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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
159/176

-158-刀技と、魔境と、追跡と。

 専攻である片手直剣、双剣、両手用大剣ではなく、刀。

 彼の隠し玉であり、最終兵器。しかし、公式試合では決して抜くことのなかった獲物。


 それが、道場内では普通に抜かれるのだ。いや、抜いたと思っ瞬間には床とアツいベーゼを交わしているので、その刀身を拝むことはなかなかできなかったが。


 ……刀身の話はどうだっていいのだ。問題は、その放たれた技の方。

「抜刀《咬牙》」、並びに「返し刀《衝破》」は、師範の我流一刀の奥義だ。基本的にセットで使われ、捉えた相手を地面に叩きつけるのに使われる。

 昔からなんどもなんども食らっては気絶を繰り返してきたが、そのうち防御が間に合うようになっていったというのに……ぬかった。

 まさかメアがあれを使ってくるとは思わなかったし、ライドをしたのかしてないのかよくわからなかったというのも敗因のひとつか。


 ともあれ、これで二人の意思がわかった。わかってしまった。


 ……あの二人は、完全に人類を──世界を、裏切ったのだと。


 ◆


「ふわぁ……広いのです!」

「広さだけはすごいんだよね。もう少し『寮』としての自覚を持ってもらいたいものだよ」

「それ、『天の楔』のてっぺんに温泉作ったお姉さまが言います?」

「いや、ほらあれは突貫工事だったから」


 リリィとお風呂なう。

 扉を開けた先に広がる大浴場に目を輝かせつつ、私が過去にやらかしたあの建築物……『天の楔』について言及してくる。


「そういえばザックたちは元気?」

「少なくとも一年前は元気だったのです」

「会ってないってことか……。ん? でもそうすると、リリィたちはどこにいたのさ」


 昇降版に乗って2階へ。疲労回復に優れた温泉に浸かりながら、そんな疑問をぶつける。


「私たちは魔境にいたのです」

「へぇ、魔境に」

「妖精になるための遺跡があってですね。色々試練を突破しないといけなかったのです……ああ、思い出すだけで目眩が」

「ここで目眩はシャレにならないからね?」


 確か日本の死亡ケースの大半が浴室での溺死とかなんとか。いや、でもあれは急激な温度変化による……どうでもいいか。


「その遺跡でお世話になったのが、波旬さんだったのです」

「そういえばチラチラ出てきてたねその人。誰?」

「魔王様です」

「────」


 なんでもないようにサラリと言ってのけるリリィに目を見開いて固まってしまう。言葉も出ないとはこのことか。


「波旬さん、気さくな方でしたよ。なにかとお手伝いしてくれたりしたのです」

「ま、魔王にお手伝いさせたの?」

「というか向こうが勝手に手を焼いていた感じなのです」


 すごいなそれ……魔王手ずからお世話するなんて。いやその魔王がどんな人かは知らないんだけどさ。


「波旬さんもいろんな武器を使う方でしたが、あの……なんでしたっけ。あのトカゲ」

「トカゲ……メアのこと?」

「ああそんな名前でしたねあのトカゲ。そのトカゲは波旬さんよりも抜刀速度が速かったのです」


 龍人をトカゲ扱いするケット・シーは、そのトカゲに対して対抗心を燃やしているらしい。爪をかんで、憎々しげな顔をしている。


「尊敬する人より優れる者がいてはいけないのです……それはお姉さまも同じ。なので、次にあのトカゲに出会ったらソッコーでぶっ殺すのです」

「ぶっ殺……いや、まあそうだね。メアは裏切ってしまったのだから、それは仕方がないかも……」


 自分で口にしておきながら、どうも釈然としない気分になる。メアは本当に裏切っていたのか。ベルは相変わらずよくわからないけど、メアに関しては無口な分、態度に出やすい。


 度々会って、人間嫌いを克服しようとしていた時の事だ。少し思うところがあって、彼女に甘いケーキを与えてみた。彼女はいつも通りぶすっとした顔だったが、ちょこっと生えている尻尾がゆらゆらとご機嫌に揺れていた。


 また別の日。今度は物陰から脅かしてみた。すると、彼女は表情こそいつも通りだったが、髪の毛を逆立てさせ、尻尾はピンと伸ばされていた。


 つまりだ。

 彼女と話す時、その心の内を読み解きたい時は、顔を見て話してはいけないのだ。それ以外の僅かな変化……主に尻尾。これの挙動を解析する。

 あの時のメアの尻尾は、一体どうなっていた……?


「リリィ」

「なんでしょうか」

「メアの尻尾、見た?」

「えーと……よくは覚えてないのですが、ずっと股の間に挟んでいたような気がするのです」


 ふむ、やっぱりか。


 狼や狐なんかはしゅんとすると尻尾を股の間に挟むらしい。狐人なのにらしいというのは、実際に見たことがないからだ。

 それはそれとして、もしそれが龍人にも当てはまるとしたら。


 彼女は、あれだけの戦闘をしながら「しゅん」としていたわけだ。必殺の抜刀術を使ってなお、どこか気になることでもあったかのように。


「……まぁ、考えてても仕方ないか。変に敵対心を弱めると、足元をすくわれかねないし」

「もちろんなのです。エネミー・イズ・デス! 敵は殺してなんぼなのです」

「あ、あはは……」


 リリィさん、いつの間にか極道みたいになってる。変わってないと思っていたけど、奴隷として売られる寸前だった頃の彼女は、もはや見る影もない。

 言い換えれば、たくましくなったとも言えるけど。


「あれ……? 藍波、誰その子?」

「あ、ミス……ト……」


 昇降版に乗って現れた学友に普通に挨拶をしようとして……ピシリと。


「あん? 誰ですかこの女」

「何この子、可愛いっ!」

「ちょ……私に触れていいのはお姉さまだけなのですっ!」

「わ、私は体洗ってくるねー……」


 ミストはリリィをおもちゃ扱いし始めたが、私はこのあとに怒るであろう修羅場を察知して、そそくさと昇降版へと逃げようとする。

 が、そうは問屋が卸さない。


「洗い場は各階にあるでしょう」

「ヒルデ……最悪のタイミングだよ」

「私、あなたの言う『最悪』がトラウマレベルに恐ろしいのだけど」


 とにかく別の階に移動せねば、と昇降版に向かった矢先にヒルデと出会う。彼女のトラウマは、私が骨兄貴になった時のセリフが原因だろう。


「と、トイレ! そう、トイレに行きたくって!」

「……そう? なら急がないとね」

「でしょ!?」


 ヒルデが訝しみながらも昇降版から降りる。もうなりふり構ってはいられないので、即座に昇降版に飛び乗る……前に降りていってしまった。おい! ふざけんな!


 そして上がってきたのは……


「藍波、風呂に入る前にトイレいってたよね。もしや月のもの?」

「こんなとこで何聞いてんだ! いい加減デリカシーというものを学んでくれ!」


 学園きっての馬鹿、同室のレギンだった。

 女子同士の会話だからと気安くこういうことを聞いてくるけど、気持ち悪いオジサンみたいなので本当に勘弁して欲しい。


「とにかく逃げねば!」

「何から逃げるのー?」

「わ、みんな来てるんだ。混んでるなー」


 いつの間に降りていったのか、再び人を乗っけて上がってきた昇降版には、眠目のエルルーンと、人の多さにげんなりしているフリストだった。

 こいつらは害はないにしろ、群れると面倒臭い。なにしろ会話が途切れないのだ、逃げられるはずも……ないっ!


「そういえばなんか見かけない人がいたねー」

「確かに……なんかでっかい盾を持った男の人がウロウロしていたような……?」

「気のせいだよ! そんなイエティみたいなのはいないの!」

「「イエティ?」」


 しまった、墓穴掘った。


「ねぇ、イエティってなに?」

「きっと可愛いんだよね?」

「いや……あはは、雪山に行けば会えるんじゃないカナー」

「「詳しく!」」


 だ、だめだ……この包囲網からは逃げられん! 仕方がない……強行突破──ッ!


「お姉さま」

「藍波……?」


 風呂場が凍る。空気的な意味ではなく、物理的に。カチコチに。レギンが氷の彫像と化すくらいに。


「「これはどういうことか、説明を」」


 私は今あるすべての力を持って、風呂場を脱出した。


 ◆


「……もう行った?」

「まだ足音がします。喋らないで」

「うう……何でこんなことに」


 バタバタと複数の人間が走り回ることが聞こえる。私を探すものは四人。どれも強敵だ。


 ~選手紹介~


 No.1 リリィ

 解説:彼女はね。それはそれは恐ろしいよ。なにせ、僅かな匂いの残滓、呼吸音、ホコリ一個ですら見つけ出して迫ってくるからね。まあ相手が限定されすぎているのが難点だけど、今回見つけるのはその相手だし、大会優勝も待ったなしだ!


 No.2 ミスト

 解説:彼女はね。それはそれは怒り狂ってるよ。なにせ、気付かぬ内に恋に近い感情を抱いていた相手に妹分がいたなんて……話には聞いていたようだけど、実際に会って感情が爆発してしまったみたいなんだ。既に竜戦士状態で破壊の限りを尽くしているね。後始末が大変そうだ!


 No.3、No.4 フリスト、エルルーンペア

 解説:彼女達はね。それはそれは面倒くさいよ。なにせ、彼女達は二人以上になった瞬間、「なぜなにちゃん」になるからね。気になることがあると人のプライバシーの奥底まで根掘り葉掘り聞いてくるんだ。特に許せないのがエルルーン。彼女は質問を大量にする割に、その話が長いと居眠りを始める。なんてやつだ! フリストはただおしゃべりがしたいだけだからまだマシだけど、捕まったら夜は眠れないぜ……?


「……なんで実況風なの?」

『気分だよ気分』


 念話で追跡者の解説をしてくれたアース。脚色こそされてはいるが、大体あってるから恐ろしい。


「お姉さまの声がしたァ!」

「逃がさないからねぇ!」

「「イエティィィ!!!!」」


 怖すぎんだろコイツら。


「カッシュくん! ずっとそこにいますが、まさかお姉さまを隠してはいませんね!?」

「い、いませんとも」

「もしそれが嘘だったら……」

「…………(ゴクリ)」


 ま、まって! すごーく嫌な予感がっ!


「イースさんの元へ、魂だけ持って行ってやるのです。あ、ご安心を。肉体はちゃぁんとチリに変えておくのです」

「ここにいますよっ!」

「ナイスなのです!」

「ちっくしょぉぉぉ!」


 カッシュくんめ! あとでおぼえてろよぉぉ!


 ◆


『追加だね』

「追加だよ……」


 No.5 カッシュ

 解説:彼はね。それはそれは可愛そうなんだ。なんせ、あの気が狂った祈祷師に魂を売られそうなんだからね。何があったかは知らないけど、どうやらNo.1に弱みを握られているようだ! ああ、可哀想に!


「1番可愛そうなのは私なんだけどね」

『いや、これは君がハッキリしないから悪い』

「は?」

『リリィだっけ。彼女の求愛を散々蹴っておきながらそばに置いておく。そんな生殺し、可哀想じゃないか』

「可愛、そう……?」


 リリィは変態だ。むしろ無下にされて喜んでいる気すらする。


『甘いっ! スゥィーツの如く甘いよ藍波っ!』

「なんで三流アメリカ人なんだよ」

『いいかい? どんなに被虐的な状況を興奮に変えられる体だとしてとも、時には必要なものがあるんだ。それが何かわかるかい?」

「…………」


 うわー。こいつも面倒臭いタイプだー。


『それは……愛っ!』


 ペカーと輝き始めるアース。もうね、なんだこの茶番。


「って! 今の光で位置ばれんじゃん!」

『当たり前さ! そうなるようにしたんだから!』

「破棄っ! お前となんか契約破棄だぁぁぁ!」


 No.6、追加です。



シリアスパートから一気にお遊び……よくない。実に良くない。でも仕方ない……なぜなら、書いたのが深夜だからです。お許しを<(_ _)>

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