-146-再会と、偽装と、真相と。
神界で天に召されたゼノヴァはさておき。
「ひさしぶり、ヴェル姉」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ!! ほんとだよぉ! 全く心配かけてぇ!」
うるせぇ。せっかくの感動の再会が鼻水でぐしゃぐしゃだ。
「あはは……心配、してくれてたんだ……ごめんね? ヴェル姉」
「いいよぉ! 無事なんだから! うおーん!」
「あー……えっと、そろそろ話進めません?」
このままだとベルが一日、いや一週間ほど帰ってこないので、ついに表舞台に現れたスクルドさんに話を聞く。
「そうだね。じゃ、私から説明するのもなんだし、来てもらうよ」
「ん? 誰に? ウルド姉は見てないけど」
「ウルド姉は今別件でお仕事中なの」
スクルドさんはどこからか【同期の運命】を取り出し、地面に刺した。以前これに突き刺されて色々と見せられた私はいい気分ではないが、やろうとしていることは分かる。
「ん? なんで時を止めたのさ」
「これから来る人がそうしろって言うから?」
「疑問形なんだ」
「まぁね。でも心配ないよ。信頼できる人だから」
「スクルドがそういうなら……」
スクルドさんは【同期の運命】を介して、例の時間停止を発動させた。記憶封印されているベルが無意識のうちに発動し、自身も止まってしまっては話ができないと言うことからの行動だろう。
そして、これから来る人も、私は予想がついていた。
「あ、どうぞこちらへ。歪みの抜け方はわかりますよね?」
『ああ。今行く……よっと』
もう、はるか昔に感じられる歪み。
私がこちら側へ連れてこられた時に通った歪み。
そこから入って来たのは……
「久しいな、藍波」
「ええ、そちらも変わらぬようで。師範」
世界の敵、ディザスターその人だった。
◆
私が世界の記憶を見ていく中で、何度か私以外の視点から見るものがあった。
その視点は人、神、動物、魔獣と、多種多様ではあったが……その神の中で、偶然かわからないけど彼と重なってしまったのだ。
その中で、私は彼の意図を、意思を知った。
どうして星滅神と呼ばれるようになったのか。どうして大戦の火蓋は切られたのかを。
まぁ、私は数あるIFのうちのひとつしか見ていない。今回の師範の同行については、むしろ知らないことの方がはるかに多い。
ならば、彼の口から直に聞くのが1番手っ取り早いだろう。
「ベル。言いたいことはなんとなくわかるけど、とりあえず耳だけは開けておいて」
「んー! んー!」
私が師範と軽い挨拶を交わした直後、掴みかかっていったベルは私が《捕縛》して地面に転がしておいた。
ここで殴り合いを始めれば話は進まないし、加えてベルでは師範に勝てない。
「あまりにテンパって念話の存在すら忘れるとは……やっぱり師範の登場早すぎたんじゃ?」
「何を言うか。いずれ出るのだから、別に今でもいいだろうに」
「いやだってほら、ずっと離れ離れだった妹と再開したと思ったら、世界の敵である師範と一緒にいるんですよ? そりゃ混乱しますわ」
「む……一理あるな」
懐かしい髭を撫でながら自分の非を認める星滅神に苦笑いする。それでいいのか、世界の敵よ。
「ではでは! ここで世界のネタばらしと行きますか! と言っても、ただの語りなんだけどね?」
「んむー! むんぬむー!」
「はいお客様はお静かにお願いしまーすっ! うるさくしたら、めっ! ですよ!」
あっ、ベルが昇天した。きっとスクルドさんの小悪魔ポーズにやられたに違いない。とりあえず《送電》して三途の川からサルベージ。
「はい。ヴェル姉も戻ってきたあたりで、早速始めるとしますか」
「よし。ではフリップを」
フリップ!? 準備良すぎるだろ!
世界の敵は、教卓のような机のうえに置いたフリップを捲りつつ……
「むかーしむかし」
「なんか語り出したぞ」
「…………私たちの中に子供はいない」
『わ、私は好きですよ! 紙芝居!』
「…………」
あ、まずったか!?
「ええい! もう面倒くさい! さっさと【同期】させればいいだろうが!」
「あ、それは無理です。今使ってるので」
フリップを投げ捨てて憤慨する髭爺を受け流すスクルドさん、流石だ。なぜって、何度も言うようだけども、彼は世界の敵であるからだ。
「師範、フリップの方が説明しやすいですか?」
「まとまってはいるが」
「じゃあ早くしてください」
「…………昔、大戦があったな?」
渋々とフリップを元の位置に戻した師範は、今回の動向について話し始めた。
現在扱われている歴史では、創世神ディザスターが世界に絶望し、人々から『欲』を奪おうとして大戦を引き起こしたとされている。
しかしそれは全く違い、そうなるように自ら歴史を『改変』させた……というもの。
「それを本当だと言わせしめる証拠は?」
「私たちが見てきた」
「それは口ではなんとでも言えますけどね? 私も見せられましたし。でも、ベルを初めとしたほかの人は?」
メアとハクは事情を知っているからこその協力だろう。しかし、記憶を封印されているベルや、未だ昇天中のゼノヴァなんかにはきっと信用されない。
「証拠、か。ないといえば無いな」
「ないのであれば、今までと変わらず、人類はあなたを倒さなくちゃいけなくなる」
「そうだな。私としてはそれでも全く構わんのだが。ただし、勝てるかは別としてな?」
口の端を釣り上げる様は、師範が師範であった時代と変わらない……が、世界の敵として認識されている今だと、そうであるようにも見えてしまう。
「ま、証明云々はとりあえずといておいて。そうした目的を教えてください」
「まずは色々誤解を解いていこうと思う。誤解させたのはこちらだが、ここにいる面々には真実を伝えておく」
師範の話した内容は以下の通りだ。
まず、自分は邪神化なんてものはしていない。ましてや災いと呼ばれる所以である破壊行動もしていない。
続いて、どうして歴史を変えたのか。そうする必要があったかについて。
理由はただ、『隠す』ためだった。
「邪神というのは、本来『外側』から来るもの。我々の意識や意志とは別に、見えない何か。しかしそこに在るのが『邪神』と呼ばれるもの。外国人みたいなもんだが、その内情は違う……と言えばわかりやすいか?」
歴史にスクリーンをはって、そこに偽の映像を流す。そうして『見た目』を邪神から見てつまらないものにすることで、邪神を遠ざけていたのだそうだ。
「しかし、だ。カタチだけと思われていた大戦は、実際にあった。起きてしまった。発端と中心人物が違うだけで、本当に起きてしまったのだ」
当時、ディザスターあらためディミアルゴスは、ほかの信用のおける神々に「歴史を偽装する」ことを伝えていた。
上手く行けば自分を絶対悪とした、新たな歴史の隠れ蓑ができると。
実際、計画は上手くいった。彼は世界の敵となり、恐れられ、憎まれ、蔑まれる対象となった。
しかし……
「残念なことに、とある邪神がこちらに気付いた。いや、内包していたというのが正しいか」
邪神は、単体で世界を滅ぼす存在。
そこに在るだけで、害悪。生きとし生けるものにとっての、障害でしかないモノ。
「結果として、私、ウルド、ヴェルダンディは封印されることとなった。奴の手によって、な。私やスクルドは辛くも逃げ出せたが……」
「ん? スクルドさん、この間は同意の上って」
「ええっと……危険はないという判断をしたので、大丈夫かと」
「なんて大胆な……」
「万が一に備えて私は世界を渡った。奴に割かれた世界に紛れ込み、人々を育てた。それが藍波、お前だ」
…………。
「全部、知ってた」
「そうか……そして、思うことは?」
「ないよ。あ、あるとすれば、やっぱり私の師範は最高だってこと」
師範にダメージが入る。胸を抑えて苦しそうだ。
それを見て思わずニヤけそうになるが、ここはグッとこらえて、続きを促す。
「それで……その邪神の名も、知ってるんですよね?」
「もちろんだ。まぁここまでの流れを知ってるなら、その名も知っているとは思うがな」
「うん。なんども殺されたからね。顔も名前もクッキリハッキリ覚えてるよ」
「フフ、そうか……待った甲斐があったかもしれんな」
かつて神界にいて、それでいて外のモノと成った、異物。内包してしまっていた、世界の癌。
その名は──
「「戦神、アレス」」
絶望的にまで強い、戦いの神だった。
読んでくださってありがとうございます。
ついにラスボスの名前が出ました……ええ、長かったですね。
高校も卒業し、そろそろ免許を取らないといけないのですが、こたつ虫なPhiAは今日もぬくぬくと引きこもり生活を送っています。