告白→『相談』
評価してくださった読者様…、本当に、ありがとうございます。
「ら、ららららいく(like)…………?」
「love」
真剣な麗しい漆黒の瞳が僕を射抜く。
え………、え……………?
え……?
ゆ……め? かな? ドリーム?
Is this a dream? Am I me? Who is who? Is here here? After all was it life after death after I was murdered here? Was I murdered in that roof? Then is this beautiful girl in front one of an angel or a goddess or the fairy?……………………………………………………。、。?
「ハジュハジュ、大丈夫…か? 息…してる?」
「え、あ、ああ、緑川、お前死んでたのか」
「いきなりなに言ってんのハジュハジュ!?」
「は? だって此処は天国なんだろ? 桃ちゃんとか月姫を残して死んじゃったのは悔しいけど、僕達もそろそろ成仏しないと……」
「駄目だ……、ハジュハジュが完全に色々な意味でイッてる」
ああ、なんか、もう色々と頭のなかがぐみゃもみゃだった。
いや、グチャグチャだったか。
ははっ……、なんか、グチャグチャっていやらしい言葉に聞こえるよなーー。
はぁ……。僕……、いったいなにしてたんだっけ?
もう、訳わかんない。
「えっと……、保健室で起きたところは夢じゃないよな?」
「ああ」
「えっと……、桃ちゃんが無事なのも、夢じゃないよな?」
「ああ」
「えっと……、僕が告白されたのは、夢だよな?」
「目を反らすな、現実だ」
緑川から手厳しい御言葉を貰った。
ふぅ……、そっか。現実か。
「んなわけあるかああぁぁあああ………………!!!」
保健室全体に僕の声が響きわたった。
「はぁ!? バッカじゃねえの? 僕みたいなちゃらんぽらんでシスコンで阿呆で馬鹿でグズで鈍くさくって女子ベタでダサダサな中学生男子が、こんな美少女で天使でフェアリーで、座れば白銀の蝶々、歩く姿は白薔薇みたいな人に告白される訳がないだろ………………!?」
「お、おう……、ハジュハジュ、分かったから落ち着こう…、な?」
「ふー、はー、ふー、はー」
「どうどう」
緑川がまるで暴れ馬でも宥めるような態度で僕のことを宥める。
いつもならこれが反対だったはずなのだが、今は緑川より数倍僕の方が荒れ狂っている。
ただでさえ月姫や桃ちゃんのことで頭がいっぱいなのに、今すぐに全国のミスコンで優勝できるんじゃないかと思うぐらいの美少女に好きと言われたところで、僕の頭がパンクするだけだ。
「いや、ハジュハジュもハジュハジュで大変なんだけど、皐ちゃんも皐ちゃんで……」
「そ、そそそそんな、美少女で天使でフェアリーで、座れば白銀の蝶々、歩く姿は白薔薇、その上、お嫁さんにしたい女子ナンバーワンだなんて………///」
「いや皐ちゃん、ハジュハジュもさすがにお嫁さんにしたい女子ナンバーワンとまでは言ってな…『バキッ』」
なんか外野が騒がしいと思ったら緑川が腕を抱えたまま床で悶えていたのだが、何故だ?
まあ緑川のことはいいか。
あいつ、いつもいつの間にか身体のどこかに傷を負ってるもんな。
今さら緑川くらいの傷で驚きもしないし。とにかく、えーと、どうすればいいんだ? 駄目だ。 ヘタレの僕に何をしろっていうんだ?
「別に私は、今すぐに付き合って欲しいだの、どうこうするつもりはないよ。
ただ、私は君のことを愛してるっていうことだけ、覚えててくれればいいから」
「ふぁ、ふぁい……」
「はいって意味?」
「は、はい……」
なんか、女の子にリードされちゃってるヘタレ男子っぷりが煌めいてるよな。
普通、こういうのは男子が女子に告白して、リードを取るものなのに、なんで皐ちゃんはあんなに美少女なのに、こんなヘタレ男子に告白したんだ?
…………………、…………罰ゲーム?
それくらいしか理由が思い当たらなかった。
いや、もうとにかく皐ちゃんだって一世一代の告白だったのかもしれないんだし、皐ちゃんが安心するような……言葉を掛けてあげるべきだ。
「皐…ちゃん、僕も、皐ちゃんのこと、決っして嫌いな訳ではありません。それはもう、僕なんかが皐ちゃんと釣り合わないことも重々承知の上で、お付き合いさせていただけるのもとても光栄の至りなのですが、今はまだ僕も色々なことで切羽詰まった状態ですので、とてもお付き合いできるような状態ではないので、少しの間だけは待っていただけないでしょうか」
「ぷっ…、ふっ、あはははは、やだなー、もう。
さっきも言ったけど、私は別に、今すぐの答えが欲しい訳じゃないんだよ?
そんな切羽詰まった状態の君に答えは求めてない。
でも、私のことを安心させようとしてくれて、ありがとう」
僕の不自然な敬語に耐えきれないように笑いだした皐ちゃん。
僕の心の中なんか見通したみたいに、いや、見通されてしまっていた。
でも、うん……、なんか、安心した。
きっと、皐ちゃんは僕が焦っているのなんて全てを見透かした上での、こんな気遣い上手なんだろう。
やっぱり見ればみる程僕なんかにはもったいないな。
「とりあえず、ハジュハジュが大変なのは、分かった。
ハジュハジュの妹が、とりあえず、大変なんだろ?」
「あ、ああ……」
悶えながらも、なんとか緑川は起き上がった。
そして、少ない言葉で緑川が状況を飲み込んでくれた。
そう、歯がゆいが、それが今の現状だ。
「なら、私も妹ちゃんを助けるのに手を貸すのは、やぶさかじゃないよ」
皐ちゃんが薄い胸に手を当てて協力を申し出てくれた。
こういうのは、少しでも多くの協力があった方が手がかりが見つけ易い。
だから、素直に皐ちゃんに手伝って貰うのは嬉しい。
「手伝って……、くれるのか?」
「当たり前だよ! 私達は友達なんだよ?」
「当たり前だ。俺達は親友だろ?」
いつの間にか緑川も手伝ってくれることが決定事項になっていた。
「むっ、なら、私達は将来を誓いあった中だ」
「え……、じゃあ、それなら、俺達は昔ながらの幼なじみだ」
将来を誓い合った美少女に、昔ながらの幼なじみって、聞くだけで相当重たい関係だよな。
「どんな蜜な三角関係だよ……、でも、まあ、本当にありがとう」
緑川「おうっ、任せとけ!」
皐ちゃん「おう! 全部丸ごと肩代わりさせとけ!」
この2人、妙にそりが合うよな。
というか、皐ちゃんってこんなキャラだったっけ?
数日前はもっと清楚で澄ました感じだった気がするんだけど。
心境の……変化…か?
いや、ついさっきまでも皐ちゃんは僕に敬語だったと思うんだけどなぁ……。
まあ、こんなにも困った時に助けてくれる人がいるっていうのは、嬉しいもんだよな。
ーーーが、そう思った矢先。
『キーンコーンカーンコーン』
「それじゃ、とりあえず……学校出るところから初めてるか」
下校のチャイムが響き渡った。
*******
「えーと、フライドチキンとサイコロステーキとトマトドリア、あと、コーラ2つに果汁100%オレンジジュースでお願いします」
「はい、かしこまりました」
手に持ったメモに書かれた注文をもう一度見直してから定員さんは厨房の奥へと下がっていった。
「ふぅ……、ところで、なんでファミレスなんて来てるのかな、緑川くん」
「お腹が減っては恋敵とは戦えないというからだよ、ハジュハジュくん」
「別に恋敵と戦う予定はなくて、しいていうなら僕は白い化け狐の皮を剥ぎ落としに行きたいだけだよ緑川くん」
まあ、でも、緑川の言うことにも一理あった。
さすがに何か食べ物食べないと、僕でも倒れる。
それに、集中力をより高めるためには、食事で糖分を補給したほうが良いと言われてるしな。
「お待たせしました。フライドチキンにサイコロステーキにトマトドリア、コーラ2つに果汁100%オレンジジュースでございます」
「って、早っ!?」
つい30秒前に注文したばっかりなのに!
この店、どんだけ注文してから運んでくるまでの時間早いんだよ。
え、もしかして、作り置きしてんの……?
「「「いただきます」」」
とにかく食べます。
作り置きでもなんでも食べないと、身が持たん。
『ムシャッ』
うーん、どう考えても熱々のフライドチキンだ。
これはもう、揚げたてとしか思えないのだが。
「で、まず、ハジュハジュはどうして屋上に倒れてたのか、聞いてもいいか……?」
「うぇ、えっと……」
食べ初めてそうそう、緑川が突っ込んだ質問をしてくる。
いやまあ、友達が屋上で倒れてた理由を聞くのは至って普通のことなんだけどさ。
でも、さすがに緑川に桃ちゃんの偽物が出て、お前は数日間、偽物に騙されてたんだよ。なんて言えないよな。
しかも、月姫が攫われてた以上、今緑川が無事だって言っている桃ちゃんが本物の桃ちゃんである確証もない。
「…………屋上で、女の子に会って、その女の子が僕のことを日本刀で突き刺そうとして、月姫が僕を庇って刺された」
結局、緑川に桃ちゃんの偽物のことは言えなかった。
そして、僕が淡々と話す声が、自分でも不思議と底冷えするような声音になっていたのも、否めない。
つまり、少々怖い声……だったかな?
「分かった。ハジュハジュが物凄い怒ってるのは分かったから、一旦会話の端々に殺気を織り交ぜるのはやめよう?」
「あ、ああ……、ごめん、僕も少し冷静になる」
とにかく今は落ち着こう。
落ち着いて、冷静に考えたら、もしかしたら見落としていあ何か大切なものを見つけられるかもしれない。
そうだ……、落ち…つこう…。
「落ち着いたか?」
「ふぅ……。落ち…着いた」
「で、その月姫って言う子は、ハジュハジュの妹でいいんだよな?」
「ああ……」
「それで、ハジュハジュは屋上にいたら、いきなり女の子と出会って、日本刀で刺されそうになったから、その妹ちゃんがハジュハジュを突き飛ばして、変わりに刺された………と?」
「ああ……」
緑川は腕を組んで俯き、考えこんだ。
やっぱり、簡単に信じて貰える訳がないよな。
ある意味、そんな日本刀を持った少女が突然現れて僕の妹を刺した後、その僕の妹を誘拐したっていうのは、かなり現実味がない。
いや、僕だったら、緑川が急に今の僕と同じことを言い出したら、迷わず精神科に連れて行く自信がある。
だから、その変の事情を信じて貰うか貰わないかは緑川次第だ。
「それ、警察に相談しないのか?」
「やっぱり精神科に連れて行かれ……、って、え? は? 僕の言うこと本気で信じてんのか? お前……」
緑川は当然のことを言われたとばかりに頷いた。
そして、緑川は、だってと言葉を引き継ぎーーー、
「ハジュハジュが嘘ついたことなんて、エープリルフールとクリスマスとバレンタインぐらいだろ」
「いやいや、エープリルフールはともかく、クリスマスにサンタさんが存在してるのは本当だ。それに、バレンタインにはチョコの1つや2つは貰ったよ」
「いやいやいや、サンタさんは存在しないし、ハジュハジュが女子からチョコ貰える訳がない」
「いやいやいやいや、この世界にはサンタの村だって存在してるるんだぞ? それに、寝る前に枕元にブルーベリーパイとクッキーとココア用意してたら、翌朝にはお皿が空になってた。つまり、食べてくれた。 ……あと、チョコは本当に貰った」
「いやいやいやいやいや、サンタなんて現実にいたら、かなりヤバい中年のオッサンだぞ? 真っ赤な血液と同じ色の服を着て、子供を1人閉じ込められそうなでっかい袋抱えた不法侵入者だぞ? はっきり言って、煙突から落っこちてきたそんな怪しすぎる不審者とか、即座に100番通報だよ」
「いやいやいやいやいやいや、サンタは妖精だから。誰にも見つからないように、深夜に隠れてこっそりとプレゼントを配ってんだよ…!」
僕と緑川、2人とも、譲れないものが、ここにはあった。
「2人とも、ふぅー、ふぅー、はふぅ。目的がかなり大幅にずれてるよ?」
そんな不毛な僕達の言い争いに、トマトドリアをハフハフさせながら食べる皐ちゃんが終止符を打った。
確かに……、なんか、だいぶ話し合いの論点がズレてきた。
なんでこんな不毛な言い争いになってたんだろな。
早く月姫を探さないといけないのに……、というか、もしこんな現場を月姫に見られてたら、絶対にぶたれてる自信がある。
「さっさと、私のことを見つけねぇですか…!」みたいなこと言われそう、だよな………。
「ごめん……ハジュハジュ、今はサンタがいるだのバレンタインにチョコを貰っただの、そんな話してる場合じゃないよな」
「ああ……、ごめん……僕のほうこそ、つまらないことで意固地になってた」
「そ、それじゃ……、早速仕切り直して……」
『らん、らんらららんらんらん♪』
いきなり流れる風の谷の●●●●のメロディー。
なんでこんな雰囲気のなかでそれが流れんだよ。
余計に心がささくれる。
「あっ、ごめん、かあちゃんからだ」
「着メロかよ…!」
緑川がポケットに手を突っ込んで取り出したのは、今時珍しいガラケー。
つまり、スマホとは違って、パカパカする方の携帯だ。
まあ、着メロのセンスでどうのこうの言う気はないが、もう少し中学生らしいメロディーはなかったのだろうか。
「かあちゃん…? ああ、オレオレ……。
は? いやいや、オレオレ詐欺じゃないって、かあちゃんの息子だよ。
うん、そう、今ハジュハジュ達とファミレスに来てて……」
『早く帰ってきなさーーーーい! 今何時だと思ってんの!?
女の子といたってアンタには一生彼女なんて出来やしないんだから、家に帰って勉強でもしてなさい…!!』
「ちょ…、彼女とか今は関係ないだろ…!」
緑川が携帯を持ったままアワアワしている。
うん、やっぱり、桃ちゃんのお母さんだな…………。
携帯ごしなのに、脳内に響き渡る声。
こういうところも遺伝するものなのだろうか。
いや、でも、意外と緑川は大声なんて出したことないから、緑川は家の中では隅に追いやられてる方だったりするのだろうか。
母や妹(桃ちゃん)にこき使われる緑川……………………。
ざまぁ。
「ごめんハジュハジュ、俺、そろそろ帰んないといけないから、ハジュハジュの妹ちゃん探し、また今度手伝う!」
「いや、ありがとう。何ら進展してないけど、緑川、一応、心の支えにはなったから」
「ああ……、何ら、進展してないけどな」
そう言って、緑川は立ち去った。
*******
緑川が帰って訪れた沈黙。
「あの………、皐ちゃ…、皐、さん……」
ずっと……、放置していた彼女の存在。
いや、意図的に避けていた訳ではない。
忘れていただけだ。(どっちにしろ悪い)
もちろん、こんな美少女と一緒にファミレスに来れることなんて、人生で一回、あるかないかぐらいの確率だ。
なのに、皐ちゃんとは一回も喋っていない。
美少女を、長々と緑川との会話なんかで放置していた。
そんな事実がどうしようもなく、この胸に突き刺さる。
「えっと、ですね……、わざと放置していた訳ではないのですよ?
本当に、ちょっと緑川との会話で皐ちゃんが入れないような雰囲気を作ってしまったかもしれませんが、本当の本当に皐ちゃんのことを無視していた訳ではなくてですね………」
『ちゅー』
無言で果汁100%オレンジジュースを飲み続ける皐ちゃんが、黒色の、つぶらな瞳で僕のことを見つめる。
む、むーーん。き、気まずい…………。
ど、どうしよう……。
僕に怒った女の子の怒りを静める方法なんて分かる訳がない。
な、なんて言えばいいんだ…?
いや、出来る言い訳は、さっき全部言っちゃったしなぁ………。
「さ、皐……ちゃん。あのぅ……、そのぅ……」
「黒澤くん。………彼女をほぅっぽったまま放置とは、どういう了見かね。
あまつさえ、自分の男友達と彼女の前でお喋りとか……、君は私にヤキモチを焼かせたいのかね」
皐ちゃんはジト目で、少し子供っぽい喋り方をした。
「はい……。充分、反省しております」
「ぷく」
皐ちゃんは自分で効果音を出した後、丸くほっぺたを膨らませたまま、僕から目を逸らした。
拗ねて、いるのだろうか。
なんか、全然怖くないし、むしろ、ちょっとしたご褒美になってしまっている。
「さっきの……」
「ーー?」
皐ちゃんが、ポツリと呟いた。
「彼女って部分……、否定しなかったのは、少しだけ、期待してもいいの…かね」
片目を閉じて、恐る恐るという感じで聞いてくる皐ちゃん。
せわしなくコップを握る指先を動かして、コップを握ってみたり、つついてみたり。
身体全体で、そわそわ感を醸し出している。
まるで、答えを聞くのを怖がっているような気配さえする。
ーーーなんだこの可愛い生き物。
「期待して……、ください」
「はい……、期待、しています」
なんか、重たい空気から、甘酸っぱい感じのする空気になったのだった。