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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー1章ー〈出会い〉
6/176

-6-金と、ギルドと、レイピアと。

残酷な描写あり。そして最後にスカッと展開ありです。

「ここだ」

「うわ広っ」


 王宮内に部屋を用意してもらえることになったので、ネスト王についていくと、元の家のリビングほどの部屋があった。15畳ほどあるだろう。


「え?これひとりで使っていいんです?」

「構わんよ。まあ家買ったら移動してくれてもいいし、ここで生活をしてても問題ない」


 お母さんの部屋も同じくらいの広さらしく、母がよくリビングで寝る意味がよくわかった。


「荷物……はないか。取り敢えず身の回りのものを揃えてきたらどうだ?我々で揃えてもいいのだが、見物も兼ねて街にくりで出して見たまえ」


 そう言って、赤い紙を10枚渡してくる。


「うわすごい額」

「これは?」

「コスモ・グランデの通過だよ。昔は金貨だったんだが、金を使うより紙にしてしまった方がよかろうと風華がな」

「え!?お母さん、この世界の通過作っちゃったの!?」

「懐かしい話ね。もう400年も昔かしら」

「というかさらっと流してたけどお母さんも転生してるの?」

「ううん?狐人は長寿種で、1000年は余裕で生きるね」


 ということは、お母さんの生まれは500年以上前の話となる。ええっと……ええ!?


 私がなにか言及する前に「それはさておき」と、ネスト王にすすす、と近づくお母さん。


「……やらんぞ?」

「ハァー?なによ、ケチ!甲斐性無し!」

「うるさい黙れ。お前は保有資産で何とかなるだろうが」

「人の金で食う焼肉はうまいんだぜ?」

「つまみ出せ」

「はっ」

「あー!ちょっと!覚えてなさいよ!あ、藍波!ギルドにでも登録しておきなさいよぉぉぉぉ」


 バタン、と残念な母と空間を隔離すると、ネスト王は振り返り、


「風華──お前の母とは500年前の大戦で共に戦った仲でな。王になろうとずっとあの態度なのだ……」

「……お察しします」

「······本当にあれの娘なのか……?さて、この金は地球でいう10万円位になる。こちらでは10エルドというがな」


 コスモ・グランデの最高単位の通過らしい。

 エルドが1万円、レルドが千円、ネルドが百円という単位構成らしい。

 それぞれ紙幣の色が違い、それぞれ赤、黄緑、青色をしている。

 というかめちゃくちゃ貰っちゃったな。10万て。地球ならモテモテなんだろうな。



 ネスト王に貰った10エルドを持って出かける。門番は交代していたので、違う鼠人だった。

 同行してくれるテルさんは馬車を取りに行こうとしたが、歩いて行ける範囲だというので徒歩にしてもらった。見物もしたいしね。


 王宮から10分くらい歩いたところに冒険者ギルドと討伐ギルドがあった。

 あれ?また既視感あるな、この建物。


「ほら、コッカイギジドウとかいうやつらしいぞ」

「ああ、あれね」


 目を凝らして記憶を探っていると、テルさんが教えてくれる。頭悪そうなのに結構知ってるな、この人。


 国会……ギルドは|参議院側(右側)に討伐ギルドが、|衆議院側(左側)に冒険者ギルドがはいっている。

 重複登録をする人が多いらしく、面倒だからとまとめた結果らしい。


「私も重複にしようかな……」

「両方登録するのは便利ではあるけど、偏りがちになるんだよな……」


 討伐ギルドは報酬が高いからそっちに流れやすいとかなんとか。冒険者ギルドはトレジャーハンティング的な感じで、遺跡調査で一攫千金を狙うものらしい。


 ヴェルダンディからの依頼で遺跡に行くので、情報収集兼ねて冒険者ギルドは登録必須として……討伐ギルドか。

 きっと強い魔獣たちが……じゅるり。


「……テルさん。どうして引きつった笑みを浮かべているのかしら?」

「いいいいや?いいんじゃないでしょうか!それより早く登録しようぜ!」

「……そう」


 ニッコリ笑いかけると、なぜかテルさんは早足でギルドへ向かっていってしまった。



「いらっしゃいませ!冒険者ギルドへようこそ!初めての方ですか?」

「はい。登録をしたいのですが」

「それでしたらこちらへどうぞ!」


 転生のある世界では子供も冒険に出るらしく、藍波に挨拶してきた羊の角をつけた受付嬢は普通の対応をしてくれた。


「こちらの登録申請書に名前と年齢、種族をお書き下さい」

「分かりました」


 契約書のような紙と羽ペンを渡され、書き込んでゆく。

 まてよ、この羽、どこかで……


「書き終わりました。ところで、この羽はどこで?」

「あ、はい。その羽はアルドゥ鳥といって、南方に住んでいる魔獣の羽です。強い衝撃を与えると灰になるので落とさないでくださいね」

「アルドゥ鳥……ふっ」


 南か……人間の領土に近いようだが、いずれ焼き鳥パーティーをしに行かねばならない。


「受諾しました。七海 藍波さんですね?狐人……フォールンの方でしたか」


 やはり珍しいらしい。そして噂になるの早いな。


「冒険者ギルドですから」


 そういうことらしい。


「討伐ギルドの登録もされるんですか?」

「はい。何かと便利らしいので」

「そうですか……念のため、気をつけてくださいね?冒険者ギルドは比較的緩めなんですが、討伐ギルドはどうも……野蛮なので」

「ピッタリじゃ……何でもないです」


 余計なことを言うネズミを睨みつけるとすごすごと下がって言った。


「し、心配は無用みたいですね!(うわーなに今の殺気!怖!本当に野蛮なギルドにぴったり······)」

「何か?」

「い、いえ、ではお気を付けて!」


 そう言ってわざとらしく次の仕事にうつる受付嬢を尻目に討伐ギルドへ向かった。



 ……なんとなく予想はしていたんだ。異世界召喚で、ギルドがあって、そのギルドは野蛮だという。ここまでテンプレなら後はお察し。


 案の定、冒険者ギルドと同じように登録しようとした私はムキムキな戦士風の男三人に囲まれた。

 3人モヒカンで赤、黄、緑に染めている。信号機か。


「よう嬢ちゃん。ここはガキの来る場所じゃねえ。とっとと帰っておままごとでもしてな」

「ヒャハハハ!そんなことより兄貴!こいつ辱めて売っちまいましょうや!売れるか分からなくなるまで犯しますけどなァ!」

「よく見れば上玉ですしね!こいつァいいモン拾ったなぁ」


 門番ネズミより酷い、犯罪紛いのことを口にするゲス共。

 よく見れば上腕に深い緑色の鱗がある。舌は二股に割れており、牙は少ないながら鋭い。蛇かな?


「おいガキ!聞いてんのか!」

「まさに獣そのものだね、まったく。蛇って悪いイメージないんだけどなぁ……むしろ好きだったのに……」


 カッコいいもの大好きな私からすれば蛇はまさにカッコいいものだった。

 しかし目の前にいる信号機共は只の下衆。


「てめぇ……いい度胸じゃねぇかガキィ!」

「ほらすぐ熱くなる。そんなんじゃだめだって」


 手斧を取り出した赤信号がこちらに振り下ろしてくる。

 速さもない、技量もない、ましてや志も感じられない一撃など、当たるわけがなかった。


 袈裟懸けに振り降ろされた手斧の持ち手を右手の甲で軽くそらす。それだけで赤信号はつんのめって右側を通り過ぎてゆく。


 すれ違いざまに膝を入れる。屈強そうに見えるのに、一撃で地に這いつくばった。


「あ、兄貴!」

「よくも!」

「いや、少しくらい学びなよ……」

「うるせぇっ!」


 黄信号も青信号も頭に血が上っている。

 面倒だし、使うとしようか。


「《狐火》」

「なっ!」


 《狐火》を自分の周りではなく、信号機たちの両肘あたりに発生させ、肘自体を取り込み、固定させた。


「あづあづぁーッ!」

「ヒィィ!と、とける!あっあああああ!」


 うるさいな。音消す妖術とかないのかな……こんなことなら習ってくればよかった。


「おっと」


 フシュ、と《狐火》を消してやる。というのも、信号機たちの叫び声が聞こえなくなったからである。

 両肘は焼け爛れ、血が滲んでいた。


 起き上がった赤信号が青ざめている。ふらつきながらも駆け寄り、ふたりを起こそうとする。


「やめた方がいいと思うよ。起きても腕を見てまた失神するから」

「……うる、せぇ」

「……テルさん、回復とかって出来る?」

「あ、ああ。回復用の妖術は存在するが、俺には使えない」

「どんなの?」

「患部に妖力を集中させて組織を活性化させるやり方だ」

「ん、やってみる」


 両手を掲げ、未だ気絶している信号機たちに向ける。赤信号が絶望の表情を浮かべるが、「大丈夫」というと何かを察し、下がった。


 目を閉じ、妖力を集中させる。同時に4つの緑色をした球体が倒れた信号機たちの肘に現れる。

 見る見るうちに治っていく両肘に、赤信号はおろか、見物していた者までも目を見開く始末。テルまで唖然としている。


「あのな、活性化とは言っても、全治3日ほどかかる傷だったぞ今の」

「あれ?なんかマズった?」

「ある意味な。普通、細胞を活性化させるとどこかしらに影響が出たりするもんだが……完全に治ってやがる」


 傷の具合を確かめたテルさんが改めて驚嘆する。


「それで?」

「えっ?あっいや!すみませんでした!そんでありがとうございます!」


 赤信号を人睨みするとその場で崩れ落ち、土下座をされた。根は真面目なのかな?


「実に見事!完膚なきまでに叩きのめし、アフターケアまで充実!これは電話が鳴りやみませんな!」

「はあ……」

「はじめまして。討伐ギルドが長、ヤヌシュと申します」

「はじめまして。七海 藍波といいます。登録に来たんですけど······いつもこうですか?」

「ええ、女性や子供が来るとプライドの高い者達が突っかかるんですわ」

「なるほど」


 カウンターの奥から出てきた毛の多い白犬──ヤヌシュが信号機たちを見やる。


「君らの処分はまた後日。藍波殿、討伐ギルド長として歓迎いたします」

「騒いでしまってすみません」

「ははは!いつもこんなもんですよ。酒を飲めば喧嘩をし、報酬を取り合って喧嘩し、「俺の方がお前より強い」とか言って喧嘩をする······あれ?喧嘩しすぎ?」


 今更のように首をかしげる白犬さん。またサボりぐせのある方だろうか。

 お母さんといい、ヤヌシュといい、どうして私の行く先々では頭のおかしい人しかいないのだろう?

 幸運がDだから?


 その後、事後処理はやっておいてくれるというので、お願いした。

 登録にどうでもいい手間をとったが、新しい妖術も覚えたし、よしとしよう。


「さて、帰りますか」

「雑貨はいいのか?」

「うーん、着替えだけ買って行こうか……流石に1着だけじゃ……」


 日も落ちてきたのだが、尻尾の出る場所がズボンで擦れてムズムズすることだし、専用の買っていくことにした。


 テルに連れられ、服屋に着く。

 洋服から和服まで扱っているとは、やるではないか。

 とりあえず5日分の服と下着を買った。全部似たりよったりなのは気にしてはいけない。だってチュニックにショートパンツは動きやすいから……

 武具屋は明日行くとしよう。流石に暗くなってきたからね。



 王宮に戻ると、門のところにまたゲスネズミがいた。今は非番らしく、鎧は着ていないが、腰のレイピアはそのままだ。


「おっ、テル殿ぉ……僕も誘ってくださいよぉ……せっかくお近づきになれるチャンスだったのに」

「ハンッ」

「……おい貴様、僕を誰と心得る。ぺペル家が長男、ペペル・チーノだぞ?」

「知らないですよ、そんなの。ただ、あなたがどれだけクズで、無能で、愚かなのかっていうのはわかりました」

「言わせておけば……!」


 テルにゴマをすりつつ、ニタニタと近寄ってきたペペロ……チーノは、お近づきになる気などさらさらない私が鼻で笑ってやるとすぐに噛み付いてきた。

 金持ちだかなんだか知らないが、下衆に遠慮は無用だ。

 テルは何かを察したのか、そそくさと馬車のある方へ行ってしまった。いい判断だと思う。


 細剣を抜いたゲスネズミに、再度鼻で笑ってやると、醜悪な顔をさらに歪めつつ、上段の構えから斬りかかって(・・・・・・)きた。


「よっ」

「なにィ!?」


 ずっとショートパンツのポケットにしまっていたチェーンを取り出し、受け止める。さらにぐるっと一周させ、両端を思いっきり引っ張った。


 バキンッ、という細剣の折れる音と同時に、その先端部がどこかへ飛んでいく。


「レイピアで斬り掛かるとはいかなものか……武器の特徴を捕えずに使うからこうなるんだよ」

「なっ、なっ、なあああああああ」


 レイピアは本来、刺突をするためのものだ。切るときもあった気がするが、それを思い切り振りかぶってきたからもう呆れしかない。折れるでしょ、細いんだから。

 もっとも、突きを放たれても躱せるだけの技量と経験はあるので問題はなかったが。


 折れたレイピアをまた振りかぶったチーノにスッと近付き、腹にボレーシュートの要領で蹴りを決め込む。教官を買収し、ろくな訓練を受けていないゲスネズミは、扉の前にある柱に勢いよくぶつかった。手加減はしたので柱は壊れてな……凹んでる。というか、めり込んでいる。その舌はだらしなく垂れ下がり、白目を剥いている。······え、これなんてホラー?


「あー、力加減難しいなぁ……これ」


 どうやらコスモ・グランデに来てから身体能力が上昇しているようだ。

 まさか軽く蹴ったつもりがこんなことになるなんて……赤信号はうまくいったのに。


「お、大きな音がしましたが……え!?チーノ様!?なんで埋まって……ああ、なるほど」


 音を聞きつけて、来た時門の前に立っていた片割れがやってきた。こちらも非番のようで、帯剣はしているものの、鎧は来ていない。こちらを視界に入れ、一瞬顔を歪めるが、めり込んでいる脆弱ネズミを見て驚いている。


「······これはあなたが?」

「は、はい……成行きで……」

「やっちゃいましたね……この人、根に持つタイプなので絶対しつこいですよ?まぁでも……ぶふっ!」

「!?」


 突然吹き出した片割れに驚きの視線を向ける。


「い、いえ······ぶふっ!こ、こんなにもボコボコにされているのは初めて見ましたから……ぶはっ!」

「相当鬱憤が溜まってるみたいですね!?」

「そりゃあもう!毎日毎日ネチネチネチネチ!死ねばいいんですよ!」

「そこまで!?」

「なんの力も持たない割に口だけはよく回るので……はぁ、スッキリしました。礼といったらなんですが、後のことはお任せ下さい」

「色々すみません」

「いえ、なんの」


 てっきり助け出すのかと思いきや、彼はこの様子を脳裏に焼き付けるんだ!と埋まったチーノを発掘せず、目覚めるまでずっと体育座りで眺めていた。

お金の単位は、コスモ・グランデにおける三兄弟の名前です。

この先出番がある(はず)なので、今は「お金の単位」と記憶しておいていただければ。

この3人の現実世界における逸話などはありません。造語ですので。

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