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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー6章ー〈煉獄〉
168/176

-167-別動と、仕置と、プライベートと。

 問題の起きた場所は、王都から馬車で半日はかかるであろう村だった。しかし、戦乙女の強化外装の翼は、物理的な距離などひとっ飛びだった。具体的に言うと、1時間以内には到着した。


「うん、報告書通りの惨状だね……これは期待できそう」

「期待しなくてよいわ! それより、避難所へと向かうぞ」

「え、私あんまり人前には出たくなくて」

「いいから来い」


 渋るレギンレイヴの手をひこうとするが、翼に邪魔される。


『貴様、主に気安く触れてくれるな。下等な獣の匂いがつくではないか。現にこの翼はもう千切ってしまいたい程に穢れた』

「…………」


 王としての仮面は、そろそろ限界だった。


「……ヘラクレスさぁ……」

『フン、所詮はその程度だったということよ』


 崩れた民家の影で三角座りをしていると、神界勢の会話が聞こえてくる。なにがどうして、あそこまで嫌われなければならないのか……理解不能だ。


『よいか。俺はな、ああいうメソメソした奴が大嫌いなんだ。わかるか? わかるよなぁレギンレイヴ』

「いや、あはは……どうだろ」

『見ろ! あの見え透いた内心を! 絶対心の中での一人称は「僕」確定だ!』


 べ、別にいいじゃないか!


『チッ……身体さえあれば依頼主ごとぶった斬ってやるところを……』


 物騒なことを呟く隼に対し、レギンレイヴは困惑顔だ。戦闘が好きそうな彼女のことだ、賛同すると思っていたが……


『レギンレイヴ、お前、牙が抜けたか?』

「まさか」

『……いや、お前は軟弱になった。やはりあの小娘の仕業だろうな』

「関係ないと思うけどなぁ……」

『俺を召喚した当時のお前なら、そこは食ってかかるべき場所だ』


 首を傾げるレギンレイヴだったが、ひとつ笑うと、


「毎日殺気立ってるの、疲れるし」

『……いつ死んでも知らんぞ』

「まーまー、ただでは死なないよ」


 適当な返事をしながら、何処からか取り出した剣を おもむろに投擲するレギンレイヴ。雪玉を投げるような、それでいて風を割く音は離れた僕の耳までしっかりと届いた。


「お、命中」

『ゆくか』

「だね! じゃ、王サマ……また後でね!」


 動かない僕を置いて、補佐兼護衛は勝手な行動を開始した。


 ◆


「さて、言い訳を聞きましょうか?」

「これは誤解で──」

「それはもう聞きました」


 鞭をひとふり。


「ぐぅ!?」

「そして、誤解ではないことは一目瞭然ですよね……これだけの物的証拠があるんですから」

「こ、これは資料で」

「まだ言いますか」


 鞭をかえす。


「ぬぐぉあ!」

「学びませんねぇ……まさか、ソッチの趣味がおありでしたか?」

「ンハッハッハ! これはこれでアリかも──」


 バシィッ!


「……そんなことはなかった」

「そうですか」

『ふあぁ……ねぇ、もう時期夕暮れだけど』

「何を言う。まだこのジジイは大事なことをゲロってない」


 特に意味もなくひとふり。


「ギャアッ!?」

「──どうして、私たちの入浴写真がこんなに大事にファイリングされてるのか……洗いざらい吐いてもらわないとね?」


 手首のスタップ、ひと叩き。


「ぐ、お、お……で、でき心じゃ……」

「千里眼まで使ったでき心ですか……大したものですね」

「ほっほ、そんなゴミを見るような目で見るのはやめなさ──ゴメンナサイもう叩かないでほしいのじゃが!?」

「ダメです」

「ッア──────────!?」


 老人の必死の頼みは無下にも断られた。サンキューヤーマン。


『君も君で、また楽しんでるよね?』

「そんなことない。だって、この写真の数だよ!?」

『そうだね。それを見せないために、わざわざ僕の目を躊躇なく潰すくらいだからね』


 部屋に散乱している写真たちを目にした瞬間、私のゴッドフィンガーはアースの目を貫いていた。現在彼は陥没させた、目だったものから大量の涙を流している。


『とばっちりを食らった僕からも一撃くらいあげたいんだけど』

「それはまたの機会に。私は今、被害者女性の憎悪の塊だからね」

「い、今のうちに……」

「逃がしませんけど?」


 いつの間にかロープを解いて脱出していた老人──ヘイムダルを再び拘束する。もうね、敬称なんて破棄だ破棄。なんなら口調すら崩してもいいが、怒りが頂点を超えて逆に敬語になっている。


「さて……どういった罰を与えましょうか」

「こ、このファイルだけは!」


 ヘイムダルの見つめる先にあるA4サイズのアルバムには、私の代の盗撮写真が詰め込まれており……


「ざっけんじゃねぇですよ」

「ひぎぃぃぃ!?」


 足の小指にミニアイアン・メイデンを取り付けた。某淫魔から譲り受けたものだが、こんなところで使うことになろうとは。


「わ、わかった! ここにある(・・・・・)写真は全部燃やして構わん!」

「当たり前です。同時にあなたも焼却炉に投げ込みますが」

「容赦が微塵もない!?」


 あるわけなかろう。性犯罪は殺人の次くらいに重い罪……つまりは極刑だ。


「まずはオーディンに報告でしょ。多分フリッグさんも一緒にいるだろうし、いっぺんにチクるとして……あとはそうだなぁ、誰にチクろうかなぁ……」

「オーディンだけは勘弁してくれ! できればウルドなんかにも言わないでほしいのじゃ!」


 お、それはいいことを聞いた。


「ウルドさんの写真もあるんですね。これはもう、存在抹消待ったなしですね」

「う!?」


 尋常ではない量の冷や汗を流すヘイムダルに、冷たく言い放つ。


「自我を保てるといいですね」

「ぬぐぉぉぉぉ! こんなところで死ぬわけにはぁぁ! 今いいところなのじゃあ!」


 ……ん?


「今、なんと?」

「おっほ見えた。いや、なんでもない」


 首筋に刀を添え、薄く引く。


「言え」

「レギンレイヴのスカートを覗いておった」


 どうやら、どうしても冥界に行きたいらしい。

 ミニアイアン・メイデンを追加し、なんなら額にビスを打ち込んでやった。まぁ腐りきってるジジイでも神だし、死なないからいいよね。


「む……レギンレイヴめ、3日は履き替えておらんな。いいぞ、もっと履け」

『すごいねこのおじさん。これだけの折檻を受けておきながら、なお下界の様子……最大級にくだらない内容だけど……を確認しているなんて。僕には到底真似出来ないよ』

「しなくていいし、した瞬間にコロス」

『心得てるよ……』


 とうとう気持ち悪さすら覚えてきたので、さっさとチクりに行こう。私一人で痛めつけるより、みんなで蹴った方が楽しい。サッカーとはそういう()技だ。


 地下で立ち尽くすしかしない魔王のように連行されるヘイムダルだが、残念ながらツルハシもムスメも味方の魔物もいない。ズリズリと引き摺られて、執務室へ。


 扉を開けると……


「オーディン、ちょっと──」


 声を出しかけて、ビシリと固まる。


「はぁ……疲れたよぅ……痛かったよぅ……」

「はいはい。いい子いい子」


 なんだこれは。


「抱っこ」

「はいはい」


 なんだ、これは。


「おっぱ──」

「はいは──」


 目と目が合う。

 空気は凍る。

 室内なのに風が吹き、机の資料が舞う。

 目が見えないはずのアースはスッと消えていく。

 ヘイムダルはレギンのスカート覗きに勤しんでいる。


 そんな中、私は……


「ごゆっくり」


 今世紀最大の笑顔で、退出した。


 ◆


「チィッ! 数が多い!」

『これ程とはな』

「報告書の3倍はいるよ!?」

『報告したのは無力な村民……奥まで確認出来ないのは仕方ないか』


 迫り来る犬のような生き物を両断する。返す刀で蜘蛛を撃破し、下から来る土竜を串刺しにする。


「はぁ……もう、消し飛ばしてぇ」

『魔法が使えないと、こうなる』

「う、うるさいな!」


 鹿を撃破し、背後の蜥蜴(とかげ)も粉々にする。


「私は近接戦特化なの!」

『の割には、小娘に負けていたではないか』

「あれ!? この間気にするなって言ってなかったっけ!?」


 そんなくだらない会話をしつつも、四方八方からやってくる敵意丸出しの生命体を斬っていく。こいつらは絶命すると死体を残さずに消えるので、視界が悪くならなくて助かる。


『比較はするなとは言ったが、追いつくべき目標にはなるだろう?』

「目標かぁ……なんだか、遠くに行っちゃったよね、藍波ってさ」

『知らん』


 手応えのない小型を斬り殺すのも飽きてきた。いい加減親玉が出てきて欲しいところだが……


『二時の方向、砲撃だ』

「了解っ!」


 翼を使って逆噴射し、宙に躍り出る。

 勢いそのままに、飛来する砲弾を拳で撃ち抜く。


「鉄拳制裁っ!」

『脳筋ここに極まれり、だな』

「やかましいよ!?」


 筋力極振りに描かれやすいヘラクレスにそんなことを言われたってねぇ……


『そら、うかうかしてるからまた増援だ!』

「うわぁぁん! もうおうち帰りたーい!」


 もう仕事とか全部投げ出して帰っちゃってもいいかな? いいよね? だってこんなに面倒だとは思わなかったんだもん。私はね、対人戦が好きなの。人型なら日が暮れても戦ってられるのに……


『──! 避けろ!』


 早くもホームシックになっていると、ヘラクレスが焦ったような声で回避を促してきた。


「え? 攻撃は来てな──」

流れ弾(・・・)だ!』


 ヘラクレスの忠告虚しく、私は──

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