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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
161/176

-160-戦いと、逃走と、罰掃除と。

「しゃおらァ!」


 風を割く一撃。


「なんのぉ!」


 それを、難なく返す。


「くっ……! 間に合え──!」


 ……ポトッ


「ポイントー。7-0」

「なんで取れないの!」

「ふはは、スマッシュしかしようとしない脳筋とは違うのだよ!」

「キィー!」


 無慈悲な審判を下す眠目のエルルーンに対して抗議をはじめたレギンを私は一蹴する。

 ハンカチがないのでトレーニングウェアの裾を噛んでいるが、乙女としてそれはどうなのだろうか……。


 あ、バドミントンの話です。


「そぉいや!」

「ジーク!」

『よし来た!』

「エインヘリヤルはずるいのです!」

「……これが私の全力っ! そのミニマムサイズの身に刻みなさい!」

「やかましいのです! タッパに関しては大して差はないのです!」


 隣のコートではリリィとミストが激しい攻防を繰り広げている。何故かミストの傍らにはジークフリートが縮小サイズのラケットを持って飛んでいる。

 リリィもリリィで、【パピヨン・レイ】を使って敵陣を穴だらけにし始めているのでどっちもどっちだ。


「はぁ……エルルーンが天使すぎてつらい」

「そう。よかったわね」

「そんな素っ気なくしないで聞いてよヒルデ! エルルーンはね!? それはそれは可愛いの──」

「はいはい……」


 阿鼻叫喚のグラウンドの脇で、静かに本を読むヒルデにフリストが絡んでいた。エルルーンの素晴らしさを無限装填のマシンガンのごとく語っているが、それを受け取る側のヒルデは鬱陶しそうだ。


「…………」


 彼はただの彫像。口を開いた瞬間に嫌悪の視線を向けられるので堪えているようだ。いや、そもそもこの彫像には口などなかったのではないか? と、そのくらい無言だ。


 覚えてはいたが、取り敢えず頭の隅に置いていた人物達は、リリィの話を聞いたあとで帰ってきた。

 言い訳は明日聞くと伝えてあるので、今日はこの通りはしゃぐことにしたのだ。


「はやく打ってよ」

「うるさいなぁ……本当にうるさい。もうレギンの口を縫い付けるか接着剤でガチガチに固めてしまいたいくらいにうるさい」

「なんだと!」

「ほれ」


 サーブに余計な力はいらない。ただ角度を合わせて当てるだけで、前の方に入るのだ。

 相手の集中が乱れていればなおのこと。


「ポイントー。8ー0」

「ああっ! なんて卑怯な!」

「それ」

「んおぉ!?」


 むっ。今度は取ってきたか。反射神経だけはいいんだよね、反射神経だけは。


「イリュージョンっ!」

「なっ!? シャトルが炎を纏って……!? しかも多数!? これじゃあどれが本物かわからな──」


 よくある漫画のやられ役みたいに解説をしていたレギンは《狐火》によるイリュージョンメテオをモロに食らった。穿たれていく地面に、レギンが埋もれていく。


「覚えて──ぐえっ」


 カエルが潰れるような断末魔のあと、そこにはヤム……レギンの死体が転がっていた。南無三。


「はい、せんとーふのー。藍波のかちぃー……ふぁあ」


 勝利宣言も眠そうに行うエルルーンを見てフリストが卒倒するが、隣にいるヒルデは無関心を貫いている。むしろ「やかましいのが減った」くらいに思っているかもしれない。


「こ、れで……!」

「くぅ……残った足場はここだけか……ジーク、ライドを!」


 残るワンコートも いよいよ大詰めか。

 ミスト側のコートは足場が1箇所しか残っておらず、対するリリィはなぜか服がボロボロになっていた。どうして切り傷があるのかを小一時間程問いただしたい。


「このサーブで……」

「くっ、眩しい!」

「サンライト・サーブっ!」


 シャトルに眩い光球がくっついて放たれる。

 ……そんなことよりも、ネーミングがダサいっ!


「これじゃあどこに落ちるかわからな……」

『こっちだ!』


 ミストの持つラケットがひとりでに動き、持ち主を移動させる。咄嗟に宙に羽ばたいたミストは、ラケットに頷きを返してその身をゆだねた。


『今だ! 直上から打ちおろせぇ!』

「せやぁぁぁぁぁ!」


 これぞヴァルキリーという感じで雄叫びをあげているが、これはバドミントンだ。


「なんて鋭い返し……しかし、負けるわけには行かないのです!」


 リリィはショットガンを連射させてシャトルを捉え、威力を散らした後にファ○ネル状の銃で細かく射撃し、徐々に上へと持っていく。


「さぁ……お姉さまの隣に相応しいのはどちらか……これで決めるのです!」

「私の方が相応しいんだから!」

「よく吠えた勇者よ! その武勇に免じて、全力で叩き込んでやるのです!」


 猫妖精が魔王のようになっているが、これはバドミントンだ。


「「おおおおおおおおおおお!!!」」


 爆風が、闘技場を支配した。


 ……………………………………………………………


 ……結局、対戦車砲vs竜戦士は、コートの破損と審判の怪我により判定不可となった。

 私は全力で見てないフリを決め込んだし、リリィたちも深くは追求しなかった。


 ……その代わり、この2人に妙な絆が生まれたのは言うまでもない。


 ◆


「おねぇぇぇぇさまぁぁぁぁぁ!!!!」

「藍波ぁぁぁぁー!!! 待っ、待ってぇぇぇぇー!」


 翌朝、朝風呂でも浴びようかと部屋を出た瞬間に変態に襲われた。仕方なしに風呂は諦め、廊下を爆走する。


「お願いだから来ないでえぇぇぇぇ!」

「「NON!」」


 多数決によりこの議題は否決されました。


「「「うおおおおおおおおお!!!」」」


 ダカダカと朝っぱらから騒音迷惑もいいところだが、こうでもしないと私の貞操が危ない。

 ヒルデに見つかると厄介なのでその道は迂回するが、どこで出会うかなんて分かったもんじゃない。


「ちょっと」

「ほら言わんこっちゃない!」

「待ちなさい!」


 運良くT字路だったから良かったものの、これでハンターは一体追加された。ミッションはまだ来ないのかっ!


 と、曲がった先は寮長の部屋のある廊下だった。

 そしてその扉が機嫌悪く開け放たれ、そこから出てきたのは いつもわふわふな彼女だった。


「朝からバタバタ、うるさいんだよっ!」


 ハンター諸共、全員が足から凍りつき……


「全員、風呂清掃だよ。いいね」

「「「ふぁい……」」」


 逃走、失敗。


 ◆


 互いを責めつつ風呂掃除。

 湯はすべて抜かれ、いつも薄白い煙で充満している風呂場は視界がとてもよかった。


 罵りあいに疲れ、馬鹿建築ゆえの掃除範囲の広さに愕然とし、しかし必死にデッキブラシを駆使して掃除を進める。


 なぜって、そりゃあ……


「…………」


 見たことないくらいに不機嫌なフェンリルが、腕組みをして足をトントンしてるからだ。たまに聞こえる唸り声がとっても怖い。


「3階、終わったー」

「ふふん、手伝ってあげた優しい私たちに感謝なさい」

「ああ、フリストにエルルーン……本気で助かるよ。ありがとう」


 素直に例を述べると、照れくさそうに頬やら頭やらをかく二人。

 なんとも和やかな光景だが……次の瞬間、すべてがぶち壊される。


「……りなおし」

「えっ?」

「やり直し! 垢が全っ然取れてないんだよ!」


 いつの間に見てきたのか昇降板から降りてきたフェンリルが厳しい事実を突きつける。


「なにより……なんで、粘性のある液体が大量に──」

「「やり直してまいりますっ!」」


 そんなこったろうと思ったよ!



……さて、なんの液体でしょうね。

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