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夢幻の世界で、無限の時を  作者: PhiA
ー1章ー〈出会い〉
13/176

-13-遺跡と、勇者と、九尾狐と。

 ヴェルさんの案内で来た道とは逆に向かい始めた私たちの前に、来た道にもいた魔獣たちが次々に現れた。

 中には見たこともない大きな人魂(ひとだま)も出てきて焦ったが、滅茶苦茶に放った《風刃》が何とかしてくれた。


 暫く進むと、岩山に生い茂る木々の中に古そうな遺跡があった。こんな場所に遺跡があるなんて情報、冒険者ギルドにあったっけ?


『ここだよ。強い【神性】を感じる……何これ、戦闘中……? 誰か別にいるみたいだ』

「急ごう!」


 その【神性】を放っているものは封印中らしいので、力を出し切れていないはずだ。そんな状態で戦ったら、相手によっては負けてしまう。

 遺跡の入口は正面にあったので、リリィと突入する。


 入口から入る光で中は明るいが、何もいない。するとリリィが地下へ続く階段を見つけた。


 ここには何もないので、下に降りることになった。例によって暗いところが苦手なヴェルさんがしきりに『光を! 光を!』と言ってくるので、光球をだす。


 そのまま階段を降っていき、謎の一本道にたどり着く。横にそれる道などはなく、ただ真っ直ぐに石の壁が並んでいた。


「走ろうか」

「了解なのです」


 敏捷は私の方がランクが上なので、リリィのペースに合わせて走り出す。そして1分走らないうちに大きな石室にたどり着いた。


 そこには2本(・・)の尾を持った白地に赤い模様の入った魔獣らしき姿と、一人の剣士がいた。


 1人と1匹はこちらにまだ気づいておらず、激しい戦闘を繰り返していた。

 魔獣が爪を振り下ろせば剣士は持っている剣で弾きあげ、剣士が返す刀で剣を振り抜けば魔獣は硬化させた尻尾で受け止める。

 これらを全てハイスピードで繰り広げている。リリィの目では追いきれなかったようだが、私には余裕で見える範囲だ。


 そして遂に剣士の放った突きが魔獣の喉元に突き刺さり、魔獣は爆散する。しかし、魔獣を倒すと落ちるはずの巾着袋がない。


 腰に剣を収めた剣士がこちらを振り返って、今更気づいたかのようにギョッとし、大きく飛び退いて再び構えた。


「化生が……ここで何をしている!」


 そう。私たちに油断なく剣を構えた剣士は、人間であった。

 高そうな甲冑に、翻る青いマント。そして手に持つは光り輝く剣。ここまでくれば、この者が何者かがわかるだろう。


 ──彼は、勇者だ。


 ゲームやアニメに登場する、絶対的な正義。魔王を討ち滅ぼし、世界を救う光となるもの。時に世界の半分をやろうと言われたり、闇堕ちしたりする者もいるが、目の前にいる彼にそのような気配はない。


 ゆっくりと剣を上段に構え始める名もしれぬ勇者っぽい人に、こんな状況ながら胸の高鳴りを覚える。

 希望の証。この世界の光。そんなもてはやされ方をする勇者(かもしれない人)と戦える。これを逃す術はない。


 私は【朧月】を取り出し、彼の持つ剣と同じサイズの片手用直剣に変形させる。

 腰を落とし、照準をつけたところで、先に勇者が動いた。

 構えたそのまま、素直な上段からの一撃。素直と言っても、その剣筋は素人には見きれないだろう。それほどまでに早く、鋭い斬撃だった。


 そう。素人であれば。


「しゃあっ!」


 気合一閃。手首の返しで切り上げた剣でそれを大きく弾く。勇者の右手は頭の上まではねあげられ、その顔に驚愕の表情を浮かべる。

 しかし私は追撃はせず、一旦距離をとった。


 さすが勇者と言うべきか、右手の剣を弾いた瞬間左手に魔力を集中させていた。微かに光を纏っているので間違いないだろう。


 勇者は目論見が外れ、軽く舌打ちをすると再び斬りかかってきた。今度は大振りの一撃ではなく、細かくいやらしい剣筋になった。しかし、それもまだまだ見切れる。

 かつて、例の山篭りの修行で、師範は鉈でとんでもなく素早い攻撃を繰り出してきたのだ。その経験あってこその対処。全く無駄なく、全ての攻撃を弾いてゆく。


 さすがの勇者も焦りを感じたのか、大きく飛び下がり、剣を掲げて詠唱を始める。光の奔流が勇者を包んでゆく。

 フム。展開は読めた。


「せいやぁっ!」

「くっ!」


 即座に勇者の左横へ移動し、片手用直剣を長槍に変えて瞬速の突きを放つ。

 風を切り裂きつつ迫る穂先に、しかし勇者は反応して見せた。

 詠唱をとりやめて左手を盾に首を捻り、何とかやり過ごすともう1度後退した。


「おお……いまのよく避けられたね!」

「くそ……余裕の表情か……ッ!」


 ならばと勇者の言葉を待たずして長槍を投擲し、私自身も遅れて突っ込む。

 勇者が咄嗟にカチ上げた剣に当たる直前で手元に戻し、剣は虚しく空を切る。

 体制を崩した勇者に勢いそのまま、手元の長槍を突き出す。

 先の攻撃より倍ほどの威力と速さを誇るその突きは、今度こそ勇者を捉えた。


 その瞬間、勇者は光の粒となってどこかへ消えてしまった。

 恐らく転移系の魔法か、死を無効化するアイテムだと思うのだが、なんとなく物足りない。勇者ってこんなものなのか?


「お姉さまが強すぎたのです。あんな攻撃、よけられる人はいないのです」


 遠くで観戦していたリリィがタオルを差し出してくる。ありがたく受け取り、少しかいた汗を拭く。


「あれはまだまだよけられる範囲だよ。それに私のいた世界では、投げた槍は拾いに行かないといけないし。【朧月】あっての勝利だね」


 実際あのフェイントは元いた世界では使えない。紐などを使って擬似的なことは出来るかもしれないが、実用性に欠ける。

【朧月】が手元に戻ってくる聖鍵でよかった。


「さて、あの勇者らしき人が戦っていた魔獣だけど……まだ出てくる感じかな?」

『いや……もう出さないさ。君の強さは見せてもらった。こちらへ進み給え、狐の少女よ』


 石室に突然響いたヴェルさんのものとは違う声にリリィは戸惑っているが、私はこの声の主こそ、封印されし【神性】持ちの正体だと確信していた。


 石室の、私たちが入ってきた方とは逆の壁に新たな道が現れる。

 導かれるように歩みを進め、その道を抜けると先程まで暗闇に満ちていた石室とは打って変わり、噴水のある庭園にでた。え? どうなってんの?


『ようこそ我が領域へ。歓迎する』


 噴水の向こう側にちょっとした神殿のようなものがあり、声の主はそこにいた。

 それは、白地に赤い模様の入った、先程勇者の戦っていた魔獣と同じ姿をした、3mほどの生き物。大きな耳と切れ目、体毛の色まで同じ。いや、尾の本数が違う。勇者にやられた魔獣は尾が2本であった。

 しかし、目の前にいる本体と思われる姿の尾の本数は、実に9本。

 9本の尾を持つ、耳の大きな切れ目の生き物。思い当たる節はひとつしかない。


「九尾狐……!」

『ほう? 我を知っていたか。この世における大妖怪にして神の御使い、この九尾狐を!』


 神の御使いかは知らないが、九尾狐といえばかなり有名だ。某忍者アニメや妖怪を討つ槍持ちの少年が登場するマンガなどで見た。


 そんな九尾狐様は、威厳のある声を発してはいるが、何故か神殿からは動こうとしない。


『ほら、封印されてるって言ったろ? だから動けないんだよ』

「なるほど、それでか」

『む……? その【神性】は……』

「申し遅れた。ボクはヴェルダンディ。《現在》を司る運命の神さ。よろしくね、お使いクン」


【朧月】から出てきたヴェルダンディが九尾狐に挨拶をする。

 ギョッとした表情の九尾狐。どうした?


『い、いや……さっき神の御使いとか口走って……適当な事言ってすみません!』


 急に頭が低くなった九尾狐。それほどまでにヴェルダンディの神格は高く、かつ有名だということだ。


「それで? 私をここに招いた理由っていうのは?」

『ああ、それなんだが……俺と子をなしてほしい』

「はい?」


 「我」から「俺」に一人称を変更した九尾狐はとんでもないことを口にする。何いってんのこいつ。


『狐人が絶滅したのは知っているな? 俺は……その時の生き残りだ。いや、一度死んでるはずだから正確には生き残ってなどいないけどな』

「1000年前の……」

『ああ。火に巻かれて意識を失った後、目が覚めたらこの姿だった。封印もその時にされていたよ。2尾の分身体を外に出して情報を集めたりしていたんだが、狐人は文字通りの絶滅。種は滅んでしまった。だからずっと待っていた。狐人がどこかで生きていて、ここに来ることを』

「それで私と子をなせと?」

「させないのです!」


  リリィが私と九尾狐の間に割って入る。


「お姉さまは……お姉さまは! 私だけのものなのです! どこの馬の骨ともわからない奴に横取りされるとか! 有り得ないのです!」


 そこじゃねぇ。


『え、なに、君らそういう関係?』

「断じて違います」

「そんな!」


 どこまでも独占欲の強いリリィに呆れる。九尾狐もキャラ崩壊するほど困っているではないか。


『ごほん。まあ好きなものと子をなすのが本来のあり方だからな……よし決めた。名前は何という?』

「リリィなのです!」

『違う、お前じゃない』


 出しゃばるリリィに呆れながら「七海藍波」と答える。


『そうか、ならば藍波よ……この俺、シドと婚姻を結べ!』

「……はい?」

『クハハハハ! 予想どうりの答えで有難いぞ! 「はい」と言ったな? 言ったな!? さあ精霊よ! 祝福せよ!』


 シドと名乗った九尾狐は高笑いしながら天を仰ぐ。「はい」とは言ったが、それは疑問形だ。


 するとラ──という光と共に、翼をはやし、頭上に輪っかがある人が降りてきた。見ればわかる。あれは精霊というより天使だ。


 あれ? すっごい嫌な予感。


『あなた達は病める時も、健やかなる時も、共に愛を誓いますか? 誓いますね? ではあなた達に幸あらんことを』

「ちょ! 何でそんな一方的なの!」


 突っ込むまもなく再びラ──という光に乗って天使は消えてしまった。


『これで俺と藍波、2人の婚姻は成立した。あとは子をつくり、種族の繁栄に勤しむのダブらっしゃァ!』


 高笑いしながら最低なことを連呼するシドの鼻っ面を、思いっきりぶっ飛ばした。

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