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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー5章ー〈神の庭〉
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-129-正体と、恵みと、修正と。

 大浴場。そこにあるマーライオンもどきの下にて、私は話を切り出すことにした。


「ガボガボッ!ガボボボボッ!」

「「「「えぇっ!?下界出身だったの!?」」」」


 ……今のでよくわかったね。


「下界出身か……え、でもなんで神界にいるの?」

「ガボー……ボボボブゥ……」

「なるほど……元々【神性】を持っていて、創世神、いやディザスターを倒すための力をつけに来たのか……」


 え、待って怖いんだけど。私はマーライオンの吐瀉物もとい温泉を頭から浴びながら話している。頭から浴びながら喋るから、常時うがいをしているような声になっている。もちろんわざとだけど。


 伝えるべきことをガボガボ言いながら話したのだが、レギンは一字一句違わずに聞き取れたようだ。他のみんなも頷いているところを見るに、聞き取れているらしい。


 そんな同級生達に戦慄していると、ヒルデが当然の疑問をぶつけてきた。


「でも、どうやってここに?『どうして』来たのかはわかるんだけど……」

「ぼぼぼぼぼぼ!」

「いい加減普通に喋んなさいよ!」


 怒られた。別に聞き取れるならこのままでもいいじゃないか……私が辛いだけなんだし。


「ぷはっ……えっとね、下界に建てた塔を伝ってきたの。朝起きたら神界でさ」

「うん、意味がわからないわ」

「私も何言ってるかわかんないや」


 細かいことを話すと、どうしてもオーディンを始めとした神々との接点をバラさないといけなくなる。どうしよう……


『お困りのようだね?』

「こんなところに変態がっ!」

『ちょっと待っグハァ!僕はただの助言をっ』

「寮のルール」


『③不審者がいたら即時殲滅、生まれてきたことを後悔させる!』


「覚悟っ!」


 話の腰がバキバキに折られたのは、言うまでもない。


 ◇


「じゃあ、寮長に許可もとったことだし……聞かせてもらいましょうか、下界のことを」


 風呂で話したメンツ……レギン、ヒルデ、ミストに加えて、クラスメイトであるフリスト、ランドグリーズ、エルルーンが私の部屋に集っていた。

 何故か頬を赤々と腫らしたアースも同席だ。


 私自身、どこまで喋っていいのかよく分かっていないのだが……とりあえずヴェルさんは「精霊」ということにしておいた。


「ごほん。まず私は──」


 元々の出身はコスモ・グランデではなく、地球だったこと。

 そこで行われているスポーツで世界レベルの実力者だったこと。それを考案したのが師匠──ディザスターだったこと。


 突然召喚されて、コスモ・グランデにやってきたこと。

 王との出会いや母との再開、精霊(ヴェルさん)との会話。テルによる拉致事件の顛末や……愛したシドとの出会い。

 カッシュくんとの顔合わせ依頼や、イースさんのところでの魂鑑定、そしてアストロス戦。


『あの時の僕はただ歩くだけの存在だったからね』

「え?アストロスは象じゃないの?」

「というか、なんで自分のことみたいに……」


 口を挟んだアースに、皆胡乱な目を向けるが、倒したあとの経緯を軽く説明すると、目をむいて驚いていた。


「え!?てことは、その巨獣の生まれ変わりが……」

『そう、僕さ!』

「「「「げぇぇぇぇ!」」」」


 そうだね。さっきみんなでタコ殴りにしちゃったからね。


「どどどど、どうか殺さないで」

『そんな物騒なことしないよ……藍波じゃあるまいし』

「どうやらもう1度死にたいらしい」


 巨獣戦の話をちょっと脚色してやったら調子に乗りやがって……


「アースは後で埋めるとして。続きを話そうか」


 遺跡巡り、勇者との再開、討伐。そして件の『天の楔』建設と『ミズガルズ』の指導。


「ついこの間の事なのに、すごく昔な気がするよ」

「それだけ充実した日々ってことね」

「バタバタしすぎな気がするけどね」


 談笑しているうちに、日付は既に変わっていた。でも、本当に重要なのはここから。


「……みんなでウルド神を探しに、ヴィルダス遺跡ってところに行ってね……例の、カーナが出した未来予測で「無」だったところ。そこで、私は……」


 ふと、頬を伝うあつい雫。


「ディザスターの策略で、私とシドは戦うことになった。シドは残り数秒で人ではなくなってしまう……そうなる前に、私は……っ」


 乗り越えた、はずなのに。


 やっぱりというか、わかっていたことではあるが、やはり口にすると辛いものがある。思い出話として、出会いから何からすべて話してしまったからだろうか。


「藍波……」


 ミストが抱きしめてくる。彼女の目にも光るものがあり、その抱擁は震えているのがわかる。

 周りの皆も同じような反応だが、アースはいつも通りだ。


『まぁ、癒えるまでそうしてるといいよ。無理に修復した傷っていうのは、いつかまた開いてしまうからね』


 言うだけ言って、彼は自ら消えていった。

 正直、助かる。今の私の顔は、とてもではないが旅仲間に見せられるものではなかったから。


 ……暫くして、落ち着いた私は再び話し始める。


「それでね。色々と失った私は、『天の楔』に戻って……翌朝目が覚めれば、ここ、神界にいたってこと。最初は戸惑ったけど……親切な人がいてね。なんとか編入できて、戦う術を身につけることができるようになった」


 私のこれまでの歩みを語り終え、泣き笑いのような顔で皆を見る。

 数刻前までの、興味津々というか、嬉嬉として話を聞いていた雰囲気は既に霧散していて、どちらかというと皆思案げな顔をしている。


「……色々と、波乱に満ちていたのね」

「私たちがどれだけ恵まれてるかって話だよね……」

「ううん、恵まれてのは私も同じだよ。ただ、運命がその恵みを摘んでしまっただけであって……」


 運命。そう纏めてしまえば聞こえはいいかもしれない。だって誰にもわからない。力を持たない一般人は、得体の知れない不定形の何かに蹂躙される……それが世の常だった。……だからこそノルン三姉妹が生まれたのかもしれない。


「でも今は、この学園で皆に会えて良かったと思うよ。心を砕いてくれる友人ができて、凄く嬉しいから」


 そう締めくくれば、いつも冷静なヒルデを含めた全員に抱きつかれた。揉みくちゃにされながらも、やっぱり私は恵まれていると、そう思った。



 ◇


「えっ、ボクはただの一般人だよ?」

「いーや。ベルからは何か特別なものを感じるっ!」


 この養成校に来る子達は、基本的に幼馴染だったり、知り合いだったりというのが多い。ヴァルハラから集まっているというのがあるけど、どうもローカルチックで……日本風にいうなら市立小中学校のような。


 ボクは同学年の誰とも面識がなく、突然ねじ込まれた新入生だから、そう思われるのも無理はないと思う。しかし……これは良くない流れかもしれない。


「ベルの【神性】、なんでAもあるのっ!?重鎮レベルじゃん!」


 これは、昨日行った身体測定に起因する……簡単に言うと、ボクは早速やらかしてしまったわけだ。


 ボクの隠しきれないカリスマ性に、周りの子達は自然と寄ってくる。そこで調子に乗ったボクは、神性チェックの時に本気を出してしまったのだ……

 オーディン様には「せいぜいBでおさめろ」と言われていたのだが……うん。きっと今晩辺りに説教されるな。


【神性】に限らず、この世に存在するスキルのレベルは、段階ごとの差が非常に激しい。

 例えば【神性】がDの人とAの人では天と地ほどの差がある。具体的に言うなれば、メダカとドラゴンくらい。

 メダカはどう足掻いてもドラゴンに勝てないように、【神性】Dの人がAクラスに挑んだところで、片手間に始末されてしまうわけだ。

 ちなみにCは大きめの熊、Bは巨獣くらいかな。


 学年のの半数がC、そしてもう半数がDという結果の中、調子に乗ったボクの末路は……極刑しかないじゃないかっ!

 どこか、逃げ隠れする場所を用意しておかないと……


「ベル!【神性】を上げる秘訣とか、教えてっ!」

「ひ、秘訣?」

「え?どこかで鍛えたんじゃないの?」


 ポニーテールなクラスメイトが首をかしげているが、ボクは生まれた時からAクラスだ。どう説明しよう……


「け、計器の故障じゃないかな?一年生で【神性】がAもある人なんか、見たことないよ」

「あー、なるほど……確かにあれ古そうだったしね」

「そうそう!きっとそうだよあっはっは!」


 藍波と同じくねじ込まれたボクは、クラスの末席として入学した。当然、計測も最後だった。

 だから、この理論なら行けるはずっ!


「放課後に先生のところ行って確認して来るよ……きっと何かの間違いだからね!」


 もう、そういうことにしてしまえ。威厳は失われるかもしれないけど、背に腹はかえられぬ。せめてB-くらいには落とさないとっ!


「みんなおはようっ!じゃあ授業始めるよっ!」


 今日もわふわふと元気なフェンリルの挨拶で、一日が始まる……放課後の気が重いよ全く。過去の自分を殴り倒したい……

シドの死をズルズル引き摺りすぎな気もしますが……でも大事な人の死って、そう簡単に割り切れないと思うんです。なのでもうちょっとだけお付き合い下さい……

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