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平和平凡世界。  作者: マイン
2/14

落ちていた『桃』

誰かが私の拙い作品を読んで下さいますように。

「がぁ………、はぁっ………、あ………、は、はじゅ、はじゅ……さん?」


 開口一番、桃ちゃんは僕の事をうつらうつらと見つめ、「はじゅはじゅさん」と、そう呼んだのだった………。


 緑川の奴、妹にまで広めてたのかよ!




*******



 あれから、とは、今さっきまでの事を指し示すのだが、あれから、僕は何も出来ず、ただただオタオタしているだけだった。

 しかし、幸いにも、桃ちゃんの呼吸は少しずつ整っていき、しばらくすると、うっすらと目を開けて、僕の名前を…………、いや、きっと、多分、恐らくだが、どこかのアニメのキャラクターの名前を思わず口走るまでに回復していた。


 断じて僕は自分の名前だと認めない。


「桃ちゃん、大丈夫? 背負うか? 救急車呼ぶ? あっ、それともお家の人か、お兄ちゃんを呼ぶ?」


 確かに桃ちゃんは、さっきよりは回復していた。

 ただ、回復したと言っても、しゃべったのは、さっきの一回きりだったし、顔色も悪いままだ。

 それはもう、息をしているだけで吐きそうな勢いで。


「わ、私……は、女の子、です………、吐きません」


 断言した。


 女の子って、どんな超生物だよ。


 それに、なぜ僕の思考が分かったんだ?


 だが、大口を叩きつつも、それでも桃ちゃんは地面に座りこんだまま動かない。

 いや、やっとのことで地面に座っているようにも見える。

 恐らくは、現状、桃ちゃんは自分の足で立てないのだろう。

 なら、僕が背負うしかないのだが、桃ちゃんは、頑なにその場所から動こうとしないのだ。

 まるで、そこが、自分の有るべき場所であるように、その立場を守っているように。

 そのままの背景になりきろうとしているような気さえする。


「…………ぁ……はじゅ……は、家……………」


 ぼそぼそと、桃ちゃんの口が動き、何かを口にした。

 さっきとは違い、あまりにも小さな声だったので、うまく聞き取れなかった。


「桃ちゃん、もう一回だけ言ってくれるかな?」


「…………は、じゅ………はじゅさん、の、家、に、連れて、行って、ほし……い、です」


 何故?と、思った。

 何故桃ちゃんは自分の家ではなく、僕の家に行きたいのだ?と。

 緑川は、存在事態がふざけてるようなものだし(妹も同じく)、いつも真面目な話には、これっぽっちも取り合ってくれないが、だが、あいつは誰よりも妹想いな奴なはずだ。

 なら、とても兄弟喧嘩をしたとは思えない。

 そもそも、僕達兄弟とは違って、兄弟喧嘩した事さえないはずだ。

 まあ、僕達の場合は兄弟喧嘩ではなく、僕が一方的にやられる、ほとんど妹から僕への[DV]家庭内暴力になりつつあるのだが。


「本当に、自分の家じゃなくても………」


「イヤっ………!!!!」


 唐突に、大声をあげられた。


「はくちゅ………!」


 続けざまのくしゃみだった。


 いや、そりゃあ、こんな雨のなか傘もささずに倒れてたんだから、当たり前だけど風邪ひくよ!

 なぜ桃ちゃんが自分の家へ帰りたくないのかは分からないが、このままでは、本当に高熱を出してしまう。

 とりあえずは家に連れて帰らないと。


「分かった……、まあ、思春期の女の子だ。色々と多感な時期だし、きっと誰にも相談出来ない事もあるよ、ほら、僕の家に連れてってあげるから、おぶされよ」


「ハジュハジュさん…………」


 桃ちゃんは瞳をうるうるさせ、感動でもしたのか、僕の事をジッと見つめ。


「エロいです」


「なんでだよ!」 


「エロエロです」


「訳わかんねぇ!」


 助けようとしただけの善意の塊である僕が何故エロい人扱いされるんだ!納得いかない!

 そもそも、さっきの思春期の発言で、僕がエロい人だって思うほうがエロいだろ!


「なっ、なんですか! まるで、私の方がエロいみたいに! 失敬な!です」


「えっ! なんでまた僕の思考読んでんの!?」


 まさか、この子はエスパーだったのだろうか。

 まあ、こんな緊急事態だから、とりあえずは、本当に、とりあえずだけは、エスパーの件はおいといて、僕の事をエロ人扱いするこの子を、善人の僕は、わざわざおぶってあげて、僕の事をエロ人扱いするこの子を、ご希望通り家へとお持ち帰りしてあげようじゃないか。


「やっぱり、心の奥底では、私の事をお持ち帰りしようとしてたんですね!」


「やっぱりエスパーなんじゃねぇか!」




 ことが起きたのは、その時だった。


 一陣の風が吹き…………。


 桃ちゃんのスカートが捲れ、パンダのパンツが丸見えになった。



 …………………………。



 不可抗力だ。




「っ………!! きゃーーーーー!! お巡りさん、変態です! 変質者です! 不審者です! 誘拐犯です! ロリコンです! エロ星人ですーーーー!」


「わーー!わーー!わーー! 本当に叫ぶな……!!」


 この子、冤罪をわざときせようとしてるだろ!


 まあ、そんな感じで一悶着あったが、なんとか桃ちゃんは僕の背中へとおぶさってくれた。

 本当に、ただ背負うだけに、どんだけの時間かかるんだよ!


『くぅ~~~~~~~』


 桃ちゃんを背負っている途中、桃ちゃんのお腹がなった。

 結構大きな音で。


「あう……、お、お腹、減り、ました。何か……、ください」


 桃ちゃんは女子っぽさをどこかに落として来たのだろうか。



 僕は、桃ちゃんを背負いながら、ひたすら雨のなかを走ったのだった。



*******


「で、何か言い訳は………ありやがりますか?バカ兄貴」


 幼い声が上から降ってくる。


「いいや、間違いちまいました。何か………、遺言はありやがりますか?でしたバカ兄貴」


 より悪辣だ!


 そんなツッコミも、妹の足に頭を踏まれながらだと、口から出てこない。


 今の僕の状況を簡潔に述べるのだとしたら、まず、家に入ってからの一連の流れを説明しなければならないだろう。


 僕は桃ちゃんを背中に背負ったまま、片手でドアを開け、足を一歩踏み入れた。


 まっていたのは顔面キックだった。


 目が本気で潰れたかと思う程の鋭いキックが僕の顔面を襲い。

だが、後ろで桃ちゃんを背負っていると思うと、後ろに倒れこむ事も出来ず、必死の姿勢で、なんとか耐えきる。

 というか、イナバウアーみたいな体勢のまま、なんとか僕は耐えた。これも日頃から妹の攻撃を耐えに耐えた僕の努力の賜物だろう。

 しかし、盲点だったと言うべきは、その後のことだった。


「せいやぁ!!」


 幼い掛け声と共に、第二撃が僕を襲ったのだった。

 因みに今度は僕の局部を妹がおもいっきり蹴り上げ、僕が前方に倒れこみ、身悶えた。


「ぐ、ぐぅ…………、こ、これは…………あんまりだ!」


 すると、妹は手と手を絡み合わせ、いきなりモジモジし始めた。


「べ、別に兄貴のために、け、蹴り上げたんじゃ………ないんだからね!」


「どこのツンデレだよ!」


 逆に兄貴のために蹴り上げたんじゃなかったならなんで蹴り上げたんだ!?

 理由なんてなくて、つい衝動的に蹴り上げたとでも言うのか?

 そもそもツンデレだからって殴ったり、蹴ったり、何しても許されると思うなよ!

 僕だって、僕だって、たまには、もしかして、もしかすると、奇跡が起きて、反撃にでなくもないかも知れないんだぞ!

 

ーー-ーーそんな勇気あるわけないが。


「だいたい、兄貴の体温で牛乳が生ぬるすぎてキモイんですよ!」


 ぐっ………、小さい頃は僕と一緒にお風呂に浸かってた分際で、生意気だぞ!

 妹の小さな足が僕の頭を蹴るは蹴るは。こう見えて、以外と小さいからと言って、妹の殴りや蹴りは伊達じゃない。

 いつの間にかクラスのガキ大将になっていて、いつの間にか陸上部のキャプテンになっていた妹だ。

 黙っていさえいれば、ふんわり系で、ツインテールのロリで、美少女で、目尻も柔らかいのに。


 口を開けばこれである。

 はっ!どうせ胸だってその発展途上の足と一緒で、ぺったんこのツルツルのスベスベのスケート場並みにない癖に!


「誰がスケート場じゃ、ド変態……!!」


 また頭を蹴り上げられた。


 僕のやましい心は、どうやら人類共通で誰にでも伝わるようだ。

 思考がこんな風にダダ漏れになるのなんて初めてだ。

 というか、今までの人生のなかで、ずっと思考がダダ漏れになっていたのかと思うと、軽く絶望したくなってくるのだが。

 それに、気づいてて教えてくれなかった周りも周りだとおもうよ。


「てっ、あれ……?ううん……?うん?兄貴………、背中に、誰か乗ってる?」


 そう、そうなのだ。

 あれから、僕が倒れてから、背中に乗っていた桃ちゃんは必然的に前に倒れた僕の腰あたりに馬乗り状態のような体勢で座っているのだ。

 今まで気にならず、存在自体みえていなかった妹も妹だが、その存在に触れようとしなかった僕も僕である。

 いくら、影薄くって、存在感がなく、軽くって、特に特徴という特徴がないからといって、あまりにも扱いがひどすぎた。


「いひゃい、いひゃい」


「むぅ~、ハジュハジュさんの分際で、私のこと影薄いって言うからです!当選の報いです!」


 桃ちゃんは、口の端と端に人差し指を突っ込み、おもいっきり僕の口の両端を引っ張った。

 その力は、病人とは思えない程の力だった。


 普通に痛い。


「えーと、兄貴が女の子を誘拐してくるとか、ナンパする度胸がないのは、はなっから知ってるけど………、一応名前きいてもいいかな?」


 妹が桃ちゃんに、少し屈んで問い掛けた。


「は、はい! 私の名前は、緑色の川に、どんぶらこどんぶらこと桃が流れてきたと書きまして、緑川 桃でございます!」


「おお………、これはご丁寧に。それじゃあ、次は私が名乗りましょう!

我は、暗黒の森に宿りし、麗しくも儚げな月の女神!

その名も、ブラッディー・ムーン・プリティ・プリンセス!」


「いや……、黒澤くろさわ 月姫つきひめだろうが」


「ちっ、ちっ、ちっ、そんな小さな事をいつまでも気にしてるから兄貴は局部も身体も心もちっちゃいまんまなんだよ!」


「いや待てよ! おっかしだろ!? なんでお前が俺の局部の大きさ知ってんだよ!?」


 因みに、ブラッディーっていうのだって、黒いとかいう意味じゃなくて、英語で血まみれって意味だからな!?


「うん……?ところで、名前は聞いたけど、なんで、兄貴が女の子を連れて帰ってきてんですか?」


 今頃それを聞くのか。

 あまりにも遅すぎる問いかけな気がする。

 普通は名前よりもそっちが先だろうに。


 僕は、これまでの成り行きを説明した。


「はあ……、まあ、分かりました。不肖不肖の兄貴が、道端で倒れてた人を助けようとして、自分まで怪我して、ついでに私の牛乳を生ぬるくしやがったのは、分かりました」


「まあ、そういう事だ。だから、今日は家に泊めてやれないか?」


「ふぅ………。まあ……、女の子ですし、仕方なく、本当に仕方なく、泊めることを許可しましょう」


 なんとか家長の許可がとれた。

 最悪の場合は強硬突破も考えていたので、助かったというべきだろう。

 それでも、例え強硬突破したとして、果たして僕が無傷で強硬突破できる確率は0,0何%あったのだろうか。

 これでも、それなりに、ある程度は鍛えている、そんな僕も、これまでの人生で妹に勝ったためしがない。

 それほどまでに月姫は強いし、その上、喧嘩っ早い。血気盛んすぎるといってもいいだろう。

 へたすれば狂犬並みだ。


 まあ、これで月姫は何故か女子には優しい傾向にあるし、なんだかんだで兄に甘いところがあるからな。

 一応は家族贔屓が存在するものなのだ。

 これが家族じゃなかったら、フルボッコだろう。

 ハラパンされ、顔面キックをうけ、頭を踏みつけられた僕としては、あまり僕も変わりない気もするけれど。


 だが、しかし、駄菓子菓子、月姫が幼稚園の頃を話させてもらうとするなら、今日、月姫がどれほど寛大なのかがわかるだろう。

 ある日、幼稚園の給食時間、自分の好きなおやつ、まあ月姫はプリンが好きなのだが、その日はおやつにプリンが出たらしく、月姫は浮かれていた。

 そんな浮かれていた月姫に、運悪く、というかなんというか、遊んでいた男子2人組みが激突し、月姫の持っていたプリンが床に落ち、ぐしゃぐしゃになったしまった事があったのだ。


 月姫は、床に落ちたぐしゃぐしゃのプリンをジッと見つめ。


「ふざけんなやこらああぁぁぁぁぁぁ……………!!!!!!」


 そんな月姫の叫び声は、同じ幼稚園に通っていた僕の教室まで轟いた。


 幼稚園児だった僕は、月姫の叫び声だというだけで色々察した。

 僕が月姫の教室についた時には、月姫のクラスの男子2人組みが、それはもう見るも無惨な姿で泣きじゃくり、そんな泣きじゃくる2人の頭を、いつまでも月姫が叩き続けていた。

 勿論、先生方も止めようとしたのだろう。

 それは分かる。

 だが、先生方の手には、小さな歯型がそこらかしこに存在して、しかも、髪の毛までボサボサで、恐らく引っ張られた後だった。


「つ、月姫ちゃん! ほら、僕の、僕のプリンあげるから、叩いたら、めっ!」


「あっ……、お、おにぃ………、で、でも、この馬鹿2人が、つーちゃんのプリン、ぐしゃぐしゃに、したもん!

つーちゃんも、この2人ぐしゃぐしゃにしないと、気が収まらない!」


「ぐ、ぐしゃぐしゃって……………」


 もう、つねに顔が涙でぐしゃぐしゃなのに、これ以上どこをぐしゃぐしゃにするというのだ。

 我が妹ながら、考えていることが犯罪者級なのには、軽く引いた。

 因みに、幼稚園のときの月姫は、自分のことを「つーちゃん」と読んでいる。

 僕も、この頃はまだ、おにぃと呼ばれていた。いつの間にか、兄貴になっていたが。


「分かった………、今日から一週間の間、僕のおやつ、全部月姫ちゃんにあげるから、だから、許してあげよう?」


「ううぅ………、そういう事じゃ、ないのに………」


「お願い」


 僕が畳みかけるように言うと、しぶしぶといった感じで月姫は頷いた。

 そして、泣きじゃくっている2人の男の子に向き直ると…………


「もし、これからも、同じような事があった場合、次は二度と自分の手で、おまんま食べれる事が、出来ないようにしてやるからな! 覚悟しとけ!」


 と、そう言ったのであった。


 ツインテールのたれ目ロリの癖に、恐ろしいロリである。

 というか、よく「おまんま」とかいう俗語しってたな~、と、その頃の妹の事を振り返ると、その頃からつねにヤンキー言葉だったことが分かる。

 そして、何故そんな言葉を使うようになったのだろうか。

 不思議だ。

 生まれた時からヤンキー言葉な訳はないだろうし、それに、最近は極道ぽい言葉もよく使うようになった。

 何故、言葉が進化していくのか。

 一体、何の影響だ。



 閑話休題



 つまり、今日の月姫はすこぶる機嫌がいいほうだということが、皆さんにも分かっていただけただろうか。

 最悪、僕の命さえも危うかったかもしれないのだ。


「はぁ~、とりあえず、桃ちゃん………、こほん、ピーチちゃんをリビングに連れて行ってあげてあげてくださいよ、兄貴」


 どうやら、桃ちゃんの事をピーチちゃんと呼ぶことに決めたらしい。

 桃ちゃんは何も言わないから、嫌な訳じゃないと思うけど。


「分かった。ありがとうな、月姫」


「いえいえ、不肖不肖の兄貴ですから。妹が責任をとるのは当たり前ってもんですよ」


「それって、僕がどうしようもない駄目な兄みたいだな」


「はい。どうしようもない不肖の、()()、兄貴です」


そんな感じで家の中に入れてもらった。




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