表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
146/176

-145-ノートと、最新鋭と、雇い主と。

「んむ? 緊急連絡……?」

「どったのゼノヴァ」


 いつも通り地下施設にてゼノヴァと談笑中。そのゼノヴァが電波を受信した。比喩ではなく、実際に受信したらしい。思い出したかのように機械であることを見せつけてくるのをやめていただきたい。


「ちょっと席を離れますね?」

「了解〜」


 トトト、と軽い足取りで席を立ったゼノヴァを尻目に、することがなくなった私はゴミ処理をすることにした。

 今も誰かがゴミを捨てたのか、幾重にも分かれているダクトからゴミが落ちてくる。フム、割れた花瓶か。


「む」


 同じダクトから次々と滑り落ちてくる花瓶の破片。それに加えて今度は端々が燃えてしまっている本までが落ちてきた。


「なにかの教科書?」


 ページを開くも、内側までが焼けてしまっていて読めない。それどころか刃物で切り刻まれた痕もある。


「なるほど、ポエムノートか」


 中学生になると、誰しもが思うはずだ。


『俺は他の人とは違って特別なんだ……』

『今の俺は本当の俺ではない……封印されているのさ』

『闇の炎に抱かれ』


 人はそれを厨二病と呼ぶ。

 進行形でどっぷりな私ではあるが、ノートに書き残したりするほどではなかった。頭の中で全てが完結しているというか、封印なんかされてたら戦えないというか、スキル的に無効というか。


 ともあれ、誰かの書いたポエムノートは然るべき場所へ。即ち、私の懐。


 ふっふっふ……この学園、この寮の生徒が捨てたということまでは絞りこめたぞ……これで持ち主を探し出して弱みを握ってやる!

 握ったとしてもなにもしないけど! からかいはするけどね。


「割れた花瓶といい、ポエムノートといい……有力なのはレギンか」


 うっかりレギンちゃんならやりかねないだろう。

 花瓶割っちゃって、それの掃除してたら同時にポエムノートまで……うん。ほぼ確定だなこれ。

 レギンがこんなものをどこに隠し持ってたのかは知らないけど、どうにかして中身を読みたい……


「あ、藍波さ〜ん」

「お、おかえりゼノヴァ。見てよこれ。多分だけどポエムノー」

「至急、2年生寮へ向かってください! いえ私も行きますけども!」

「ん? なにかあったの?」

「それが……」


 ゼノヴァの説明によると、進級して2学年になった生徒のいる寮の地下施設担当機械人形(マシンドール)からの連絡で、正体不明の2人組に取り押さえられてしまったらしい。

 ゴミ処理に夢中で気が付かなかったそうで、あっという間に捕獲されてしまったそうな。


「それを助けに?」

「はい。あわよくば犯人の逮捕ですね」

「よっしゃ乗った! それで、場所は?」


 勉強もする必要はほぼないし、ぶっちゃけ暇だった私は、この面倒ごとに首を突っ込むことにした。

 ゼノヴァだけだと2人もいる犯人に遅れをとるかもしれないという建前付きで。


「それ、本来逆ですよね」

「細かいことはいいのいいの! ほら案内して!」

「わかりましたよ……はぁ、釈然としないというか、藍波さんらしいというか」


 呑気な言葉とは裏腹に、全力で走り出すゼノヴァだった。私もそれに続いて走る。

 ゼノヴァは機械人形ゆえに、肉体的疲労という概念がないらしい。動きたいと思えば全然動けるのだが、精神のダメージはどうしても取れないとかなんとか。


 ゼノヴァは、


「失恋とかしちゃったら私、もう自らスクラップになりますよ。あ、でも痛いのは嫌なので自然に溶け込むような……」


 と漏らしていた。まずはいい相手を見つけるところから頑張ろうか。地下からどうやるんだって話だけど。

 このように思考回路は完全に人間に近くなっているようだ。未来視持ちを考慮しても、やっぱりすごいな。スクルドさんは。


「発信源はここらへん……む、裁断機が止まってる? どうして……」

「発信源の子は?」

「見当たらないですね……まさか、既にスクラップに」


 青ざめるゼノヴァ。しかし、私はその可能性がないことがすぐにわかった。


「……な、なんか見知った顔が二つ……いや三つ? 隠れられてると思ってるのそれ?」

「『うぐ……』」

「…………だから言ったのに」


 ダクトの裏側にくっついてた虫、もといベルといつかの管狐、そして……


「や、久しぶりだねメア」

「…………私は会いたくなかったけど」

「つれないなぁ」


 ふい、と顔を背けてしまうメアにやれやれとため息をつく。顔と名前を思い出せたのは……とある「記憶」にあったためだ。


「ちょっと、私を差し置いて郷愁に耽らないでくださいよ! そして私の姉妹はどこですか!」

「ああ、それについては心配ないよ。スクルドの娘達を殺すわけにも行かないから、待機場所に監禁してきた」

「すぐに行ってきます!」


 それを聞いて即座に走り出すゼノヴァ。元気でいいなあ……いや私も元気だけどさ。


「で、だ。どうしてベルと下界にいるはずのメア及びハク?がここにいるのさ」

『話すと長くなるんだけど』

「いいから全部話せ。情報の一つや二つ、今更大して苦にならない」


『世界のこれまで』の情報を持っている私からすれば、『長い話』というのは樹海に新しく木が一、二本増えるくらいのもの。


 というかむしろ全て吐いてもらわないと困る。どうして、どうやって、なんのために、というのが分からないと、情報として成り立たないからだ。


『全てを伝えるには、私についても話さないとね』


 私の様子を伺っていたらしいハクは、すべてを諦めたかのように語り出した。


『まず……シドを冥府送りにしたのは私。依頼主は言えないのだけど、あの魔法を撃ったのは私であり、メアでもある。簡単に言うと、私を装備品としてメアが装備。私の持っている術を使ってシドを』

「と、いうことは……過去に起きていたネクロ化事件の犯人は君ということになるけど?」

『待ってほしい。確かにネクロ化事件に使われた魔法と同型の魔法を使ったけど、ほかの事件に私は関与していないわ。私とメアの主人が、それを使えるのだけどね』

「その主人は?」


 私は大方予想がついている。というか、ある程度の結末は知っているので、黙って聞いている。

 突っ込みを入れているのはベルで、その目はひどく真剣というか、切羽詰まっているというか。


 無理もないか。


『私達の主人は、イコール依頼主。だからごめんなさい。言えない』

「じゃあ、私から行ってあげようか?」


 言えない話せない明かせないはもう うんざりだ。記憶を差し込まれる前も、差し込まれたあともこの感情は消えない。知ってるなら話せ。全部、なにもかもを、包み隠さず。

 遠まわしな発言でうやむやにするのは、ぶっちゃけ面倒くさいのだ。


『ハッ、あなたが私たちの主を知ってるわけがない。いいでしょう、答えてみ』

「ディズ。またの名を、星滅神ディザスター。これでもまだ足りない? その過去……いや、今もまだ創世神である彼のことを洗いざらい言えばいい?」

『な、なんで……』


 なんで? 逆に聞きたい。なんで知らないと思ったのかを。


「私独自の調査法だからほかの人には使えない手段なんだけどね。

 それに、さっきまでの発言で繋がりがあることはバレバレなんだよね」

「ちょ、ちょっと待ってほしいな藍波。ボク、置いてけぼりなんだけど。ハクに神名看破された時より動揺してるよ今」

「普通に話せてるから大丈夫でしょ。それで」

「ちょーっと待ったァ! チラッと様子を伺ってみれば、まぁペラペラと!」


 ゼノヴァが帰ってきたのかとも思ったが、どうやら違うらしい。

 ベルは固まり、私は横目で声の方を見る。


「言ったよね!? 秘密だって!」

「え、だってここ隔離施設じゃないですか。それにベルもメアも大丈夫な確信があるから話すんです。あなた達がそうしたように」

「うぬぬぬぬぬ……!」


 悔しそうな声の主は、金色(こんじき)のポニテを揺らしながらズンズンとこちらへ寄ってくる。


「それでも! 私達に! 一報入れるのが筋でしょう!」

「あ、じゃあ話しますねー。それで……」

「うわーん!ヴェル姉固まってないで助けてよぉ!」


 ついに泣き出した金髪ロリに反応したのか、石化したベルがピクっと動く。そして──


「ボクの宇宙一可愛い妹をいじめる不敬者はお前かぁぁぁ!」

「うわ出た! 溢れる姉妹愛! 喰らえメアバリアー!」


 手頃な場所にいたメアを咄嗟に盾として差し出す。


「…………すごく、迷惑」

「うるせぇ! 普段喋らないくせに迷惑ぶるんじゃねぇ! そしてそこをどけ、そいつ殺せない」


 ああ、ベルのこれはいつぞやのウルドさんを思わせるなぁ。『ヴェルダンディを虐めるのは私の専売特権だ!』って。怖かったなぁ。


 この後、ウガーしているベルを取り押さえる管狐を見たゼノヴァが何かを言おうとして、それをニッコニコの笑顔で見つめるマスターを発見。


 無事、昇天しましたとさ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ