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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー1章ー〈出会い〉
14/176

-14-既婚と、本心と、全力と。

 吹っ飛んだシドを冷ややかな目で睨む。


「お、お姉さま……」


 リリィが震える声で私を呼ぶ。


「状態が……状態が……「既婚」になってるのです……」


 その事実を口にした後、泡を吹いて気絶した。

 慌てて自分のステータスを確認すると、確かに新しい項目に「既婚」と出ていた。


「コスモ・グランデは精霊によって婚姻がなされるんだけど……よりによって面倒くさがりの彼が来てしまったか……」

「え、こんなのと結婚とか、有り得ないんですけど。何とかならない? ヴェルさん?」

「すまないけど……」

「うわあああああ!」

『ぐっ、フフフフ、ハハハハハハ! 離婚は双方の同意のもと精霊によってなされる! もちろんどちらかが悪すぎた場合はその限りではないがな!』

「当てはまってんじゃん! 無理やり結婚させたんじゃん! まだ15歳だよ! 馬鹿なの? 死ぬの? いや私がここで殺すっ! そして私も死ぬぅ!」


 使えない神と有り得ない神獣にイライラしながら、再びシドに近づいていく。


『ちょ、ちょっと待ってくれ。あのな? 俺は封印されていて、あんまり力を使えないから自分用に結界張ったんだ。なのになんでお前は俺のこと殴れて……だから待ってブルァ!』

「うるさいよ! 私の大切なものを奪っておいて、ただで済むと思うなよ」


 突然のことすぎて実感はわかないが、ステータスに出てしまっている以上これは夢ではない。


 むくりと起き上がるシドは必死の様子で、


『だが、狐人を絶やしてはならない! それだけで妖術の発展が遅れる! それに絶滅していい種族なんかある訳がないんだ!』

「だからって初対面の私を利用しないでよ!」

『うっ……』

「あなたはただ私の体を利用したいだけ。そんなあなたと間違えても結婚などしない。ちなみにあなたを殴れる理由は殴る時だけ拳に【封印解除】を展開してるから。さぁ、覚悟しろ」


 元々自分より弱い相手など眼中にない私は、この妖狐を許す気はなかった。

 弱いというのは、何も力だけのことではない。この妖狐には気概を感じない。ただ種の繁栄を望み、そのために私の体を欲している。


パキパキと指を鳴らしながら、妖狐に近づいて行く。


『……俺は目の前で全てが滅ぶのを見た。人が斬られて死ぬ。焼かれて死ぬ。刺されて死ぬ。潰されて死ぬ。転生という無限の生を可能にするはずのシステムの中で、朝まで笑っていた人たちが死んでいったんだ!』

「その代償に私をって? 残念だけど、私はそれほど聖人君子じゃないんだ」


 確かに過去、仲間をやられた傷は深いのだろう。それをやり直したい気持ちもわかる。だが代償が必要なら、その代償とよく話し合うべきだ。私は真っ平御免だけど。


『……そうだな。確かに俺は過去を覚えているようで逃げようとしている。無かったことにして、勝手にハッピーエンドに浸ろうとしている……だが、他にどうしようもないんだ!』

「ならば本気で私を納得させて、落とせばいい」


 1000年前に殺されてからずっと待ち続けた彼はやっと訪れた好奇を逃すことはできなかった。それは仕方のないことだと思う。

 だから、一度手合わせをする。その志が本物かどうかを確かめるために。

 本物だった場合、癪だが。ホンットーに癪だが受け入れることも(やぶさ)かではない。

 無論偽物ならとっちめて埋めていく。遊びで私を結婚させるとか、ありえなさすぎる。


 シドに触れ、【封印解除】をする。途端に凄まじい量の妖力がシドに吸い込まれていった。


『……どういうつもりだ?』

「さあ構えて。あなたの本心を、全てを私に見せてみろ!」


 【朧月】を片手用直剣に変形させ、猛然と切りかかる。シドは巨大に見合わず、それを尽く躱し、狐ならではの跳躍力で後ろに飛ぶ。そして着地とともにこちらに向かって前足を振るいながら突進してきた。


 この戦いでは、ヴェルさんの力を借りていない。いつもは生体反応などを教えて貰っているが、今は【朧月】から外に出ている。ただ単純にこの妖狐に興味が湧いて、それを確かめたかった。


 振るわれた爪は私を頭から切り裂くべく恐ろしい速度で迫ってきた。しかしそれを剣の腹で受け流し、その場で回転して前足を切りつけた。ぱっと舞う白い毛と赤い血。


「どうしたぁ! あんたの種への渇望はそんなものかぁ!」


 言いながら振り抜いた剣を槍に変え、腰だめに突きを放つ。シドの脇腹に吸い込まれていくが、着弾点に大きな人魂が出現する。


『この体は妖術のほうが鍛えられてるみたいでな。獣人だった頃は剣の方がメインだったんだが……この手足ではどうにもならん』

「そうかい」


 そして私の出せる《狐火》の倍近く、人魂が一斉に出現し次々と襲いかかってくる。

 1発1発の勢いが凄まじく、その場にクレーターを作っていく。大盾形態にした【朧月】で守りながらバックステップを繰り返し、躱していくが、突如背後に湧いた《狐火》には気づかなかった。


『爆ぜろ』


 振り返るも既に遅く。爆発をもろにくらった私は宙を舞った。


 ★☆★


 ああ──なんて、なんて嬉しいことだろう。この娘は自分を責めはしたが、希望を残してくれた。挽回のチャンスをくれた。即ち、「強さを見せろ」と。


 ずっと不安だった。いや、半ば諦めていた。目の前で同胞は皆殺しにされ、自分も死んだ。そんな状況で、来るはずもない狐人を待ち続けることは、精神の摩耗につながった。


 だから、気を紛らわすために外へ2尾の魔獣を放った。その魔獣はこっそりと人間達の街に忍び込み、様々な情報を持って帰ってきた。

 狐人が死なされた理由。裏切った猿人。そして全てを操った呪術師の存在。

 全てに復讐がしたかった。そのためにはまず仲間がいる。だから種を復活させるために待ち続けた。


 そして1000年の時を経て、現れた同胞の少女。手篭(てご)めにするには丁度いいと少し卑怯な手を使った。面倒くさがりな婚姻の精霊を降ろし、無理やり結婚という事実を作り上げた。そうすることで彼女は自分から逃げることは出来なくなる。どこにいても、その状態がわかるようになるのだ。


 しかし、騙すには些か相手が悪かったようだ。そもそもただの少女がこんな地図にも載っていないところへ来るはずがなかったのだ。そして2尾を倒して見せた勇者をも完封してみせた。状況に焦って忘れていたが。


 そして婚姻を強行した、封印中の自分をいとも簡単に殴り飛ばし、それでいて自分にチャンスを与えてくれた。


 この娘となら本当に添い遂げてもいいと、そう思えた。容姿や力の強さではなく、その心意気に惚れた。だからこうして容赦なくぶっ飛ばした。


 ──さあ、次はどうでる?


 ◆◇◆


 地面から3mほど吹っ飛んだ私は、しかし意識を手放さず、大盾を薄くのばしてグラインダーとして使い安全に降り立った。


 楽しくなってきた。もう既に当初の目的など、頭の片隅へ追いやられていた。


 超えたい。この強者を。この圧倒的な物量は、かつての師範に似通ったものがあった。反撃を許さず、ひたすらに攻め続ける。そんな戦法。私の回避性能を持ってして避けきれない驚異的な技術。


 それを久々に前にして、血が(たぎ)る。


「まだまだここからだぁ!」

『さすが、その意気よ! 俺の全てを受けるがいい!』


 さらに増える《狐火》。しかし臆することはない。既に数えるのもうんざりするほどの人魂が浮いているが、焦りは感じない。


「上等」


 今度は攻撃範囲の自由度が高い鞭で挑む。襲いかかる人魂の射線を予測し、一つずつ叩き割っていく。手首の返し、肩の力加減、腰の動かし方、足の運び。全てに神経を集中させて迎撃した。

 シドは妖力を、私は体力と集中をこの数瞬にかけた。



 ──そして同時に力尽き、その場に倒れ伏した。



「はっはっは! やるねぇ! 久々にいいもの見させてもらったよ! お互いの全力のぶつかり合いっていいものだね、全く」


 ただ1人、気を失っていない神1柱がそんな感想を漏らしたが、誰1人聞いた者はいなかった。

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