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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
134/176

-133-報告書と、週明けと、学園長と。

『第518期生:シーカー実戦訓練報告書抜粋』


 出現した敵の総数、2514体。

 内訳:小型(人鬼型)2340体。

  小型(狼型)112体。

  小型(鳥型)60体。

  大型(悪魔型)2体。


 その全てのシーカー迎撃に成功。以後は被害状況。


 迎撃にあたった生徒総数、404名。

 内、負傷(軽傷)24名。

 負傷(重傷・危篤)0名。

 備考:正しくは1重症・危篤状態の生徒は100名程にのぼるが、生徒による治療で事なきを得た。


 倒壊した建物、0棟。

 備考:帰投時に生徒による修復作業が行われた。本来であるならば40棟前後の倒壊建築物が存在した。


 戦闘により陥没した地帯、680平米。


 戦利品、なし。

 備考:シーカー消滅の法則に従い、絶命後に砂塵化。大型2体もこれに相当する。









 特記事項:第2学年Aクラス末席、七海藍波を特別表彰するものとする。表彰内容は以下の通り。


 ・的確な状況判断による後方部隊の支援

 ・大型シーカー討伐功績

 ・重症・危篤状態の生徒全員の治療

 ・小型シーカー討伐数最優

 ・倒壊した建物の修復修繕




 ──以上5点より、名誉戦乙女として表彰する。



 ────────────────────────


 ◇


「怒涛の一週間だった……」


 シーカー郡討伐から一週あけて。


 療養期間として休みだったのだが、今日から学校が再開する。

 ……私には療養している暇も時間もなかったのだが。


 まず、レギンにアレシアルールでの再選を申し込まれた。

 シーカー討伐数が私より少なかったのが悔しかったらしい。久々に突っかかってきたのでボコボコにしてやった。

 それを見ていたヒルデは一考した後、「私も」と対戦を申し込んできた。もちろん叩きのめした。

 ミストはじめその他の同級生は観客席で観ていたが、次から次へと挑戦者が現れて……最終的に何人と戦ったかは覚えていない。100を超えた時点で数えるのをやめた。


 そして「強さの秘訣を!」と群がる人々を捌きつつ、私のやっていた訓練の内容を話せば皆青ざめて風呂へ飛んでいった。きっと精神治療用の温泉にでも浸かるのだろう。


 ライドの扱い方を教わりに来る者もあとを絶たず、教えたいヒルデはハンカチを引きちぎらんばかりに噛み締めていた。

 寮長に許可を取り、訓練場でのライド訓練。まずはいつでもできるように、というのをコンセプトに教えていった。


 そして最後。妖術に関して。

 魔法陣を書く必要のない妖術を羨む者は沢山いて、主に私が治療した生徒なんかは意気込んで教わりに来た。


 しかし、私自身よくわかっていないシステムな上、獣人以外で妖術を使う人は見たことがない。仕方がないので、見て直す戦法をとった。簡単に言うと、やってもらって、ダメな部分を少しずつ直していくスタイルだ。

 魔法が使えない私にとってはそれくらいしか出来ないので、どうか許して欲しい。


 新幹線ばりの速度で過ぎ去った一週間は充実こそすれ、療養は全くできなかったのであった……


「さて。今日から再び学校だよ!」

「うん。私からすれば毎日学校より辛いような感じだったけどね」

「それはそれ!これはこれ!今日も元気に行ってみよー!」


 お気楽なレギンが羨ましい。私はあんなに走り回っていたというのに、レギンときたら例の弁当屋に入り浸って食いに食っていたらしい。あそこの飯は美味しいから気持ちはわかるんだけど……畜生っ。


 いい加減慣れた、朝から豪華な食事を経ていざ登校!と、寮の出口をくぐる直前。


「ドォォォォォォン!なんだよ!」

「親方!空からフェンリルが!」

「わふぅ!お互い朝から元気だね!」


 今日もわふわふ、あなたの上からやってくる魔狼。

 彼女の言うとおり元気っちゃ元気なので握手を交わす。


「とと、それよりも……はいこれ」

「なんですか、これ」


 ピラリと渡される一枚の紙。なになに……『通告書』!?


「え……私何かまずいことしましたっけ……」

「わわ!違う違うよ!よく読んで!」


 一生懸命生活していただけなのに、と涙目になった私を見て慌てるフェンリル。よく読めというので、気が進まないながらも通告書の内容を読んでいく。


『先と戦闘における功績を讃え、貴殿、2年Aクラス七海藍波を、名誉戦乙女として表彰する。

 登校時に学園長室に出頭されたし』


 …………。


「……どういうこと?」

「藍波……やっぱりすごいね」

「うんうん。僕と鬼ごっこできるだけあるよね!」


 全く意味がわからない。レギンはワナワナしてるし、フェンリルは自分のことのように嬉しそうだ。


 もう一度目を通す。


『貴殿を──』


「ヴァっ!?これってなんかすごい賞だったりする!?」

「戦乙女ならほぼ最上階級の勲章だよっ」

「マジすか……」


 私、まだ候補生なんですけど……

 隣のレギンは再起動したのか、羨ましそうに通告書を見ている。


「いいなぁ……私も大型にトドメさしたんだけど……」

「うーん。残念だけど、藍波の功績は大型討伐ってだけじゃなくて、他にもいろいろあるみたいだから……

 でもでも、レギンの討伐記録は成績にちゃあんと反映されるから安心してほしいんだよ!」

「それで納得するしかないみたいですね……うわぁー一年終わった瞬間に抜かされてそうで怖いいぃ!」


 首席の座を勝ち取るには、ヒルデ以上の学力、レギン以上の戦闘力が必要となる。戦闘はともかく、学力がな……元々勉強は得意じゃないし…….


「そういうことで、早めに学園長室に行ってほしいんだよ!ああ、安心して。知ってる人だから」

「わかりました。わざわざありがとうございました!」

「あっ、ちょ待ってよー!」


 晴れた空の下を疾走して学園長室に向かう私の後ろを、ギリギリで付いてくるパワーファイターのはずなレギンは流石だと思う。


 ◇


「やっべ弁当忘れた」

「だからっ、待ってって、言った、のに……」


 肩で息をするレギンと共に学園長室前。レギンは入れないのに、どうして付いてきてしまったのか。


「……なんで付いてきたんだろ」

「相も変わらず抜けていて安心したよ」


 間抜けなレギンでこそのレギンだ。

 ここ一週間くらい普通な女子だったレギンが阿呆に戻ってくれて、私は安堵のため息を吐く。


「今日は購買パンかぁ」


 トボトボと歩いていく彼女の背中は、捨てられた子犬のように哀愁溢れるものだった。


「そろそろ入ってもらえるかしら」

「あ、はいすみません!」


 中から声が聞こえたので……うん。知ってる声。


「失礼します」

「ええ。ようこそいらっしゃいました藍波さん」


 ふたつの旗が掲げられた、見ただけで高いとわかる机に座っていたのは他でもなく……


「お久しぶりです。フリッグさん」

「あら駄目よ?ちゃんと『先生』をつけないと」


 私をこちら側へ拉致ってきたオーディンの妻……フリッグさんだった。

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