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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
156/176

-155-報告と、行方と、合流と。

注:混乱の恐れあり。錯乱はしないです。誓って。ただ、こんがらがる可能性が無きにしも非ずというわけで……


む、報告書か。



『緊急招集:ヴァルハラ郊外・オスラ村における戦闘報告書』


 ○出現した的の総数、57,301体

 内訳

 ・犬型:6,000

 ・小鬼型:10,000

 ・虫型((アリ)型):15,000

 ・虫型(蝶型):4,000

 ・虫型(蟷螂(カマキリ)型):2,000

 ・虫型(蜂型):10,000

 ・鳥型:10,000

 ・人型(シーカー):300

 ・所属不明:1


 所属不明の敵以外の殲滅に成功。

 以下は被害状況。


 ○死亡者数

 ・村民:2,351名

 ・志願兵:520名

 ・一般兵:3600名

 ・戦乙女(候補生):29名

 ・戦乙女(正規):8名


 ○負傷者数

 ・軽傷者:0名

 ・重傷者(内科・外科):0名

 ・重傷者(損傷ありの者):469名

 ・危篤(意識不明、瀕死):34名


 ○倒壊した建物:なし。


 ──  ──  ──  ──  ──  ── 


 ○第二学年のライド成功情報

 総勢399名

 ・成功者(戦闘参加):28名

 ・成功者(戦闘中非参加):65名


 備考:戦闘に参加した生徒のうち2名が行方不明。他の二学年は帰投。


 行方不明者………







 ベル、メアの二名。

 捜索隊の報告を待つ。


 ──作成者、フリッグ


 ───────────────────────


 ◆


「師範」

「…………」

「師範!」


 腕を組んで微動だにしない創世神を前に、私は声を荒らげて問いかける。


 さっきまでは、世界の真実を知る者達がいた。

 しかし、足りなかった。二名と一匹、足りなかった。


 二学年と合流した時にはいたのだ、その二人は。いつものように自慢げなベルと、いつものように口数の少ないメアが。

 それが、戦闘を終えてみてどうだ。行方不明だ。

 しかも、私が後方で治療をしているうちの出来事だという。


 スクルドさんは仕方なかったという。今回は、今までの侵攻とは毛色が違うと。だから、犠牲者が出ても仕方がなかったと。


 私はそう言われた時、無言で彼女に殴りかかっていた。未来予知によって回避され、足を取られて無様に転んだ。

 でも、許せなかった。犠牲者が出るのが仕方ないと言われたことではない。


 行方不明(・・・・)の二人が、死んだかのような口をきいたからだ。


 絶対に生きているという、確信という名の願いがあった私は、口汚く彼女を罵った。せっかくの未来視をなぜ最大限使わなかったのか、そうすれば未然に防げたのではないかと。


 今度は私が殴られた。

 回避を試みたが、避ける方向が分かっていたかのような……実際わかっていた拳に顔面を抉られ、再び地面と激突した。


 彼女は できればそうしていると、涙を浮かべながら追撃をしてきた。予知できないはずもないと。どうしようもなかったと。見える未来は一つだけではないのだと。

馬乗りになり、何度も、何度も殴られた。彼女が力尽きるまで、何度も、何度も。

 気を失った彼女をゼノヴァとアーリアが運んでいった。去り際、ゼノヴァに見損なったと言われたが、どこか遠くに聞こえた。


 地下に残ったのは、血だらけの私と、動かぬ師範のみ。何度呼びかけようと、どれだけ責めようと、彼は俯けた顔をあげない。まるで死んでいるかのように、動かない。


 流石に心配になって肩を揺さぶると、まるで力が入っていないことに気付く。ガクンガクンと前後する頭に従って、後ろに倒れていく。そのまま後頭部から激突して、動かない。


「…………」


 なんだか、馬鹿らしくなってきた。


 未来を救う……?

 邪神を倒す……?


 それを成し遂げるのに、あと何人、死ねばいいんだ。私はあと何回、死ねばいいんだ。


『え、何回も死んでるんですか』


 そうだよ。私は何万何千という死を経験してる。痛みに飽きる程、死に飽きるほど。


『初耳なのです……』


 そりゃそうだ。本当に少数の人にしか言ってないし、言ったとして信じてくれるかは別問題。ただの情報漏洩だしね。


『私は信じるのです!』

『僕もですよ』


 ハッ、誰にもわかってたまるか。この生き地獄、私が私ですらない、紛い物の気持ちが、わかられてたまるもんか。


『むぅ……珍しく意固地なのです』

『はぁ。あれだけ言ったのに。いっそぶっ飛ばして「修正」しますか』

『え……うーん……でも、最早そうすることも辞さない状態なのです……ヤっちまいますか?』


 あーあ。もう何もかもがどうだって──



 スゥ──────



『えいっ』


 痛ァっ!?


 な、なんだ!? 全身に満遍なく激痛がっ!?


『ほれほれ、早く起きないと、大変なことになるのです……じゅるり』

『じゃあ僕は精神攻撃しますね。あなたはいつもそうやって──』


 んんんん!?


 なんだこの状況!?


 起きるって何!? 私は起きないと、何をされちゃうの!? そして耳元で説教垂れんな鬱陶しい!


『そんな……人前では、恥ずかしくってとても言えないことなのです』

『あっ! 人の善意をそうやって……倍増しです』


 ギャー! なんか大変なことになってるっぽい! 最悪の幻聴だよこれ!


『……どうしましょう。この人ガチなのです』

『……どうしましょうね。これは本気でボカンもいいかと』

『じゃあ次は強めで行くのです』

『了解です』


 わー! 待ったストップ! ステイステイ!


 起きるっ! 起きるからっ!


『『ほう……?』』


 …………。


 ……起き方、教えてください。


『はぁ……なんか気が抜けちゃったのです』

『ですね。急げって言うから来てみたら、結局なんも変わってないじゃないですか』


 あの……すみません。ホント謝るんで、どうか起こしてください?


『右上下下Xです』

『そしてその後で隠しコマンド、左左右上Bなのです』


 右、上……なんだって?


『……やっぱ物理的に起こすのが手っ取り早いのです』

『そうしましょうか』


 結局こうなるのか────ッ!?


 ……………………

 ………………

 …………

 ……


 ……?


「あ、目が開いたのです」

「ふぅ、『右足裏を縦:上から2センチ、横:右から1センチを秒間16連打×5秒間』、大成功です。これ発見した人凄いですね」

「なんだその出鱈目な治療法」

「開口一番それですか? 他に何か言うことはないんですか?」


 うぐ……


「た、助かりました……」

「それだけですか?」


 むむ……


「ありがとう、ございました」

「どういたしまして」


 やっと許してくれ──


「それで?」

「うっ」

せっかくの再(・・・・・・)会なんですし(・・・・・・)……」

「うん……そうなんだけどね? なんかこう……違和感というか、知ってる人とは少し違うというか」

「ま、まさか私達のことを、忘れて……? そんなっ」


 いや、今までのノリと口調と声でなんとなく察している。


「久しぶり……リリィ、カッシュくん」

「はい! しばらくぶりなのです! よかったのです……てっきり忘れられたのかと」

「忘れるわけないでしょうに」

「じゃあなんで歯切れが悪かったんですか」

「いやだってさ……」


 久方ぶりに見る二人を交互に見て、一つ頷く。


「色々、変わってるじゃん?」

「「あ、気付きました?」」


 てへへ、と後頭部をかく二人。

 なんで「前髪切った?」と言われた時みたいな反応なのか。二人の見た目は、そんなちょっとした変化ではないというのに。


「まずリリィ!」

「はいなのです!」

「その……耳輪? は何!」

「あ、これですか? 可愛いですよね!」


 違う、そうじゃない。


「リリィも遂にギャル突入……」

「ちょ、お姉さま!? 変な勘違いをしないで欲しいのです! これは猫妖精(ケット・シー)の証なのです!」


 ピコピコと耳を動かしながら憤慨するリリィ。揺れ動く耳に合わせて、左右合計4つ付いた金の輪が輝く。


「ケット・シー……? え、なにリリィ妖精だったの?」

「逆なのです。成ったのです」

「へぇー…………………?」

「どうしてそんなに疑り深いのですか!」

「え、だって、ねぇ」


 隣のカッシュくんに助けを求め──


「あ、僕はまたちょっと違いまして。地獄犬(ヘルハウンド)に成りました」


 彼は彼で、首にいかつい首輪を付けていた。


「へぇー…………………?」

「あのですねぇ……流石にその対応は少しイラッとするというか。その顔! 顔がいけない!」


 何がいけないというのだ。真顔を通り越した、「あっ、こいつイタイやつや」の顔のどこが!


「というか妖精とか番犬って、アクセサリーで成れるもんなの?」

「「全然違います。付属品なだけです」」


 言い切った。二人して、一言一句違わず。事前打ち合わせでもしていたかのような合わせっぷりだった。


「って、再会を喜ぶのはいいけど、たしか私は地下で──」

「地下? 地下ってフリッグ様の話だと、ゴミ捨て場って聞きましたけど」

「いや、行けばわかる」


 先程までの状況は、一体なんだったのか。二人の劇的な変化については後でじっくり聞くとして、今の優先順位はこっちだ。

 学園とその寮には、各部屋に必ず一箇所以上ダストシュートがある。周囲をみるに、ここは医務室か。


 二人を引き連れてダクトを滑り落ちれば、学園側の地下施設に到着する。ここは、以前一回だけ探検しに来たことがある。その際、裁断機の場所がわからずラインを超えて引き潰されかけたが、ゼノヴァと同型の機械人形に助けられた。確か名前は……


「あれ、何してるんですか藍波さん」

「ああカリーナ。久しぶり」


 明るい緑の髪をした彼女はカリーナ。先代が裁断機にやられて6年ほど前にやってきたらしい。


「三年の寮ってどっち方面だっけ」

「あそこです。なんなら案内しましょうか」

「いや、大丈夫。そんでありがとう!」


 ゼノヴァたちと会うのに、彼女がいては空気が変になる気がする。いや……それはさっきのが現実だったらの話だけど。


「むむ……お姉さまと親しげなあんちくしょう……後日締め上げるのです」

「やめなさい」


 一年前から変わらず過激派な妹分を懐かしみつつ、すぐさま思考を切り替えて通路を走った。

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