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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー1章ー〈出会い〉
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-8-依頼と、断罪と、戦隊と。

 討伐ギルドは今日も盛況。ガヤガヤした議事堂の中にある掲示板を眺める。


「結構色々あるんだなぁ……どれにしようか……なになに?「レレレレイスの討伐」?何これ」


 レレレレイスというのはレイス、幽霊系の魔獣らしい。なぜ「レレレ」レイスなのかは、特殊な麻痺攻撃を仕掛けてくるらしく、食らうと効果解除まで硬直した上、延々と「レレレレレレ」と言い続けるらしい。

 弱そうだと思ったが、この麻痺は非常に死亡率が高いらしい。その死因は「呼吸困難」。息継ぎが出来なくなり、「レレレ死ぬ」ことで地味に恐れられている魔獣だった。


「あとは……グリフォン、マンティコア、デストロイドラゴン?仰々しすぎるでしよ……」


 割とポピュラーな魔獣もいて、大型の魔獣に関してはどれもパーティ攻略必須となっていた。私は現在ぼっちなのでどうしようもない。


「「ボム・バグ20体の討伐」……これがいいかも」


 私は数ある依頼書の中から虫型魔獣の討伐依頼書を選び、ギルドカウンターに持っていく。


「いらっしゃいませ!一件の依頼ですね?パーティ編成などはされますか?」

「いえ、ソロで行きます」

「そうですか。安全面には十分に注意して下さいね?それでは、ご武運を」


 羊人のお姉さんに見送りを受け、テルが手配してくれた馬車へ向かう。

 王都から北に少し離れた森が今回の目的地だ。


 テルが乗っていた馬車は荷物のせいでゆっくりめに走っていたが、この馬車はテルの雇った御者と私しか乗っていないため、軽い。御者がピシッと鞭を打つと、2頭の馬は同時に嘶き、猛然と走り出した。まるでジェットコースターである。


 このスピードでもぶつからないのは、御者の技量と整備された街道のおかげだ。左側通行で各二車線用意されており、高速馬車と鈍足馬車の区別がされていた。


 その日の昼頃には目的地の近くにたどり着いた。御者は無口な男だったので何の会話も無い旅だったが、私としては外を眺めているだけで全てが新鮮で楽しかった。

 馬車を街道から少しそれた場所に止めてもらい、目の前に広がる樹海に足を踏み入れる。ここからは魔獣が出るのでひとりで行く。



 しばらく樹海の中を行くと、目的の魔獣がいた。

 人の顔ほどはある大きなてんとう虫。それがボム・バグである。

 ボム・バグの特性はその名前の通り爆発することだ。その爆発は私の《狐火》2つ分に相当するらしく、一般人なら簡単に吹き飛ぶらしい。


 自分の《狐火》はさすがに食らう気になれないので、遠距離から一撃で仕留めることにする。

 ずっと腕輪にしまっていた鍵形態の【朧月】を取り出し、暗いのが苦手だったらしくグロッキーなヴェルさんに声をかける。


『一応ちゃんと狙うけど、細かい補正はよろしく』

『うう……暗いよぅ……怖いよぅ……』


 駄目みたいなので自分でやることにした。

【朧月】に妖力を流し、大弓の形をとる。左手でしっかりと握り、右手から発生させた《風刃》付与済みの矢をつがえて標準をとる。

 深く息を吸い、止める。照準を絞っていき、いざ矢を放とうというと──


「ギィ!」

「は?」


 いつの間にか背後にいた、別のてんとう虫がズドォォンと地鳴りのする程の大爆発をかましてきた。



 結局、その爆発によってわらわらと集まってきたボム・バグの群れを鞭形態に変えた【朧月】による瞬撃で撲殺するという脳筋プレイを強いられた私は、最終的に50近くのてんとう虫を倒していた。

 そこら中に転がっている巾着袋を腕輪に入れつつ、あたりを警戒しながら馬車に戻った。


 元の位置に戻ると、御者は湯呑で茶をすすっていた。ほっこりした表情を浮かべている男に殺意を覚えるが、雇われの男に罪はないので抑えた。


『もう暗いのは嫌だ!』と泣きついてきたヴェルさんは安定の鍵の中だ。ただし、今度はポケットに入っている。


 爆発を何発も食らった服は自動修復により元通りになっている。じわじわとではあったが、馬車につく頃には新品さながらの綺麗さを醸し出していた。そして何故か、爆発によってチリチリになった髪の毛まで修復してくれた。これはいい買い物をした。


 既に日は傾き、空は赤く染まっている。

 来た道を戻るべく風のように街道を突っ走る馬車の風が心地よく、馬車の座席で眠りに落ちた。



 目が覚めると、体が動かない。何事かと辺りを見回すと、なにやら電極のようなものから出ている電磁波で空中に磔にされていることに気付く。


 辺りは闇一色であり、風も何も無いことから室内であることだけはわかる。そしてコツ、コツと靴の音が聞こえてきた。


「ようやくお目覚めですか?ようこそ、我が主のパーティーへ」

「あなたはっ!」


 暗闇から現れた靴音の正体は、依頼のために乗っていた馬車の御者だった。


「なにを……しているんです?……我が主?誰それ?」

「1度に沢山聞かれても困ります。何をしているか?簡単です。貴方は招待された!我が主、イルネス様の素敵な素敵なパーティーにッ!」


 両腕を広げ、高笑いをする御者だった男を睨みつける。無口だった彼はどこへ?


「おやおや、そんな顔をされるのはまだ早いですよお嬢さん?武装は解除させていただきましたし、その電磁波は【スキル封印】つきです。手も足も出まい?」


 武器は没収済みか……腕輪と【朧月】がなくなっている。しかもスキル封印されてるとか……ん?いや待てよ?……でも少し情報をもらうとしよう。


「イルネス?聞いたことない名前ですけど?」

「偉大なるイルネス様を呼び捨てるとは些か許し難い行為ですが、あの方は影の世界で暗躍されるお方だ……知らなくても無理はないでしょう。いいですかッ!あのお方はこのアニマ国始まって以来の、大奴隷商!手頃な女子供を捕まえて人間の豚共に売り渡すことを生業としていらっしゃるお方だ!……ああ!なんと素晴らしい!」


 興奮気味でペラペラ喋ってくれている男は完全に陶酔状態だ。


「ふぅーん。それで私も売り渡されるわけだ……」

「ボム・バグ1匹も見つけられない小娘が適う相手ではありませんからね!イルネス様の唯一にして最強のスキル【奴隷化】に逆らえるものなど存在しないのですから!」


 この男はなにやら面白い勘違いをしているようだ。森をさまよい、標的を見つけられなくて戻ってきた無力な娘だと思い込んでいる。確かに汚れはなくなっていたけどね?

 そしていいことを聞いた。なのでひと芝居打つ。


「【奴隷化】……恐ろしい響きですけど、どんなスキルなんです?」

「実にそのままです!対象に触れる必要がありますが、一度触ってしまえば体の自由はイルネス様のもの!レジストなど不可能です!」

「なるほどありがとう。あなたのおかげで何とかなりそうです」


 どこまでもペラペラと喋る男に礼を述べながら、磔状態から簡単に抜け出す。


「なっなぜ!なぜ抜け出せる!?」

「磔機能としては働いてたけど、故障しちゃあしょうがないですね」

「な、故障など!」

「何もしないから確認してみてください?」

「くっ!……な、なんだこれは……システムが狂ってる!?娘ェ!何をしたァ!」

「簡単。矛盾を発生させただけ。あなたがペラペラ喋ってくれたから攻略できました。だから、ありがとうございました」


 私の保有スキルには【封印耐性】がある。これはON/OFFの切り替えが可能で、ONの状態だと妖力を微量にだが持っていかれるために普段はOFFにしている。これは反省かもしれない。少しの妖力くらい安全に回しても損は無いのに。

 そして「スキルを封印する」能力に【封印耐性】を付与させた【封印解除】をぶち当て、システムを破壊した。

 ただ、それだけのこと。そして、この男とイルネスとやらの未来は決まった。


 つまり、断☆罪。


 獣人国アニマでは奴隷は一切見ないし、王令で禁止されている。この手の闇の取引は明るみに出た時点でジャッチメントですの!


 裏を取るために捕まったふりをしてみたが、やってみるもんだ。私は被害者であり、王に面識がある。これ以上、駒が必要か?(いや、ない。)


 右手に【朧月】を召喚し、長い鎖のみにするとあっという間に男を捕縛する。

 その鎖を操り、隣にあったもう1台の拘束機にかける。

 これでよし。あとはイルネスとやらをボッコにしてネスト王に突き出せば万事解決。どうせ囚われの奴隷とかいるのだろうから、そっちも解放しないとね。


『ご丁寧に、取り上げたものは全部ボスに届ける組織みたいだ。イルネスって奴の場所はこの建物の最上階だよ!』

「ヴェルさん!ここ暗いけど大丈夫なの?」

『正直言って超怖い!でもそんな場合じゃないからね!』


 震え気味の声でコンタクトを取ってきたヴェルさん。やはり無理をしているらしい。


「あかりが付けばいいんだけど……【環境順応】さん、お願いします!光をください!」


 ヴェルさんのためではないが、明かりがないと行動しづらい。

 そう思って左掌に妖力を集中させる。そしてポウ、と懐中電灯程の明るさを持つ光球が出現する。


『ふわぁぁ、明かりだぁ……』

「さて、案内頼みますよ!」

『任せてよ!』


 ヴェルさんの案内の元、私はイルネスがいる最上階に向かって駆け出した。




 学校のような建物の階段を駆け上がる。よく校舎内で鬼ごっことかしたなぁ……職員室前は鬼門だとかいって、その前を走れるヤツは勇者と呼ばれていた。私はそこに行かずとも鬼を巻けるから呼ばれることは無かったけどね。


 捕まっていた場所を1階とするならば、現在は3階まで上がってきた。

 小中と4階建ての校舎だったが、ここはどうだろうか。

 そんなことを考えていると、3階と4階の間の踊場に3人の人影が。

 とうっ!と飛び降りてくると、左端の黄色いやつが階下に届かず階段を転げ落ちる。うわぁ……痛そう……


「大丈夫か!イエロー!くそっ!やりやがったな怪人め!」

「レッド!イエローが息をしていないわ!きっとあのの怪人になにかされたのよ!」

「レッド……ブルー……俺に構わずッ……先にいけ……!」

「イエロー!おのれ怪人め!許さん!ゆくぞブルー!トリプルアタックだ!」


 一人減っているのにトリプルとはこれいかに。

 そしてまた信号機カラーだ。言動と身なりは戦隊ヒーローっぽいのだが、アホ丸出しである。イエロー、お前は息してないはずなのに喋っちゃダメだろう。

 レッドはガチャガチャしたハンドガンを、ブルーは忍刀を取り出し、飛びかかってくる。


 問答もクソもない攻撃に、「信号機は地雷」という新たな教訓を胸に刻み、【朧月】を刃を落とした双剣に変える。


 勢いよくブルーが忍刀で斬りかかってくる!レッドの射撃!ブルーの背中に直撃!ブルー倒れる!「ブルゥーッ!!」とレッドが叫ぶ!


 そんな漫才を見せられた私はげんなりしながら一瞬でブルーを抱いて慟哭するレッドに肉薄し、軽く首を叩くことで意識を刈り取る。

 ドサリ、と倒れるレッドに潰される形になったブルーが「ふぎゅえ!」と鳴く。


「えっと、これどうしよう?」

『ボクに聞かないでおくれ……』


 とりあえず、階段の下に植えておくことにした。

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