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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
132/176

-131-索敵と、作戦と、炸裂と。

 治した翼を大きく広げ、スラスターのように使って敵陣へと突っ込んでいく竜戦士を見届けた後、私は別の獲物を探すべく飛び上がった。

 見渡す限りゴブリン型のシーカーしか見えないが……なんとなく、これで終わりな気がしない。

 シーカーについてヒルデから教わっている時に聞いた、『506期生壊滅事件』の起こった原因は、恐らくここからだ。


「……そら見ろ。現れた」

『どうする?』

「とりあえず伝令だね。《狐火》をひとつ飛ばす。教師陣に伝えてもらえる?」

『わかった』


 ひとつ浮かび上がらせた《狐火》にアースの意識を移し、教師と後衛部隊のいる場所へ飛ばす。アースが行ってしまうことでライドが解けるが、アース自身が走るよりも、《狐火》の方がはるかに早い速度なので仕方ない。


「それに、戦えないわけじゃない」


【朧月】を二振りの刀に変える。調子は良好。天気は曇りだが、太陽光による目潰しがなくてむしろ助かる。


 不意打ちのつもりか、背後から忍び寄っていたシーカー・ゴブリンを、熱したナイフでバターを切るように半分にする。切断されたことに気づく前に、砂となって消えていく。


 あの話以降隠す必要のなくなった耳を使い、見方の位置を把握する。うん、さすが獣耳。範囲が人間のものと段違いだ。


 耳で捉えた情報を整理しながら、私は猛然と走り出す。方向は、後ろ。前線ではない。

 ……先程上空で確認したモノが、後方部隊側にも現れたのだった。


 ◇


「落ち着いて対処してください。あれはただ大きいだけです!」

「く……は、はいっ」


 怪我人やある程度の戦果を上げた生徒が戻ってくる場所。つまり、大半が疲弊している場所でもある。


 そんなところに現れた、大型のシーカー……シーカー・デーモン。

 悪魔を象ったそれは、人の身の丈3倍ほどを誇り、腕の一薙は大木をへし折る。

 大きな羽を持ち、咆哮は正気を狂わせて内乱へと導く……例の事件と、同じ相手。


「総員、戦闘態勢。まずは飛行能力──翼を折ります」

「「「了解っ!」」」


 今年の生徒は出来がいい。ライド成功も早かったし、エインヘリヤルとの仲もなかなかよくなっている。

 油断さえしなければ、勝てる相手……いや、それは学年全員を総動員してなせる所業。後方に控えている火力不足の生徒のみでは……


 ……いざとなったら、私も出よう。元の姿に戻りさえすれば、悪魔ごときひと捻りだ。


「魔法部隊、詠唱開始。固定砲台、発射用意……てぇっ!」


 号令に合わせてミサイルが、ブラスターが、対物ライフルが殺到する。狙いは先も述べたように翼。折れずとも、皮膜を破ってしまえばこちらのもの。


「……打ち方やめ!魔法部隊、放て!」


 しかし仮に皮膜が敗れたとして、その戦闘能力が半減するかと言われるとそうでもない。持ち前の爪、牙、そして傷ついた翼でさえ凶器となりうるのが悪魔の嫌な部分だ。

 なので、遠慮容赦は一切しない。過剰攻撃でも構わない。万全を期して叩きのめす。


 撃ち放たれる魔法は多種多様。未だ目撃例の少ない悪魔型シーカーだからこその対処だ。火、水、氷、雷……斬撃、打撃、刺突。


 ……斉射を一旦とめ、巻き起こる煙を凝視する。そしていつでも追加攻撃ができるように待機し、警戒は怠らない。


 ……この悪魔が現れる前にやってきた人魂が、前線側にも悪魔型シーカーが現れたと言っていた。それを信ずるならば、早急に支援に向かわなければならない。


 そんな焦りが伝わった、伝わってしまったのか。


 立ち込める白煙の中から起き上がる巨大な影がひとつ。その囲いを破って、黒い何かが飛び出したかと思えば部隊の半数が吹き飛ばされていった。

 幸い、エインヘリヤルのおかげで即死は免れたようだが……放っておけば半刻経たずに死に至るだろう。


 対して、飛び出してきたモノ……シーカー・デーモンは、無傷。まるで攻撃が通じていない様子だ。


 やるしかないか。ヴァルハラ中に迷惑をかけようとも、暴飲暴食の化身に、私は──


「おっといけない。翼、折れちゃったね」

『──ッ!』


 そこら辺にある、少し木の枝を折るように。


 頑丈に筋肉のついていた悪魔型の翼が、ボギリと嫌な音を立てて力を失った。


「ん、お怒り?まぁそりゃ痛いよね。私も尻尾もがれたら痛いだろうし」


 二刀二尾を携えた、炎の化身。悠然と悪魔に語りかける彼女は、同情するように頷いていた。


「さて、開始のゴングはいつ鳴るのかな?」


 ◇


 なんかヨルム先生の表情が蒼白だったので、ゴブリン討伐を早々に切り上げて悪魔の翼を折ってやった。

 そんな怪力どこから、と思うが、これはライドあっての力だ。決して私はゴリラなんかじゃない。


 不意打ちとはいえ簡単に折らせてくれた悪魔くんは忌々しげにこちらを見ているが、その睨む目には確かに憤怒が芽生えていた。アリの巣蹂躙劇を大人に邪魔された子供のような目だ。


 ちょうど良くアースと合流できたのでライドしなおし、こうして対峙している訳だが……互いに、1歩も動かない。


 悪魔は、隙を探って。私は、隙がありすぎて。

 動くに動けない時間が過ぎ、チラリと左側に目をやれば、折り重なって倒れている後方部隊と思われる面々。素人目に見ても重傷者が沢山いるので、急いで治癒を施さねば……


 視界の端で、悪魔が笑った気がした。

 好機とみたのか、一直線に突進してくる。速度は片翼を失っているにしては速い。痛みもあまり感じていなさそうだが、やはり先に折っておいて正解だった。


 振るわれる鉤爪を、逆に一歩踏み込んで切りつける。私の背中より後ろの空間を狙う羽目になった凶爪は、私の刀の餌食となってとまる。


 ……だが、私の表情は優れない。

 当初の予定では、この腕は既に宙を舞っているはずなのだ。それがどうだ、刀身が半分程埋まって止まっているではないか。


 悪魔の不快な笑い声が響き、逆の腕が私を強襲する。かかと落としで狙いを若干下に向けさせ、その腕を伝って離脱。刺さった刀は諦めることにする。


 全力の攻撃を二度も躱された悪魔はその憤怒の色を一層濃くし、何やら右腕に魔力を集め始めた。敵のパワーアップを待つつもりは毛頭ないので、その右腕を大剣で叩き切ることにした。


 悪魔は舌打ちしながら、魔力を込めた右手で対処するようだ。向こうから来てくれて願ったり叶ったりな私は、特に気にすることもなく大剣を振り抜く。


 ……手応えがおかしい。なぜ私は大剣で大剣を切りつけているのか……と、一瞬思考が停止する。

 ギリギリと力任せに押し返される感触に呼び戻され、私はわざと剣を振らせて後退する。


 私が見据えた先、答えはいとも簡単であった。

 悪魔の右手に集まっていた魔力反応。それが変質して大剣の形を成していたのだ。濃密な悪意が込められたそれは、主の意志に従うように、または増長させるように鼓動を続けている。


「ちぇ、パワーアップしちゃったか」

『僕らもまだ第一形態だしね』

「わざわざ教えるバカがあるかぁ!」


 これでは私にまだ余力があることが敵にバレてしまう。油断させて動きを見きったあとで嬲ってやろうと思ってたのに……


「まぁいっか。どうも硬いみたいだから、全力でぶち抜きに行く」

『あい藍波ー!』


 やっべ、キレそう。悪魔にではなく……いや、確かに悪魔だ。私の精神を蝕んでいく、悪魔だこいつは!


「……帰ったら百本針の刑」

『帰る頃には忘れてるさ!だって藍波だもの!』

「よし、君の運命は決まったねアース。果てなき空の旅──千本の死棘(しきょく)を添えて──をプレゼントしてあげる」

『は、ハハハ……藍波、目が笑ってないよ。ドライだよ。ドライアイだよ。むしろドライ藍波……』


 ブンッッッ


『ほら、彼もしびれを切らしちゃったみたいじゃないか』

「誰のせいだろうね」

『さぁ?』

「こいつ……!」


 軽口を叩きながらも、避けるべき攻撃はすべて避けている。見え見えな軌道、フェイントもへったくれもないゴリ押し。それでいて正確無比に首を狙ってくるので躱しやすい。


「はいそこー」


 なんとも緊張感にかける攻撃だが、それはアースのせいだとする。そして素人から中堅くらいまでなら倒せそうだが、私にはあと500歩くらい足りない悪魔に欠伸が出そうだったのだ。

 大体の力量差はわかったので、そろそろ締め括ろうと思い、無造作に刀を突き出す。それに気を取られて大剣を自分の胸の前に戻した悪魔の右腕。そこには既に仕掛けが施されていた。


『──!?』

「あれ?あれれ?私の刀はどこへ行ったのかな?」


 わざとらしいにも程があると、自分でも思う。たしかに刺さっていたはずの刀が消え、しかし私の手元に戻った形跡もなく……


「──爆破(イグニッション)


 悪魔の全身から無数の刀が飛び出し、その身体を塵に変えた。


 あの時刺さってしまった刀を、悪魔が大剣を振るうたびに少しずつ小さくしていっていたのだ。そして傷口から体内に侵入、ついに血管にまで行き届いたので分

 裂させてボン、だ。


 悪魔の簡単な殺し方。


 ──表面が硬いのなら内側から殺ってしまえばいいじゃない。


【朧月】を元の鍵に戻し、ライドを解く。ふよふよと浮かぶアースはあとで折檻するとして、負傷者の救護に当たることにした。本当に死にかけが沢山いたからね。


 手をかざしながら治療を施しているうちに、素朴な疑問が浮上した。


「そういえば私って妖術使いなわけだけどさ」

『うん』

「なんでみんなは魔法なのさ」

『確かに』


 ちら、とヨルム先生を見る。まだ呆けていた。そんなに衝撃的な戦いでもなかった気がするんだけど……何かあったのかね。

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