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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
163/176

-162-羽と、ビットと、ちびっ子と。

 体の感覚はない。

 しかし、それでも歩かねばならないと、自分ではない誰かが遠くで囁いている気がして、浮くような足取りで進み続ける。


 ──光は、まだ見えない。


 ────────────────────────



「…………」


 腕の一振で放たれる無数の銃弾の雨の中を、盾を傘にして突き抜ける。そのままの勢いでシールドバッシュを──


「転移か」

「なかなか便利なのです」


 楽しそうな声とは裏腹に、飛来する銃弾たちは殺意の塊だった。

 盾は端の方から徐々に削られていき、身を隠すほどに大きくしたはずのそれは顔面を覆うので精一杯なくらいまでに破壊された。


「──【朧月】が」

「《イマジナリ・レイ》」


 途端、実弾でも妖力弾でもないものがしたたかに私の身体を蹂躙する。アースのライドが間に合わなければ、今頃私の身体は蜂の巣だ。


「さすが、お姉さま。受け切ると信じていたのです」


 何でもないようにニッコリと言ってのけるリリィを見据え、今の攻撃について軽く考察する。

 実弾は言わずもがな、妖力弾は目で見ることが出来る。細く収縮されたエネルギーが回転を加えて発射されるのだが……


 今回の攻撃は、見えなかった。


 だというのに、氷の鎧には所々に鈍器で殴られたようにへこんだ跡がある。


「ライド込みでこの攻撃力、しかも不可視か」

「さーて、メカニズムはなんなのでしょう!」


 相も変わらず楽しげなリリィ。


 …………。


「ヒッ……お、お姉さま……お怒り、なのです?」

「何を言ってるのリリィ。怒る? そんなわけないじゃない」


 打開策? どうだっていい。

 あるに越したことはないが、それがあったとして対処できるかは別の話だ。


 自然と上がる口角を認識しつつ、私は【朧月】を再生させる。形状は──


「なんか面白いですね、それ」

「でしょ?」


 長めの細剣に刀を背中合わせに二本取り付けたような形状のモノ。これで何をするかというと……


「ファ〇ネルっ!」

「え……ええっ!?」


 刀二本がぬらりと鎌首をもたげ、それぞれが意志を持ったように動き出す。


「くっつけた意味はないっ!」

「してやられたのです!」


 どちらかというとソードビットだが、細けぇことは気にしねぇ。だってビーム撃てるし。


「ちょっ、さすがに分裂は反則なのです!?」

「ちょっと消し炭になっておくれ」

「お使いを頼むみたいに言わないでほしいのです! 流石にお断りさせてもらうのですっ!」


 二本から四本に増え、不規則にビームを放つビットに翻弄されつつも、その一つ一つを確実に躱していくリリィ。見れば、その背中には薄い羽のようなものが生えていた。


「リリィ、その羽って……」

「妖精の特権なのです! 短距離なら飛行もできるのです」


 会話をしながらも攻防は止まらない。リリィも慣れてきたのか、ビームをビームで相殺してくるようになった。


「……やっぱり、肉弾戦なのですか」

「私は元々こっちの方が好きなんだけどね」

「爪拳の取り回しも波旬さんに教わったのです……できる、できるっ!」


 毎度思うが、波旬さん万能すぎるだろ。魔王ってそんなに多芸なの……?


「滅魔射法、二百五十六式っ!」

「ちょっと待ってツッコミどころが多すぎる!」


 まず魔王から滅魔の技を教わるのはいかなものか。自分を倒せと言わんばかりの阿呆っぷりだ。

 そして構えているのは爪拳なのに射法って。ロケットパンチとか飛んできそうで怖いわ。

 最後に……改良しすぎじゃない? 256回も改良したら、それはもう完全に別物だよ!


「隙を見せましたね!」

「度肝を抜かれすぎてね──本当にロケットパンチが!?」


 爪拳の付け根部分から火を噴射してこちらにカッ飛んでくる爪拳を見てさらに戸惑う。どうしよう、どう考えたって頭がおかしい!


「とりあえず迎撃を──」

『後ろ! 転移してくるよ!』

「っ!」

「流石に鋭いのです」


 屈めた体の上を凪いでいく 爪拳の片割れの風切り音を聞きながら、今度は攻撃に移ろうとする。が、私が体制を整えるまでにリリィは離れた場所まで転移していた。


「く……チマチマと……」

「卑怯 に嘘、罠にハッタリ。なんでも使うのが魔王流なのです!」


 魔王サイテー! いや人のこと言えないけどさ!


「突然隣に立たれる恐怖を味わぐえ」

「同じ手は食らわんさ」


 ロケットパンチを放ちながら転移してきたリリィの鳩尾を左拳で捉える。くの字に曲がっていることから、全くもって受け身が取れていない……

 そもそも、主兵装である銃が自律稼動中で、しかも足止めを食らっているとあれば、自分の脇に転移しますよと教えているようなものだ。


 綺麗な弧を描いて吹き飛ばされたリリィは猫らしく宙で体制を立て直した。羽も使ったせいか、少し猫感は薄れていたけど。


「ふ、ぐ……妖精化してなかったら死んでいたのです……」

「そんな殺傷力はないんだけど」

「いえ、あれは一般人なら死ぬのです!」


 む。私はなるべく一般人に手を挙げないようにしてるから、試したことは無かったっけ……今度メルゥあたりにぶちかましてみるか。


 流石に効いたのかヨロヨロとしているリリィだが、まだやる気のようだ。そうこなくては面白くない。


 細剣を構え直し、今度はこちらから突っ込んでいく。リリィは転移をせず、迎え撃つようだ。

 駆けながら細剣を引き絞っていき──間合いに入った。


「しゃあっ」

「──っ」


 細剣はその特性として、攻撃面が一点に絞られる。構え方によっては、空間に溶け込んで見えないものなんてこともあるだろう。


 まさに、今がそれだ。


 落ち着いて手元を見れば大体の予測はつくだろうが、ぶっ飛ばされたあとでそれを言うのは流石に酷だろう。加えて、私は細剣を極限まで細くさせているので、よほど目が良くなければ見えまい。


 ま、模擬戦だし……ということで、細剣の先が彼女の身体を貫く前に【朧月】を放り捨てた。


 放り捨ててしまった。


「「──!?」」


 先に言っておこう。敵襲ではない。

 単純な、私のドジだ。


 何が起きたかというと、突っ込んだ勢いそのままにリリィを押し倒した挙句、どういうわけか服の中に手が滑り込んでいた。そして膝が当たる先は……どこだろう。全然わからない。


「お、お姉さま……」

「や、ちょっと止まれなかったわ」


 たはは……と笑ってはみるものの、一歩引いた視点から見ればこれは完全に事案だろう。ほら、ゼノヴァが顔を真っ赤にしてる。


「こ、こんな昼間っから……そんなふしだらな!」

「見てたんならわかるでしょ! 事故だよ事故!」

「でもまだ手はリリィちゃんの肌の感触を楽しんで……」

「わ、私としては嬉しいのですが、こういうのは夜中に、ワインを片手に……」

「いっつも暴走してるリリィが言うかそれ!?」


 バッ、と服から手を引っこ抜けば、「んっ!」などと艶めかしい声を上げるリリィ。とりあえず顔面にチョップを落とし、いつまでも「はわわ〜」してるゼノヴァにデコピンをかます。


「戦闘直後とは思えないくらいの和やかさだよねー」


 ゴミの塊の上に座ったスクルドさんが、頬杖をついて足をプラプラさせながらそんな感想を述べる。……絶対汚いだろ、そこ。なんか汁が垂れてるし。


「毒気は抜かれちゃったのです」

「相変わらず、緊張感が足りてない気もしますが──」


「あ、いたのか」というくらい黙っていたカッシュくんが口を開くが、なぜかゼノヴァに睨まれていた。まさかゼノヴァもフリストと同じように男性嫌いなのだろうか。


「ゼノヴァ?」

「あ、いえ。チビのくせに生意気な口を聞くなと思いまして」

「「!?」」


 これはカッシュくんに向けられたものだろうが、隣でリリィまでショックを受けている。妖精と眷属は揃って膝をついた。


「妖精に昇華しても身体的変化は見込めず……ぐすっ、わかっていたはずなのです。こうなることは……」

「ハハ……イースさん、僕の魂、今なら簡単に取り出せそうですよ?」


 リリィは体中の水分を目から流し始め、カッシュくんはエクトプラズムを吐き始めた。あの様子ならば霊媒師でなくとも捕まえられそうだ。


 突然始まった模擬戦は、ちびっ子二人の撃沈によって幕を閉じた。


恐らく次回あたりで章が切り替わります。

せっかくの神界なのに地下生活が大半という章でしたが、いかがでしたでしょうか(^^;

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