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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー6章ー〈煉獄〉
176/176

-175-在処と、悲願と、警察と。

夜中に筆がのったので。次回更新? いつも通り未定で……ごめんなさい。

 ゾフィーと名乗る男にであってからというもの、僕の死霊術は格段にレベルアップした。

 そもそもの魔力量も上がり、使役できるスケルトンの数や質、複雑な思考までが可能になったのだ。


 その結果として──


「うむ、調子がいいぞ!」

「うむ、絶好調だぞ!」


 僕の兄達は、生前と変わらぬ姿、言動にまで復元できた。


「……あら、ためて。感謝する、ゾフィー」

「いぃえェ……僕らの方も、何かと都合がいいのでねェ」


 ひらひらと手を振りながら、謝恩の類はいらないと言う彼に、僕は憧れのようなものを感じた。……いや、かつて目指したものが、彼だったとでもいうような感覚だ。


「さてさて。あなたの死霊術も向上したとはいえ、残念ながらまだ『器』しか用意出来ていません。……知りたいのでしょう? 『鍵』の在処を」

「──ッ!」


 息を呑む僕に、満足そうに頷くゾフィー。


「『鍵』の詳細は、既に掴んでいるようですから……えェ。僕は居場所だけ、教えましょう」


 彼の口が三日月に裂け、僕の戦場を口にする。


 それをしかと聞き受け、僕は踵を返した。


「……色々、世話に、なった」

「えェ。たっぷり感謝してください」


 粘着質な笑みに見送られ、歩みを進める。


 やっと見つけた『鍵』。逃しは、しない。


 ◆


 殺人くんに戦々恐々としながら見守る中、ちょっとのんびりしすぎたせいか村の火がエラいことになってきた。

 レギンもネストさんもいるから、避難とか魔獣の襲撃とかは大丈夫だろうけど……うん、少し心配。

 特にレギンは今不安定だろうし。びっくりだよね、神器だったなんてさ。


『ああっ! 殺人くぅん!』


 考え事をしていたところを、いつの間にか復活していたアースの叫び声に引き戻される。

 見れば、殺人くんの小柄な機体を、歩く筋肉がわし掴みにしていた。


「ようやく捉えたぞ、オモチャめ!」

「観念するがいい、オモチャめ!」


 ボキュシュ、と変な破砕音を立てて殺人くんが圧殺された。今度、彼に墓を立ててやろう。


 ……それにしても、あの兄弟(?)、本当に屍人なのかな? 生前より強くなってるとか普通にありそうだ。


「ま、巨獣超えしてくる時点で察してたけどさ」


 単純計算として、あれを相手にするならアストロスを2体以上同時に相手にするのと同じ労力がかかる。加えて、倒したとしても強くなって蘇るというオマケ付き。


「本来なら、特訓相手として不足はないんだろうけど……」

『うん……ちょっと、ね』


 死者を弄ぶ。私はその行為を嫌悪する。


 シドを、死なせてしまった彼を弄ばれている気がして。


「ネクロマンサーという存在自体はいいとして。その能力故に死者を使役するのも、一億歩譲っていいとして。せめて、兄弟くらいは……ううん、平行線か」


 相対する屍術師は、ただ目的を、悲願を果たそうとしている。何があったかも知らないし、知りたくもないけど……。


「行く、ぞ。僕らの、『鍵』」

「あいにくさま、私の伴侶は決まっててね!」


 屍術師の命令を受けた主戦力(兄弟)たちが縦に並んで突撃してくる。一番後ろに屍術師……なるほど、ジェットス〇リームアタックは異世界でも健在かっ!


 なので、先頭の拳ダルマを足蹴にする。


「俺を踏み台にげぶらァっ!?」


 靴の裏に《狐火》を敷いて靴型の焼印をいれてやり、続く大剣ダルマを片手剣で両断……し損ねた。


「ぐ……女の体でこの力か……っ!」

「チッ」

「オオッ!」


 火花を散らして切り結ばれていた剣と剣が離れ、私は宙返りをしながら後退。大剣ダルマは痺れる左手を何度か握り直し、ヒラヒラと振った。


「……ねぇ、もうだいぶ人間に近いと思うんだけど。『鍵』って必要なの?」

「あたり、まえ、だ」


 青い炎がホーミング式に飛んでくる。私は、弾が収束し着る前に術者との距離を詰めることで回避し、ついでに邪魔な拳ダルマに飛び蹴りを放つ。


「ぬぅん!」

「な!?」


 こ、この脳筋、私の助走付きの蹴りに蹴りで対抗しやがった……!

 しかもその足を軸にして逆足の蹴りまで──


「ぐ──」


 下方から抉るように迫る豪脚に、【朧月】をどうにか挟み込むことで防御をすることが出来た。しかし、さすがに変形の時間は与えてもらえず、片手剣のまま受けてしまったため、大きく吹き飛ぶハメになった。


 無理な体勢で受けてしまったため、私の右手は肘から先が内側に折れてしまっていた。焼けるような、それでいて切れ味の悪い刃物で滅多刺しにされるような痛みに耐えつつ、《全快》によって修復を──


「ラァッ!」

「──ッ」


 空気を弾けさせながら振り抜かれた拳が、腹に吸い込まれていくのを見て──


(ああ、師範以外やられるの、久々な気がする……)


 突き上げる衝撃に、意識を飛ばした。


 ◆


 力なく倒れ込んだ『鍵』を見て、僕はこみ上げる感情を必死に抑える。彼女とて、命はある。それを奪って、自分のために使おうというのだ。あまり喜んでしまっては、不謹慎だと思う。


 それよりも、余計な虫が集まってくる前に、さっさと『鍵』を捕獲し、撤退をせねば。

 屍術を使い、亡者による檻を作成する。脆いが、壊れても端端から再生する代物だ。これをスケルトン共に運ばせよう。


 ……念には念を。と、催眠と強力な麻痺の魔法、術の類が霧散する毒を飲ませたから、脱出は無理だろう。大人しく、僕の、僕らのために犠牲になってもらう。


 さて、これでこの村には用がなくなった。とはいえ、追ってこられても困る。避難先は把握済みだし、そこに向けてまた火でも──


「──? ッ!?」


 放とうと思って、掲げた右手がないことに気付いた。

 それに気付いてしまえば、一瞬のうちに心拍数は跳ね上がり、粘着性の高い汗が滝のように溢れ出てくる。上がった心拍数を指し示すように、腕口からは冗談みたいな量の血が飛び出し、あっという間に血溜まりを作る。


 激しい動揺からか、兄さん達以外の術が全て解け、『鍵』が地面に落ちる。麻痺系統の毒は未だに効果を発揮しているようで、目を覚ます様子は見受けられない。

 長い冒険者生活が回復を促し、とりあえずの止血だけは済ますことができたが、未だに血は外に出ようと暴れ回っている。


 全ての術が溶けてしまったなか、【勇士生還】を維持できたのは奇跡だろう。そして、その奇跡が、僕の命を僅かに現世に留めた。


「ネルド──カッ!?」

「な……に、い……さん?」


 エルド兄さんが、僕の方を向いて両手を広げている。その口と胸からは大量の血が流れており、胸からは白銀の剣が飛び出していた。

 白銀の剣は、次の瞬間変化を遂げる。白銀の刀身が拡張し、エルド兄さんの胸はさらに裂ける。拡張された刀身の隙間には……闇が。


「ア、ア……」

「そろそろくたばれ。悪霊」

「アアアアアアアア!!!!」


 赤黒いスパークが一瞬だけ走り、兄さんの体を包む。そして、刀身の間に揺らめく闇に飲み込まれるように、姿を消した。


 まるで、元からいなかったかのように、忽然と。跡形もなく。


 その、みえなくなってしまった兄さんの先に、剣を突き出した姿勢で立つ人影を見て──


 半拍遅れて、断ち切られた魔力を感知し、とてつもない喪失感に襲われる。突然腕がなくなった痛みや焦りよりも、重い、重い痛みが身体を、心を支配する。


 必死に胸を掻きむしり、この気持ちの悪いものをどうにかしようとするが……うまくいかない。


 どうにもならないその感情を、喪失感を与えたであろう人影に、ロクに照準もせずに魔法を放つ。……放とうとして、やっぱりない右手に愕然としていると、人影が口を開いた。


「あー……盛大に困惑してるところ悪いんだが」


 バッと上げた僕の顔は、きっとひどい顔だっただろう。焦燥と、喪失感と、恐怖と、よくわからない感情がおり合わさった……すなわち、『怯えた顔』。


 焦点の合わない目が、どうにか捕らえたのは、白髪の中に少し赤い毛が入った……男。その白髪に赤毛が入った頭の上には、イヌのそれよりは少し長い耳が。

 長めに伸びているマズル(鼻梁)から、イヌ科の獣人であることは間違いない。

 ……しかし、数多あるイヌ科の獣人のなかから、僕が直感的に理解してしまった種族は──


「……そん、な」

「んん? 顔見知りではないと思うけどな。まぁいっか」


 男は元の大きさに戻った白銀の剣を腰に戻したあと、胸に手を当てて少し上半身傾けて──


「どうも、冥界警察です」


 希望が潰えた瞬間だった。

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