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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー6章ー〈煉獄〉
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-169-肉と、混雑と、やりすぎと。

お、お久しぶりです……学校があまりに忙しかったもんで、書くにかけず、また筆も乗らなかったので更新遅くなってしまいました(><)

 自分ではない誰かの記憶を見るというのは、なかなかいい体験だった……かもしれない。ふと現れて、そして去っていった一時は、私にこう告げていった。


『さあ、いこう!』


 どこへ、なんて野暮なことは聞かない。なにせ、あの子は私で、私はあの子だ。それが何を意味するかは、言葉にしなくてもわかっている。


 待ちわびた輝きが、邂逅の場所を照らす──


 ──────────────────────


 机に並べられた料理を、怪我人の口へ運ぶ。


「鉄分不足にはレバニラだよね」


 怪我人は、それをまじまじと見つめてから一言。


「ニラだけ抜いてほしいなーって」


 まったく、怪我人が抜かしおる。


「肉だけ生活は体に悪いぞー?」

「いや私生き物じゃないし。もっと高度な存在だし」

「偽物に殺されかけておいてよく言うよ。おら食え」


 イヤイヤをする怪我人──レギンの口に無理やりレバニラを放り込んでいく。嫌がったレバーは多めに。


「んぐんぐ……うぇぇ……にがい……」

「ニラって苦いかなぁ……」


 レバニラって美味しいと思うんだけどな。肉汁が絡んで、苦味なんか一切ないのに。


「私はねー、エネルギーになるもの……特に肉がいいなって!」

「レバーって肉だよ?」

「や。これは肉じゃない何か」


 腹に大穴開けられておいてなお元気なレギンは、レギンが死にかけた場所近くの村で、毛布にくるまっている。道中で治癒自体は終わったが、失血が酷かったので安静中だ。


 そんなレギンは、現在幼児退行をしている。

 それが何故なのかを本人が自覚しているあたり、だいぶ話がややこしくなっているのだが……

 要は、幼くして死んだ「少女」の記憶と、戦乙女候補生として修練を積んできた「レギンレイヴ」の記憶がごちゃまぜ状態らしい。精神年齢的には12歳……小学6年生相当とは本人談。


 だからなのか なんなのか、ひたすら走り回りたがる。寝ろと言っても寝ない。好き嫌いは激しい。気に入らないと泣く。そして噛み付く。精神衛生12歳と言っていたが、もっと低く見積もった方がいいんじゃないか、と思うほどの荒れようだった。

 そんなガキンチョレギンが言うには、どうもこの辺がレギンの昔の故郷らしい。死んでしまった女の子の、育った場所。


「いろいろ、思い出すんだ。一緒に遊んだ子の名前とか、私のいたずらを叱った大人の顔とか。……でね、その記憶がよぎる度に……切なくなるんだ」

「まあ、過去の人達だからねぇ」

「それもそうだけど……なんというか、釈然としないんだよね。私を殺したくて殺したのに、後で泣くなんて……あ、頭痛い」


 記憶の混乱のせいか、レギンは頭痛を訴える。私の時もそうだったけど、こうした負の記憶は処理に時間がかかる。結局はどこかで割り切らないと、精神がもたなくなって、次第に壊れてしまうわけだけど。


 …………今回に限って、これはただの言い訳だ。


「そんなこと言ってもレバニラは食べてもらうからね!」

「ウエーン!!!!!!」


 まだ完治していないというのに、レギンは窓から逃亡した。


 ◆


 体力がかなり落ちているらしく、簡単にしょっぴかれたレギンの首根っこを掴んで部屋へ戻る。再発防止のために窓には厳重にベニヤを貼り付けておいた。


「…………」

「や、お久しぶりですね」

「…………本当にな」


 そのベニヤの前で、巌のような顔をした御仁と相対しておりまする。


「私を責めるのはお門違いですからね?」

「わかっている……わかってはいる、が!」


 御仁は立ち上がり、ズカズカとこちらへと近寄って──


「あ、それ以上来ないでください。汗臭いので」

「む」


 ここでピタリと止まってしまうあたり、彼は相当不安定なのだろう。


「臭い……一国の王を、臭いなどと……」

「ネストさん、実はお豆腐メンタルなんですね」

「!?」


 そう言ってわらってやると、自分の匂いを嗅ぐのをやめて「なぜわかった!?」という顔を向けてくる鼠王。図星だったか。


「まあまあ、理由は話しますから……いい酒が入ってるんですよ」

「酒は飲まん」

「さいですか。じゃあ私はこれで──」


 すげなく断られたので帰ろうとしたところ、肩をガッされる。


「ひとつ言っておこう。フォールンの召喚には多大なコストがかかっている。聡い貴様なら──わかるな?」

「エーワカンナーイ、私巻き込まれだしー」


 実際巻き込まれな私が逃げようとするも、意地でも離さないらしい鼠王は、


「近況報告だけでもしてくれ! 風華も勝手に遠出して、面倒事が増えているんだ!」


 あら、お母様。また随分と自分勝手に生きてらっしゃる。


「あー……報告も何も、軍神に拉致られて、なんか戦乙女になって……んで、レギンは同僚で、なんやかんやあって、ネストさんのお付きになりました」

「雑だな」

「雑に話しましたからね」


 こめかみをグリグリする彼を見て、ちょっとばかり補足。


「私は現在、ヴェルさん──ヴェルダンディを追っています。もう1人、知り合いが一緒に行動しているはずなのですが……結論をいえば、彼女は、敵に回りました」

「……? すまない、話が見えん」

「そうですね。この話をするには前提としてある知識がないといけませんから。じゃ、よろしくお願いします」

「は?」

『あの……私、便利屋ではないのですけれど』


 どこからともなく現れたロープから、するすると降りてくる人影。ロープの先は見えず、異常な空に消えていっている。


『あっ……思っていたより風が強い……お、おちるぅ!?』

「もう少し落ち着いてくださいよ……」


 ロープから離れた人影が落下してきたので、【朧月】で受け止める。これは最近になってできるようになった芸当だが、頑張ればソファーなんかにも変形できるようになった。


 ……【朧月】のことはいいとして。どこまでもアナログな生活をしている修道服の彼女に対し、恭しく腰をおる。


「ご足労感謝します。ウルドさん」

「絶対思ってませんよね、それ」

「そんなことないですよー?」


 ニコニコした笑顔で答える。ウルドさんもニコニコしている。うん。冷えきってら。

 ちなみにネストさんは、口をあんぐりと開けて、2度目の女神降臨を堪能していた。


「まあ、今回の件は、下界における重要人物が関わってますから……【メモリア】」


 ウルドさんの、いつの間に掲げていた右手から真っ黒な球体が生み出される。緩慢な動きだったそれは、一切の拒絶を許さずにネストさんに吸い込まれていった。


「──!?」


 ショックの大きさから一瞬浮いたネストさんは、酸素を欲するように宙を2、3度掻いてから、パタリと動かなくなった。


「…………ウルドさん」

「…………ええ、なんでしょうか」

「…………やりすぎ、ですよね?」

「…………ええ、そのようですね」


 すまし顔のウルドさんを【朧月】で縛り付け、顔色の悪いネストさん……ちょ、死相出とるやんけ! 《全快》っ! 《全快》っ!


「ふ、ふぅ……なんとか、呼吸は安定した……かな?」

「すみません……【メモリア】、フルで使っちゃいました……」

「【メモリア】?」


 縛られしウルドさんが発した、聞きなれない単語に首かしげる。


「【メモリア】は、使用者の過去の記憶や記録を見せるものです。私たちのこれまでを、ぶつけてみました」

「ぶつけてみましたって……ネストさん、死にそうだったけど……」

「ええと、本来【メモリア】は神性を宿した者にしか使わないというのを、すっかり忘れていまして……接射すれば、なんとか制御できたんですけど」


 私は、無言で彼女に《送電》した。


 ◆


「理由はわかったけど……イマイチ釈然としないな。本当に、彼がそういったのかい?」


 ボクは、目の前に並ぶ3つの人影に問いかける。


「……そう、記憶、している」

「悪いことは言わない。彼はあまり信用しない方がいい」

「……でも、必要、だから」


 応対は、ひとつの影しかしてこない。残るふたつの影は、ただただ黙っている。僕と話しているのは、強情な影だ。なんでも、目的のために彼──バザフィールと契約したらしい。

 誠に遺憾ながら身内になったバザフィールだが、どうも底が見えない。彼が何を考えているのかは、あの醜悪な表情に隠されてしまっている。


 そんな、得体の知れないやつと契約を交わすなど……正気ではない。ましてや、超高エネルギーの何か(・・・・・・・・・・)が空から降って来たこの時期に、である。ハッキリ言って、怪しい。


「……別に、僕の、信用、なくていい。顔、出しただけ」


 訝しむボクに背を向け、去っていく影に、残るふたつも随行する。


 そして、瞬き一つの間に、消えていなくなった。

夏休み期間も、再試やら学祭準備やらで予定が埋まってしまう可能性が無きにしもあらず、という感じでございます……

課題が多過ぎるのがいけない。うん。

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