表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
140/176

-139-復帰と、理由と、正体と。

本日この前に一話投稿しています。ブクマからの方はご確認を。

「……ん」

「あ……」

「起きた……?」


 一面白の石室。既視感があるのは気のせいではないはずだ。数瞬前……数時間前かもしれないし、数年前かもしれないけれど、私はこの部屋を知っている。


「えっと……はい。起きました。それで、その……

 すみませんでした!」


 のぞき込む二人の女性に、ベッドの上で土下座をする。二人とも慌てた様子ではあるが、なんとか私の謝罪を受け取ってくれたようだ。


「こちらこそ、なんの説明もなくアレを使ってしまって……ごめんなさい。本当はもう少し軽いものを見せるつもりだったのよ」

「ウルド姉は加減誤りすぎ。なんだって大戦で死んだ魂の記憶全部ぶつけるのさ……」


 やれやれと首を振る、金髪白衣の少女。見た目的には私よりひとつかふたつ下くらいだけど……


「でも戻ってこれてよかったよ。何万と気絶してたから、もうダメかと」

「ええ……そのすべての記憶があったりします」


 遠い目をしながら、私のした醜態のすべてを思い出す。幸いというべきか、それを見ていたのはこの二人しかいないわけで……いや、二人もいる、と言うべきか。


「ごめんなさい……あの子がいれば、その辛い記憶をなかったことに出来たのだけど」

「ちょーっと訳ありでね。今ヴェル姉に出てきてもらうわけには行かないんだ」

「いえ……」


 本当のところをいえば、私は相当落ち込んでいると同時に怒っている。

 どうしてこんなことをしたのか。どうしてそうする必要があったのか……その説明が未だされていないからだ。


 なんとなく はぐらかそうとしている感じがしたので、ここは引かずに追求する。


「それで、どうして過去の大戦の記憶なんて見せたんですか?スクルドさん」

「はは、やっぱり気付いてた?私から溢れ出る女神オーラがそうさせてるのかもね」


 これは……どっちだろう。ヴェルさんがスクルドさん可愛さにああなったのか、スクルドさんが姉に影響されてこうなったのか……


 どちらにせよ、うぜぇ。


「質問に答えてください?この期に及んで隠し事なんてしませんよね?だってあなたは女神ですから」

「ええ、ええ。私は女神ですとも。女神なので、黙秘権を」

「つまり、私に話すことは出来ない、と」

「平たくいえば」


 せっかく過去の「壊れていない私」が戻ったのに……


「待って待って!私が悪ぅございました!だからその物騒なものをしまってほしいんだけど!」

「それはあなたの態度次第ですね?」

「話す!話しますからっ!」


 手にした【朧月】を突きつけて若干【神性】を吸収してやると、青ざめた顔で降参した。


「話が早くて助かります」

「うぅ……私女神脅す人初めて見たよ……」

「私も初めて見たので安心して……いや、ヴェルさん何回も虐めてるか」

「なんですって!?」


 ここ最近は別行動が続いていたので、弄った記憶が薄れていたけど……

 それに反応したウルドさんは机を叩いて乗り出してきた。


「それは私の専売特許よ!」

「ごめんなさ……は?」


 今とんでもないこと言わなかった?この人。


「ヴェルダンディは私が虐めてあげるの!私の、私だけのヴェルダンディなの!」

「ちょっ!何言ってんのこの人!怖い怖い!」


 掴みかかってきたので振りほどこうとするが、万力のような力で固定されて動けない。


「あはは……ウルド姉はヴェル姉のことになるといつも残念になっちゃうんだ……許してあげて」

「言いなさい!あの子に!どんな虐め方を!」

「あうあうあうあうあう」


 ガクガクと揺さぶられ、首に負荷がかかって凄く痛い。このままでは……殺られる!?


「そぉい!」

「ああっ」


 反動を利用してヘッドバットをかましてやると、ウルドさんは目を回してお休みになった。頭の周りにコミカルなアヒルが3羽回っている。


「はぁ……はぁ……で、では話してもらいましょうか。事のあらまし、あなたの隠し事を」

「え、ええ……」


 額を赤くした私にドン引きしながらも、彼女は彼女の秘密をひとつずつ教えてくれた。


「まず、私は封印されていませんでした」

「待って、それ前提で話を進める感じ?」

「もちろん。というか……未来が見えるのに、その対策しないとかありえないですわ」


 むぅ……たしかに。


「でも、なんで姉たちには黙ってたんです?」

「黙ってたわけじゃないですよ?ちゃんと伝えて、その上で封印されました」

「……ヴェルさんは知らなかったようだけど」

「ああ、ヴェル姉は記憶の封印をしてますから」


 ……えっ。


「ほら、以前ガーゴイルのいた遺跡……あそこではヴェル姉だけが何も知らない風だったでしょう?」


 そういえば……

『ボクだけ仲間はずれだ』とか言って憤慨していたけど……


「ヴェル姉にはヴェル姉の仕事があるので、これらのことの記憶を封印している……そして、例の時間停止に繋がるわけです」

「……話が飛んだ気がするけど?」

「いえいえ?ちゃんと繋がってますよ?だって、あなたの体験したあの時間停止……ヴェル姉がトリガーですから」


 あー……なるほど。


「つまり、《現在》の力を使って、全世界の時を止めている、と?」

「ご明察。ただし、これには私達も力を使わざるを得ないんですね〜。

 進んでしまった時間を《過去》に戻し、余分な《未来》を消去する。そしてヴェル姉自身は動けなくなる」

「ということは……停止している間は、権能をずっと行使しっぱなし?」

「それも正解。しかも世界規模だから、とんでもない力の使い方してるんだ」


 いつぞやにヴェルさんが神名解放した際には、実体が保てなくなるほど衰弱してしまった。それを、ずっと……?


「はやく解除しないとヴェルさんが危ない」

「いいえ、それは下界での話。神界であるならば、そのへんは気にしなくて平気です」


 よかった……なるほど神性に満ちた神界なら権能使い放題か。


「でも、いつか聞いた話だと、時間操作はご法度なんじゃ?」

「それもそうだけど……この件に関しては例外措置ってことで」


 緩いなぁ……誓約とかってそんなに簡単に破っていいものなのだろうか?神々の価値観が未だによくわからない。


「それでね、こんな大規模な反乱とも取れることをしている理由、なんだけど……」


 下界はおろか、神界中を巻き込んだ時間停止。存亡のかかっている このご時世では、確かに反乱ともいえよう。

 ……その理由を、知りたい。


 しかし、彼女の口から紡がれたのは、期待とは全く逆方向のものだった。


「……ごめんね。今言っちゃうと、支障が出るらしいんだ。言いたいのはやまやまなんだよ?君の精神衛生的にも、今後のためにも……

 でも、それを明かすのは今じゃない。それだけはわかって欲しい」


 悔しそうに歯噛みするスクルドさん。

 そして、何を思ったか……私の喉からはこんな言葉が発せられてしまった。


「……未来視ですか。いいですね、先に結末が知れて。自分だけ映画のラストを知っててニヤニヤしてる、やな奴みたいだ」


 つい、悪態をついてしまった。

 彼女は、彼女自身は悪くないのだろう。ただ、神界に生まれて、神界で育って、その過程の中で未来視の力を得た。

 あんな目にあったのも重なって、心に燻るものがあった私の、自然とこぼれてしまった……悪意だった。


「……ごめん……っ」

「あ……」

「私も……ね、辛いんだ。言えないことが。言ってしまえば運命の流れが変わってしまう。知ってしまえば、後悔する。いつも、そうだったから」


 ぎこちなく笑う彼女を見て、私は罪悪感に押しつぶされそうになった。

「言えない」のにはそれなりの理由と経験があり、それらの辛さを全て一人で背負い込んでいるのが彼女だったというのに。


「……こちらこそ、無神経なことを言ってしまってごめんなさい。悪いのはあなたじゃないのに」

「いいの。ずっと……そうだったから」


 いつの間にか復活していたウルドさんが毛布を掛けてやり、彼女はそこに顔を埋めた。微かに漏れる嗚咽が、私の良心をズタズタにしていく。


「色々言いたいことはありますが……初対面で、かつ先程までの状態を加味するならば仕方のないことです。……少し疲れましたね、一旦寝てみては?」

「……そうですね、そうさせてもらいます」


 妹を浴びせられた罵言に怒らないはずもない。ただ、その私情を噛み殺して……これ以上の不毛な言い合いを失くした。


 ……敵わないな。


 涙は出ない。ただ、擦り切れたボロきれのようになった心とともに、私は眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ