨に濡れてしまい、傘に入れてもらう意味がなくなってしまった。
「………ッ……」
僕は急に感じた視線に後ろに振り返った。
「…………!?」
もう踏切は遠くなってしまった。
だけど僕は踏切に目が釘付けになった。あの女の子がまだ、踏切前に立っていた。
遠くからでも分かる、じっと僕を見つめるあの瞳。
僕は急に寒気がして、女の子から顔を逸らした。
「つかさぁ…」
「なっ…なに?」
吉川が急に口を開き、話しかけてきた。僕は焦って、吉川を見た。
「お前、誰に話しかけてたの?」
「は……?」
「踏切のとこでさ、君…1人?とか、お母さんは?とか…。誰に向かって話しかけてんのかと…」
は…。
え……。
「はたから見たら危ない人に見えたぜ」
吉川がそう言って、苦笑した。
「え…?ちょっと待て……?あれ…意味分かんないんだけど…」
「…いや、俺が意味分かんないし」
僕はもう一度、踏切の方に振り返った。
「いな……い…」
そこにはもうあの女の子の姿はなかった。
ーーーーーーーーーーー
それから数日後。
僕はまたあの踏切前にいた。
今度は1人。
「……?」
ふとあることに気付いた。
踏切の端っこに、花やお菓子などが供えられていることに気付いた。
“あきちゃん。安らかに眠ってください”
そう書かれた花瓶。
「まさかな……」
僕はボソッと呟いて、踏切を後にした。