表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー6章ー〈煉獄〉
172/176

-171-幻影と、檻と、成長と。

 兄さんの拳が、大剣が、『鍵』を貫くところで──


「まぁ、そんな簡単には、いかない、な」


 兄さん達のパワーを利用した、綺麗なカウンターが決まっていた。兄の拳は避けられ、別の兄の大剣にぶつけられていた。

 兄の背中に大きな裂傷ができ、その影から『鍵』が飛び出して蹴りを入れた。


「……それで、何か用? 私は赤ん坊をあやすのに忙しいんだけど」

「……ふむ。その余裕、いつまで、つづくかな」

「…………」


『鍵』は面倒くさくなったのか、こちらに向かって真っ直ぐに走ってくる。


「「背中がガラ空きだなぁオイ!」」

「やかましいわ」


 立ち上がった兄さん達の追撃も諸共せず、それぞれの顔面に蹴りを入れられた。鮮血が飛び、二人が倒れる。


「……なかなかタフだね、お兄さん方」


 哀れむような目をした後、『鍵』は突撃を再開する。


 ……だが、まだだ。


「「温いっ! 温いぞぉ!!」」

「んなっ!?」


 まさか3度目はないと思ったのだろう。拳が振り向いた左肩に、大剣が右肩にそれぞれヒット──


「「なんということだ!」」

「き、消えた……?」


 切られ穿たれたはずの『鍵』は、空間の揺らぎとなって消えていった。


『全く……考えもなしに突っ込むとお思いですか』

『そんな三流山賊みたいなこと、考えてないよね! そんなわけで、撃ちまーす──ファイヤ!』


 『鍵』の消えた場所よりも遥か遠く……あれは、(やぐら)か。


「高火力の、妖術か……でも、防御は万全」


 事前に聞いた話で、『鍵』は火を得意とするらしかった。現に、飛んできているのは長細い火の塊だ。


「《アクア・スクリュー》」


 飛来するそれを、渦巻く水で巻き取り、消滅させる。煙がたつが、微々たるものだ。


『ね、ねぇ……止められちゃったんだけど』

『なんてこった……意外とやるぞ、あのメイジ』


 遠方からでも、何故かはっきりと聞こえる会話。どうやら少し焦りを感じているらしい。


『どうしよう……せっかく仕込んだ【殺人くん】も破壊されちゃったよ』

『何組み込んだんだお前』

『いや……あ、ほら見てよあれ。あそこに転がってるやつ。起動して最初に見た生き物を、殺して殺して殺し尽くすまで殺す殺生マシーンなんだ』

『そんなもんどこで……いや、まぁいっか。どうせ壊れてるんだし』


 思わず足元を見れば、何やら天使のような人形の首が転がって……片目が開いている。その目から、果てしのない憎悪……生きとし生けるもの、全てを呪う何かが見えた気がした。


「に、兄さん、それ、壊して!」

「「了解だァ!」」


 オーバーキルもいいところだが、ここまで純粋な恐怖を感じたのは久々かもしれない。あんな玩具みたいなのに睨まれて……情けない。


「兄さん、遊びは、ここまで。全力で、『鍵』を奪いに行く」

「「おうよっ!」」


 ここからでは、あの櫓に魔法は届かないだろう。対して、向こう側にはここに届くほどの遠距離攻撃が存在する。攻撃をするには、これを上手くかいくぐり、近づくしかない。


「……目標、櫓。建物を壊して、隠れ場所を、無くす!」


 ◆


『あ、こっち来るみたいだよ』

「そだね。見たところ、前衛はなかなか耐久力に自信があるみたい」


 見てりゃわかることを、わざとらしく考察する。器用にハナクソをほじるアースも、見りゃわかることを言う。


「じゃ、とりあえず動き止めますか」

『あい〜』


 アースはハナクソを飛ばす。そのハナクソはみるみる内に炎の塊となり、分裂を始めた。


『これこそ僕の必殺技!』

「必殺技こんなのでいいの!?」

『まぁまぁ見てなって。これをこうして……』


 アースは、分裂した火の玉(ハナクソ)を操り、前衛二人の周囲を囲うように飛行させた。


『《フレイム・ジェイル》』


 漂うハナ──火の玉から極太の柱が立ち上り、二人を閉じ込める檻を形成した。


「名前だけ無駄にかっこいい……ハナクソなのに……」

『いや、一応ハナクソからじゃなくてもできるけどね!?』


 アースのハナクソはいいとして。


「「なんじゃこりゃあ!」」

「に、兄さん!」

「「さっきよりもアツゥイ!」」

「兄さん!?」


 ……楽しそうだな。え、なにあれ。あんであんなに楽しそうなの? ハナクソだよ? ハナクソの檻の中で楽しそうにしないでもらえる?


「だが! この程度では!」

「まだ! 足りぬゥ!」

「兄さん!」


 メイジうるせえな。なんや弟なんか。


「「セイッ! ハァァ!」」


 人4人分くらいの太さを誇る柱に、拳と大剣をぶつけている。でもあれ火だし、実体ないし、壊れるわけが──


「おい! ちょっと火が消えるぞ!」

「おい! ちょっと穴ができるぞ!」

「「よし! もう1回だ!」」


 私はアースを振り返る。


「なにか申し開きは?」

『いやその……結局はハナクソだったわけだね』

「宝玉の中に帰りたいか?」

『ち、ちゃんと仕事はするよ……』


 縮こまるアースだが、最初に比べれば制御はうまくなった。はじめの頃はすぐに爆発させていたというのに、今ではあんな檻まで作れるのだから。


 相方の成長を喜びつつ、しかし抜けがあるところには唾を吐く。なんなら痰付きで吐く。それが、私流。


「絡めてはここまでにして、望み通りに正面から行くとしますか」

『やだなぁ……汗臭そう』

「そういうこと言わないの」


 ◆


「ハッハァ! やっと降りてきたな小娘!」

「ハッハァ! 俺達をこうも足止めするとは、なかなかやるなっ!」

「……正直、意外、だった。『鍵』がここまで、やるとは、思わなかった」

「そりゃどーも。取り敢えず死ぬか消えるか選んで」

「「死ぬのはお前で十分だ!」」


 まぁ話を聞かない。これだから脳筋は困るんだよねぇ……人のこと言えないか。


「たかが人間相手にライドは不要……【朧月】、出番だよ」

『はいな!』


 ……。


「アース、引っ込んでなさい」

『あっ、ちょっと! 強制送還はひど──』


 よし、静かになった。


 ほっと息をつくと、二人の武器は既に振り下ろされているところだった。正面から、大剣は横薙ぎに、拳は下方からえぐり込むように、そして後方では魔法の詠唱をしている。


「「とったァ!」」

「アホか」


 右手にぶら下げていた【朧月】が、重力に逆らって動く。


 変形は一瞬で済んだ。


 確か、ヤツメウナギっていう生き物が、こんな口してたっけ。輪っかの中に刃が並んだような、凶悪な削り口に、近接型二人はまんまと飲み込まれた。


「「ギャァぁぁあああァ!」」


 ギャリギャリと骨を削る音と共に、叫びとも嬌声とも言えるような声が聞こえる。


「ほれほれー、脳髄までゴリゴリいっちゃうよー」

「このっ!」


 後方から火球が飛んでくるが、これもヤツメウナギ先輩を増やして対処。難なく消滅させた。


「…………」

「万策尽きたかな? それならさっさと火を止めてほしいんだけど。ほら、お仲間はこの通り」


 いつの間にか止んだ叫び声の主たちは、頭部を著しく損傷して地に付していた。『見せられないよ!』の彼が出てきそうなくらいには……グロテスクではある。


 まぁ、そんなのは今更。大戦の記憶舐めんな。


「……まだ、だ」

「なにがそこまであなたを駆り立てるのか……分からないけど、敵対するなら容赦はしない」


 既に容赦してないけど。


「だから抵抗はやめて──」

「……《ブレイヴ・ネクロマンス》」


 細身の術師は、呟くように唱えた。


うわーん。再試確定なのですー! ってことで、もういいや書いちまえ思考の逸品でございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ