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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
148/176

-147-邪神と、憑依と、参加者と。

 戦神アレス。


 その名前は広く知られていることだろう。

 ことある事の戦において、多大なる成績を残したオリュンポスの神。

 しかし、性格は残忍。戦い方は粗雑で、とにかく倒すことのみを考えた……そんな戦い方。


「私は、アレスにもこの計画を話していた。ゼウスの奴の子ならば信用がおけると思ってな。戦いも強い方であったし……思い返せば、浅慮だったな」


 外のモノから隠れることに対して、アレスは内心反発していたようだ。わざわざこちらが隠れずとも、来た敵を真っ向から潰せばいいのにと。


 しかし……


「アレスは、外のモノの恐ろしさを知らん。と言っても、知ってるのは私だけだが」

「どういうわけか、私も見ちゃったよ。あれは、負けイベントだね」


 どう足掻いても勝てないと思った。

 それほどまでに異常で、異形で、異端。


 そしてその負けイベントに先はなく、負けてしまったが最後……いや、見つかってしまえば(・・・・・・・・・)おしまい(・・・・)というハードコアモード。

 データは破棄され、ハードも壊され、新しく買い直すことはできなくされる。


 そういう存在なのだ。奴らは。


「アレスはとりあえず、邪神を見てくることにした。本来、自らの意思で会いに行くものはいないはずだし、会えないはずなのだが……彼は邂逅を果たしてしまう。そして……」


 あろうことか、その力を我がものとした。


 これは恐るべきことだ。

 邪神も、よもや自分が取り込まれるとは思ってもみなかっただろう。


 力を手に入れてしまったアレスは、偽の大戦を現実のものとした。

 暴虐の限りを尽くし、世界を二つに引き裂いた。


 それでも、神界中の神々によって力を削がれて実体を失った。


「実体を失ったというのは弱体化と思うかもしれんが、むしろ奴にとって好都合だ。誰かに取り憑いて、操ってしまえばいいからな。

 そして取り憑きやすい相手というのが」

「…………諦観、絶望、悲嘆。こういった負の感情の持ち主」

「そうだ。だからメアには頑張ってもらった」


 なるほど。人間嫌いが緩和されたのはそのせいか。実際にはまだまだ嫌いなんだろうけど。


「それで、今アレスがどこにいるのかの検討は? 私が見たものだと毎回違ってて、今回の居場所がわからないんだけど」

「ああ。それについてはもう検討がついている。場合によっては厄介なやつだがな」


 訂正しよう。わからないのではなく、だいたいの推察はついている。

 あの日、あの時、あの場所に確かにいたにも関わらず、忽然と姿を消した……


「勇者、アスロン……彼の可能性が高いと思う」

「ほう、面識があったか。とある村の住人を冥界に匿う時にいたのだが……闇が深くてな」


 いつぞやに私がぶっ飛ばしてから滞在していた村だろうか。彼なら救おうとするだろうな、と思いつつ、師範の言葉が引っかかる。


「冥界に匿う?」

「ああ。生者は等しく命を持っている。邪神やアレスなんかはこれを狙ってくる。なら一旦手放して、命なき冥界にいた方が安全だろう?」

「…………」


 なるほど。


 つまり、


「シドもそうやって?」

「……まぁ、な」

「シドは私と同じくらいには戦えるはずです」

「いや、足りん」

「なぜです?」


 自分の声がひどく冷えきっているのがわかる。自分の手で殺めたからだろうか。誰に怒っているのかも、わからなくなってきた。


「あいつの持つ剣。あれに頼りすぎだ。もし仮にあれがなくなってしまった場合、敵に渡ってしまった場合。それをどう対処する?」

「でも、それを言うなら私の【朧月】も同じです。【大地の咆哮(グランド・ハウル)】ほど火力は出なくとも、【朧月】は自由に形を変えられる」


 味方につければたしかに強力な武器だろう。しかし、敵に回してしまえば、その破壊力は壮絶なものだ。


「だからこそ、だ。ふたつ取られる前に、ひとつを隠した」

「また隠すって──」

「わかってくれ。私はただ、自分の子らを消されたくないだけなのだ」


 …………はじめて聞いたかもしれない。

 師範の、純粋な願いなど。


 彼はいつだって頂点で、強くて、凛々しかった。

 弱音をこぼしたことなど、一度だって……


「歴史とは、真逆ですね」

「だろう? なかなかいい出来だと思うのだが」

「……わかりました。全面的に協力しましょう。メアは?」

「…………私は拾われた時から、もう決まってる」

「わかった。じゃ、改めてよろしく」

「…………ん」


 メアに差し出した手は、遠慮がちに、しかししっかりと握られた。


「で。ベルはどうするのー?」

「んむむむー! ムンヌゥー!」


 べリッ


「痛ァっ! もう少し優しくしてくれよ」

「はいはい。で、どうするのさ」

「……正直、まだ納得出来ない部分も多いし、信用出来ないこともあるけど。これが本当なら、ボクが君に『お願い』したことは、既にかなっているわけだ」

「あー……確かに」

「忘れてたのかい!?」


 ベル……ヴェルさんとのファーストコンタクト時に頼まれたこと。それは『姉妹の救出と、未来の保全』だった。

 スクルドさんはそもそも封印されていなかったし、ウルドさんに関しては師範が解きに行ったらしい。

 そして、ディザスターの目的とされていた『未来の消失』は消え去った。


 と、いうことはだ。


「じゃあ、契約はここまで?」

「形式上はね。ただ……」

「ただ?」

「ここで降りる手はないだろう?」


 出た! ネット廃神! すごい悪い顔してるぞこの人!


「あのねヴェルさん。これは遊びでやってるんじゃないんだよ?」

「わかってるさ……でもほら、モチベーションって大事じゃない?」


 一同、ポカーン。


 師範の呆けた顔なんて初めて見たよ……


「そんなわけで、ボクも参加するからね!」

「「「「ええ……」」」」


 大丈夫なのだろうかと、この場にいる全員が不安になった。


 ◆


「おかえりゼノヴァ」

「ただいま……なんかすごーくいい夢を見てた気がするんですけど」

「それはこんな夢?」


 目覚めたゼノヴァを、ひょいっとのぞき込むスクルドさん。


「ア゛ッ!!?(パタリ)」

「「「…………」」」


「え、なんで私が悪いみたいになってるの? ゼノヴァが勝手に倒れてるだけじゃん!」

「いや……」

「今のは、な」

「…………あれは、反則」

「だ、誰かボクにティッシュをッ! 鼻血が止まらないんだ!」


 約一名悶え苦しむ者がいるが、こいつはもう放っておこう。

 ホログラムではあんなに『真面目な先輩』だったスクルドさんが……こうも小悪魔で、パリピだとは思ってもみなかった。


 ライド訓練の時は、クラスメイト含めてかっこいいなぁと思っていたのに。残念だ。

 本当に、残念だ!


「あ、あはは……そんな顔で見ないでほしいな〜……なんて」

「あのホログラム、テイクいくつ目だったんですか?」

「6935」

「はぁ……撮影班が可愛そうだ」


 約7000回に及ぶ取り直し……どんな素人役者でもそんなにかからないだろう。


「で、でも! イスカンダルのおかげで色々様になってたでしょ!?」

「エインヘリヤルに頼ってどうするんですか……征服王に指導される未来神とか、飛んだ笑いものですよ」

「うぐ……」

「ボ、ボクは可愛いと思うんだ!」

「ベル、鼻だけじゃなくて全身から血を出したいか?」


 親指で背後を指す。そこには停止中ながらに存在感抜群の裁断機……

 ベルは全力で首を横に振った。

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