-135-頼み事と、悪戯と、地下施設と。
「えーっと……つまり?」
「あのね。ボクの学年……一学年は神性のランクを測るんだ。来年のクラス分けにも影響するし、みんな張り切る訳なんだけど……ボクは調子に乗ってAを出しちゃったのさ」
「……何か問題が?」
「神性Aっていうのはね、ヴァルハラはおろか神界中の上位神レベルなんだ。それこそ主神の側近とかね」
うーんと。要するに……
「自分で何とかして」
「うわぁぁん!それが出来なかったからおねがいしてるんだよぉ!」
ヴァルハラ勤務だった運命神、泣き崩れる。
一応改変してもらおうと努力はしたらしいが……
「教師陣に頼んで、測定をやり直してもらったんだ。せめてB-くらいに落とそうと思って。
……結果、A+だったんだ……」
「上がってんじゃん」
「そうなんだよ!全力を注ぎ込んでいないのに関わらず、どういう訳か上がっちゃったんだよこれが!」
私の目が冷ややかなものになるのを察したベルは俯きがちにこう続ける。
「体裁上、全力を出すフリをしたんだ。でも……あの水晶、多分嘘がつけない仕様なんだろうね」
嘘のつけない測定ってなんだろうか?
「それって、触れたら測定されるタイプなの?」
「うん。だからね、ボクから溢れ出すカミサマパワーに恐れをなした水晶が、ついつい正直になっちゃったんじゃないかって」
「はぁ……」
呆れた。自画自賛はいいとして、方法はほかにもあったろうに……
「ていうか、さっきのレギンに対する説明にしちゃえば?ベルは元精霊。神性がA+だったって、なんの問題もありはしないと思うけど」
「む……確かに。でもなぁ……精霊如きと一緒にされるのはなぁ……」
「つべこべ言わない。自業自得って言葉を頭に叩き込んどけ」
しゅんとするベル。神から見た精霊はやっぱり劣等種なのかな?別に気にする事はないと思うんだけど……
「ほらフェアリー・ベルちゃん。お風呂の時間だよ?」
「誰だよそれ!ボクにそんな可愛らしい名前……似合わないっ!」
ちょっと嬉しそうなベルを連れ、阿呆建築の風呂へと向かう。途中でレギンと合流できたので、先日の出撃についてなどを話しながら移動していった。
「それでね、私が大型シーカーにトドメをさしたあとになってやってきた藍波がね?
『あれ?倒せたんだ』
とか言っちゃってね!?もう腹が立ったから周りのゴブリンぶち殺しまくってたわけですよ……でもまぁ、どういう訳か最終討伐数も敵わなかったんだけどね」
「レギンは頑張った方だって。ああいう手の実戦は初めてでしょ?」
「あー、まぁ……うん。そうだね」
「レギンは対人戦こそピカイチなんだろうけど、集団戦闘にもろい部分があるからさ。囲まれたらキツいでしょ?」
「確かにタイマンしかやってこなかったからなぁ……」
レギンはきっと正攻法でしかやってこなかったんだろう。だから、不意打ちや卑怯な罠にかかりやすそうだ。実際アレシアルールでの対人戦では、暗器系統にすごく弱かった。
「ボクはどうなんだい!?」
「ベルはそもそも戦わなかったじゃん?」
「ほら、あの時はっ!?」
「あれ私見れてない」
「そういえばそうだった……」
ベルのいう「あの時」とは、きっとザックとメルゥがやられた時のことだろう。なんか大活躍だったみたいだけど、私は「目」である《狐火》を消されてしまっていて見れなかった。残念。
「へぇ〜ベルも戦えるんだ?」
「何いってんスか先輩?ボクはアサシン……影から忍び寄るNINJAですよ?」
「うへぇ、じゃあ苦手なタイプかも」
そういえばベルはNINJAプレイに憧れを抱いていたような。苦無の扱いやアサシンブレードの取り回しなんかも尋ねてきたことがある。
「いやー、自分の張った罠にハマっていく相手を見てると、なんかこう……ゾクゾクしちゃって」
「わかりたくない自分がいるっ!」
私は無意識にベルと握手をしていた。私はそんな変態ではなかったはずなのに……
「ハハ……今度戦う時気をつけよ」
小さくつぶやくレギンを、次はどうハメ倒してやろうかと考察するうち、脱衣所につく。
「そこだっ!」
「えぇ!?今ぁ!?」
扉がしまった瞬間を狙ってレギンの身ぐるみをすべて剥がし、腕輪に放り込んでやった。
「ふはは、寒かろう?」
「くっ……なんて卑劣な……!」
「いついかなる時でも警戒は怠るなっ!」
「じゃあ遠慮なく」
「は?え、ちょっ──」
やってしまった。レギンに指を突きつけてドヤ顔していた私は背後からベルに服を奪われた。行先は……ダストシュート!?
「流石にそれはだめだろぅ!?」
「大丈夫だ、問題ない」
「それの使い時は今じゃねぇ!」
私は地下に繋がるダストシュートに向かって、素っ裸で飛び込んでいった。
◇
滑りに滑って地下1階。
寮のゴミ管理はすべて地下で行われており、各所に設置されたポスト式のダストシュートにゴミを入れればここにやって来ることになっている。
ダストシュートといえばヘドロや汚物の集積所なイメージがあるが、ここは下水設備が別にあり、このダストシュート奥は小綺麗なものだった。
「あった、私の服……」
私の前方を滑って言っていたらしい服を取り戻し、来た道を戻ろうとする。
……うん。滑る。凄ーく滑る。摩擦抵抗なんてないんじゃないかってくらい滑る。
なんで足をかけた瞬間に頭から激突してるんだよ……
「どうしよう……」
とりあえず、服を着ることにした。体は冷えるし、なにより誰か来たら大変だ。
女子校なので女子だらけなのだが、エインヘリヤルや用務員には僅かながらに男性がいる。見られたら痴女のレッテルを貼られて、残り1000年の人生終了だ。
「…………」
まぁ、誰も来ないだろうけど。
なにせ、ゴミの集まる所へ好んでくるやつなどいてたまるかって
「あの……」
「ぎゃぁぁぁ!出たぁぁぁぁ!」
背後からかけられた声に飛び上がりつつ、ろくな確認もせずに走り出す。
「あっ、そっちはだめですよぉ!」
「ひぃぃぃぃ!」
魔獣怪獣何でも来いな私でも苦手なものはある。
幽霊、ゴースト、ファントム。ダメ、絶対!
「おたすけをぉぉぉぉ!」
「ああもうっ!だめって言ってるじゃないですかぁ!」
グイッと襟首を掴まれて引っ張られる。私は更に恐慌状態になるが、声の主は優しく語りかける。
「落ち着いて、よく見てください?目の前の裁断機は、万物万象、有象無象、何でもかんでもスクラップにする代物ですよ?」
言われて見据えた先には、鋭利な回転牙が幾重にも設置された裁断機だった。なるほど、ゴミはここでまとめて砕かれ、塵となってどこかへ運ばれるわけか……
「あの子は近付くモノに反応して前進したりするんですよ。後一歩……この赤いラインより進んでたらミンチでしたよ、あなた」
幽霊の出現とは違った怖気が背筋を這い上がってくる。ガチガチに硬い筋肉を持った歴戦の戦士でも瞬時にグチャっとされそうなそれに飲み込まれたらと思うと……ぶるり。
「ええ、というわけでこちらへどうぞ。せっかくですし、お茶でも」
「ああ……シド、私もそっちに行けるらしいよ……」
「死にませんよ!?あなた、私を幽霊かなにかだと思ってません!?」
えっ!?違うんですかっ!?