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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
150/176

-149-アレシアと、問題児達と、魔法科と。

「さて。裁断機が再起動する前に話が終わるといいな」

「師範、移動した方が」

「なに、痛みは一瞬だろう?」

「だめだ……みんな、近いうちにヘルにお世話になると思うよ……」


 師範の目は冷えきっているので、もはや希望はないだろう……これは、いたいけな少女を山に閉じ込める鬼畜の目だ。


「では続きを話そう……分かたれた世界に行き着いた私は、そこに辿り着くまでに【神性】の大半を使い果たしてしまった」


 神は【神性】がないと反撃どころか存在すら危ういので、これはかなり危険な状態だったとか。


「どうにかして【神性】を保担せねば、と思っていたところだったのだが……ちょうど公園で子供たちが枝を片手に殴りあっていてな」


 そこで、閃いた。


「『物理エネルギーを自分のモノにしちゃえばいいのでは?』大作戦、決行の瞬間だった。アレシアという隠れ蓑を作ったのも、効率化を図る為でもあった」

「《守護の選定》で受けたダメージは、全部師範のエネルギーになっていたと」

「そういうことだ」


 ふむ……なら、なぜ師範は自ら攻撃を受けに行かなかったのだろうか。負け続ければ、さっさとエネルギーが集まりそうな気がしないでもないけど。


「アレシアを作ったのにはもうひとつ理由があってな」

「ほう」


 アレシアの誕生秘話については散々ぼかされてきたので、ここで一気に吐かせたい。


「ボクシングやレスリングといった肉弾戦ではなく……もっと『コスモ・グランデでも戦える技法』を学ばせたかったのだ」

「なるほど。つまりは、対アレス用の特訓だったと」

「そういうことだ。会敵・即・試合開始なのはこのためだな」

「武器が分からないのも、意地悪ではなく仕様だったと」


 どんどん紐解かれていく、私の得意分野の真相。


 周りのみんなはポカーンである。


「ボクはその時スレ立ててたなぁ」

「ネットの海に沈んでろ」

「ヴェル姉待って!そっちには何もないよ!」


 裁断機に走り出すベルをスクルドさんが必死に引きとどめている。


「…………そもそも、この世界が二分されていたのを初めて知った」

『師匠にあった時に話してたのに……』

「…………あの時はまだ人間不信。仕方ない」


 キリッとした顔で適当なことを言うメア。ほんとに柔らかくなったよ、この子は。


「すかー……」

「進行形で聞いてない……」

「スクルドよ。お前の造る人形は、こうも無礼なのか」

「いいいえ! そ、そんなことは! ほら起きてゼノヴァ!」

「うにゅ……ま、すたぁ……?」

「あとコンマ2秒で起きないと、裁断機放り投げるからね!」

「起きましたゼノヴァ再起動です! なにか事件ですか? 事件ですね!?」

「ええ。あなたが寝っこけたせいで、私が怒られるという事件が、ね」

「はわわわ! 申し訳ないです、マスター……かくなる上は、首を差し出しますので」


 師範がこめかみを抑え始めた。うぅん、気持ちが痛いほどわかる……。


「どうして普通に話を聞けんのだ……」

「仕方ないですよ師範。師範の話は今も昔も難しくて長いんですから」

「なに?」


 あっ、口が滑った。

 これは校長先生及び、前に出てしゃべる人に言ってはならない禁句だった……!


「あ、いえ違うんですよ。私はちゃんと聞いてたじゃないですか」

「それとこれとは話が別だろう。お前はずっと前から私の話が長いと思っていたのか」

「はい」


 ああ……つい正直に答えてしまった……


 師範が体育座りをしたあたりで、今日はお開きとなることに。

 ゼノヴァは私と来た道を戻り、ベルとメアはダクトを伝って上へと登っていった。


 スクルドさんは


「私は地上に出れないし、アーリアの様子も気になるからね。……全く、ヴェル姉は容赦しないんだから」


 アーリアとは、ゼノヴァの妹、つまり新2学年の寮地下にいる機械人形(マシンドール)だ。

 ゼノヴァの紫髪とは違って、こちらは透き通る水のような髪色だった。


「私は勇者を追う。なにか変化があればまた来る」

「頼みます」


 仕事となると至って真面目な師範は、切り替えが早い。いい事なんだけど……先程までの状況を考えると、とてもシュールな光景だ。


「んじゃ、またねー」

「また今度」


【同期の運命】が引き抜かれると同時に、時間停止が解除される。裁断機は活力を取り戻し、あらかじめ置いておいたゴミを勢いよく食らっていく。


「帰ろっか」

「ええ。はぁ、今日は色々あって大変でした」

「確かにね……」


 居眠りのお叱りを受けたばかりなゼノヴァは、まだ寝足りないのか欠伸をしている。機械人形なのに睡眠とか必要なのか。


「じゃあまた……って、すごいゴミの量」

「うへぇ……なんか尋常じゃないですね」

「どれもこれも同じダクトから……?」

「みたいですね」


 私たちの寮の地下に戻ってくると、例のボエムノートが降ってきた場所から次々に書物やら花瓶やらロウソクやらが落ちてきていた。


「大処分祭だね」

「うう……眠いのに……」


 チラっ。


「せ、せっかくだし手伝うよ」

「わぁい! やっぱり持つものは友ですね!」


 うまく乗せられた気もするけど、この量じゃ多分寝れなくなるしね。ちょっとした山だよ、山。


「そもそも巨大裁断機の前まで落としてくれれば話は早いというのに……」

「それじゃ間違って捨てたものが戻ってこないじゃない」

「ミスはデスなんですよ」

「ちょっと何言ってるか分からない」


 結局、風呂に入り直すハメになった。


 ◆


「藍波〜最近放課後どこいってんのさ〜」

「ちょっと友達んとこ」


 教室にて、レギンに突然そう聞かれた。

 ゼノヴァは口が軽いので、紹介したら全部バラす危険性がある。なので、ここは秘匿することにした。


「え!? 下界出身の藍波に友達いるの!?」

「失敬な! レギンじゃあるまいし、友達のひとりやふたりくらいいるっての!」

「なんだと!?」


 互いに胸ぐらを掴み合ってガンのくれ合いをしていると、見計らったかのようにヨルム先生が入室。


「おはようござ……学年が上がっても中身はそのまんまですねレギン」

「どうして私だけ!?」

「ふはは、レギンとは評価が違うのだよ評価が!」

「藍波、あなたもです」

「ハイ……年甲斐もなくはしゃいでスミマセン」

「ぶふーっ! 結局おこられてやんの!」

「年甲斐……? まだ16なりたてですよね?」

「あいや、お気にならさず」


 レギンはあとで風呂に沈めるとして、精神年齢が大変なことになってるのを悟られてはいけない。

 未だについポロッと言ってしまうクセが治らない……これじゃゼノヴァのこと言えないな。


「元気なのはいいことですが、勉学は怠らないように。今日から魔法の授業が応用に入りますからね」


 魔法の授業。

 これは、2年生の後半から始まった。


 それが始まる前から使える生徒もいたけど、私は魔法に関してはからきしだった。

 魔法とは、詠唱の『節』によって発動する術式が変わってくる。旧式のダイヤル電話みたいなもので、一個違うと全く別の番号……つまり効果が現れてしまう。


 このダイヤルの生成、長さ、強さに応じて消費魔力が変動するのだが……


「藍波は無詠唱でとんでもないの使えるからいいじゃない」

「仲間はずれって、なんか嫌じゃん?」

「確かに……いや、でもダメだよ!」


 何故か、ミストが私の魔法勉強に待ったをかける。


「なんで?」

「えっとね。藍波がこれ以上強くなるとその……困るなぁって」

「強さ・イコール・ジャスティスの精神なんだけど」

「だ、ダメ! 追いつけなくなっちゃうから!」


 はぁぁ……ミストが可愛くて辛い。大型シーカーの出た討伐訓練で救出してからずっとこんな感じなのだ。

 どこかリリィを思い出すような……いや、色々違うか。接し方とか。


 ミストは純粋なあこがれから。リリィも最初はそうだったのかもしれないが、今では飛躍して恋愛対象だからね。

 私にそういう趣味はないけど、小動物を扱ってる感覚だ。キュッと抱きしめたくなるような。


 どっちにやっても鼻血が服について大変そうだ。


「まぁまぁミスト。魔法に関しての藍波はヘボ中のヘボ。魔方陣すら出ないんだから、余裕でしょ」

「レギン、油断はダメなんだよ。だって、藍波だよ? 環境に順応する、藍波なんだよ?」

「……どゆこと?」

「簡単に言うと、レギンが余計なこと言うから猛特訓し始めちゃった」


 ミストのいうとおり、レギンにヘボヘボ言われたのがとても癪に障ったので、私は魔法を全力で習得しに行った。

 今までの日々? ハハ、お遊びですよあんなの。


 情け容赦なく、徹底的に叩き潰してやろうじゃあないか。


「ああほら! 魔方陣でかけてる! させないんだからね!」

「ああミスト! なんてことをっ!」

「魔法に関してはポンコツでいてーーー!」

「絶対にやだーーー!」


 その後も、不毛な争いが授業終了まで続いた。

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