たっくんとゆかいななかまたちシリーズ<13>誕生日プレゼントを作ろう
今日の基地の食堂は何とステーキです。
「おおう!肉だぜ!」
その豪華さにたっくんは大声をあげました。
「たっくん毎日何らかの肉食べてるじゃないの」
B2君が言うと
「わかってねーなー,おめぇは。ステーキと言うのはステーキと言うだけで格が違うんだよ。ハンバーグとは違うんだよ」
「そう言えばこのところずっと豪華だよね。昨日はイセエビのグラタンで一昨日はすき焼きでそのまた前は押し寿司だったっけ」
A10ちゃんが言いました。
「うちの基地も金持ちになったもんだ!」
とたっくんが言うのに
「年度末だからですよ」
とF35はさらっと言いました。
「普段与えられた予算を余裕を持ってメニューを作っているので年度末に予算が余るんです。それを使いきるために少しだけ豪華になるんですよ。キチンと使いきらないと次から予算へらされちゃいますから。だから心配しなくても4月からまた普通の献立に戻りますよ」
「はぁ~?また野菜でかさましした肉団子スープとかちくわだらけのおでん?」
たっくんはエアインテークを落としてがっくりしました。
「そんなにがっかりしないで。私達の給食だって国の予算から出てるんだから言ってみればみんなの税金から支払われてるのよ。無料で毎日食べられるだけでも感謝しなきゃ。それよりたっくんみんなにきいてほしい話があるって言ってたじゃない?」
とA10ちゃんがたっくんのエアインテークをポンポンしました。
「ああ,そうだった。あのさ,今月兄ちゃんの誕生日なんだよ。それでプレゼントを送りたくってさ。でもあんまり俺金なくて何をプレゼントしたらいいかなって」
「先輩のお兄さんって今空爆の任務で中東をずっと飛びまわってる超有名なあの?」
とF35がききました。
「ああ。何がいいかな。俺だったらおもちゃとかゲームが嬉しいけどな」
「それはたっくんのほしいものでしょ。お兄さんの好きなものにしなきゃあ」
とB2君。
「兄ちゃんは煙草と人間の女とパチンコが好きだよ」
とたっくんがバカ正直に言いました。
「パチンコ台を送っても景品も換金もなければ意味がないし人間の女性をいきなり送り込むわけにもいかないし
僕達はタスポがないから自動販売機では買えないしコンビニのレジでも煙草を売ってもらえませんよ。それに先輩のお兄さんはお金も十分に持っているからほしいものは自分で買えると思います。だからこそプレゼントって金額よりも気持ちが大事なんですよ」
とF35が言いました。
「お菓子とか食べ物はどうかしら?」
とA10ちゃんが言いました。
「それはいいかもしれないね」
とB2君。
誕生日まではまだ日があるのでそれまでにどんな食べ物をプレゼントするかみんなで考えておくことにしました。
その日の午後は委員会活動だったので給食委員のたっくんは給食室で倉庫の整頓の手伝いです。
「やれやれ困ったなぁ」
腕組みをしたマッカラムさんとストラトタンカーさんが何か話しています。
そこには大量の小麦粉の山がありました。
「なんでこんなに小麦粉があるんだ?」
とたっくんがきくとマッカラムさんが
「政府の予算で一定量の小麦粉が支給されるんだがこんなに使わないままに終わっちまったんだ。これを余らせると翌年度から予算やと食材の支給が減らされちまう」
「なんでこんなに余っちゃったんだ?」
「お前さんたちが米の飯ばかり食べてあまりパンを食べないからな。それに最近はパンは近くの委託工場から仕入れてる方が楽なんだ。4月に支給した予算や食材が余ってないかチェックが入るし困ったなぁ」
とマッカラムさんは困っているようでした。
その夜,たっくんは晩ごはんのときに今日の委員会活動の時間にマッカラムさんとストラトタンカーさんが大量に余っていた小麦粉で困っていることをみんなに話しました。
「ハハハ,俺もあんまり小学校のときから給食のただのコッぺパンは好きじゃねぇや。揚げパンとかきなこパンの日はテンションあがるがな」
とジェイムスン中佐は言いました。実際たっくんもあまりパンを食べないためたっくんのハンガーでは3食ほぼお米です。
「でもおかしくね?それだったら初めから小麦粉いりません。米下さい。って言えばいいんじゃね?」
「んー,それはそれで難しいんだよな」
と中佐が言いました。
「昔はこの国はコメ農家よりも小麦農家の方が多かったし納入業者が多かったからその当時の利権がからんでなかなか変更できないのさ。もう40年近くそんなことばっかりやってる。めんどくさい大人の事情ってやつだな」
「ふーん。もったいないなぁ」
とたっくんがつぶやいているとテレビの画面から
「もったいない,これ捨てちゃうんですか?」
と声が聞こえてきたのでたっくんは見ました。
テレビではタレントのグループが町をキッチンカーで回って売り物にならない無料でもらえる食材を集めて料理を作っています。
「これだ!」
とたっくんは叫びました。
「なにが?」
とケビンが聞くと
「なんでもねーよ」
とたっくんが言ったので
「またいたずらでも考えてるのか?」
とケビンは疑わしそうな顔をしました。
「いたずらじゃねーよ」
「まぁ危なっかしいことじゃなきゃなんでもいいだろ」
とジェイムスン中佐は言いました。
次の委員会の時間,たっくんは給食室の倉庫に行ってテレビで見たタレントの口真似をして小麦粉を指差してマッカラムさんとストラトタンカーさんに
「これ,捨てちゃうんスか?」
と言いました。
「どうしたの」
とストラトタンカーさんが聞くとたっくんはこの小麦粉でお菓子を作ってお兄さんの誕生日プレゼントにしたいと言いました。
「いいよ。簡単にできるお菓子の作り方を教えてやるよ。なんなら友達にも手伝ってもらったら」
とストラトタンカーさんが言ったのでたっくんはLINEでみんなを呼びましたが委員会の仕事が済んで来てくれたのは図書委員のF35だけでした。
「A10さんの美化委員で滑走路付近を草刈りで基地の中にミツバチの巣が見つかって人間が何人か刺されたらしくてそれで保健委員のB2さん達がけが人の手当てに大変みたいです」
「ハチに刺されるってそんなに大変なことなのか」
「アナフィラキシーショックを起こして最悪死んでしまう場合もありますよ」
「ヒエッ」
とたっくんは言いましたが
「それはさておき,何の具も入ってないお菓子も変だからトッピングになる果物を探しに行こうぜ」
とF35と一緒にスーパーにでかけることにしましたが,その途中で基地の近くの雑木林に軽トラックがとまっていました。
荷台にはたくさんの木箱がつまっています。
降りてきたのは若い男性でしたがあたりをきょろきょろして警戒しているようです。
「先輩,あの人怪しいですよ。不審者じゃないですかね。あの箱の中身は爆弾かもしれない」
鋭いF35は警戒しています。
「よし俺達で捕まえよう。ステルスモードで行くぞ。俺はこいつの身柄を確保。おめぇは箱の中身を確認だ」
「ラジャー」
とF35が返事するのを確認してたっくんは飛び出しました。
若い男性は大きな木箱を1つずつおろしながらべそをかいて
「ごめんなぁ」
と言っています。
「謝るくらいならテロなんかするんじゃねぇよ!」
とたっくんがいきなり飛び出して機銃を向けてきたので男性はびっくりしてこしをぬかしました。
「ひぇー!」
「先輩!これは爆弾じゃありません!みかんです」
「みかん爆弾か!」
「だからただのみかんです」
「ナヌッ」
たっくんは機銃を下してはこの中身をみました。
中身はぜーんぶみかんです。
「おいどういうことだ」
たっくんは男性の方を向きました。
「許して下さい。捨てるしか他に方法がなかったんです」
「作るの失敗したのか?」
とたっくんははこのみかんを1個取って食べました。
「甘い!というかスーパーに売ってるみかんよりうまいぞ。別に失敗なんかしてねぇぞ。お前も食ってみろ」
とたっくんが言ったのでF35もみかんを食べました。
「ほんとうだ。…そうか分かったぞ。あなたはみかんを作りすぎたので大量廃棄しようとしてたのですね」
男性はF35に指摘されてうつむきました。
「変な話だな。作りすぎたら売ればいいだろ」
とたっくんが言うと
「みかんをたくさん売ると食べたい人よりもみかんの方が余っちゃってみかんが安くなってしまうんです。それだと損をするから余分にできたみかんを捨てなくてはならないんです」
とF35が説明しました。
「限定フィギュアみたいな話だな。だったらフィギュアみたいに少なめに作ればいいだろ」
とたっくんが言うと
「作付の栽培計画なんて1年くらい前にやるわけだし最悪天候に左右されて収穫時にみかんがどれくらいとれるか予測ができないこともあるんだよ。本当は心をこめて作ったみかんなのに捨てたくないんだ」
と男性が返事しました。
するとたっくんはまた先ほどの台詞を言いました。
「もったいない!これ,捨てちゃうんスか?」
F35はたっくんの言いたい意味が分かったらしく
「これ,無料で僕らがもらって構いませんか?って先輩が言ってます」
と通訳しました。
「え,引き取ってくれるんならものすごく助かるけど。俺だって大事に育てたミカンを食べてもらえたら嬉しいよ」
と男性がぽかんとして言ったのでたっくんとF35は全部のみかんを箱から出してそれぞれのウェポンベイに詰め込んで基地の給食室に帰りました。
ハチ刺されの人間の手当てや搬送を終えたB2君とA10ちゃんがいます。
「たっくんどこ行ってたの?」
A10ちゃんがきくと
「みかんをもらってきたのさ」
とF35と一緒にウェポンベイいっぱいのみかんをおろしました。
ストラトタンカーさんは
「よし,このみかんでフルーツケーキを作ろう。卵や牛乳や砂糖やバニラエッセンスはたくさんあるしあまった小麦粉も使えてばっちりだ」
と道具の準備を始めました。
「あとはまろやかさを出すためにはちみつがあればいいけどあったっけ…」
といいかけたときに
「はちみつだって?」
とたっくんが聞きました。
「おい,2人とも今日滑走路で人間がミツバチに刺されたんだろ。と言うことはその辺りにハチの巣があるんだよな。はちみつがとれるかもしれねぇぞ!」
とたっくんは言いました。
「でも刺されたら大変だよ」
とB2君が言うと
「お前はアホか。俺たちゃ人間の皮膚と違ってチタンと合成樹脂でできてるんだからミツバチの針なんてささらねぇよ!」
とたっくんはバケツを持って勝手にミツバチが出た滑走路に向かって走り出しました。
「蜂の巣,蜂の巣,どこだ…?」
たっ君が滑走路横の薄暗い林の中をキョロキョロしていると一匹の大きなハチが飛んできてたっくんの左のエンジンノズル(人間で言うとかかとの部分になります)にとまりましたがたっくんは気付かないようでした。それからしばらくウロウロしていたのですが
「たっくん大丈夫?」
とB2君とA10ちゃんとF35がついてきましたがB2君が
「ぎゃー!」
と悲鳴をあげました。
「なんだよ大声あげんな」
「エンジン見て!エンジン」
と言ったのでたっくんが機体のカメラを後ろにやるとなんとたっくんの左側のエンジンノズルに無数のミツバチが止まっています。
「ぎゃあああ,きめぇぇぇぇぇ」
「誰か人間の大人を呼んでこなきゃ!」
とB2君が言ったのでA10ちゃんがケビンを呼んできました。
ケビンはたっくんのエンジンノズルのハチを見てびっくりしましたが人間なのでうかつに近寄れません。
「一体何をしたんだ」
とケビンが聞くとB2君がたっくんがお兄さんへの誕生日プレゼントのケーキを作るためにはちみつを取ろうとしていたことを正直に白状しましたのでケビンはやれやれと言って
「ごめん,A10ちゃん,ハチアブ用の殺虫剤を持ってきてくれないか。あれなら離れた位置からでもハチにかけられる」
と声をかけようとすると慌ててB2君がケビンの袖をひっぱりました。
「ハチさんは何も悪くないよ。殺したらかわいそうだよ。お願いだよ!」
と言いました。
「アホかお前は。いいから速くとってくれ気持ち悪い!」
とたっくんは文句を言いました。
するとそこへF4Eファントムばあちゃんがやってきました。
「何を騒いでいるの」
ときくとケビンがたっくんがはちみつほしさに雑木林に入ってミツバチが大量にとまってしまって動けなくなっていることを話しました。
「…ああ,ちょっと待って。昔同じ部隊だった人が今この近くで養蜂業をやっているのよ」
とファントムばあちゃんが言ったのでケビンはその人の電話番号を調べてすぐに連絡をとりました。
まもなくして元ファントム乗りで現在は養蜂屋さんのトッドさんがやってきました。
「おじさん!ハチを殺さないでね!」
とB2君が心配そうに言うと
トッドさんは
「大丈夫」
と,全身白い服を着ると掃除機を担いでたっくんに近付きました。A10ちゃんとF35も後を付いていきます。
トッドさんはたっくんに
「よく我慢したね。かゆかっただろう」
と声をかけました。
「どうしてこんなに先輩にハチが集まったんですか」
とF35が聞くとトッドさんはたっくんのエンジンノズルにとまったハチの中で形が違っていて1番大きいハチを見つけて,
「これをよく見てごらん。女王蜂だよ。おそらくラプターの排気温度が快適だったので休憩しようと思ってとまったんだろうね。それで他のハチも集まって来ちゃったんだよ」
と掃除機で女王蜂を吸い取ると他のハチもつられるように掃除機のノズルに吸い取られていきました。
「さぁこれでもう全部この中に入ったよ。このハチたちは私の養蜂場で世話をしようかね。それにはちみつがそんなにほしかったならケーキを作るくらいなら分けてあげよう」
とトッドさん。
「ほんとうかよ!」
とたっくんは喜びました。
そこでたっくんが持っていたバケツ1杯分にはちみつを入れてもらい,これで材料がそろったのでみんなで給食室へ行き,ストラトタンカーさんにケーキの作り方を教わります。
なぜかケビンもスマホを片手に後ろから付いて行きました。
まずはバターと砂糖と卵をボールに入れてかき混ぜます。
つぶしたみかんとはちみつを混ぜ合わせ,そこにベーキングパウダーと小麦粉を足してしっかり混ぜ混ぜします。
できあがったものは型に流し込みます。
「ここからはオーブンを使って焼くから危ないから俺がやろう。みんなは下がって」
とストラトタンカーさんが型をオーブンに入れました。
「1時間くらい焼くよ」
と言ったのでたっくんはどうにも待ちきれません。10分ごとに
「できた?」
「まだだよ」
とストラトタンカーさんと同じやり取りをしています。
しばらくすると甘いお砂糖の焼けるいいにおいがしてきました。
「さすがにもうできただろ」
とたっくんがオーブンに近付くのをストラトタンカーさんが
「危ないよ」
と止めるのを繰り返してばかりです。
たっくんが退屈してうだうだ言い始めてしばらくした頃,
「さぁできたよ」
とストラトタンカーさんがオーブンを開けました。
そのときさっきの甘いにおいがさらに強くなりました。
こんがりきつね色に焼けたホクホクのミカンとはちみつのフルーツケーキが出来上がりました。
たっくんとB2君とA10ちゃんとF35は口をそろえて言いました。
「いいにお~い」
さっそく箱に入れてハッピーバースディと書かれた包装紙で包み,A10ちゃんがリボンで包んでくれたケーキは中東まで定期便の輸送をしているC5ギャラクシーさんが運んでくれるそうです。
「これ,必ず兄ちゃんに届けてくれよな」
と言うとギャラクシーさんは
「俺に任せときな。特急便で届けてやるよ」
と言いました。
海外の基地にも定期便で大量の人や荷物を輸送するギャラクシーさんはとても大きくとても頼もしくたくましいのです。
ギャラクシーさんは他の定期便の荷物と一緒にたっくんの預けたミカンのフルーツケーキを積むと中東に向けて出発しました。
その数時間後。
中東の油田の煙と砂漠の砂がまうある基地にギャラクシーさんが到着しました。
ちょうど一機の双発の大型戦闘機が休憩中で煙草に火を付けるところでした。
年の頃は人間で言うと中年男性と言った頃ですが精悍でとても背が高くすらりとしていました。しかし全体的なその形はどことなくたっくんに似ています。
ギャラクシーさんがその大型戦闘機に近付いて
「あんたに誕生日プレゼントを預かってきたんだ」
と派手なリボンの付いた箱を渡してくれました。
中身はもちろん,あのみかんとはちみつのフルーツケーキです。
しかしケーキの上にお手紙がついています。一体誰が書いたのでしょう。
封筒を開けると便箋はなく,写真が何枚か入っており友達と一緒にケーキを作るたっくんが写っていました。
そう,あのときケビンがスマホを持って給食室について行ったのはそのためだったのです。
「あいつもう友達ができたのか」
とその大型戦闘機は呟き,煙草の煙を1口吐き出すと,
「たまには帰ってやらんとな…」
とつぶやきました。
<おわり>