-152-友と、努力と、憂鬱と。
太古に沈められし海底神殿が浮上し、我らが宝物を引き継ぐ時。それは友との絆が深まった時である──
しかし、ゆめゆめ忘れるな。破局はいつでもありうるということを。神は、いつでもそなたらを見守っていると……
「……何してるんですか、スクルドさん」
「いや、少し脚色を」
スクルドさんの書く報告書は、いにしえの伝説みたいになっていた。ちなみに海底神殿とは筆者であるスクルドさんだ。
「まぁ、私としては落とし所良かったと思うんですけど」
「うん。私の未来視でも確認したし、概ねオッケーって感じ」
大切な人を失いたくない気持ちは、あの日から変わっていない。あーあ、で済む話ではないし、済ます気もない。だから、ヒルデを殺さずに済んだのはよかった。友達というものは、やはり大切だから。
「で、感慨に浸ってるところ悪いけど……これからの予定を話すね」
「以前も聞きましたけど」
「まーまー、襲撃も乗り切ったことだし、確認をね?」
ちなみに、ヒルデは既に自室だ。私達は今、地下施設のゼノヴァ宅にいる。
「ヒルデの参加は?」
「必要ないよ。彼女のやることは特にない」
……と、言うものの。
今回は、これまでとは何かが違う。もしかしたらどこかで力を借りるかもしれない。
「……呼んできてもいいですか?」
「うーん……少しだけ未来が狂うかもよ?」
「それは悪い方向ですか?」
「どうしても参加させたいみたいだね」
言われてハッとする。気付かぬうちに食い下がっていた。
戦力増強にもなるし……という言い訳とともに、妙な気恥しさを覚える。
「いいよ。行っておいで」
「……ありがとうございます」
許可がおりたのをいいことに、ニヤける顔を隠しながらダクトを登った。
◆
「それで連れてこられたわけね」
「うん。もし嫌だったらいいんだけど」
「ここまで来てそれはないでしょう」
地下施設にヒルデを連れてきたはいいものの、本当にこれでいいのかがわからないために曖昧な態度をとってしまう。
て、照れ隠しなんかじゃないやい。
「さてさて。役者も揃ったことだし」
「ちょっと待って。いつの間にメアとベルは来たの?」
「「さっき」」
さいですか。
「じゃあ……確認をします。ブリュンヒルデ、あなたは我々の組織に参加するにあたって、いくつか制約を設けます」
「はい」
「待って、いつの間に組織になったの?」
「「「さっき」」」
「…………」
もはや、何も言うまい。
「その制約というのは簡単です。我々の邪魔をしなければいい。それと、他言の禁止です。基本的にこのふたつを守っていれば大丈夫です」
「裏切った場合は?」
「地の果てまで追いかけて縊り殺します」
……聞いたことないんですけど。初耳なんですけど!
「まぁ、あなたに限って、そんなことはしないでしょう。我々を裏切るというのは、馬鹿のすることです」
「身にしみてるわ」
チラリとこちらを見てくるヒルデ。うん、確かに裏切った場合の勝ち目は薄いだろうね。
そもそも、裏切って得することがあるかという話だ。
「では、今後の予定をば」
ここから先、取り敢えず学習過程を修了する。
そうしたら、決戦に備えて特別カリキュラムによる訓練を行うとのこと。
わざわざ呼び出して確認するまでもないのだが、ひとつ注釈があるらしい。
「ヴェル姉とメアはこのままだと修了直後に決戦になる。それはわかるよね?」
「うん」
「………もちろん」
「一年の差は大きい。でも、それを埋めるのを相手は待ってくれない。だから、人一倍努力するしかないんだ」
放課後とかに訓練することも出来るのだろう。しかし、それで学業がおろそかになることは許されない。
1年間学んで実感したことは、座学であっても実戦で通用するからである。
それを蔑ろにするなんて、とんでもない。
「ま、そんなわけだから。努力する生徒として学園生活を過ごしてほしいの」
「それ、わざわざ呼び出して言うほどのものかい? あ、いや、ボクとしてはスクルドに会えて嬉しいんだけどさ」
この2人なら、言われなくたってちゃんとやるだろう。メアは知らないけど、ベルは真面目な時はとことん真面目だからね。
「えー……だってヴェル姉、慢心から油断して轟沈しそうだもの」
「そんなミッドウェーなことはしないよ! 烈風? 知らない子ですね」
『轟沈? は置いとくとして、私が見張ってますから』
お、転生マフラーさんは起きてたのか。まるでマフラーのように動かないからマフラーだと思ってた。
進行形でマフラーだけど。
「ハクがついてるなら安心……とも行かないけど、ちょくちょく報告に来てよ。学期替わりの時でもいいからさ」
「そんな!」
ベルが悲痛な叫び声をあげる。なんだなんだ。
「今年度あと数回しか会えないなんて!」
お馬鹿な女神ですみません。
◆
──アニマ国・王城──
僕です。ネストです。
アニマってどこ? とか寂しいことは言わないでほしい。獣人国のことです。念の為。
はい。久々……というか、最近はずっと憂鬱です。なんでかって?
問題児が、また動き出しちゃったからだよ!
なんで大人しくできないの!? あれだけ言われたのに!
……いや、あっちにはあいつの……もいるし、平気といえば平気か。道中面倒ごとに巻き込まれないことを祈る。
僕が憂鬱な理由は、それだけではない。
この間藍波の仲間2人が来てからというものの、【蛟】がうるさい。あ、ちなみに僕の生体剣の名前です。念の為。
朝から晩まで『ハラヘッターハラヘッター』と騒ぐ。食料を与えても満足する素振りを見せやしない。
……まさか、妖力を好き嫌いしてるわけではあるまいな。もしこの推察が真実なら論文レベルなのだけど、あいにく僕には文才というものがない。
それに、名誉なんて欲してないしなぁ。
「ネスト様、領民が押しかけてきております」
「……それがどうした?」
危ない。思わず素で「えっ!?」とか言うところだった……
「かなり暴徒化しておりまして、実を言うとすぐそこまで来ておりま」
バァン!
「ネスト王はここかぁ!」
「なぁフリード。いつから王国騎士隊はザルになったのだ?」
「え、ええ……本日は強化訓練の日でして」
隣に立つフリードには厳しい口調だけど、現在心臓バックバクだ。だって……うわぁ、鍬だよあれ。スコップだよあれ!
なんでそんな大昔の一揆みたいな感じで王城にやって来るんだ!
そしてどうしてあんな軽装なのを通してしまったんだ!
ただでさえ寿命が短いんだから、いたずらに鼓動を早めさせないでほしい。
「いたぞ!」
「ええい、何用だ農民よ! まずはわけを申せ!」
「わけ? わけを申せと!? あんなものを送り付けておきながら、わけを、話せと!?」
ううん、だいぶヒートアップしてるな。ぶっちゃけお部屋に帰りたい。
いやいや、しかし僕は国王。獣人たちをまとめあげる、アニマの王だ。ここで引き下がれば王の名がすたる。
冷静沈着なネストくんまで、さん、にぃ、いち、Q!
「……はて。貴様らの言う『あんなもの』というのが検討もつかぬ。まずは頭を冷やし、ひとつずつ話せ」
「ああ!?」
「んだとぉ!?」
逆効果か!?
「あの高飛車鬼畜外道女をよこしておいて、知らぬ存ぜぬを通すのが王か!」
「あ、いや……なるほど。それはすまなかった」
ついに素が出てしまったが、今の状況では些細なことだ。それよりもあのクソ女、方々で問題を起こしていると見える。
「……どこの村の者だ?」
「北東のミーアだよ!」
「ああ……あっちの方まで行ってるのか。はやいな」
「感心してる場合かっ! こっちはなぁ、あの疫病神のせいで村おこしの計画が全てパァだ! どうしてくれる!」
貧乏神は誰かになすりつけるのよ! と昔言っていたやつが貧乏神になるとは。世の中わからん……いや、あいつは元々そういうやつだ。
「それで……私は何をすればいい。見つけ出して禁錮か? それとも謝罪か?」
「何も要求はねぇよ!」
「ただ文句言いたかっただけだ!」
んん?
え、その為だけに門番蹴散らして入ってきたの?
ないわー。
「ひっとらえい」
「はっ」
「うわ! 何すんだ!」
「離せ!」
フリード一人でなんとかなった。総勢15名程いた暴徒が、一瞬でお縄である。
優秀な部下を持って、僕は嬉しいよ。
「農民たちよ。私はな、忙しい。確かにあの疫病神を野放しにしてしまったのは謝罪しよう。
しかしだ。それで王城に乗り込まれたのではほかの種族からうしろ指を刺して笑われてしまう」
……あ。
いや、取り敢えずこの場を片付けるか。
「そういうわけで、少しの間牢に入っていろ。なに、囚人用のではない。軽犯罪を犯した者の入る、『更生部屋』だ」
フリードよ。そんな目で見るでない。
そもそも王城に攻め入るのは立派な反逆罪だぞ……
「やつの件があってこそ、こちらも譲歩するのだ。大人しく更生してくれ」
さっきまで元気だった農民達の顔には絶望が張り付き始めている。ざまぁみろ!
連行されていく彼らを見送ると、ふと湧いてくる憂鬱感。さっき話してて思い出してしまったのだ。
あのさ。忘れてるかもしれないけどさ。
君らを呼んだのって、人間国の動向を探ってもらうためなんだよね。
それが方や魔境、方や神界!?
「一緒に連れてけよっっっっ!!!!」
僕の叫びは、天に届いただろうか。
いつも読んでくださってありがとうございます。
応募していたなろうコンですが、見事に落選ということでした(´・ω・`)残念。
しかしながら、今後も書くことをやめる気は無いので、ゆるゆると読んでいただけたらなと思います。では。