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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー6章ー〈煉獄〉
164/176

-163-面子と、器と、変貌と。

6章……開幕。

 どのくらい、経っただろうか。

 どのくらい、歩いただろうか。

 どのくらい、殺したのだろうか。


 ん……? なにを……?


 いや……そうだっタ。


 なにもかも、自分のせいではないか。


 この暗闇も。

 コノ涙も。

 コノ胸ヲ締メ付ケル痛ミモ!


 全部、ゼンブ──


 壊シテシマッタ……ジブンノセイ、ダ。


 ◆


「うーん……やっぱり釈然としない部分があるよね」

「…………」


 医師からそのまま切り出したような卓に一同が会した場ではあるが、その頭は不在だ。さっきまでその不気味なまでの気配は感じていたんだけど、言いたいことだけ言って消えた。気ままな人だ、全く。


「僕としては正直、おかえり願いたいんですけどねェ……」

「それができたら苦労してないし、むしろ君らが消えてくれた方がボク的にはありがたいんだけどね」


 別に、あの時のことを掘り返すつもりは無い。ボクは彼らの的に回った。だからいずれ、間接的にでも殺してしまうのだから。


「だからどうか、その目で見ないでくれ。首を掻っ切ってしまいそうだ」

「ほほぉう? 随分と気性が荒くなられたようだ?」

「君、ボクのことを欠片も知らないだろう。いいから、その薄汚い口を閉じるんだ」

「…………そのへんで」

「君は君でなんだ、相も変わらず喋らないね。ボクのツレとキャラ被ってない?」


 種族こそ違うが、背丈も性格も似ている。腹違いの姉妹と言われたって信じそうな勢いだ。

 そんな片方……組織的には先輩の方の黙りキャラが僅かに口を開く。


「……直に、始まる」

「ハッ、なにそれ。気取ってんの? 主語と述語をちゃんと並べなさいって、先生に教わらなかった?」

「……学校には、行ってなかったから」

「あー、そういうこと言ってるんじゃないんだけどね」


 このセンパイはイマイチやりづらい。

 こちらがどれだけ言葉を噛み砕こうと、その意図が伝わっているのかが不明なのだ。唯一の救いは、戦闘に関しての素質は高いということか。


 対して、さきほど黙らせた男は、これまた違った意味でやりづらい。いちいち人の神経を逆なでしてくる声と、そうなるように仕向けるような言葉選びが気に入らない。


 もういいかな、首切っちゃっても。

 いやいや、一応必要な駒だって言ってたし、我慢我慢。


「で、だ。ボクらはここでバカみたいに座ってるわけだけど……何をしたらいいんだい?」

「……何もしない」

「は?」

「……始まるまで、何もしない。それが、主の望みであり、命令」

「はー……なるほどね。ここでみんな揃ってお行儀よく体育座りしてろと。へーそうですか。じゃ、ボクは出かけてくるね」

「……話、聞いてた?」

「少なくとも君よりは聞いてると思うよ」


 傘下には入った。が、屈してはいない。それが何を意味するかというのは……言わなくてもわかるだろう。


 ボクは不格好な卓を立って、その場をあとにした。


 ◆


「さて、出かけるとは言ったものの、何をしようかね」

「……無計画だったの?」

「だってあの空間にただ座ってるのも良くないでしょ?」

「……それはそうかもしれないけど」


 隣を歩く彼女は少し不満げだ。そんなにあの趣味の悪い部屋が好きなのだろうか。意外、かな。


「やることもないし……魔獣でも狩って訓練しますか!」

「……私は見てる」


 最近の彼女はずっとこうだ。

 誰かの戦闘中は、絶対に手を出さない。それをただ傍らからじっと見ているのだ。その目はなんとなく、不快感を覚えるものだった。


「別にいいけどさ。もーすこし、節度をもってね」

「…………」


 だめだ。全然聞いてる気がしない。

 あの話を聞かない連中も同じだけど、どうもボクとはそりが合わない奴が多い。ついこの間までは──


 ……いや、いままでベストマッチだった彼女が異質だったのか。


「まあいい。おえつら向きにクラッシュ・ボアだ」


 餌を探しているのか、地面をしきりに嗅ぎ回っているクラッシュ・ボアにターゲットを合わせ──


 次の瞬間には千切り状態になっていた。


「使うまでもなかったか」

『主殿が速すぎるのです』

「違うよ、逆だ。向こうが遅すぎた」


 するりと現れる片目の切れたイタチにそう簡潔に答え、世辞を一蹴する。以前のボクなら、ここで増長のひとつでもしていただろうが……


 ボクには倒すべき敵が……沢山いるから。


 こんなところで満足するわけにはいかない。

 もっと強い敵を。もっと手ごわい敵を。


 もっと────高みへ到れるような敵を!


『生き生きとしていますね、主殿』

「そうかい」


 あくまでも世辞を並べたがるイタチは放っておき、ボクは次の敵を──


「……これはすごいものを見つけてしまったよ」

「……報告に戻る。運搬は任せた」


 翼を広げ、爆風を残して来た道を戻るツレに溜息をつきながら、ボクは見つけたモノを肩に背負い、ゆったりとそのあとを追った。


 ◆


「……ん。準備は出来てる」

「ごくろーさん」

「まさか本当に見つけてくるとはねェ……一体どんなテを使ったんです?」

「うるさい黙れ。それ以上ボクに近寄るな……反吐が出る」

「ヒャハッ、嫌われたものですねェ」


 背負ったモノを寝台に下ろし、状態を確認する。

 ボクは専門ではないので、癪だが彼に一任しなければならない。


「フゥム。ウツワとしての状態は良好ですねェ……侵食度が実にいい」

「……詳しく説明を」

「ああ? 細かい事言って理解出来るアタマ持ってんですか? 専門用語を噛み砕くのには無理があるんですがねェ」

「……そう。ならいい」


 おお……あの煽り文句を全スルーだと……? 見直したよちびっ子。君の精神力はボクよりもはるかに高いようだ。


「ま、低脳のことは置いておくとしてですねェ。僕らの目的に、また一歩近づくことができました」

「それは見ればわかる」

「チッ……ええと、ですから、主に連絡を取ろうと思います」


 そんな分かりきった結論を今ここで聞かされる身にもなってみろ。時間の無駄だろう。

 というか、発見者であり運搬もしたボクを差し置いて音頭をとるとは何事だ。


「……じゃあ、お願い。バザフィール。あなただけの魔法を見せて」

「言われずとも。僕以外にこの魔法が使えてたまるものですか」


 この腐れ道化──バザフィールは短い詠唱で魔法陣を多重に生成させ……門のようなものを作り上げた。その門からは、おぞましい程の憎悪や怨念と言ったものが溢れていた。


「僕にできるのはここまで。ではティナ嬢、奥へ」

「……ん」


 門の中へ消えていくティナの足取りは確かなもので、迷いなど一切感じさせなかった。

 ボクらに仕事はない。未だに、下働きかアルバイトくらいにしか思われていないのだろう。


 ……だがまあ、それもいい。

 せいぜい、一時の昇進に心踊らせるがいいさ。


 ◆


 ……うん。

 今日は天気がおかしい。


 いやまぁ、おかしいなんてもんじゃないんだけどね?


「空は赤く染まり……海は裂け、大気は乱れ、地は噴く。こんな日こそ、紅茶を飲んでカタカタしてたいものだな」

「怯えてるじゃん、それ」


 話している相手が、こんな状況で紅茶片手にカタカタするような人ではないと知りながらもツッコミを入れてしまう。


 でも、彼──オーディンの言っていた状況は本当のものだ。下界では現在、大規模な自然災害が各地で発生している。地震、津波、噴火、台風、吹雪、豪雨、炎天……


 神界に関しては直接的な影響こそないものの、空は赤黒く染まり、拍動していた。


「ついに動き出すのか……終末が」

「まだ動かないよ。まだ。私たちは、腹の中を見てるんだから」

「は……?」


 恐らくは……器が届いてしまったのだろう。そして、その中に入ってしまったということ。誰のせいかというのは……考えたくもない。まだ産声は上げていないようだが、それも時間の問題だ。


 赤黒い空は、その時が待ち遠しいと言わんばかりに鼓動を早めていた。



6章開幕でございます。

いやはや、そろそろ切り替えねばネタ回がずっと続いてしまいそうでし怖かった……逃げだと笑わないでほしいのです|ω・)

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